【インド #3 ジャイサルメール】インド最果ての砂漠都市|旅人を惹きつける黄金の城塞
「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ。」
サン=テグジュペリの『星の王子さま』に登場する一節である。
私はこの言葉に出会ったときから、砂漠という存在に強く惹かれてきた。何もないと思える景色の中にこそ、本質が潜んでいるのではないか。そう思ったからだ。
だからこそ、インドのラジャスタン州に広がるジョードプルとジャイサルメール、この二つの砂漠都市はずっと心を引きつけてやまなかった。

インドから西アジアへと連なる乾燥地帯、タール砂漠。その只中に位置するジャイサルメールは、まさに典型的なオアシス都市であり、「ゴールデンシティ」の名で知られている。ブルーシティ・ジョードプルを訪れた次に向かうのは、この黄金の街だ。
ジョードプルからジャイサルメールへは、寝台列車か寝台バスのいずれかで行くことができる。私たちは予約アプリ「ixigo」を使い、慣れ親しんでいる寝台列車を選んだ。
夜に発車した列車は、乾いた砂漠の大地を西へとひた走る。約六時間後、夜明けを迎えるころ、インド西端の街ジャイサルメールに到着した。

朝日に輝くゴールデンシティ
午前4時。まだ夜の闇が残る駅のプラットホームに、宿のオーナーが迎えに来てくれていた。
ジョードプルで出会った日本人旅行者に教えてもらった Hotel Neem Haveli のオーナー、気さくなJamineさんだ。朝から驚くほどハイテンションな彼は、リキシャで私たちを宿へと送り届け、無理を承知のアーリーチェックインまで快く受け入れてくれた。

やがて数時間が過ぎ、空が徐々に白み始める。砂漠の地平線から神々しい朝日が昇ると、この街が「ゴールデンシティ」と呼ばれる理由が一瞬で理解できた。砂岩の建物が金色の光をまとい、街全体がまるで輝いているかのように見えるのだ。
「これが一日に二度も味わえるなんて…」
そんなことを思いながら、あまりに美しい光景に心を奪われた。ジャイサルメールで迎える最初の朝は、忘れがたい一日の幕開けとなった。
南アジア×西アジアの街並み
少し仮眠をとったあと、行動を開始する。まずは翌日から参加予定の砂漠ツアーの予約だ。宿のオーナー・Jamineさんを通して手配してもらうことができ、内容も料金も可もなく不可もなくといったところだった。
その後、オーナーの案内で砂漠ウェアを買いにいくこととなった。こちらもどうも知り合いのお店らしく、Jamineさんの商売気質には脱帽させられた(笑)。

準備が整ったところで、いよいよジャイサルメールの街を歩き始める。街並みには砂岩で造られた建物が連なり、その光景はまるでアラビア半島のオアシス都市に迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。

ただし、通りには牛がのんびりと闊歩し、ヒンドゥー教の寺院も点在している。その瞬間、ここが確かにインドであることを思い出させられるのだ。タール砂漠が南アジアと西アジアを結ぶ「境界の地」であることを、肌で感じられる風景だった。

砂漠地帯ならではの生活風景だ。
世界遺産のジャイサルメール城塞へ
ジョードプルと同じく、ジャイサルメールも巨大な城塞と、その眼下に広がる旧市街で知られている。
ただ一つ大きく異なる点がある。ジョードプルのメヘラーンガル城塞が博物館として整備され、いまだ世界遺産に登録されていないのに対し、ここジャイサルメールの城塞は今も人々の生活の場であり、その営みごと世界遺産として保護されているのだ。

繁栄の歴史を伝える世界遺産
城塞内部には迷路のような路地が張り巡らされ、現在も約2,000人もの住民が暮らしている。12世紀、ジャイサルメール王国の時代に築かれたこの城塞は、13世紀には「第二のアレクサンドロス大王」と呼ばれたアラー・ウッディーン・ハルジーに占領され、その後はムガル帝国、さらにはイギリス保護領を経て現在に至る。
そして2013年、ユネスコはラジャスタン州に現存する6つの城塞を「ラージプート諸国の繁栄を伝えるもの」として『ラージャスターンの丘陵城塞群』の名で世界遺産に登録した。ジャイサルメール城はその一つであり、まさに“生き続ける世界遺産”として特別な存在感を放っている。
城塞の中にも街がある

強固でひっそりとした門をくぐり、城塞内へと足を踏み入れる。ジョードプルのような急坂ではなく、緩やかな上り道が続き、その先に再び立派な城門が現れる。ここが城塞旧市街の入口だ。

門を抜けると、そこには一見するとごく普通のインドの街並みが広がっていた。しかし同時に、ここから客引きの勢いが一気に増す。


狭い路地には似たようなお土産屋が所狭しと並び、途切れることなく声を掛けられるのだ。必死にかわしながら小道を進んでいくと、やがて城壁の縁に出た。


そこからの眺めは圧巻だった。砂岩の家々が密集し、街全体が黄金色に染まっている。まさしく「ゴールデンシティ」と呼ばれるにふさわしい光景だ。遠くに目を凝らすと、緑に覆われたオアシスが見えた。砂漠の只中にありながら潤いを感じるのは、このオアシスの恵みがあるからだろう。ここにこそ、街が生まれ、続いてきた理由があるのだと実感する。
しかし、感傷に浸る間もなく再びお土産屋の喧騒に戻らなければならなかった。行き交う客引きをかき分けながら元来た道を引き返し、すっかり疲れ果てた私たちは、いったん宿へと戻ることにした。
旅人が愛するジャイサルメールの街
美しい砂漠の街並み。インドらしい人々の温かさと、時に押しつけがましいほどのおせっかい。
そして、巨大で圧倒的な存在感を放つ世界遺産の城塞。

これらすべてが、旅人を惹きつける磁石のように働いている。観光客ではなく、まさに「旅人」としての心を掻き立てられる場所だ。実際、ここに来てから何人かの日本人若者と出会ったが、みな一様にどこかネジが外れたクレイジーさを持っていた。もちろん、良い意味で。
そんな旅人たちが愛してやまない、インド最西端での冒険は、まだ始まったばかりだ。
