実は、もう一作あった ── 読者投票1位の作品も、同じ日に消えた【面白いに罪はない#2】
ネットニュースになった「確約取り消し」。
取り消された作品は、実は一つではありませんでした。
もう一つの名は、『江戸の飯屋 やわらぎ亭』。
歴史・時代小説大賞の読者賞──つまり、読者投票1位の作品です。
読者の方が一票ずつ入れて、選んでくださった作品でした。
この作品に何が起きたのか、順を追って書き残しておきます。
2025年5月、応募
応募期間は2025年5月1日から31日まで。
投票は6月、結果発表は7月末。
『江戸の飯屋 やわらぎ亭』は、その回の読者賞に選ばれました。
読者が一人ずつ、自分の意思でクリックして票を入れます。
その積み重ねでポイント最上位になった作品が選ばれる賞です。
大賞とは少し違います。
大賞は、選ぶ人がいて上から選ばれる賞です。
読者賞は、そうではありません。
誰かが上から選んだのではありません。
読者の方が一人ずつ、下から積み上げてくださった賞です。
一票は、一人の「面白い」です。
頼まれたわけでもありません。
見返りがあるわけでもありません。
ただ「面白い」という理由だけで、誰かが指を動かしてくれる。
その小さな一回が何百と重なって、この作品を一位にしてくれました。
そして、その方々の中に声を残してくださった人もいます。
江戸グルメに魅かれて投票しました
とても読みやすいのでこの作品が大好きです!
読み進めやすく優しい文体で どんどん読めました
票の数だけ、読んでくださった方がいました。
たしかに、いたのです。
編集部のコメントにも「素敵な雰囲気のある物語」とありました。
7月24日に受賞のご連絡をいただきました。
翌25日に受諾の返信。
受賞は確定しました。
8月8日、賞金振込
7月31日、私のほうから書籍化の予定を問い合わせました。
返信は翌日です。
「これから編集部内で検討が行われる予定です」 「しばらくお待ちいただけますと幸いです」
そして8月8日、賞金が振り込まれました。
会社としての受賞手続きは、その時点で正式に完了していました。
9月、書籍化の相談
具体的な相談が動き始めたのは、9月でした。
受賞から、約2ヶ月後のことです。
「突然のご連絡、失礼いたします」
9月19日のメールは、その一文から始まっていました。
「改めて本作の書籍化の相談をさせていただきたく、ご連絡いたしました」
9月24日には、刊行時期について「来年度以降になりそうです」とお話がありました。
書籍化作業のための資料も添付されていました。
出版には時間がかかると聞いていました。
だから私は何も気にせず、お返事を待っていました。
11月18日、新しい規約
そして、その間に。
2025年11月18日、新しい規約が発表されました。
生成AIを使用した作品は、書籍化の対象外とする。
ただし、詳細な基準は示されていません。
応募も。
受賞も。
賞金も。
『江戸の飯屋 やわらぎ亭』のすべては、この規約より前のことでした。
12月11日、二作同時に
そして12月11日、一通のメールが届きました。
件名は「各作品の書籍化につきまして」。
『地味スキル《お片付け》は最強です!』。 『江戸の飯屋 やわらぎ亭』。 そして、出版申請中の他のすべての作品。
二作品の書籍化と、一方のコミカライズ企画。
そのすべてが、メール一通で取り下げになりました。
『江戸の飯屋』は、受賞からこの日まで4ヶ月半が経っていました。
【書き残しておきたいこと】
半年前に応募しました。
4ヶ月前に受賞しました。
3ヶ月前に、賞金まで受け取りました。
その作品が、後から作られたルールの対象になる。
受賞の喜びでも、賞金の重みでもありません。
いまも私が考えているのは、あの時のことです。
票を入れてくださった、読者の方々のこと。
『江戸の飯屋 やわらぎ亭』を「面白い」と思ってくださった方が、たしかにいた。
その方々が、自分の意思でクリックして一票を投じました。
その積み重ねで、この作品は読者賞に選ばれました。
その「面白い」は、どこへ行ったのでしょうか。
あの一票一票は、どこへ行ったのでしょうか。
次回は、もう一つの作品の話を書きます。
大賞を受賞し、書籍化とコミカライズを「確約」された『地味スキル《お片付け》は最強です!』。
2026年5月10日 旅する書斎
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