【壁】芥川賞読んでいく:19冊目【1951年受賞作】
芥川賞の受賞作を片っ端から読んでいくということをしています。
今回は 第25回 芥川賞受賞作 壁について書いていきます。
私の好きな安部公房の本です。ただ、この本はところどころ眠すぎる。正直読むのが辛かった。難しい。ので、わかるところから書いていきたいと思います。

第三部の赤い繭の感想を書いていきます。第一部、第二部は引用だけ残して、将来の自分に期待します。
赤い繭は15分もあれば読めますし、面白いですよ。独立した短編として読めます。(他の部との連関はあるものの)
おれの家がないわけがないじゃないか
ある男が「俺の帰る家がない」と言って、街を彷徨うところから始まります。
夜は毎日やってくる。夜が来れば休まなければならない。休むために家がいる。そんならおれの家がないわけがないじゃないか。
家がないわけないじゃないか。全然関係ないけど、芸人のかまいたちのコントを思い出しました。
「東京中の雇用がないわけないやろ」は笑いました。「おれの家がないわけがないじゃないか」も似た感じですよね。あり得ないですもん。
そんな男は知らないうちのドアを叩いて「ここは俺のうちじゃないですよね」とヤバい発言をします。出てきた女性は「間違いじゃありませんか。私の家ですから」と優しくいうのですが、男は「あなたの家だということと、私の家じゃないということがどう関係するのですか」と激ヤバ発言をします。
せめて誰のものでもないものが一つくらいあってもいいではないか
だが、何故…何故すべてが誰かのものであり、おれのものではないのだろうか?いや、おれのものではないまでも、せめて誰のものでもないものが一つくらいあってもいいではないか。時たまおれは錯覚した。工事場や材料置場のヒューム管がおれの家だと。しかしそれらはすでに誰かのものになりつつあるものであり、やがて誰かのものになるために、おれの意志や関心とは無関係にそこから消えてしまった。あるいは、明らかにおれの家ではないものに変形してしまった。
では公園のベンチはどうだ。むろん結構。もしそれが本当におれの家であれば、混棒をもった彼が来て追いたてさえしなければ・・・・たしかにここはみんなのものであり、誰のものでもない。
せめて誰のものでもないものが一つくらいあってもいいではないか
これは強いメッセージです。東京で住んでいて新宿にでも行って、誰のものでもない場所を探せと言われたら無理ですよね。新宿じゃなくても、都会ならほとんどが誰かの持ち物です。
家が出来ても、今度は帰ってゆくおれがいない
家が見つからず歩いていると、男の足から糸が伸びていくのに気づきます。糸はどんどんど伸びていき、身体がなくなっていきます。すると、ほどけた糸が身体を巻き始め、繭となります。
ああ、これでやっと休めるのだ。夕陽が赤々と繭を染めていた。これだけは確実に誰からも妨げられないおれの家だ。だが、家が出来ても、今度は帰ってゆくおれがいない。
繭という家ができた一方で、今度は帰る俺がいない、ということでENDです。
繭とは一体なんなんでしょう。
第一部の引用を今後の考察のため残しておきます
「十五番さん、どうぞ。」
それを聞いてぼくは思わず微笑みました。目を覚ましてから今までの間に、はじめて幸福を感じたと思いました。実際、十五番さんなどと、人を呼ぶのにこんな屈託ない呼びかたがほかにあるでしょうか?人々が全部、名前なんかよしてしまって、その時に応じた番号で呼びあえるようにでもなったら、どんなにか愉快なことでしょう。
プラタナスの並木の下で、さっきの画家がさっきのままの姿勢でじっとしておりました。
その足元では浮浪児がやはりいかみをとっておりました。すれちがうとき、振向くと、カンバスはやはり真白のままでした。思わずぼくは聞いてみました。「何故お描きにならないんです?」「待っているんです。」画家は真すぐ前を見たままぶっきら棒に答えました。「何をお待ちになっているんですか?」「何を待っているか、それが分るくらいなら、無も待ったりはしません。」
ほんとうにそうだと思い、ぼくはまた歩きはじめました。

少しも無茶なことはありません。なぜって、あなたには名前がないのだから、そう言われても仕方ないでしょう。否認する論拠はないのです。ところでその先が問題なのですが、あなたが名前を取戻すまで、有罪でもない無罪でもない曖味な状態で裁判は永久に続き、そのあいだに起ったすべての事件がことことくあなたの罪状として加えられてゆくわけですから。もしあなたが名前を取戻せば、まず死刑はまぬがれない。」「そんな変な理屈ってないでしょう。そういったことは全部ほくに名前がないからのととで、名前を取戻しさえすれば、名前に罪がないかぎり……、」「無罪だというのですか?どうか都合のいい希望的観測はよして下さい。
「さて、」とはらむしは一段声をはりあげて、「最後に言わせていただきたいことは、その出発の具体的方法についてであります。それは、この両極という新しい性質の附加にもかかわらず、世界の果への出発が壁の凝視にはじまることには変りないということ、そして旅行くものはその道程を壁の中に発見しなければならぬということ……どうかみなさん、この点を深く銘記して、確実なる出発へのしるべとしていただきたいとねがう次第であります。以上をもって私の話を終ることにいたします。」
ふと壁が見えなくなりました。物質からメタフィジカルなものに消えて行ったのでした。
彼はまたたきを繰返して壁に還元を求めました。壁は帰ってきました。しかしその壁は打って変った暗い表情をしているのでした。壁はしめっぽくふくらんで見えました。それは、彼の先住者たちの生活を、吸取紙のように吸収した、もう一つの壁の顔なのでした。不意に彼は暗い呪いが彼と壁との間に立ちふさがるのを見ました。壁はもはや慰めなどでなく、耐えがたい重圧でした。それは人間を守ってくれる自由の壁ではなく、刑務所から延長された東縛の壁でした。「おれが刑務所と要塞で一番発達したのも、」と壁が言いました。「おまえの責任だ。」
人間は壁を至る所に築き上げていきます。
壁はもはや慰めなどでなく、耐えがたい重圧でした。それは人間を守ってくれる自由の壁ではなく、刑務所から延長された東縛の壁でした。
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