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美味しく美しい山梨・小淵沢を愛犬と散策



朝の出発と生信玄餅を求めて
(和菓子の台ヶ原金精軒)

 前夜、「トイレ遠い問題」を語り合い、意気投合した相模原の女性が、わざわざ朝の挨拶に来てくれた。彼女はこれから『台ケ原金精軒』へ向かい、「生信玄餅」を買うのだという。
「食べるのも呑むのも好きで、食べ歩きのためにここに来たの。昨日は温泉だけで終わったけど、ここの生信玄餅は開店と同時に売り切れるって聞いたから、急がないとね」

 気になり、地図で確認すると「23分、20km」。果たしてこれが“すぐそこ”なのか? と疑問に思いつつも、向かうことを決めた。

台ヶ原金精軒の入り口
生信玄餅
(小麦不使用・グルテンフリー)

生信玄餅と混乱の味見

 目的地に到着すると、かつて訪れたことのある旧甲州街道沿いの老舗酒造『七賢』のすぐそばだった。

老舗酒造『七賢』

 筆者の前に来店したシニア男性客は、生信玄餅をなんと10箱購入。初めは1箱だけ手に取ったが、男性の購入数を見て不安になり、もう1箱追加しようとするも“この先も旅は続く、誰にあげるんだ?”という疑問が頭をよぎり、思い留まった。

 店前のテーブルに腰を落ち着け、早速、売り切れ必至の生信玄餅をいただくことに。袋を開けると、丸々とした黄な粉がまぶされた黄金色の団子が現れた。

黄な粉と黒蜜をかける前の生信玄餅

 不器用に袋を広げて平らにし、黄な粉と黒蜜を丁寧にまぶして食べようとすると、突然の突風。黄な粉が舞い散り、福リキが同時にそれを舐めようと突進し、まさかの大喧嘩に発展。

最初は静かに待っていた福リキ

 老舗の店前で、黄な粉ごときで騒ぎを繰り広げるのは、なんとも恥ずかしい。筆者の手は黄な粉と黒蜜でベタベタになり、生信玄餅は美味しいものの、予想外のハプニングに苦笑するしかなかった。

甘さを中和する珈琲が必要
(カフェ・ブレビカウレ)

 黒蜜の甘さが口に残り、珈琲が恋しくなる。すぐ近くのカフェ『ブレビカウレ』へ足を運ぶと、メニュー看板に「プリン」の文字が。小麦不使用と聞き、それも合わせて注文することに。

 旧甲州街道沿いは静かで、客が大挙して押し寄せることはない。落ち着いた時間が流れる中、店の前には甲斐犬が悠然と佇む。しかし、リキと睨み合い、一触即発の雰囲気に。入店を諦めかけたが、店の人が甲斐犬を奥へと誘導してくれたため、無事に席へ。

 それから何度かシニアの男性オーナーと奥様と思しき女性に話し掛けるも、会話の広がりは期待とは裏腹に「はい」「いいえ」のみ。その素っ気なさと店の雰囲気が相まって、印象に深く残ることはないかもしれない——そんな思いがよぎる。客足がゼロなのも、そのあたりが影響しているのだろうか、と勝手に想像してしまった。

対照的な2匹の柴犬

 プリンが到着すると、福はプリンのそばを決して離れず、プリンを見て小さく「ぷぅー」と鳴き続け、その甘美な配給が与えられる瞬間をひたすら待っている。一方、リキは無言で微笑みながらじっと私の顔を見つめる。その視線は寸分の隙もなく、私の一挙手一投足を余すことなく追いかける。まるで沈黙のうちに圧をかけ、プリンを勝ち取ろうとしているかのようだ。

笑顔でプリンくれと圧をかけるリキ
プリンを見つめてプリンが欲しいと主張する福
店構え、左のベンチに福リキ

 プリンを口いっぱいに頬張っていたその時、金精軒を教えてくれた食べ歩きを楽しむ相模原の女性が、チワワを連れて駐車場へ向かう姿が視界に入った。片手にはプリン、両脇には福リキ、そしてiPhoneは撮影中――状況的に声をかけるのは難しい。しかし、慌てて彼女を追おうとしたものの、すでに車は発進してしまった。

 女性に声をかけることを諦め、車のドアを開けた瞬間、車のステップが水浸しになっていることに気づいた筆者。驚いて原因を探ると、知らぬ間に水を入れたタンクが倒れ、大惨事を招いていた。思わず深いため息がこぼれる。

 相模原の女性にはインスタグラムのことは伝えてある。もし彼女が投稿を見てくれたなら、この旅の思い出を語り合う日が訪れるかもしれない。そんなささやかな期待を胸に抱きながら、水浸しの車内を黙々と拭いた筆者であった。

大滝神社で水を頂く

 小淵沢へ向かう道中、南アルプス、八ヶ岳、そして富士山の雄大な姿が視界に広がった。山々に包まれながら、写真を撮りつつ、大滝神社へと足を運ぶ。境内には、なぜか子供連れの参拝客が多い。鱒の養殖場があり、JAが運営するレストランもあるらしいが、あいにく休業中。それでも、神社の湧水は自由に汲めるようだ。

奥にそびえるのが八ヶ岳
道すがら富士山が姿を現した
南アルプスをバックに記念撮影

 鳥居、それから趣のあるトンネルを抜けて神社へと向かう。神社の手前では、湧水を利用してわさびの苗が育てられていた。本殿横を流れる水路には木をくりぬいた木樋が設えられ、豊かな水流が音を立てて流れ落ちていた。

雰囲気のあるトンネルを抜けて大滝神社へ
大滝神社の鳥居前
わさびの苗を育てている

欲張ってはいけない?

 水を汲もうと待っていると、ふと目に入ったのは、大量の18L灯油タンクや3Lのペットボトルを持ち込んだ男性だった。彼は慎重に、田子重と書かれた容器で水を汲んでいる。田子重――静岡県で見かけたスーパーの名前だ。筆者は静かに待つものの、水汲み作業はなかなか終わる気配がない。仕方なく、リキが飲める分だけ横から水を分けてもらうことにした。その際、
「大量ですね」
と声を掛けると、彼は苦笑しながら
「持って帰るのが大変だよね」
と返す。
「それを私も心配していました。これを車まで持ち帰るのは一苦労ですね。頑張ってください」
励ますと、
「欲張っちゃだめだな」
そう言って、彼は笑った。確かに、神社に参りながら欲張るのは、どこか矛盾している気がした。

大滝神社で水を汲ませてもらう


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