見出し画像

【エーゲ海に捧ぐ】芥川賞読んでいく:46冊目

芥川賞の受賞作を片っ端から読んでいくということをしています。
背伸びせず、今持っている力でまとめていきますので冗長になります。
今回は、第77回(1977年)芥川賞受賞作『エーゲ海に捧ぐ』。池田満寿夫。
前回も第77回でこの年はダブル受賞でした。同じ年なのに雰囲気全く違うなと思いました。

満州の生まれなんですね。時代を感じる。

正直考えることが思いつかないのです、この小説。それが芸術というやつなんですかね。全体的にエロい感じなんですけど、イタリアの地中海を思わせる表現が多くて、僕はイタリアとかあそこら辺の雰囲気が好きなので、ああ、行きたいなと思ってたくらいで、こうやって書いていても、やはり掘り下げるようなところはない。

だけど、やはり記事にしようと思ったので、選考委員の人たちの評価を見ていこうと思います。


中村光夫「シチュエーションの設定は巧みでも、人物の把握がやや粗笨」

「抜群の出来です。」「氏を芥川賞の対象になる「新人」と見てよいかについては、多少の疑問がありますが、その点が問題ないとすれば、これを当選作としたいと思います。」「きらびやかな、稀に見る才能には違いなくとも、それが外面的でぎらぎらしすぎること、シチュエーションの設定は巧みでも、人物の把握がやや粗笨な点などが気にかかります。」「しかしそれは氏にとっても将来の問題」

シチュエーションの設定が巧みらしい。ある外国にいる男が妻と電話をしながら場面が進んでいく、というか場所はスタジオのような場所だと思うんだけど、そこに二人の艶かしい外国人女がいて、彼女らが芸術的にポーズを変えていくのを見ているという構図になっている。最初から設定は明らかにされず、読者はなんだこれと思いながら徐々に読み進めていくという感じになっている。僕は嫌いじゃない、というより、場面や登場人物をはっきり最初に表現して、という小説は好きじゃないかもしれない。ただ、人物の把握がやや粗笨とあるが、そうとも言えるかもしれない。想像に苦労して、入りきれなかったところは正直ある。短編ですし。だから、教訓を得たとすれば、抽象的なのはいいけど過度に抽象的だと読者は疲れるということかな。

永井龍男「空虚な痴態だけが延々と続く」

「精密な素材の配置と文章で組立てられていたが、緻密な描写が拡がるにしたがって、端から文章が死んで行き、これは文学ではないと思った。」「遠い日本妻の述懐が浄瑠璃風な陰湿な伴奏を繰返し、空虚な痴態だけが延々と続く。」

精密な素材の配置、緻密な描写、、なんのこと?電話かな。正直、スタジオの雰囲気が自然に想像できなかった。その都度、読み直しを要求するというか。そういう意味で、端から文章が死んで行き
空虚な痴態だけが延々と続く、結構辛辣なコメントだけど、俺もそうだと思ったかな。

大江健三郎「重ね塗りされるイメージも、そのひとつひとつは確実にしあげられていない」

情況設定も、電話の向うの立派な女も、デクノボーの主人公も、独特かつ効果的である。しかし二人の外国人の女はあいまいで、重ね塗りされるイメージも、そのひとつひとつは確実にしあげられていない。」「しかし強力な支持者たちがあり、僕は反対者としておおいに討論した後、授賞に賛成した。」

うん、二人の女性のイメージが重ね塗りされていくんだけど、うまく繋がらないからイメージしにくい。大江健三郎の描く文章はイメージしやすいからなあ、しやすいどころか、それが質量を持っていて、湿度も持っていて、重いから、反対者になるのはわかる。彼の飼育という作品もその点を強調して近々まとめたい。

吉行淳之介「道具立てが華やかで、作者の感性がきらめく」

「池田満寿夫、高橋揆一郎、三田誠広の順に内心支持して会に出た。」「池田氏の作品についての評価は予想どおりだったが、その反対意見は二作授賞を許さない、という強烈さだった。」「道具立てが華やかで、作者の感性がきらめくのだが(その点も、私は好きだ)、むしろオーソドックスな小説といえる。」「また、池田氏はしたたかな技巧家であるが、あるいは本人自身気付いていないかもしれない素朴な心が、その裏側にある。」

道具立てが華やかで、作者の感性がきらめく、とあるけど、永井の評価と似ているのかな。具体的にどこか書いてほしいなあ。そうだ、本があるんだ、芥川賞全集、見てみよう。

芥川賞全集十一

確かに、海外からの電話で時間と共に着々と金がかかっていくのだけど、夫は電話を切れない、というのは面白い。切りたくても切れない関係が、金という現実的な量となって加算されていくような。こういうのが道具立てとして評価されているのか。


瀧井孝作「内容はとりとめがなく、まとまりのない作」

「小説として構図は新しいようだが、内容はとりとめがなく、まとまりのない作だと思った。」

同じ感じの意見。

井上靖「人間関係を一つのカンバスに嵌め込んだ新しい試みはあるにしても、読後、その試み以上のものは出ていない」

「私は、氏の場合、芥川賞によって推し出される必要もないであろうと思ったし、この作品に於ける限りは人間関係を一つのカンバスに嵌め込んだ新しい試みはあるにしても、読後、その試み以上のものは出ていないと思った。」

評価として一文にまとめるのがうまいな。人間関係を一つのカンバスに嵌め込んだ、うん、そうだ。

安岡章太郎「倉庫の中の裸の女というのは、前衛的なパターン」

「いいと思った。しかし、(引用者中略)積極的に推せるものはなかった。」「倉庫の中の裸の女というのは、前衛的なパターンであり、それに黄色人種の男と女の古めかしい情念がからめ合わせてある点に、新しさがあるわけだが、これが効果を上げるのは一回こっきりのことである。」

正直、前衛的という言葉がよくわからない。新しい、というか、先駆けというか、先駆けなら、今後も同じ傾向が続いていくわけだから、でも、倉庫の中の裸の女が前衛的って、おかしい。過激、とか刺激的って意味合いで使ってるのかな。

遠藤周作「耳で聞える声と眼に見えるものの描写しかない。にもかかわらず電話に反応する二人の白人の女のなまなましい嫉妬は、彼女たちの動きでなまなましく伝わってくる」

「真向から意見が二つに分れたところにこの作品の性格がある。私はこの作品を支持した。」「決して前衛的な小説ではない。」「耳で聞える声と眼に見えるものの描写しかない。にもかかわらず電話に反応する二人の白人の女のなまなましい嫉妬は、彼女たちの動きでなまなましく伝わってくる。」「いずれにしろ、この作者の資質を否定することはできない筈である。」

前衛的な小説ではない、どっちだよ笑

耳で聞える声と眼に見えるものの描写しかない。にもかかわらず電話に反応する二人の白人の女のなまなましい嫉妬は、彼女たちの動きでなまなましく伝わってくる。というのは、そう、よく捉えて表現されている。耳と視覚の情報しかないんだけど(てか、それで十分?エーゲ海の磯の香りとか書いてなかったっけ)、生々しい嫉妬は動きで伝わってくるかも。日本語で電話してるからバレないみたいな、これも道具立てか。

他にもまとめていくのでよければ読んでください。


いいなと思ったら応援しよう!

たびくらげ ブックオフで100円の本買いたいです