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宵闇横丁 -弐-

踊リハ楽シ… 祭リハ楽シ…
今宵 宵闇横丁二 市ガ立ツ 神ガ立ツ
踊リハ楽シ… 祭リハ楽シ…
飲メヨ歌エヨ 食ラエヨ舞エヨ
ハァ… 宵ノ酔イノ夜イ

この世とあの世の境があいまいな場所、逢魔が刻の一瞬に、昼と夜とが入れ替わる。昼と夜とは別の顔・・・・。
昼は1日、夜も1日と数えられていた時代のこと。逢魔が刻は思わぬ時、黄昏時の訪問者。黄昏、たそかれ、誰ぞ彼? 
ムラの境のオドリバで化粧を興じて入り込む・・・・妖モノにご用心


 《 ボンドノサマ 》


盆の入り、8月13日の早朝に村の子どもはこぞって川に出掛けて行きなさる。

お盆の時期は水難事故が多発する。それゆえ海や川に入ってはいけないという言い伝えがあり、それは水難に遭った霊が集まり悪さをするからだと言われておりましたから、道連れに連れていかれないようねむの木の葉3枚豆の葉っぱ3蔓をわらで結んで川におり、葉を濡らしてそのしずくで顔を洗いに向かうのだ。そうしてその葉を橋の欄干から落とし、
「ねむった流れろ、まめっぱつっかかれ」
と唱えて流しますと、それはご先祖様を迎えても、そちらには「ついていけませんよ」という意味だとか・・・・

お盆には亡くなった先祖の魂がこの世に帰ってくると言われています。
ですからお盆の入りの夕方になりますと、家々の門先に小麦藁で篝火を焚き、先祖が迷わず帰ってこれるようにと祈願します

「ぼんどの~、盆殿~、お盆に御座れよ…」

「ばぁちゃん。なんで盆には火ぃ焚くの?」
「ご先祖様がうち間違わねよう、おしえでんだ。盆に来とぐれ、おらいはここだどーってな」
「みんなの家で炊いでも、うちわがんの?」
「ちゃーんとわがんだ。毎年来てっがらぁ」
「はじめてくる人は? はじめて帰ってくるひともわがんの?」
「新しいほどけさまは、ほら、あだんしてでっけぇ提灯吊るしてるべ」

見ると新盆を迎える近所の家の軒先には、屋根の高さほどある竹の棒に家紋の入った囲いの提灯を吊るし、火を入れてある。

「あれ、目指して帰ってくんだ。ほれ、シカちゃん提灯さ火ぃ入れでやっがら、こっちゃさもってこ」

13日の盆の入り、日が暮れる前に迎え火を焚いてのろしを上げると、その火で提灯に灯をいれ、夕方に家族で墓参りに行くのが習わしだった。

「なんで提灯持ってぐの? 暗いがら?」
「それもあっけっちょ、ご先祖様つれでかえっでくっからよ~」
「家で火ぃ焚いでんのに、わざわざ提灯で迎えさいぐの?」
「んだな~。のんびりしてるご先祖様もいっぺがら~ひゃっひゃ」

なんでだべな~とばーちゃんも笑うあたり、本当のところはやぶの中。

イロトリドリの浴衣来て、紅い提灯ぶら下げて、すず下駄ならして墓参り。子どもにとっての墓参りは、ご先祖様がどうとかお迎えがどうなどということは頭にはない。お墓参りのあと、おさがりにお供え団子を食べたり、普段は食べられないこじゃれた造りの和菓子をもらうのが楽しみなのだ。

「うちにつくめぇ(前)に食べきりよ」
「なんで?」
「盆は地獄も休みだで、そごいらで鬼が覗いでっかもしんねべ。匂いにつられで~うちさ鬼が来たらどうすんだ」
「え~やだ~」

「ば~ちゃんはまだ、そうやってわらっしゃ(童・子ども)かまって、墓で脅すもんでね。転んで足でもひっぱられだどうすんだ」
「あらよぉ、おど(お父)はおらよりこえごどいっでるわ」

「ばーちゃん。だれに足ひっぱられんの?」
「そら、ご先祖様だべ。ご先祖様も土ん中でひとりはさみしーべ」
「え~」
「そだごどねーよ。ご先祖様は悪さはしね。ただ、墓で転ぶど、病がながびぐっでな、いわれでっがら」

「食べきれねごっちゃ、ここで全部くっちめはぁ」
「わがった」
「急いで食べで、喉に突っこいじまねよにな。ひゃっひゃ」

決して同じ道を通っちゃ行けないよ…後戻りはいけないよ…
おさがり供物は家に着く前に食べきりな…
地獄の鬼がうしろで見ているよ

「ばーちゃん、なんでお墓参りは同じ道通って帰っちゃダメなの?」
「あ~。そりは野辺送りと同じだべ。ご先祖様があど(後)くっついでこれねようにすんのよ」
「迎えに来たのに?」
「んだがら、提灯持ってくんのよ。ご先祖様が家覚えちまったら、しょっちゅう帰ってきて成仏でぎねがら」
「ふ~ん」
「わがったが?」
「あんまり…」
「んが? まぁ、おっきぐなる前に覚えればいいべぇひゃっひゃ」

まだまだ土葬が主流だったころのこと、家から墓所までの距離を皆で歩いて柩を運びました。行きと帰りを同じ道にしないことには、死者が道に迷い帰ってこれなくするため・・・・時に埋葬する前に、柩を納める穴の前で3回~6回水平に棺を回して平衡感覚を奪うなどする作業を行うこともありました。大きな音を出したり、出がけに家の前で故人の茶碗を割ったりするのも、すべては死霊が舞い戻ってこないため・・・・


「え~きもだめし~!?」
「提灯なしでお墓回んだ」
「なして」
「それが肝試しだっぺよ」
「コンちゃんは、おがしなごどばっか思いつくな~」
「盆ひゃら、大人が酒ばっか飲んでおもしゃぐねべ」

「提灯さ、火ぃ入れんのは、鬼が昼間だと勘違いして出てこれねーがらだべ」
「振り返って同じ道さ帰ったら、鬼が家を覚えて子どもが食われっちまうんだど」
「んだがら、夜のお墓は乞食もいねっちば」
「なんでだ? コンちゃん、なんでわざわざ…」
「ケン、おめ、こえのが?」
「こえ~よ」
「だいじ(大丈夫)だ~。みんなで回れば…」
「え~コンちゃん、こえごどしねが?」
「しね、しね、そだごどしねがらいぐべよ」

「コンちゃん、今朝、川に顔洗いに来たが?」
「おれ、いってね~。だってねみ~んだもん」
「顔あらっでねーのにあぶねぐねのが?」
「そだごど。ばっぱ(婆)めらの迷信だべ。でーじ、でーじ」
「ほーがなー」
「んじゃ、墓場いぐ前に、川で顔洗ってぐべ」
「夜の川はあぶねどってばーちゃんいってだべした。黒いどごいっぺで、のまれっちまど」

「シカちゃんどーする? いぐ?」
「あたしいかなーい。お墓で団子食い過ぎで、腹いでーぐなったがら」
「シカコはこわがりだなー」
「ちがーもん。ホントに腹いでーんだもん」

「んじゃ、カズオとケンちゃんとりりねーだげが?」
「え~あたしもどうしようかなー」
「だいじょぶだ。りりねーは俺が守ってやっがら」
「おぁ~ケンちゃん、勇ましなー」

「んじゃ、盆踊りのあど、橋でな」
「おー」

お盆は亡くなった人が家に帰れる日。それは地獄に落ちた者も同様に、その日ばかりは里帰り。それでも時々、好奇心の強い鬼どもが、紛れ込んでくることもある。

「なんだ、ゆーたもきたのが」
「だって、おもしごどあるっていうがら…オレぇ、肝試しなんて聞いでねー」
「なんだりりねー提灯持ってきたのが?」
「だってうちの前真っ暗だし、やっぱりこわいもん」
「帰りは俺送ってやっから」
「うん…。コンちゃんは?」
「まだだ」
「な~んだコンちゃん、ホントは怖いんでねーの?」
「そだごどねー」
「コンちゃんどっからわいででだ?」
「川で顔あらっでだ」
「おっかねごどすんなー。河童に引き込まれんぞ」
「ゆーた、おめ、河童ひゃらみだごどあんのが」
「いや、ねーげっちょ」

「とにがくいぐべー」
「おーいぐべいぐべ」
「りりねー提灯消せや」
「ええー」
「だいじょぶだ。俺がてぇつないででやっがら」
「ケンちゃん…」

「夜の墓場はおっかねな」
「しってっが? 柳の葉っぱ、地面さついだらお化け出んだぞ」
「やめてよ、ゆーた」

「だれがさぎ(先)いぐ?」
「コンちゃんでねーの?」
「バガ、おめ、おれはいちばんケツだべ。おめーら後ろこわぐねのが?」
「あーそうが。んじゃ、カズオだべ」
「なんでおれー」
「俺はりりねーど手つないでっから、先にはいげし、ゆーたはダメだべ」
「んじゃ、カズオ先頭な」
「はぁ、やんなっちま」

「たーだ、ジグザグにあるって出てくればいいんだべ?」
「おーいげ」
「やだ、あたし帰りたい」
「大丈夫だ、りりねー俺がいっから」
「ケンちゃん…さっき。コンちゃんさ川がらあがってきたどき、」
「なに?」
「うしろにだれかいねがった?」
「いま、そんなごどいうなでー」
「だって、なんだか見えたんだもん」
「いいがら、黙ってついでって、さっさと帰っぺな」
「あ~ん、こわいよー」
「りり! うるせど!」

うひゃぁ・・・・ひゃっけ~(つめてぇ)」
きゃぁぁぁぁ…
「なんだゆーた!」
「コンちゃんやめろで~。うわ、ひゃっけ」
「ばが、ゆーた。おれ、さっき川で手拭い拾ったんだ」
「やめろで、コンちゃん。さっさどけ~んべ」
「やだぁ…早く帰りたい~」
「カズオ走んなで」
「やだぁ、おいてかないで」

「ほーら、なんでもねがったべ」
「もう、早く帰ろ。りり、お便所行きたくなっちゃった~」
「んじゃ俺、りりねーつれで、先帰っから」
「おぁ、ケンちゃんやる~」
「うるせ」
あ…!
「なんだゆーた」
「オレぇ手ぬぐいどっかさおどしたみで」
「なにやってんだ、ばが」
「あれ、じーちゃんのなのに…」
「あどがら取りに着たらいいべ」
「ひとりで来らんに。だれが一緒に来てくれんのげ」
「盆明けの掃除んときくればいいべした」
「だって、盆上がりでは、今日のことばれっちまぁべ」
「んじゃ、おれ取ってきてやっがら、待ってろ」
「コンちゃん! 戻っちゃダメだって」
「コンちゃん、やめだほういいって~」
「うしろにだれかいだよ」
「はは、ばーが、そだごどねー。ケンとりりねーはさぎ帰ってろ。カズオはゆーたど待ってでやれ、いってくっから」
「コンちゃん」
「コンちゃん」

コンちゃん・・・・


あぁ~ん、あ~ん・・・・あぁぁぁxxx

「だれが泣いでる…」
「シカコ!」
「なじょしたの、ばーちゃん」
「おめ、ゆんべ。おめも墓に行ったのが!」
「行ってねよ。腹いでがったがら。だれが、泣いでんの?」
「ほーが…」
「なんだべ、ばーちゃん、腰ぬげだが?」
「コンがぁぁぁ、コンがぁぁぁ」
「コンちゃんがいぐべっつったんだよ」
「今朝、川がらあがった・・・・」
「なして!」

「りりねー!」
「シカぢゃ~…あ~あぁぁxx」
「なにしたの? コンちゃん、なにした?」
「昨日、ゆーたの手ぬぐい取りに戻って、そのまま帰ってこねがったんだ」
「ケンちゃんはいねがったの? なんでゆーた? カズオでねがったの?」
「ゆーたもあどがら来たんだ。墓の中さ、手ぬぐい忘れだって言って、それコンちゃんが取りに行ったんだ」
「お墓戻ったの?」
「俺はりりねーどさぎに帰ったがら。カズオどゆーたがのごってで、コンちゃんさ、ながなが戻ってこねがら、まーだコンちゃん、悪ふざけしてさぎに『帰ったんだべ』っつって、帰ったんだど。したら、コンちゃん帰ってねくて…」
「だがら、あたし、昨日『だれがいる』っていったのに、あ~ん。コンちゃん、連れでがれだんだ~ぁぁぁぁ」
「りりねーだれか見たの?」
「コンちゃん、いったら川がらあがってきて、川で拾ったって手拭い持ってだらしくて…」
「迷いもの拾って、お墓戻っちゃダメって言ったのに行っちゃって…ひっく、コンちゃん、あの黒いのにつれでがれだんだぁぁっぁぁ…あ~ん」

「今夜は盆踊りどこじゃねーな」
「なして川さなんかいったんだべ。盆中は水場さ行ったらあぶねーってあらほどゆっでだのに」
「バガだ、コンは。ゆーごど聞かねで、墓場さなんかいぐがら」

「りりはいちばんおっきのに、なして止めねがったんだべが…」
「あ~ごめんなさい。ごめんなさい…」
「なんで、りりねーは悪ぐねべ。コンちゃんが…」
「おめらもバガやってねで止めればいがったべ、あほんだら」

あぁ~ん、あ~ん・・・・あぁぁぁxxx

盆明け、8月16日。送り火

「ぼんどの、盆殿~、秋の彼岸に御座れよ~」

「ばーちゃん、ご先祖様は彼岸にもくんの?」
「ご先祖様はお盆にしか帰ってこれね。秋の彼岸に墓参りにいぐまで、達者で帰っとぐれ~ってな。迷わねで帰れねーがら、コンはつれでがれだんだ」

「だれにつれていがれだの?」
「さぁて、だれだんべ。迷いもの拾ったっつーがら、だれがに迎えにこらっちゃんだが、川のくれぇどごの鬼がつれでったんだが」
「ばーちゃん、鬼ってホントにいんの?」
「さぁどうだべなー。そうでも思わねど、やってくっちらんねべ」

そうでも思わねど・・・・

「シカコ。親よりさぎにいなぐなるなんちゃ、これ以上の親不孝はねぇど」
「…うん」
「つめでがったべ。コン、ゆーごど聞かねくたって、子どもは宝だっっちのに。はぁやってくっちらんねべ…やってくっちらんねな…」

やってくちらんね・・・・

「うん。そうだね、やってくっちらんねね」

コンちゃん、来年のお盆に帰ってくんのがな…
迷わねで、帰ってこれんだっぺが…





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ひらさわ たゆ まだまだ未熟者ですが、夢に向かって邁進します