節分胎教|毎週ショートショートnote
「ウチは節分っぽいこと禁止ね」
節分の1週間前、夫が突然言い出した。私が「なんで?」と言う前に、夫は説明を始める。
「鬼を追い出したら、ウチの中が一時的に空になるでしょ? その隙をついて、得体の知れないものが中に入って来るかもしれない。それに、『福は内』って言うけど、福の神のフリをした悪い奴かもしれないからね」
私は「あー、なるほど。」と返事をした。でも、納得したわけじゃない。
「それってあなたの地元の風習か何か?」
「まぁ、そんなとこ。俺の地元では、鬼は家を護る良い神様だからね。それに、鬼が家にいれば、悪いものが入って来る心配もないってわけ」
多分、夫は節分に関して、いろいろ思うところがあるのだろう。ここは夫の考えを尊重することに決めた。さすがに「鬼は家の護り神」と信じている人の前で、「鬼は外!」と叫ぶのは気が引ける。それに、別に私は節分はやってもやらなくても、どっちでもいい。
節分の日、突然「出かけよう」と言い出した夫は、小皿を2つ持って来て、テーブルに置いた。1つに日本酒を少し注ぎ、別の小皿には小さな豆を10粒乗せる。
「それ、どうするの?」
「今日は鬼にゆっくりしてもらうんだ。たまには鬼のご機嫌を取らないとね」
「手を合わせた方がいい?」
「いや、必要ない。そんなことしなくても、鬼は分かってるから」
いくら「家を護る神様」と言われても、さすがに家の中に「鬼がいる」と思ってしまうと、少し気味が悪い。もちろん、夫の前では口が裂けても、そんなことは言えない。そのまま黙って家を出る。
買い物をして、食事をして、帰る頃には夜になっていた。リビングに入った夫が、「ちょっと! こっち来て!」と叫ぶ
「これ見て!」
「あ!」
小皿の日本酒がなくなっている。そして……10粒あった豆が、3粒しか残っていない。
「これって、鬼……さん?」
「ゆっくりできたみたいだね。きっとこれからもこの家を護ってくれるよ」
夫が上機嫌に言う。
「豆、なんで3粒残したんだろう」
「これね、『君達もどうぞ』って意味だよ」
「でも、3粒あるけど……」
「それはね――」
夫は私のお腹を指差した。
――そういうことか。
私と夫と、お腹の子。
我が家の鬼は、なかなか気の利いたことをする。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「節分胎教」です。
やっぱり桃太郎の影響なのか、「鬼=悪」というイメージが定着していますが、「鬼=神様」と畏れ敬っている地域も実際にあるようです。
まぁ、一番怖いのは、生きている人間ですけどね。
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