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中国の知的財産実務(裁判制度)

1.知识产权法院

日本には知的財産法を専門に扱う部(知財部)として、東京地方裁判所に4か部、大阪地方裁判所に2か部、さらに控訴審としての知的財産高等裁判所が東京に設置されています。特許等の技術的な分野に係る訴訟に関しては、認められる管轄に応じて東京地方裁判所又は大阪地方裁判所の上記知財部に提訴する必要があります。

前提として、中国の知的財産権は、大まかに、

①专利(日本でいう特許、実用新案及び意匠を包含)
②著作权(著作権)
③商标(商標)
④反不正当竞争法(不正競争防止法)

に分かれます。

中国では、北京、上海、広州及び海南に設置されている知识产权法院が主として专利等の技術的に複雑な事件を担当します(その他、細かな事物管轄規定が存在しますが、本稿では省略します)。

なお、地方レベルでは、知识产权法庭が30か所設置されており、上記の4つの知识产权法院以外の地域における知的財産案件を担当します。

以下は、私が研修中に訪れた北京知识产权法院です(残念ながら外国人の傍聴は認められず中には入れませんでした)。


北京知识产权法院は、中心街から非常に遠く、法律事務所のある国贸駅からタクシーで1時間ほどかかりました。コロナ中はオンラインによる審理も開催されていたようですが、現在は基本的には出廷を要するため時間に余裕をもって出発することが必要です(しかも北京は渋滞が起きやすいことも注意が必要です)。

ここで重要なのは土地管轄です。中国の法務を扱う場合、地方保護主義という考え方を避けて通ることはできません。これは、地元の有力企業は地方行政との密接なコネクションを有していることから、その分有利な判決を受けやすいという傾向を指します。これは、中国の知財法務の特徴といえる行政執行の場面だけでなく、裁判手続でも当てはまり得るとされています(行政執行については別稿で説明します)。

ただし、現地の知財を扱う律師の先生からすると、中国国家単位で知財を推進していることから地方保護主義は以前よりも薄れてきているとの感触もあるようです。すなわち、少なくとも知財の分野に限っていえば、訴訟の勝ち負けは、当事者の属性というよりも証拠の有無や主張の巧拙等実質的な審理の内容によっているのではないかとのことです。

とはいえ、北京等の知识产权法院で公平な審理を受けるメリットは少なからず存在します。この土地管轄をどのようにして北京等でとっていくかという点については重要な点ですので別稿で説明します。

2.侵害論と無効論の分離

日本では、訴訟の審理過程において、被告側は当該権利が無効であることの抗弁を主張することができます。すなわち、裁判所は侵害論と無効論の双方を同時に審理することができます。

他方、中国では侵害論と無効論は明確に分離されています。中国の裁判所は侵害論のみ審理を行い、無効論については国家知识产权局(CNIPA 。通称:スニーパ)に対して展開しなければなりません。CNIPAは日本の特許庁に相当するもので、日本特許庁と同様、権利出願審査、査定、審判手続等を管轄します。

もっとも、裁判所の審理とCNIPAの審理が全く別かと言われるとそうではありません。日本の実務と同様、侵害訴訟を提起された被告は、CNIPAに対して無効審判を請求することができます。裁判所は、訴状提出から15日以内(答弁書提出期限内といいます)にCNIPAに対して無効審判が請求された場合には、侵害論の審理を止めなければなりません。ここでいう、15日以内に提出する書類としては形式面を整えた簡単な書類であればよく、そこから1か月以内に詳細な無効論を主張することになります。

CNIPAは北京にしかないため、CNIPAの行った判断に対して不服がある当事者は、必然的に北京市知识产权法院に控訴することになります。その意味では、北京を拠点とする法律事務所があることは裁判における利便性を大きく向上させます。

ただし、CNIPAが出した結論に対して、控訴裁判所が判断を覆す確率は10%もないとのことです。技術的なバックグランドを有しない裁判所としては、CNIPAの審理判断を非常に尊重していることが分かります。

以下は、私が訪れたCNIPAのうち、口頭審理が行われる建物です。CNIPAは5つの建物を保有しており、それぞれが巨大なもので、中国の知的財産立国としての力の入れようが垣間見えます。

以下が口頭審理の部屋になります。当事者が座る席が左右にあり、一段上に審査官が座るのは、日本の特許庁の口頭審理によく似ています。

CNIPAは北京市知识产权法院よりさらに遠くにあり、タクシーでも中心地から1時間30分ほど要します(巨大な建物を建築するには市街地では場所が足りなかったとのこと)。なお、口頭審理はオンライン不可のため、基本的には現地まで出廷する必要があります。

なお、意匠権は無審査にて登録される権利であるため、特許や商標と比べて無効率が高くなっていることに注意が必要です(おおよそ50%を超えるとされています)。

3.侵害審理と損害論の不分離

ここでも日本との比較ですが、日本では侵害論の審理(技術的属否や類否)を経て、侵害と認められてはじめて損害論の審理に入ります。したがって、訴訟開始段階においては、被告が得られた利益等の概算を主張し、その計算が誤っている場合には、裁判所の訴訟指揮のもと、被告側が積極的に自社利益の開示等をもって反論していく必要があります。

一方、中国ではそもそも侵害論と損害論の審理が分かれておらず、一括して審理されます。そして、侵害が認められた場合、日本のように被告が自発的に証拠開示に応ずることもまれです。そのため、原告の主張する損害額がベースとなり、裁判所がその裁量をもって損害額を認定することも少なくないとのことです。

なお、知的財産権の種類を問わず中国では懲罰的損害賠償制度が設けられ、通常の損害額の1~5倍の賠償責任が課せられる可能性があります。これはあくまで裁判所の裁量によるものであり、かつ倍数に関する理由を付する必要性すらないものですが、日本にはないユニークな制度です。

日本では損害額が少ないことが知財活用を阻むテーマとして議論されていますが、懲罰的損害賠償制度が日本に設けられるにはかなり高いハードルがあります。

以上、中国の知的財産権に関する裁判制度を概観してみました。次回は、中国の知的財産実務では避けて通れない展示会について解説したいと思います。

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