強みがわからなければお客さんに聞こう!
1.「自分の顔」は自分では見えない
経営というものは、ある意味で「孤独な格闘」です。
毎日現場で必死に働き、商品を磨き、資金繰りを考え、スタッフを育てる。そうして24時間365日自分のビジネスに没頭していると、皮肉なことに「自分の姿が一番見えなくなる」のです。
皆さんは、毎朝鏡を見ますよね? なぜ鏡を見るのでしょうか。
自分の顔に何かついていないか、ネクタイが曲がっていないかを確認するためです。自分の目は自分の顔を見るようにはできていないから、鏡という「第三者」が必要です。
商売における鏡、それこそが「お客様」です。
それも、一度きりで去っていった人ではなく、何度も戻ってきてくれる「リピーター」という名の鏡です。
彼らは、世の中に無数にある選択肢の中から、わざわざあなたのバケツを選び、そこに水を注ぎ続けてくれています。そこには必ず、あなた自身も気づいていない「選ばれる理由」が存在します。
2.「強み」を勘違いすることの恐ろしさ
なぜ、自分で強みを決めつけてはいけないのでしょうか。
それは、強みを勘違いしたままバケツの穴を塞ごうとすると、「塞ぐべきでない場所」を塞ぎ、「磨くべきでない場所」を磨いてしまうからです。
例えば、ある居酒屋の店主が「うちの強みは、産地直送の珍しい魚の刺身だ!」と思い込んでいたとします。
彼はもっと魚を仕入れ、刺身のメニューを増やします。しかし、実際のお客様のリピート理由は「店主が自分の名前を覚えてくれていて、仕事の愚痴をさりげなく聞いてくれる居心地の良さ」だったとしたらどうでしょう。
店主が「魚」にばかり集中し、忙しさのあまり客との会話を疎かにし始めたら・・・。お客様は「あれ、最近あの店、居心地が悪くなったな」と感じ、去っていきます。
店主は「刺身の鮮度が落ちたのか?」と悩み、さらに高級な魚を仕入れる。利益は減り、客も減る。これが「強みの履き違え」が引き起こす悲劇です。
リピーター育成において、強みとは「差別化のポイント」ではなく「継続の理由」でなければなりません。
3.リピーターに「ラブレター」を書くしくみ
では、どうすれば本当の強みを見つけることができるのか。
私が推奨するのは、極めてアナログで、かつ強力な「顧客インタビュー」のしくみです。
通販実務31年の私が、山田養蜂場時代からずっと大切にしてきた手法です。
以下の3つのステップで、あなたの「真の強み」を抽出してください。
① 「上位10%の優良客」を特定する
「分析」を思い出してください。累計購入金額が高く、かつ利用回数が多いお客様。彼らこそが、あなたのビジネスの「正解」を知っている人たちです。
② 「なぜ」ではなく「何が起きたか」を聞く
「なぜうちを利用してくれるんですか?」と聞いても、お客様は「近いから」「良いから」と、当たり障りのない答えしかくれません。
聞くべきは、以下の質問です。
「うちを利用する前、どんなことで悩んでいましたか?」(ビフォー)
「初めて利用した時、一番印象に残っていることは何ですか?」(最初の感動)
「他のお店ではなく、あえてうちを選び続けてくれている決定的なポイントは何ですか?」(継続の理由)
「もしうちがなくなったら、どんなことに困りますか?」(存在価値)
③ 共通する「キーワード」を拾い上げる
10人に話を聞くと、必ず共通する言葉が出てきます。
「あそこに行くと、ホッとするんだよね」
「説明が専門用語じゃなくて、私でもわかる言葉だったから安心した」
「注文してから届くまでのワクワク感が、他とは違うんだよ」
このお客様から漏れ出た言葉こそが、あなたの「真の強み」であり、バケツを補強する最強のパテになります。
事例紹介:ある「理容室」が気づいた「強みの正体」
名古屋の下町にある、ベテラン店主が営む理容室の事例です。
店主は「うちは30年磨き上げたカット技術が強みだ」と信じて疑いませんでした。しかし、近所に1,000円カットの店や、おしゃれな美容室が次々とでき、常連客が少しずつ減っていました。
店主は「技術をさらに磨くために、新しい講習会に通うべきか」と悩んでいましたが、私は言いました。
「店主、一度、今でも通い続けてくれている常連さんに聞いてみませんか?」
店主は驚きながらも、長年通ってくれている5人のお客様に、散髪をしながら聞いてみました。すると、全員が口を揃えてこう言ったのです。
「店主がやってくれる『耳掃除』と、その後の『肩叩き』が最高なんだよ。これがないと、一週間が始まらないんだ」
店主は呆然としました。「そんなことか」と。
彼にとって、耳掃除や肩叩きは「おまけ」のサービスに過ぎませんでした。しかし、お客様にとっては、最新のカット技術よりも「その丁寧な癒やしの時間」こそが、その店を使い続ける、他へ行かない「理由」だったのです。
これに気づいた店主は、カット技術の追求も続けつつ、看板メニューを「癒やしの耳掃除付き・男の極上リフレッシュカット」に変えました。
すると、離れていた客が戻り始めただけでなく、その評判を聞いた新しいお客様も増えました。
お客様に教えてもらった強みを「中心」に据えたことで、バケツの磁力が一気に強まったのです。
専門用語の補足:USP(ユニーク・セリング・プロポジション)
マーケティング用語で「独自の売り」と訳されます。
多くの人はこれを「競合にはない機能やスペック」だと考えがちですが、リピーター育成においては**「お客様があなたにしか感じていない独自の価値」**と定義し直すべきです。
USPは自分でひねり出すものではなく、お客様の言葉の中に落ちているものを「拾い上げる」ものなのです。
強みを「しくみ」に落とし込む方法
お客様に強みを教えてもらったら、それを「一時の喜び」で終わらせてはいけません。それを再現し続ける「しくみ」に昇華させます。
① 「強みの言語化」を全スタッフで共有する
お客様の言葉を、そのまま会社の「合言葉」にします。
さきほどの理容室なら「うちは日本一心地よい耳掃除を提供する店だ」と定義し、スタッフ全員がそのレベルを落とさないように徹底します。
② 強みを「増幅」させるサービスを付加する
強みが「安心感」なら、さらに安心を届けるための「定期的なお手紙」や「アフターケアの電話」をしくみに組み込みます。強みを徹底的に尖らせることで、バケツの壁はより厚くなります。
③ 集客の「キャッチコピー」にリピーターの言葉を使う
「店主が優しい」と自分で言うと怪しいですが、リピーターが言った「ここに来ると、実家に帰ったような安心感がある」という言葉をそのまま広告に使うと、同じ価値観を持つ新しいリピーター候補が集まります。
「質の高い集客」は、こうして作られます。
【実践】あなたの「真の強み」を発掘するワーク
今日からできる、黄金化ワークです。
□ステップ1: 顧客名簿から、過去1年で最も利用してくれたお客様を5人選ぶ。
□ステップ2: その5人に、お礼の電話をかけるか、直接会った時にこう聞く。
「〇〇さん、いつも本当にありがとうございます。厚かましいお願いなのですが、〇〇さんが他ではなくうちを使い続けてくれている理由を、一つだけ教えていただけませんか?」□ステップ3: 返ってきた答えが、あなたの想定と違っていても、否定せずにそのまま書き留める。
□ステップ4: その「理由」を、明日の朝礼でスタッフに共有し、どうすればもっとその部分を喜んでもらえるか話し合う。
最後に:強みは、あなたの「あり方」そのもの
山田養蜂場時代、売上が8億円から160億円に伸びたとき、私たちが売っていたのは「蜂蜜」ではありませんでした。
お客様が私たちに教えてくれたのは、「山田養蜂場の蜂蜜を食べると、家族の健康を守っているという安心感が手に入る」という価値でした。
その「安心感」こそが私たちの強みだと確信したからこそ、私たちは徹底した品質管理と、一人ひとりのお客様への丁寧な健康アドバイスを「しくみ」にすることができたのです。
あなたの強みも、きっとあなたの足元に転がっています。
自分で「自分はすごいんだ!」と叫ぶ必要はありません。
ただ、あなたを信じて通ってくれるお客様の声に、静かに耳を傾けてみてください。
「大石さん、お客様からこんなことを言われました!」という発見があったら、ぜひ教えてください。その言葉が、あなたのバケツを一生守り抜く、最強の「しくみ」の材料になります。
さあ、今日は自信を持って、お客様に「愛の告白」ならぬ「強みの質問」を投げかけてみましょう。
【まとめ】
経営者が思う強みの多くは、お客様の求める価値とズレている。
本当の強みは、上位10%の優良客が「使い続けている理由」の中にある。
「なぜ」ではなく「何が起きたか」「何に困っていたか」を聞くことが重要。
お客様の言葉を「しくみ」に落とし込み、全社で共有することでバケツは最強になる。
今日から行動に移す一言:
「一番の常連さんに『うちがなくなったら、どんなことに困りますか?』とあえて聞いてみよう」
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。
