紀勢本線の支線から始める和歌山線の旅
「和歌山市駅」から「和歌山駅」へ
台風は夜のうちに通過したものの、その残滓の雨雲が局地的な雨を降らせるとの天気予報を見て、なるようになるかという気分でホテルをチェックアウトし、和歌山市駅に向かう。

和歌山には2つのターミナル駅があり、南海電鉄の和歌山市駅の方が中心部に近く、JR和歌山駅はやや離れている。和歌山市駅から和歌山駅の間は、バス以外に電車でも行くことができる。しかも南海電鉄ではなくJRで。和歌山市駅はどこからどう見ても南海電鉄の駅なのだが、何を間違ったのかその端にJR紀勢本線の乗り場があり、2両編成の新しい電車が停まっている。

今日は未乗区間のある和歌山線に乗るが、歴史的経緯を踏まえるとこの紀勢本線の和歌山市駅と和歌山駅を結ぶ支線から始めようと考えた。
高架線に上がって紀和という中間駅を過ぎると、前方に阪和線の築堤が見えてきて、その下をくぐって和歌山線と合流する。それがこの支線なのだが、紀和駅の先の団地に、線路から真っ直ぐ続く公園のような土地がある。実はこれが廃線跡で、かつて和歌山線は和歌山駅に接続せず、阪和線とは和歌山駅の手前にある紀伊中ノ島駅で接続して、そのまま紀和駅(当時の和歌山駅)につながっていた。
今でも紀勢本線の支線と和歌山線がホームを共用し、電車も共通運用なのはその名残であるように思える。
眠る商店街の中で喫茶店のモーニングを食べる
次の和歌山線まで小一時間ほどあったので、和歌山駅で下車し、朝食を取ることにした。昨日、ホテルに置いてあった観光パンフレットで名物の和歌山ラーメンの店を特集したものがあり、和歌山駅の近くにもいくつか有名な店がある。その中で営業時間が9時からと書いてある店を見つけたので、そこに当たりを付けていたのだが、その店が見つからない。

迷い込んだ商店街もシャッターが閉まり、まだ眠っている。そんな中で、レトロな喫茶店だけ灯りがついていた。たまにはこういう喫茶店でモーニングも悪くない。店内はほどよく席が埋まるほど混んでいた。今どき全席喫煙で、常連客と思しきお年寄りが煙をくゆらせていた。
やってきたモーニングセットのサンドイッチは、きゅうり、ハム、卵。卵はサラダではなく焼いてある。マスタードが効いていてうまい。

小休止しながら和歌山線に揺られて
9時55分発の和歌山線王寺駅行きは87.5キロをおよそ2時間半かけて走破する。さっき乗った紀勢本線の支線と分かれ、車庫の横を通り過ぎると田んぼが広がって田井ノ瀬。千旦(せんだ)、布施屋(ほしや)と読み方の難しい駅が続く。細かい雨が降ってきた。紀の川沿いに進み、岩出、打田、粉河など、途中のそこそこ大きな駅で乗降があるが、車内は空いている。西笠田から山の緑が迫ってきて高野口に着いた。なかなか立派な木造の駅舎で、かつては高野山へ向かう拠点だったのかもしれない。ということは、目の前の山は高野山のはずだが、靄がかかっていて中腹あたりまでしかよく見えない。

左手から複線の立派な線路が寄り添ってくると、南海高野線との乗り換えができる橋本に着く。ここで多くの乗客が下車。和歌山線もだいたい中間地点で、電車はしばらく停車する。高野山方面へ行く高野線の線路をまたいでしばらく行くと大和二見という駅で、奈良県に入ったことが分かる。次の五条駅の手前では、建設工事は行われたものの結局開業しなかった五新線のコンクリート高架線が見えた。五条駅でも数分停車し、運転士が交代。次の北宇智駅はかつてスイッチバック駅で、以前、私が子どもの頃に乗ったときはまだスイッチバックが生きていた。そのときは近鉄との乗換駅である吉野口から橋本までの短い区間を乗っており、こんなところにスイッチバックがあることに驚いた記憶がある。ここからちょっとした峠越えの区間で、吉野口を目指して電車は滑るように坂道を下っていく。

吉野口では和歌山線の電車も近鉄吉野線の電車も同じタイミングで上下列車が交換し、うまく接続が取られていた。奈良盆地に入って掖上、御所(ごせ)と徐々に乗客が増えていく。高田で桜井線と合流すると、立ち客が出るほどに混みあい始めた。
ようやく終点の王寺に到着。王寺はこの和歌山線と関西本線に加えて、近鉄生駒線と、駅の名前は新王寺だが、王寺駅のすぐそばに駅がある田原本線が乗り入れる奈良でも有数のターミナルだ。しかし、そんな便利そうな駅があるにもかかわらず、所在は王寺町であることが興味深い。
和歌山線にずっと乗っていて少し疲れたので、小休止する。「町」には不似合いな駅前のショッピングモールの地下にあるレストラン街にあるお好み焼き屋に入った。こういう本格的なお好み焼きは久しぶりだ。鰹節が熱に踊る様子を観察しながらビールをちびちび、焼けるのを待つ。

