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第五章|伝わらないのは、資料の中身ではなく“構造”のせい

資料が伝わらない原因は、
情報量や表現力ではなく、構造にあることが多い。

この章では、PowerPointなどの資料を
「説明の道具」ではなく「思考の設計図」として扱う。


1.PowerPointなどのドキュメント作成の肝|伝える前に整えるという発想

―― 資料は「作る」より「使われる」ことが目的

資料作成の時間は付加価値のある仕事か

あなたは、日々様々なドキュメントを作成している。Wordで議事録、エクセルで統計資料や課題管理票、ToDo一覧、パワーポイントでアジェンダや説明資・・・。IT化の結果、なぜか紙の書類が増えているのは皮肉であるが、今回のテーマは資料・ドキュメントだ。

一つの資料には、一つから複数の「イイタイコト」がある。俗にコンサルタントと呼ばれる業界の人々は、イイタイコトが1枚で終わるにもかかわらず、それをいかに20枚のドキュメントにするかに腐心してきた。昔の話だ

例えばあなたが、結婚を前提に付き合って欲しいというラブレターを書くことを考えてみよう。ラブレターのイイタイコトは、ただひとつ、「君(貴女)のことが好きです。付き合って下さい」である。これをコンサルタントが料理するとどうなるのか。

1)タイトル:今後の関係性構築について
2)サマリー:今後、濃密な関係を築き上げて行きたい
3)内容:
 a)結婚適齢期の男女を取り巻く環境(デモグラッフィック分析)
 b)結婚適齢期の男女の心理(サイコグラフィック分析)
 c)東京都心における結婚年齢(ジオグラッフィック分析)
 d)マクロ環境分析まとめ
 e)愛と恋の定義
 f)愛についての文献−チャタレイ夫人の恋人−の場合
 g)愛についての文献−世界の中心で、愛をさけぶ−の場合 
 h)この資料における愛についてのまとめ
 i)君(貴女)の競争優位性
 j)君(貴女)の模倣困難性
 k)君(貴女)の持つポテンシャル
 l)僕(私)のSWOT分析
 m)僕(私)のバランススコアカード
 n)君(貴女)と僕(私)のシナジー効果について  
 o)僕(私)のバランスシート(預金について)
 p)ミクロ環境分析まとめ
 q)3つのご提案−友達として、恋人として、割り切った関係
 r)ご提案のメリット・デメリット 
 s)損益分岐点分析
 t)楽観的シナリオ(僕が社長になる)、最頻値平均的シナリオ(そこそこのサラリーマン)、悲観的シナリオ(フリーター)
 u)全体のまとめ ご清聴ありがとうございました
 v)補足説明(Appendix):あなたが好きです

まだまだ遊べるのであるが、悪ふざけはこれくらいにして、このような資料が多すぎる。イイタイコトはボカされ、実は伝えたいことがあるのに、最後の紙の補足説明に回っているということが頻発しているのが現状だ。このラブレターに関して、受け取った相手はどのように思うかを考えたとき、資料が分厚ければいいという考え方そのものを排除すべきである。

生産管理の現場にはECRSの法則があるが、いかに枚数を削るか、まとめられるかが、優れた社会人としてのあなたの力量そのものだ。仕事もしかり、まずは「その仕事無くせないか」を検討する。

一方で、ボリュームで圧倒することが功を奏する局面も多い。大きなプロジェクトのRFPに対する提案書などは、億単位のシステム開発を任せるべき相手の力量を測るために必要だと思っている顧客もいる。それは人の捉え方なので、相手がどのように考えているのかを汲み取って、伝え方を熟慮した結果、ボリュームで圧倒すべきであれば、マクロからミクロへ、筋の通った資料を「大量に」生産するべきし、論点の凝縮が好まれるのであれば、真にイイタイコトを中心に補足はできる限り少なく展開するべきだ。

トヨタ流でパッと見て分かる資料に

例えば何かの解決策をご提示する「提案資料」の構成は、下記のようになる。

1枚目:タイトルスライド
2枚目:強調したい・伝えたいこと
3枚目~6枚目:骨子
7枚目:結論
8枚目:まとめ

A4で8枚にまとめると、ステープラーで留めた際も非常にスッキリするので、4の倍数を一つの目標に整理するのもよい。骨子の4枚を、2アップ印刷すると、見開きでA3に四つの論点が整理されているように見える。トヨタ生産方式で使用される会議資料の様式だ。

ドキュメントという言葉の生々しさを鑑みるに、資料は相手がドキドキ・ワクワクするものであって欲しい。特に提案資料においては、既存の枠にとらわれず、最新の技術動向であったり、出来る限り無料のリソースを活用する提案であったり、「イイタイコト」が「フツー」でない提案をすることこそが、あなた、ひいては企業の競争優位性・模倣困難性そのものである。

資料についてあますところなく網羅することも必要だ。しかし、例えば日本のシステム開発の提案段階を想定すれば、パーフェクトに業務・システムそのものを理解している人がヒアリングに付き合ってくれるとは限らない。むしろ、多くの場合、ヒアリング対象の各人は、各人それぞれの固有の領域についてのみ詳しく、システム化構想についても、各人の領域に限り便利になればいいと思っている。決してエゴではなく、組織的な業務の分担というのはそういうことだ。

顧客にドキュメントを渡すにあたっては、従来の網羅的資料を最初に考えるのではなく、イイタイコトが伝わり、付加価値を提供できる資料を考えるべきだ。その結果、網羅的に記載する必要があると判断されたならば、心ゆくまで作成すればよい。

しかしながら、資料を作成するのに無限の時間が与えられることはないので、人は過去のフォーマットに即して作成することになる。このままではあなたも企業もお客様も成長しない。情報システム部門はかつて花型であったが、現在は最も「時代遅れ」の部門になっていることをよく考えると、硬直的な思考プロセスでは未来がないのである。パラダイムシフト[3]を自ら起こし、お客様にも伝播させてこそ優れた社会人だ。

論理やフレームワークというのは、思考を省略するためにある。あちらこちらに書きたいことイイタイコトが飛び散らないために枠に押し込む。その手法を身につけたら、ドキュメントの作成は副次的なものなので(第1章参照)、さっさと「作って」しまって、プレゼンする内容を「創る」時間を生み出そう(2章参照)。

明後日の14時から説明(プレゼン)するとして、現在時刻が本日の13時であるならば、資料作成の締め切りは本日の定時までだ。明日は一日、どのようにイイタイコトを伝えるべきか、考えるのだ。しかし現実は、当日(2日後)の13時まで資料を作っている。そこから印刷して電車に飛び乗り、お客様のところに持って行って説明中に誤字を見つけるのがオチだ。何が良くなかったか、わかるだろう。「作る」時間が押してしまって、「創る」作業をしてないんだよ。イイタイコトを考える時間がなかったのに、イイタイコトを伝えようなんて、調子が良すぎると思わないだろうか。繰り返すが、ドキュメント作成は副次的なものである。あなたがスーパーマンならば、資料なんてなくても口八丁手八丁で相手を納得させればよい。そんな人間はそういないけれど。

だから資料は大切だ。

👉第六章 プレゼンは説明ではない。相手を動かす設計だ

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