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なぜあの宿は「選ばれ続ける」のか—プレファレンスという考え方

宿泊施設の集客支援に携わって12年、これまで200を超える施設に関わってきました。その中でよくいただくのが、「もっと予約を増やしたい」というご相談です。

そのとき僕がまずお伝えするのは、価格でも広告でもなく、「選ばれ続ける力」の話です。


予約は「好かれているか」で大きく左右される

マーケティングに「プレファレンス(選好性)」という考え方があります。お客様がどれだけそのブランドを好きでいてくれるか、という指標です。広告業界のブランド調査などでも使われるもので、僕はこれが予約率を大きく左右すると考えています。

同じような立地・価格帯の宿が並んでいたとき、「なんとなくあそこがいいな」と思ってもらえるか。その差が、予約が途切れない宿と、そうでない宿を分けます。

このプレファレンスは、3つの要素でできています。

プレファレンスと3要素
  • 価格

  • ブランドエクイティ(ブランドが持つ無形の資産価値)

  • サービスパフォーマンス(いま提供できているサービスの質)

このうちブランドエクイティは、もう少し分解できます。宿に置き換えるとこうです。

  • 認知:その宿を、どれだけの人が知っているか

  • 知覚品質:「あそこはいい宿だ」とお客様の心の中で感じられている品質のイメージ

  • 連想:宿の名前を聞いて思い浮かぶもの。風景、ロゴ、料理、家族と過ごした時間の記憶

  • ロイヤリティ:どれだけ愛され、繰り返し選ばれているか

どれも、確かに宿の資産です。

資産は「思い出される確率」に変わる

では、この資産はどうやって予約になるのか。

予約される確率が上がり想起される

旅行を考えたとき、お客様はいきなり検索窓に向かうわけではありません。たいていは先に、頭の中にいくつか宿が浮かびます。「あそこ、よかったな」「そういえば、あんな宿があったな」と。

この候補に入れるかどうかが、最初の関門です。

4つの要素は、ばらばらに効いているのではありません。すべてが合わさって、思い出される確率を押し上げています。認知があるから名前が浮かぶ。連想があるから、景色や料理まで一緒に浮かぶ。知覚品質があるから「あそこなら間違いない」と思える。ロイヤリティがあるから、また選ぼうと思う。

裏を返せば、どれだけいい宿でも、その瞬間に思い出されなければ、比較の土俵にすら上がりません。

思い出される力は、今日つくられている

ポイントは、3つの要素を「時間軸」で見ることです。

ブランドエクイティは、過去の積み重ね。4つとも、お客様が宿と接してきた時間の中で少しずつ溜まってきたもので、一日では積み上がりません。

一方サービスパフォーマンスは、いま、この瞬間にお客様に届けている体験そのもの。

そして今日のサービスパフォーマンスが、明日のブランドエクイティになっていきます。今日の一泊が「いい宿だった」と感じてもらえれば、それが知覚品質になり、また来ようという気持ち。ロイヤリティになる。クチコミとして書かれれば、まだ宿を知らない人への認知にもなります。逆もまた然りです。

つまり今日の一泊が、次に誰かが旅行を考えたときの"思い出される確率"をつくっています。

価格は「動かせる」。でも、質はごまかせない

3つのうち価格は、状況に応じてコントロールしやすい要素です。ただ、価格だけで選ばれる状態は長くは続きません。

難しいのは、もう一つ。サービスパフォーマンス、いまの提供品質のほうです。

日々の運営には、いろんな業務が絡み合ってきます。予約管理、問い合わせ対応、シフト調整、発注……。こうした業務に追われていると、一番大事なはずの「お客様と向き合う余力」が削られていきます。

もちろん、生まれた時間を何に使うかは経営判断です。効率化すれば自動的に質が上がる、という単純な話ではありません。

ただ、僕が見てきた限り、「本来やらなくてもいいこと」に人が張り付いている現場ほど、肝心のサービスに手が回らなくなっています。

「人が張り付かなくても、体験は守れる」

一つ、実例を。あるホテルの併設レストランでの話です。

SNSでバズって、毎回行列ができるようになりました。ただ、すぐに受付終了になるのに、それをお客様へ知らせる手段がない。お店に向かっている途中で、もう終わっていた。そんなケースが続き、「どうにかできないか」とご相談をいただきました。

そこで僕が作ったのが、お客様がLINE公式アカウントですぐに受付状況や混み具合を確認できる仕組み(「タップで満席」というアプリです)。スタッフはワンタップで満席を知らせるだけです。

これを入れてから、お客様からのクレーム、悪い口コミが減りました。

電話で一人ひとりに対応するのは現実的に不可能です。でも「受付状況を見える化」しただけで、お客様の無駄足が減り、体験が守られました。人が張り付かなくても、サービスパフォーマンスは守れるんです。

だから、AIやツールの力を使う

だからこそ僕は、「人がやらなくていいこと・人では追いつかないこと」は、AIやツールに任せるべきだと考えています。

これは「楽をしよう」という話ではありません。大事なのは、生まれた時間をどこに投じるかです。

4つのうち、認知はある程度、外から取りに行けます。広告を出す、SNSでリールを回す。お金と仕組みが効く領域です。

ただ、落とし穴があります。集客をどれだけ頑張っても、肝心のサービスパフォーマンスが落ちていたら元も子もありません。期待して来たお客様が「思っていたのと違った」と感じて帰る。それは知覚品質にもロイヤリティにも、そのまま跳ね返ります。広告費をかけて、マイナスの記憶を配っているようなものです。

サービスパフォーマンスは、リピート率やロイヤリティに直接効いてきます。だから人の時間は、できるだけここに寄せたい。余力ができれば、リピーター向けの企画や、宿らしさが伝わる発信——ロイヤリティや連想を育てる仕事にも手が伸ばせます。

その時間をどう捻出するか。ここでAIやツールの出番です。

ひとつだけ条件があります。現場が混乱しない範囲で、ということ。

一気に仕組みを入れ替えると、慣れるまでの負荷でかえって現場が回らなくなります。効率化したはずなのに、前より忙しい。それでは本末転倒です。

だから、まずは小さく。人がやらなくてもいい作業をひとつ選んで試して、現場になじんでから次へ進む。段階を踏むほうが、無理なく定着します。

「AIを活用して業務効率化。よりサービスの質を高める宿へ。」

これは今のnoteのカバーに掲げている言葉ですが、まさにこの考え方そのものです。

明日の予約より、今日の一泊

プレファレンスを高めるには、一日で積み上がるものではありません。ただ、それを増やすか減らすかを決めているのは、今日のサービスパフォーマンスです。

明日の予約を心配するより、今日お客様に届けている体験に手が回っているか。そこを見直すほうが、結局は早い。

そのために手放せる仕事があるなら、手放していいと思っています。

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