【異類婚姻譚】 芥川賞読んでいく:50冊目【2015年受賞作】
芥川賞の受賞作を片っ端から読んでいくということをしています。
今出せる自分の力で読んだ本の感想を書いていきます。
今回は 第154回 芥川賞受賞作 異類婚姻譚。
夫婦生活の中で生じたずれが
広がり
非現実的なかたちでリアルに侵食してくるお話です。

そういう質問の答えをねえ、考えるのも、やなの
夫は仕事から帰ってくるとバラエティ番組を見る。専業主婦の私は文句を言わず、それを受け入れている。
テレビというのが、バラエティ番組を指すと分かったのは、その日の夜のことだ。三時間というのも誇張ではなく、食事と晩酌の時間を最低限当てる。まるで画面から味でもするみたいに吸いついて飽きもせず眺めている。「本当の俺」をさらけ出せたらしい旦部はその後も何かにつけて、「俺は家では何も考えたくない男だ。」と言言するまでになってしまった。
夫の収入は良く、金銭面に問題はない。
「俺は家では何も考えたくない男だ。」と言ってはいるが、別に亭主関白ではない。
「サンちゃんは主婦だからなあ。」と偉そうに言った。
「家じゃなんにも考えたくないって男の気持ちが分かんないんだよなあ。」
「何をそんなに考えたくないの?」
いつもなら聞き流すのだが、私はあえて聞いてみた。専業主婦をあからさまに見下されるのは、やはり癪である。
「そういう質問の答えをねえ、考えるのも、やなの。もー、やらないんだったら返して。」
そう言うと、旦那は私の手からiPadを取り返し、再びゲームに没頭し始めた。
何を考えたくないか考えることが嫌らしい。
自分が少しずつ取り替えられていく
私には弟がいて、弟には何年か付き合っている彼女がいる。その子が私と二人でお昼ご飯を食べているときに、結婚についてこんなことを話す。
そうだ、おねえさん、蛇ボールの話、知ってます?私、それ、何で読んだのかなあ。昔、誰かに教えてもらったんだっけかなあ。二匹の蛇がね、相手のしっぽをお互い、共食いしていくんです。どんどんどんどん、同じだけ食べていって、最後、頭と頭だけのボールみたいになって、そのあと、どっちも食べられてきれいにいなくなるんです。分かります?なんか結婚って、私の中でああいうイメージなのかもしれない。今の自分も、相手も、気付いた時にはいなくなってるっていうか。

一匹が自分の尾を呑んでいるタイプもいる
こういう蛇をウロボロスと呼ぶが、小説では具体的な名前を出さずに蛇ボールと呼んでいる笑。
用語を出してしまうと「ああ、そういう昔からの考えがあるんだな」と読者に上からの納得感与えるけど、柔らかい単語を使うことで読者に考える余地を残す効果もあるのかなと読みながら思った。
ちなみにウロボロスって何って思ったら、上の記事でいい絵と共に紹介されてます。「長期の飢餓状態にも耐える強い生命力」というのがウロボロスの一つの(ポジティブな)メッセージでしょう。
ただ、小説ではネガティブな感じで使われているようです。
ハコネちゃんの話には、ひそかに感心させられた。
というのも、これまで私は誰かと親しい関係になるたび、自分が少しずつ取り替えられていくような気分を味わってきたからである。
相手の思考や、相手の趣味、相手の言動がいつのまにか自分のそれに取って代わり、もともとそういう自分であったかのように振る舞っていることに気付くたび、いつも、そっとした。やめようとしても、やめられなかった。おそらく、振る舞っていこというような生易しいものではなかったのだろう。

深い緑のしっぽを食べるから、頭が深い緑になる。
浅い緑のしっぽを食べるから、頭が浅い緑になる。
もし、これが続いたら深い緑は浅くなり、浅い緑は深くなるから、
おんなじ色の緑になりそう。
大事な話がしたいだけで、大事な話があるわけじゃあ、ないんじゃないの?
夫はある日から病的に揚げ物を作り出す。
私はもう食べたくないと言う。
「食べると、頭ん中がぼうっとする。」
「したって、いいじゃない。」
「ぼうっとすると、大事な話ができなくなる。」
旦那は、卵と小麦粉を混ぜ合わせたポウルに菜箸の先をつけ、油の上でその箸をぴっぴっ、と振った。
揚げ物を食べすぎてぼうっとすると、大事な話ができなくなるから、と
「家でまで、大事な話なんか、しなくったっていいじゃない。」
おなじみの口調で言う。
「だったら家の人間は、いつ大事な話をするの」すかさず私は聞いた。今日こそは、向き合わねばならない。人の形でなくなる前に、問い質さねばならなかった。
しかし私が焦れば焦るほど旦那はのらくらした態度で、「でもさあ、サンちゃん。」と火加減を調節しながら続けるのだった。
「大事な話、大事な話って言うけど、それって本当に大事な話なわけ?サンちゃんは大事な話がしたいだけで、大事な話があるわけじゃあ、ないんじゃないの?」
「大事な話がしたいだけで、大事な話があるわけじゃあ、ないんじゃないの」
鋭い質問だ
小説には他にも面白い登場人物が出てきて、予想外の展開になる。
大事な話とはいったい何だろう
芥川賞受賞作を読んでいくシリーズ、記念すべき50冊目です。
余談ですが、蛇の画像はChatGPTで作りました。小説の生の文章を入れて作らせた画像がこちら



最後に「一匹を逆向きにして」と指示したところ、上の記事で使った画像は出力してくれました。指示の与え方も少し勉強しようかなあ
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