理不尽な進化
僕にとっての知性の師匠のおすすめ本。とても楽しく読んだ。ウィルス蔓延時の読み物として極めて秀逸だ。
大量の絶滅と進化論
現在地球に存在している生物種は数百万以上(昆虫次第では数千万)。地球の歴史において生き残っている種は0.1%でしかなく、99.9%は絶滅して遺伝子を現代に残していない。
生物絶滅の類型には次の三つがある。
1. 弾幕の戦場(field of bullets):例えば生息地域に隕石が落ちる。運が要因。
2. 公正なゲーム(fair game):例えばホモサピエンスvs.ネアンデルタール。その環境における遺伝子の強さが要因。
3. 理不尽な絶滅(wanton extinction):いきなりゲームのルールが変わり、適者が不適者に変わる。運と遺伝子の組み合わせ。
この理不尽な絶滅こそが、大抵の絶滅において起きていることだ。生物は、遺伝子が悪いからではなく、基本的に運が悪いから絶滅する。より具体的には、ある時点まではそのときの環境(ゲームのルールに)適しているがために繁栄している種が、気まぐれな環境変化によって不適合者となり絶滅する。これまで優秀とされていた種が、新しいレジームの下では無能となる。
これらを説明してきたのが進化論であるわけだが、進化論ほど人口に膾炙しつつ、かつ誤解されているコンセプトもない。進化論の説く適応主義とは、強者や優者ではなく、単に環境に適応していたものが生き残るということ。それが、当時の進歩主義の思想に巻き取られる形で、一般人の間では進化=進歩ととられるようになっていった。だから、今も一般人である僕たちは、「進化」という言葉をポジティブな意味でとらえている。
ただ、進化論を正しい意味で使っている学者の間でも論争があった。スティーヴン・グールドが行った適応主義批判は、「実際の生物の歴史は多様であり、それを適応主義のみに当てはめて見るのではなく様々な要因から考察すべきだ」というもの。ただ、結局この批判は「生物の進化を科学的に検証しようとするのなら、適応主義を用いざるをえない」という反論(誤解しているかもしれないが、すごい要約してみた)が勝利する。適応主義以上の理論装置を作ることができなかったのが、グールドの敗因だった。
ただ、著者は先に述べた99.9%を引き合いに出しながら、グールドの指摘をすくい上げる。適応できなかった生物たちの歴史を語ろうとすると、適応主義には限界がある。適応主義で歴史を語ると、勝者の観点からの歴史になってしまい、大切なもの、具体的には生物進化がもつ偶発性がこぼれ落ちてしまう可能性がある。だからこそ、理不尽な進化にも私たちは目をむけないといけない。
事業の生存について改めて考える
自然淘汰とはアルゴリズムのプロセスだ。それは、生命の歴史を通じて全ての生き物をふるいにかけてきた。そのアルゴリズムを解読するのが進化論という学問だった。
アルゴリズムの特徴は、例外が存在しないこと、定型的であること、そしてどんな事象にも適用されうる論理構造を持っている点にある。だから、おそらく(正しい)進化論のアイデアはビジネスにも適用できる。
多くの経営者が、「企業が生き残るには変化に対応する必要がある」と説く。それは正しいが、でも、トートロジーでもある。適応したものが生き残るのは当然のことだからだ。問題はどのように適応するべきなのか・すればよいのかが分からないことだ。ほぼ全ての企業が変化に対応しようと日々努力をしている。皆と同じような変化対応をしても、競争に勝てるわけではないので、具体的に相手を出し抜く方法論を持たない変化対応主張は何も語っていないのに等しい。
では、競争優位をもたらす変化対応とはどのようなものを指すのか。基本的には2つしかない気がしている。
A. その他大勢のコンセンサスと同方向に動くが、誰よりもそのスピードを高めること。オペレーションの磨き上げ企業。
B. その他大勢が予想していない変化にベットして対応をすること。例えば、インターネットが大したことないと思われていた時代にネット企業をつくること。
本書を読んでみると、Aの方向性は強者・優者になろうとするものであり、極めてリスキーであると言わざるを得ない。ある方向に特化・強化され続ける事業体は、ルールの変化が起きると死にやすい。
進化論的に正しいのは当然にBの方向性なのだが、これはこれで難しい。「皆には見えていないけど、蓋然性が高い未来のシナリオ」を知ることができれば苦労はないからだ。それでも、事業を「進化」させ続け、ビジネス世界の淘汰を生き残ろうとするのであれば、大勢と同じように考えるのではなく、虚心坦懐に事実を見据え、未来を考え続けないといけないのだろう。
その他、面白かったこと
・生物学者のホールデンが神学者らに神の特質について尋ねられたとき、こたえが「甲虫への異常な溺愛」だったという。それだけ昆虫が生物種に占める数は多い。
・白亜紀末の恐竜絶滅は史上最大の絶滅事件ではなく(全体の70%が絶滅)、史上最大のものはペルム紀末の大量絶滅(90〜95%)。
・素数ゼミが素数年に対象発生するのは、天敵が2年や5年周期で発生する場合に、そう簡単に発生周期が重ならないため。賢い!
・パンダの指の骨は5本あるが、実は親指には親指の骨がない。親指にあるのは以上に大きくなった手首の骨。なぜそうかというと、長い期間クマとしての食生活に合わせた進化をしてきたため、骨はそのように発達しきってしまった。
