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神も仏も恨みながら、感謝しながら

神も仏も恨みながら、感謝しながら
最近、ずっと疲れている。
仕事そのものが嫌いなわけではない。
むしろ、憧れて入った業界だった。
自分なりに目指してきたものがあって、その途中に今の仕事がある。
けれど、今いる職場で働くことが、ひどく苦しい。
利用者から寄せられる苦情が怖い。
何かあったとき、職場が自分を守ってくれるという安心感がない。
外にも敵がいるように感じる。
中にも敵がいるように感じる。
ほんの些細なことで、また何か言われるんじゃないか。
そう思うと必要以上に神経を尖らせてしまう。
そして、そんな自分にも腹が立つ。
本当は違う場所で働きたかった。
もし別の職場だったら。
もし違う配属だったら。
こんなふうにはならなかったんじゃないか。
そんな「もしも」を考えては悔しくなる。
今の職場は忙しい。
求められるものも多い。
けれど、他の職場より給料が高いわけでもない。
特別に評価されるわけでもない。
「あの大変な場所で頑張ったから」と、その後の人生で何かが保証されるわけでもない。
だったら、なぜ俺はここでこんなに削られているんだろう。
そう考える。

前の会社も、数年で辞めた。
そして今の会社でも、また数年と経たないうちに辞めたいと考え始めている。
まだ二十代半ばだ。
それなのに、もう二度目になる。
このまま何をやっても長続きしない人間になるんじゃないか。
結婚していいのだろうか。
貯金だって、胸を張れるほどあるわけではない。
そんな状態で、俺は彼女との結婚を考えている。
彼女と結婚したい。
それは間違いなく本当だと思う。
ただ、ときどき怖くなる。
俺は彼女を愛しているから結婚したいのか。
それとも、
「俺の人生だってちゃんと幸せになった」
と証明するために、彼女との結婚を使おうとしているのか。
その二つが、自分の中で混ざっているような気がしてならない。

この前、昔から付き合いのある友人たちと飲みに行った。
その中には、最近恋愛がうまくいかなかった友人もいて、話の流れで、
「お前はいいよな」
と冗談交じりに言われた。
もちろん、本気で責められたわけではない。
ただのじゃれ合いだ。
それなのに、少し寂しくなった。
俺がどれだけ悩んで、どれだけ頑張って彼女と出会ったのか。
付き合ってから、彼女をどれだけ大切にしようとしているのか。
この人たちは何も知らないんだな、と思った。
そのとき初めて思った。
俺は別に、昔自分を馬鹿にした人間たちを見返したいだけじゃないのかもしれない。
誰かに、
「お前、よくやってるな」
と言ってほしいのかもしれない。
羨ましがられたいというより。
リスペクトされたい。
自分が頑張ってきたことを、誰かに認めてほしい。
そんなものが欲しかったのかもしれない。

昔から、周りと比べる癖がある。
同じ道を志した友人たちの多くは、俺と同じような業界へ進んだ。
そして、その多くがすでに俺の目指していた仕事に就いている。
俺も、そこへ行きたかった。
けれど、最初に入った職場では、望む仕事へ進む道がほとんどなかった。
環境を変えた今も、いつその機会が巡ってくるのか分からない。
来年かもしれない。
もっと先かもしれない。
自分より前から順番を待っている人もいる。
毎年、希望した人すべてが進めるわけでもない。
そうしているうちに、友人たちは次々と夢を叶えていった。
あれよあれよという間に。
気がつけば、かつて同じような仕事をしていた友人たちは、俺には分からない現場の話で盛り上がっている。
俺だけが分からない。
悔しい。
置いていかれたような気がする。
だから、知っている知識を必死に引っ張り出して会話についていこうとする。
本当はよく分かっていないのに、
「ああ、分かる」
と頷く。
知らないのに意見を言う。
嘘の意見。
嘘の相槌。
嘘の共感。
仲間外れになりたくなくて。
まだ自分もそちら側の人間なのだと思いたくて。
気がつけば、それすら疲れていた。
なんだか俺の人生そのものみたいだった。

飲み会の途中で、友人の一人が俺の顔を見て言った。
ずいぶん疲れているように見える。
そこまでして、どうして今の仕事を続けているのか、と。
突然だった。
俺は咄嗟に、
まだ夢の途中だからだ、と答えた。
簡単には入れない業界だから、もう少し頑張りたい。
彼女の存在にも支えられている。
そんなことを言った。
友人は、それ以上深く聞かなかった。
そして話題は変わった。
そのときは何とも思わなかった。
でも家に帰ってから、ずっと引っ掛かっている。
本当は、そんな格好いい理由だけじゃなかった。
本当は逃げたい。
叶うなら、明日の仕事を全部放り出して、誰も俺のことを知らない遠い場所へ行きたい。
家族と彼女にだけ居場所を知らせて。
仕事とは完全に切り離された場所で。
広い草原の上で、何も考えずにずっと寝ていたい。
仕事のことも。
転職のことも。
将来のことも。
結婚のことも。
何も考えずに。
ただ静かに横たわっていたい。
なのに、そんなことは言えなかった。
「夢の途中だから」
なんて、格好をつけた。
自分でも嫌になった。
どうして俺は、こんなときまで格好をつけるんだろう。

転職活動も止まっている。
相談する約束を守れなかった。
連絡も返していない。
転職したい。
今の場所から逃げたい。
そう言いながら、転職するための努力すらできていない。
上ばかり見て、
「あいつはいいな」
「こいつは順調だな」
と羨ましがって、
自分は何もしない。
そんな自分も嫌になる。
いい歳になって。
幸せを入れる箱に穴が空いたまま。
せっかく何か良いものを入れても、どこかから零れていく。
それなのに、その穴を塞ぐこともできない。
環境のせい。
職場のせい。
昔の出来事のせい。
周囲のせい。
他責に他責を重ねて、自分を肯定しているだけなんじゃないか。
まだまだ子供だと思う。
こんな自分が、誰かを幸せにできるのだろうか。

彼女のことも疑ってしまう。
彼女を気にかけているのは、本当に彼女を愛しているからなのか。
以前の恋愛で、裏切られた経験がある。
だから、今の彼女にも捨てられるのが怖いだけなんじゃないか。
見捨てられたくないから優しくして。
見捨てられたくないから気遣って。
見捨てられたくないから良い彼氏を演じて。
彼女を大切にしているふりをしながら、本当は全部、自分を守るためなんじゃないか。
そんなことまで考える。
俺は彼女を巧妙に騙しているんじゃないか。
「愛している」と思い込むことで、自分自身まで騙しているんじゃないか。
考えれば考えるほど分からなくなる。

そして、「死にたい」と思うことがある。
ただ、自分から死のうとは思わない。
少なくとも今、自殺をしたいわけではない。
死そのものが欲しいわけでもない。
ただ、死に近い「何も考えなくていい状態」が欲しい。
ずっと眠っていたい。
意識も。
責任も。
仕事も。
将来の判断も。
全部止めたい。
病気や事故で強制的に止められたら楽なのに、と思うことがある。
自分から、
「もう無理です。休ませてください」
と言う勇気がない。
たったそれだけのことが言えない。
だから、
「病気なら仕方ない」
という免罪符が欲しいだけなのかもしれない。
自分で休んだのではなく、
「休まざるを得なかった」
という理由が欲しい。
そんな高尚なことじゃない。
ただ、しんどいから休みたい。
なのに、自分では休ませてやれない。
だから何の解決策もないまま、
耐えて。
耐えて。
耐えて。
毎日を進んでいく。

今まで「死にたい」と口にしてきたのも、本当は誰かに心配されたかっただけなのかもしれない。
「そんなに大変なのか」
と、大ごとに捉えてほしかっただけなのかもしれない。
オオカミ少年みたいに、
「死にたい、死にたい」
と言って。
誰かに振り向いてほしかった。
自己顕示欲だったのかもしれない。
そう思うと、また自分が嫌になる。
でも、それなら。
あの日、友人に簡単に受け流してほしくなかったのかもしれない。
もう一歩、
「本当に大丈夫なのか」
と聞いてほしかったのかもしれない。
でも自分からは、
「夢の途中だから」
なんて格好いい答えを差し出してしまう。
相手が安心して話を終えられる答えを、自分から用意して。
そして相手がその通りに話を終えたら、寂しくなる。
面倒くさい人間だと思う。
誰かに知ってほしい。
でも、知られるのは怖い。
心配してほしい。
でも、重いと思われたくない。
大ごとにしてほしい。
でも、本当に大ごとにされたら怖い。
周りの人だって、それぞれ辛いことを抱えて生きている。
そんな人たちに、自分のこんなものを背負わせたくない。
だから言えない。
そして、言えないことが、またしんどい。
言葉にしようとすると喉に詰まる。
なのに文章にすると、不思議なくらいスラスラ出てくる。
だから、こうして書いている。
誰かに見てほしい。
誰かに気づいてほしい。
でも俺が誰なのかは、知られたくない。
矛盾ばかりだ。

いちばんの敵は、自分なのだろうか。
それすら分からない。
自分を追い詰めているのは職場なのか。
昔の出来事なのか。
周囲との比較なのか。
自分自身なのか。
あるいは、その全部なのか。
俺にも分からない。
ただ一つ分かるのは、
もう少し休みたい。
それだけだ。
死にたいからではない。
生きるのが嫌だからでもない。
ただ、
辛いから休みたい。
何も考えずに眠っていたい。
それだけなのだと思う。
それなのに、それすらなかなか許されない。
少なくとも、自分自身が許してくれない。

俺は神も仏も恨んでいる。
どうして俺ばかり。
どうしてあのとき。
どうしてあの場所に。
どうしてもっと普通に生きられなかった。
これまでの人生で踏み荒らされたものを思い出しては、今でも呪いたくなる。
それでも。
彼女と引き合わせてくれたことには、感謝している。
大きな病気をせず今日まで暮らしていることにも。
明日の食事に困るほどの貧困ではないことにも。
雨風をしのげる家があって、
暖かい布団で眠れることにも。
感謝している。
感謝しているのに、恨んでいる。
恨んでいるのに、感謝している。
どちらが本当なのかと聞かれたら、
どちらも本当なのだと思う。
今日も暖かい布団に入る。
明日の朝は、きっとまた辛い。
それでも眠る。


神も仏も恨みながら。
感謝しながら。

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