広告運用で「負けクリエイティブ」が量産されてしまうワケ
多くの広告運用の現場を見てきて、「負けやすいクリエイティブの作り方」ってあるな、と感じています。
※この記事での「クリエイティブ」とは、SNS広告やディスプレイ広告などの「静止画や動画を使ったダイレクトレスポンス広告」を指しています。
※また、ビジュアルや演出などの「表現方法」ではなく、「何を伝えるか」というメッセージ戦略を中心に扱っています。
そのパターンの一つが「見込みのあるWHO(ターゲット)を細かく区切って、それらを起点にHOW(広告メッセージ)を考える」というアプローチです。
このアプローチでは、まず「○○な人」「○○な層」のように、WHO全体を統計的属性や心理的属性で細分化します。そして、それらのセグメントに対して個別にメッセージを考えていきます。
図にするとこんなイメージです。

例えば「幼児教室(0-3歳向け)」のビジネスで考えてみます。このサービスから得られる便益が以下のようなものだとすると、
子どもの可能性を最大限に育み、成長できる環境を提供できる
子育てに自信がつく
これらの便益に価値を感じてくれそうな「〇〇な人・層」として、以下のようなターゲットが考えられます。
初めての育児で不安な親(育児経験がなく自信がないから)
他の子より発達の遅れを感じる親(将来に影響するのが不安だから)
多忙で罪悪感がある親(限られた時間でも最善を尽くしたいから)
このように、ある程度のボリュームがありそうな「〇〇な人・層」を定義し、それぞれのWHOを起点にしてメッセージを考えます。
例えばこんなイメージ。
はじめてのママ・パパへ。プロの先生が優しくサポートします。
"うちの子、大丈夫かな" そんな不安に専門家がお応えします。
忙しいあなたでも大丈夫。週1回50分で、質の高い親子時間を。
一見すると合理的な考え方のように思えますが、この発想だと強いクリエイティブが生まれづらいなと感じています。
「WHO積み上げ型」のデメリット
私は社内でこのアプローチを「WHO積み上げ型」と呼んでいます。
筋の良さそうなWHOを定義して、その人たちが関心を向けてくれそうなHOW(広告メッセージ)を考える。その「WHOとHOWの組み合わせ」を積み上げていくことで獲得を伸ばしていくイメージから、そう名付けました。
このWHO積み上げ型には、「広告メッセージを発想しやすい」「クリエイティブのバリエーションを量産しやすい」「納得感があるので関係者で合意しやすい」といったメリットがあります。
一方で、デメリットも少なくありません。例えばこんな問題を実感しています。
直接的・表面的なメッセージになりがち
例えば、幼児教育でWHOを「初めての育児で不安な親」と設定すると、そのまま「初めての育児で不安なあなたに…」と呼びかけたくなります。
特定の人を定義してから広告メッセージを考えると、WHOを狭めることで得られる安心感に甘えてしまいがち。その結果、ストレートでありきたりな表現になり、心に響くメッセージを生み出そうとする努力が疎かになってしまいます。
メッセージがターゲット間で排他的になりがち
例えば、「多忙で罪悪感があるあなた」と呼びかけると、それ以外の理由で幼児教育を検討している人には「自分には関係ない」と思われてしまいます。
初めての育児で不安な親も、子どもの発達を心配している親も、みんな子どもの成長を願っているのに、「多忙な親向けのサービスなんだ」という印象を持った瞬間に興味を失ってしまう。
このように、特定のWHOに特化したメッセージは、それ以外の潜在顧客を排除してしまいやすく、「反応の広がり」が小さくなってしまうのが大きな難点です。
ターゲットを単純化しがち
人の心理や行動は思った以上に複雑で、非合理的です。
例えば「節約志向の人」といっても、実際には「食費は徹底的に抑えるけれど美容にはこだわりたい人」や「家計は節約しても趣味への投資は惜しまない人」など、さまざまなグラデーションがあるもの。
企画の段階で「〇〇な人」と単純化してしまうと、そのグラデーションを無視し、一面的なイメージだけでメッセージを考えてしまいがちです。
ターゲティングで狭めがち
ひとたび「〇〇な人」と定義され、それが関係者の間で「重要なWHOである」と認識されると、「メッセージだけでなく、メディアターゲティングでも絞り込めないか?」という話になりがちです。
ただでさえメッセージで狭めたWHOを、さらにターゲティングで絞り込んでしまうと、伸びるものも伸びなくなる。経験上、この「狭いWHO + 狭いメディアターゲティング」が最も良くないパターンで、CPAは下がってもCV数が伸びない、あるいはCPMが上がってCPAも悪化する、という状況に陥りがちです。
…と、このように「WHOのうまい切り取り方」からメッセージを発想すると、一見すると効果的、効率的に見えても、実際には「弱いクリエイティブ」を作る力学が働いてしまうことが少なくありません。
勝ちクリエイティブには「広く大きなWHO」が必要
これらのデメリットは、最終的に一つの根本的な問題に行き着きます。それは「広く大きな反応を得られないクリエイティブは、勝ちクリエイティブになり得ない」という問題。
「勝ちクリエイティブ」の定義はいろいろあると思いますが、一般的には「相対的にCPAが低くて、たくさんCVの取れるもの」だと思います。CPAが低くてもあまりCVが取れないなら、一般的に勝ちクリエイティブとは言いません。
WHO積み上げ型でメッセージを考えると、最初は特定のターゲットに刺さり、クリック率やコンバージョン率が高くなるかもしれません。
しかし、広告プラットフォームは「成果の良いクリエイティブは配信量を増やす」という自動最適化が基本。成果が出ると、自動的により多くのターゲットにリーチし始めます。
すると「特定のWHOに対するクリエイティブ」は、積極的に配信が拡大されることで、それらのWHO以外の人たちにもリーチしはじめ、その訴求力を失っていきます。結果として、平均的か平均以下の負けクリエイティブと化していきます。
このような理由から、「勝ちクリエイティブ」を作るためには、そもそも最初から「広くて大きなWHOを狙う」ことが重要になります。
望ましいのは「WHOカバレッジ型」
では、どんな考え方でWHOを捉えるべきなのか。私は社内で「WHOカバレッジ型」という考え方を推奨しています。
WHO積み上げ型では「WHOがいくつもある」イメージでしたが、WHOカバレッジ型では「大きな一つのWHOしかない」と考えます。「〇〇な人・層」というようにWHOを「区切る」ことは、できるだけ避けます。
そして、その「大きなWHO」は「商品・サービスの便益に価値を感じる可能性のある人すべて」として定義します。つまり「WHOの大きさは、WHATの"便益の大きさ"で決まる」という考え方です。
先ほどの幼児教育の例では、便益は以下の通りでした。
子どもの可能性を最大限に育み、成長できる環境を用意できる
子育ての自信がつく
WHOカバレッジ型では、この場合のWHOは「0~3歳児を育てている保護者と、妊娠期の夫婦」となります。「〇〇な人・層」という定義は、これ以上は詳細化しません。
※実際は、もう少し粒度を落とした「コア・ターゲット」を作ることもありますが、基本的にはできるだけ大きくWHOを設定します。(例:サービス価格を考慮して「世帯年収が500万円以上の家庭」など、どうしても外せない制約条件のみを加える)
WHO積み上げ型では「○○な人・層」という「WHOの定義」を起点として、それに対応するHOWを考えていました。一方、WHOカバレッジ型では、広く大きなWHOに対して「メッセージの波及範囲を最大化できるようなHOW」を考えます。
WHOカバレッジ型は、図にすると以下のようなイメージです。

カバレッジを最大化するアイディアの開発方法
とはいえ、WHOを広く設定すると「メッセージがぼんやりして、浅くなってしまうのでは?」「単にクリエイティブ開発のハードルが上がっているだけでは?」という疑問が出てきます。
たしかに、WHO積み上げ型よりもWHOカバレッジ型の方が、メッセージ開発は難しくなります。「初心者向け」「忙しい人向け」といった分かりやすいメッセージではなく、異なる状況にある人々に共通して響く、もう一段深いメッセージを考える必要があるからです。
では、どうやって「波及範囲の広いメッセージ」を考えればいいのか。私が社内で推奨しているアプローチは、以下のようなイメージです。

まず、ブランドのWHATの理解を深めます。「こんな人に買ってもらえそうだな」「こんなきっかけが購買動機になりそうだな」という仮説を持てるくらいまで、ブランドとカテゴリーについて勉強します。
次に、ターゲットとなる消費者の解像度を高めます。ブランドやカテゴリーに対する考えや態度を理解するため、弊社では顧客インタビューを行うことが多いです。自社ブランドあるいは他社ブランドのロイヤルユーザーに、「なぜ買ったのか」「どうすれば買ってもらえそうか」について、仮説を持ちながら話を聞きます。
すると、例えば上記の図のように、Aさん、Bさん、Cさんそれぞれから「買う理由になりそうな一次情報」を得ることができます。
ここで注意すべきは、Aさん、Bさん、Cさんを「〇〇な親」のような個別のWHOとして扱わないこと。その人たちに特化したメッセージを考えることもしません。ここはグッとこらえます。
インタビューの目的はターゲットを区別するためではなく、できるだけ多くのターゲットに関心を持ってもらえるメッセージを探すために話を聞きます。
重要なのは、異なる状況にあるAさん、Bさん、Cさんの共通項を見つけることです。表面的には違う悩みを持っているように見えても、根底にある感情や価値観には共通点があるはず。
先ほど挙げた3タイプの親たち(初めての育児で不安な親、発達の遅れを心配する親、多忙で罪悪感がある親)には、表面的には違う悩みを持っているように見えても、重要な共通点があります。
例えば、「子どもの成長に対する責任感」と「自分の育児に対する不確かさ」などが共通していそうです。
これらすべての親に響きうるメッセージとして、以下のようなアイデアが考えられます。
子育て上手な親は「子ども一人ひとりのペースを大切にすること」を知っています。子どもの才能を伸ばせるのは、”親が学んでいる”からです。
子育て上手の秘密、それは「見守れる」こと。子どものペースを大切にする方法、親も一緒に学びませんか?
このメッセージなら、異なる状況に置かれた、異なる心理を持つ親でも「ペースを大切にすればいい」というメッセージで安心感を得られます。同時に「そのペースの守り方、子供への寄り添い方はどうすればいいんだろう」という疑問を抱き、「幼児教育を通じて、子供だけでなく親も学ぶ必要がある」というメッセージによって購買動機が刺激されそうです。
WHO積み上げ型は「ターゲットの定義」からメッセージを発想しますが、WHOカバレッジ型は「ターゲットの共通点」から発想します。この出発点の違いが、最終的なメッセージの強度を左右すると感じています。
上記のアイディアの良し悪しはさておき、WHOカバレッジ型のアプローチがどういうものか、イメージは掴んでいただけたかなと思います。
強いクリエイティブをつくるために
多くの広告運用を見てきて、強いクリエイティブは「WHOを狭めない」と「刺さるHOWを考える」という、一見矛盾することを両立させているように思います。
もちろん、この両立は簡単ではありません。WHOを広げれば、メッセージは薄くなりがち。逆にメッセージを尖らせれば、届く人は限られてしまう。このジレンマは、私たちも日々向き合っている課題です。
それでも、クリエイティブ改善にしっかりと取り組んでいる支援では、この矛盾を乗り越える強いメッセージを生み出すことに成功しています。
私たちは、このチャレンジを個人の経験や感性だけに頼るのではなく、再現可能なノウハウとして組織知にできるように頑張っています。その具体的な知見については、また別の機会にお話しできればと思います。
この記事が、クリエイティブワークに関わる方々の参考になれば幸いです!
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補足:WHO積み上げ型が有効なケース
ここまでWHOカバレッジ型を推奨してきましたが、WHO積み上げ型が効果を発揮するケースも、もちろんあります。
それは「WHAT(商品・サービスの価格や機能、デザイン、それに付随する顧客体験)を、特定のWHO専用に開発・強化できる場合」です。
例えば幼児教育サービスで考えてみると、「初めての育児で不安な親」には「基礎から丁寧に学べるプログラムと手厚いサポート体制」を、「他の子より遅れを感じる親」には「個別の発達評価と専門的なフォローアップ」を用意できるとします。
このように、それぞれのニーズに特化した商品・サービスや顧客体験を設計できる場合は、WHO積み上げ型のアプローチが効果的です。特定のWHOに向けられたWHATがあれば、ターゲットが狭くなったとしても、その人たちには確実に選ばれる商品になり得るからです。
また、WHOに合わせてWHATを開発・強化するプロセスには重要な副次効果があります。それは、投資に見合うだけのWHOなのか(市場規模は十分か、本当にそのニーズは存在するのか)を厳密に検証せざるを得なくなることです。この検証プロセスを通じて、質と量の両面でWHOを正しく見極める力が養われます。
しかし、実際の広告運用の現場ではこのような検証プロセスを経ずに、WHOだけを安易に区切ってしまうことが多い。この「手軽さ」が落とし穴だと感じています。
