猫と傘|掌編小説
長靴をはいた猫なら絵本で見たことあるけど、傘を差した猫は
初めて見た。
その茶トラ猫は、器用に前足を使って青い傘を持ち、水たまりを
じっと見つめている。
「ねぇ、なにか見えるの? ただの水たまりだよ?」
声をかけると、猫は「向こうは晴れてるんだけどなぁ」と言った。
「向こうって……どこ?」
「ほら、見てみなよ」
――あ!
水たまりには青空が映っていて、ふわふわと白い雲も流れている。
「いいなぁ。こっちは毎日雨ばかりで、嫌になっちゃうよ」
――あれ?
もう猫はいなかった。
水たまりの向こうから、僕を見つめる猫がいる。
一瞬、猫が笑ったように見えたのは……。
きっと、気のせいだ。
(了)
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