夜を纏って|掌編小説(#シロクマ文芸部)
――ただ歩く。
夜を纏って歩くことに、だんだんと慣れてきた。最初はまとわりつく夜がうっとうしくて不快だったが、慣れればどうってことはない。むしろ、自分が夜の一部になっているようで心地いいくらいだ。でも、夜に飲み込まれてしまわないように、常に注意はしている。
ふと、前方を歩く人影が見えた。若い男女だ。夫婦だろうか。犬を連れている。
――バカな奴らだ。
少しも警戒していない。夜を、暗闇を安全だと思い込んでいる。
俺は背後から忍び寄り、少し間を取って両手を差し出した。手から解き放たれた夜は、ゆっくりと夫婦を包み込む。
違和感に気付いた夫婦はキョロキョロと周りを見渡し、俺に気付いて「あ!」と目を見開いた。
――手遅れだ。
「続いてのニュースです。奥井田市に住む佐野雄介さん、理恵子さん夫妻の行方が分からなくなっていると、雄介さんの母親から110番通報がありました。佐野さん夫妻は昨夜未明に犬の散歩に出かけたあと、行方が分からなくなったとして、現在、警察が捜索中です」
「――だとさ」
俺が振り返ると、「佐野さん」と呼ばれた夫婦が真っ青になって震えている。それを見て、さすがに心が痛んだ。
「悪いな。でも、これで俺は元に戻れる」
俺の夜は明けた。
あの夫婦は、俺と同じことをするだろうか。
――するに決まってるよな。
夜には気を付けた方がいい。
ぼーっと歩いていると、こうなる。
(了)
小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」参加用です。
ちょっとミステリーテイストにしてみました。
ただ歩く……ドシンプルなお題は意外と難しい…。
こちらもどうぞ。
テーマ「創作」で「CONGRATULATIONS」を頂きました!

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