【「免疫は、強ければよい」わけではありません】亜鉛から考える「免疫老化」と「炎症性老化」
【「免疫は、強ければよい」わけではありません】
亜鉛から考える「免疫老化」と「炎症性老化」
皆様、こんにちは。
日本栄養精神医学会です。
年齢を重ねると、感染症に対する反応が弱くなる一方で、体内ではごく弱い炎症が長く続きやすくなることがあります。
このような加齢に伴う免疫機能の変化を、「免疫老化(immunosenescence)」と呼びます。
ここで大切なのは、免疫老化とは、単に「免疫力が下がる」ことではないという点です。
感染から体を守るために必要な反応は弱くなる一方で、不要な炎症は収まりにくくなる。
つまり、免疫の「強さ」だけではなく、必要なときに反応し、役割を終えたら鎮まるという調整機能が変化するのです。
そして、加齢に伴って続く慢性的な低度炎症は、「炎症性老化(inflammaging)」と呼ばれ、組織損傷や加齢関連疾患の進行に関与する可能性が指摘されています。
亜鉛は「味覚のためだけ」の栄養素ではありません
2025年、医学誌『Immunity & Ageing』に、SchulzとRinkによる次の総説が掲載されました。
Zinc deficiency as possible link between immunosenescence and age-related diseases
「亜鉛欠乏は、免疫老化と加齢関連疾患をつなぐ可能性がある」
亜鉛は、味覚を維持するだけの栄養素ではありません。
DNAやタンパク質の合成、創傷治癒、抗酸化防御に関与するとともに、好中球、マクロファージ、NK細胞、T細胞、B細胞など、さまざまな免疫細胞が適切に働くために必要な必須微量元素です。
この総説で注目されているのは、亜鉛が不足したときに起こる免疫の変化と、加齢に伴って起こる免疫の変化には、重なる部分があるという点です。
亜鉛が不足すると、
・感染に対応する免疫細胞の働きが低下する
・炎症を適切に収束させる調整が乱れる
・酸化ストレスに対する防御が弱くなる
といった変化が起こり得ます。
そのため著者らは、亜鉛不足を、免疫老化と炎症性老化を悪化させる修正可能な要因の一つとして位置づけています。
亜鉛が不足している高齢者を対象とした一部の研究では、亜鉛補給によってT細胞の増殖能や一部の免疫指標が改善したことも報告されています。
年齢を重ねると、なぜ亜鉛が不足しやすいのでしょうか
高齢期には、食事量や食欲の低下、食事内容の偏り、消化管での吸収効率の変化、歯科的な問題、基礎疾患、服用薬の影響、酸化ストレスなどが重なり、亜鉛不足のリスクが高くなることがあります。
亜鉛は牡蠣、肉類、魚介類、チーズ、ナッツ類などに含まれますが、単に一つの食品を多量に食べればよいわけではありません。
食事量、タンパク質摂取、消化吸収、炎症、基礎疾患、服薬などを併せて考える必要があります。
「亜鉛を飲めば老化を防げる」という意味ではありません
この総説では、糖尿病、うつ病、心血管疾患、加齢黄斑変性などについて、亜鉛状態との関連や補給による可能性が整理されています。
しかし、疾患ごとに研究方法やエビデンスの確実性は異なります。
この論文自体は、さまざまな基礎研究、観察研究、介入研究をまとめた総説です。
亜鉛は「多ければ多いほどよい」ものでもありません
亜鉛を長期間、過剰に摂取すると、腸管における銅の吸収が妨げられ、銅欠乏を起こすことがあります。
銅欠乏は、貧血、白血球減少、しびれ、歩行障害などの原因となり得ます。
日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針2024」でも、亜鉛欠乏症は血清亜鉛値だけで判断するのではなく、症状、他の原因の除外、採血条件、補充後の反応などを併せて診断することが示されています。
検査値がやや低いという理由だけで、症状のない方が自己判断で大量の亜鉛を摂取することは適切ではありません。
食事、免疫、炎症、脳機能、身体疾患、服薬、睡眠、運動などとの関係から考えることが重要です。
★血清亜鉛が低くなる10パターン★
1.亜鉛摂取量の不足
食事量そのものが少ない場合や、肉類、魚介類、卵、乳製品などの摂取が乏しい場合です。
高齢者の食欲低下、偏食、極端な減量食、長期的な低栄養などで起こります。
2.タンパク質・エネルギー低栄養
亜鉛の摂取不足に加え、血清亜鉛の多くを運搬するアルブミンが低下することで、血清亜鉛も低くなります。
血清亜鉛の約60~70%はアルブミンと結合しているため、低アルブミン血症では血清亜鉛低値を来しやすくなります。
3.急性感染症・急性炎症
肺炎、尿路感染症、術後、外傷、重症感染症などでは、炎症性サイトカインの作用によって血中の亜鉛が肝臓や免疫細胞内へ移動します。
この場合、体内総亜鉛量が大きく減っていなくても、血清亜鉛は一時的に低下します。CRP高値時には特に注意が必要です。
4.慢性炎症性疾患
関節リウマチ、炎症性腸疾患、慢性感染症、悪性腫瘍、肥満に伴う低度炎症などでも、血清亜鉛が組織内へ再分布して低値となることがあります。
これは必ずしも純粋な摂取不足ではなく、炎症に伴う亜鉛代謝の変化です。
5.消化吸収障害
クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、短腸症候群、慢性下痢、膵外分泌不全、胃切除後、肥満手術後などでは、亜鉛の吸収が低下します。
摂取量が保たれていても、吸収できなければ血清亜鉛は低下します。
6.腎疾患・尿中喪失
ネフローゼ症候群では、アルブミンとともに亜鉛が尿中へ失われます。
慢性腎臓病や透析患者でも、摂取不足、炎症、食事制限、透析に伴う損失などが重なり、血清亜鉛低値を認めることがあります。
7.肝疾患
肝硬変、慢性肝炎、アルコール関連肝疾患では、摂取不足、吸収障害、低アルブミン血症、尿中排泄増加、炎症などが複合して血清亜鉛が低下します。
アルコール多飲では食事の偏りも加わります。
8.消化管・皮膚・体液からの喪失
慢性下痢、腸瘻、人工肛門からの排液、胆汁瘻、膵液瘻、広範囲熱傷、滲出性皮膚疾患などでは、亜鉛が体外へ失われます。
褥瘡や広範な創傷では、必要量の増加と喪失が同時に起こる場合があります。
9.妊娠・授乳期、成長期など需要が増える状態
妊娠、授乳、乳幼児期、思春期、創傷治癒期などでは、組織形成や細胞増殖のために亜鉛需要が増加します。
摂取量が需要に追いつかなければ、血清亜鉛が低下します。
10.採血条件・日内変動による見かけ上の低値
血清亜鉛には日内変動があり、一般に早朝空腹時が高く、食後や午後には低くなる傾向があります。
食後採血、午後採血、急性疾患中、低アルブミン血症、検体処理条件などによって、実際の亜鉛栄養状態より低く評価されることがあります。
臨床での整理
血清亜鉛低値を見た場合は、次の3群に分けると理解しやすくなります。
1.本当に亜鉛が不足している
摂取不足、吸収障害、体外喪失、需要増加
2.血中から組織へ移動している
急性炎症、慢性炎症、感染症、手術侵襲
3.運搬タンパク質や測定条件の影響
低アルブミン血症、食後採血、午後採血

そのような「食と心」の科学を学ぶ機会が、2026年7月18日・19日に開催されます。
日本栄養精神医学会 開催案内
日程
2026年7月18日(土)・19日(日)
会場
ウェスタ川越
参加形式
会場参加・WEB参加・後日動画参加からお選びいただけます。
参加者特典
🎁500ページに及ぶ学会誌
🎁「食と心の入門資格」の取得
🚩「食と心の専門資格」資格取得や、食と心の認定施設申請をご検討の方にとっても、大切な機会となります。
「メンタルヘルスは食事から」「食と心」について学びたい方、ご自身やご家族の健康について学びたい方、食事、栄養、免疫、加齢、メンタルヘルスに関心をお持ちの方は参加ください。
「何となく体に良い」という情報から、
「どこまで科学的に分かっているのか」という理解へ。
食と心の関係を体系的に学びたい皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


参考文献
1.Schulz MT, Rink L. Zinc deficiency as possible link between immunosenescence and age-related diseases. Immun Ageing. 2025;22:19. doi:10.1186/s12979-025-00511-1.
2.日本臨床栄養学会編.亜鉛欠乏症の診療指針2024.日本臨床栄養学会雑誌. 2024;46(4):225–272.
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