雨はどう測っている?「転倒ます型雨量計」のしくみを気象予報士が徹底解説
天気予報でおなじみの「1時間に50ミリの雨」という表現。あの数字は、いったいどんな器械で、どうやって測っているのかご存じでしょうか。
僕たちが普段目にする雨量データのほとんどは、「転倒ます型雨量計(てんとうますがたうりょうけい)」という測器によって観測されています。この記事では、気象庁の情報をもとに、そのしくみを基礎からじっくり解説していきます。
◆ そもそも「降水量」とは何か
まず前提の確認からです。降水量とは、ある時間内に降った雨や雪などの量のことで、降った降水が流れ去らずに地表面を覆ったときの水の深さを指します。
雪やあられなどの固形の降水の場合は、それを溶かして水にしたときの深さで表します。
つまり「1ミリの雨」というのは、雨が流れ去らずにその場にたまったと仮定したときに、深さ1ミリになる量、という意味なんですね。地面に染み込む量でも、バケツにたまる量でもなく、あくまで「深さ」で表すのがポイントです。
◆ 転倒ます型雨量計のしくみ

■ 全体の流れ
気象庁をはじめ、地方公共団体や運輸・電力などの事業者が広く使っているのが、この転倒ます型雨量計です。
雨が測られるまでの流れは、次のようになっています。
まず、口径20cmの「受水器(じゅすいき)」に入った雨や雪などの降水を「濾水器(ろすいき)」で受け、内部の「転倒ます」に注ぎます。
■ 「転倒ます」の正体
この雨量計の心臓部が「転倒ます」です。名前だけ聞くとイメージしづらいのですが、構造はとてもシンプルです。
転倒ますは2つの「ます(三角形の容器)」がシーソーのような構造になっており、降水量0.5mmに相当する雨水が片方のますに貯まると、反対方向に転倒して水を下に排出します。そして、その転倒した数を計測することによって「降水量」を知ることができます。
日本庭園にある「鹿威し(ししおどし)」を思い浮かべてもらうと分かりやすいと思います。竹筒に水がたまると重みで傾いて水を流し、また元に戻る——あの動きとまったく同じ原理です。
■ 電気信号への変換
では、ますが倒れた回数をどうやって数えているのか。ここで登場するのが「磁石」と「リードスイッチ」です。
転倒ますを支えている軸上には磁石があり、ますが転倒すると、この磁石がリードスイッチの前を通ります。このときリードスイッチが一定時間ONになり、電気信号が出力されます。
この電気信号は、雨量計とは別の場所にある処理装置などに送られ、時間ごとに合計された降水量が求められます。
倒れるたびに「カチッ」とスイッチが入り、その回数を数えている、というわけです。
◆ 「0.5ミリ単位」で測っているという事実
ここは意外と知られていないポイントです。
気象庁で使用している転倒ます型雨量計の「ます」の容積は0.5ミリ相当となっており、転倒ます1回の転倒で0.5ミリ、2回の転倒で1ミリの降水量を観測したことになります。
つまり、観測は0.5ミリ刻みで行われています。「0.5mmの雨」という表示があるのは、ますが1回だけ倒れた、ということなんですね。逆に言えば、0.5ミリに満たない弱い降り方だと、ますが倒れきらず記録に表れないこともある、という特性も持っています。
◆ 雨の「始まりと終わり」を知る感雨器
雨量計とセットでよく設置されているのが「感雨器(かんうき)」です。
感雨器は、降水現象(雨や雪など)の始まりと終わりを知るためのもので、測定面に雨や雪が着くことで降水を感知します。これは、測定面に付着した水分によって電気が流れることを利用したしくみです。
面白いのが、この器械にはちょっとした工夫があることです。鳥のフンなどが落ちても「降水あり」と誤って判別してしまうため、それを防ぐための鳥よけの細い針金が付いています。
野外に置く測器ならではの、現場の知恵ですね。
◆ 雪はどうやって測る?寒冷地の工夫
転倒ます型雨量計は水を受けてますを倒すしくみなので、そのままでは雪をうまく測れません。そこで寒冷地では、次のような工夫がされています。
寒冷地で使用されている雨量計は、ヒーターにより雪を溶かしてから降水量を測るように作られています。温水式や溢水(いっすい)式と呼ばれる雨量計がこれにあたります。
さらに設置面でも配慮が必要です。積雪によって雨量計や排水口が雪に埋もれないよう、雨量計全体をかさ上げして設置します。
◆ 正確に測るための「設置環境」

雨量計は精密な器械ですが、正しく測るには「どこに置くか」が決定的に重要です。気象庁も観測環境について細かく基準を設けています。
■ 露場(ろじょう)に置く
気象庁の測器は、周囲の人工物の影響を受けないよう配慮した「露場」と呼ばれる場所に設置されます。露場には、地面からの熱や照り返しを避けるための芝生が植えられています。
■ 風の影響を避ける
雨量観測にとって最大の敵は「風」です。風が強いと雨滴が受水器を飛び越えてしまい、実際より少なく測れてしまうのです。
そのため気象庁は、周辺の高い樹木や建物からは、少なくともその高さの半分以上(雨量計から上端への仰角が63°以下となるように)離し、できればその高さ分以上の距離を離して設置することを推奨しています。
やむを得ず3階以上の屋上に設置する場合は、建物の端から少なくとも1m以上、できれば3m以上離し、エアコン室外機からの風の影響がないところを選びます。
また、受水器の入口周辺には「助炭(じょたん)」と呼ばれる小型の防風柵を取り付けることもあります。受水器に入る直前・直後の雨滴や氷晶が、風で飛ばされて誤差が生じるのを防ぐための工夫です。
◆ 器差(きさ)——どれくらいの精度で測れるのか
「検定」に合格した測器でなければ、公的な気象観測には使えません。気象業務法で許容される誤差(器差)は次のように定められています。
指示雨量計の場合、雨量10mm以下では0.2mm、10mm超では雨量の2%。自記雨量計の場合、雨量20mm以下では0.5mm、20mm超では雨量の3%が許容される器差です。
なお、日本では気象業務法とその下位法令により、公共的な気象観測には検定に合格した貯水型雨量計または転倒ます型雨量計を用いることとされています。
◆ 現場で起こる「障害」とその対策
野外に長期間置かれる測器だけに、トラブルもつきものです。気象庁は障害事例と対策も公開しています。
特に多いのが、受水器や濾水器にゴミや泥などが詰まるケースで、定期的な清掃が予防策として有効です。
さらに、雨量計はクモやアリが巣を作ったり、小動物が侵入して障害を起こすこともあります。また、雑草や芝生が伸びると雨滴が跳ね返って雨量計に入ったり、草が受水器を覆ったりして正確な測定ができなくなるため、定期的な草刈りも欠かせません。
データの信頼性チェックも重要です。周辺のアメダスやレーダーの観測データと比較し、周囲で雨が降っているのに降水が測定されていないような場合は、データ異常の可能性を疑います。
◆ 点として測る雨量計、面で測るレーダー

最後に、雨量計の「弱点」を補う話をしておきます。
雨量計は、あくまでその設置地点という「点」の雨を測る器械です。これに対して、広い範囲の雨を「面」でとらえるのが気象レーダーです。
ただしレーダーにも弱点があります。気象庁ホームページで見られる「解析雨量」は、気象レーダーによる観測をアメダスなどの雨量計データで補正することで、より正確な雨量分布を把握できるようにしたものです。
このように、点で正確に測る雨量計と、面で広く見るレーダー。両者を組み合わせることで、僕たちが日々目にする雨量情報は成り立っているんですね。
◆ まとめ
・降水量は「たまった水の深さ」で表す
・転倒ます型雨量計は、鹿威しと同じ原理でますを倒し、その回数で雨を測る
・気象庁の観測は0.5ミリ単位
・正確に測るには、露場・風対策・定期点検が欠かせない
・雨量計(点)とレーダー(面)を組み合わせて雨量情報はできている
何気なく見ている「1時間に○○ミリ」という数字の裏には、これだけの技術と工夫が詰まっています。次に雨量情報を見るとき、少しだけ器械の存在を思い浮かべてもらえたら嬉しいです。
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