コンビニ人間とムルソー
村田沙耶香の芥川賞受賞作、『コンビニ人間』を読了。なんとなく、以前からちょっとだけ気になっていた本だったので読んでみた。冒頭に触れている時にはカミュの『異邦人』にも近いのかとも思ったが、読後感はかなり違った。アルジェリアの太陽に焼かれたカラカラの空気のなかでムルソーが持ち得たのかもしれないあらゆる社会通念はすでに蒸発している。一方、コンビニ人間の方にはもっと湿度がある。ただ、与えられたシステムの一部になりきることで自己の実存的な煩悶を消滅させてしまう、という構造そのものには共感できる部分もあった。十年以上も同じような環境で同じような仕事をしていると、コンビニ人間がそうであるように、私もまた10メートル先の電話のやり取りの不穏な気配を感じ取り、また柱の向こうに隠れた顧客のため息を聞き取れるようになっている。自らの存在を極限まで機能の一部に還元させてしまうこと、その先にいるのがアイヒマンなのか、あるいは悟りの境地にも近いところにいる職人なのかは分からないが、いずれにしてもプロになるということはそういうことだ。ちなみに、作者の村田沙耶香さんとは同じ年の生まれだった。
転じて、ヘーゲルの『精神現象学』を読み始める。こちらはこちらでなかなかに難題。ChatGPTでざっくりと外観を抑えつつ、ちびちびとページをスクロースしている。まだ世界に対しての希望があった時代、何となくホッコリとしながら、頭を抱えつつ前進していくことにする。
ニヒリズムに対する処方箋という意味において、重要な哲学書になるような予感もしている。
