THSの動力循環と理論伝達効率、マルチステージハイブリッド
THSの働きについては、「いちばん分かりやすい、トヨタ・ハイブリッド・システム(THS)の謎解き」で解説しました。
その中でMG1が逆転駆動となる動力循環についても説明しました。動力循環は高速巡航で起きるのですが、これが従来車に比べて高速燃費がさほど改善しない理由だと言われます。それがなぜなのかを掘り下げてみましょう。
THSは機械経路と電気経路に動力を分割することで変速する電気機械トランスミッション(EMT)ですが、電気パスの効率(約80%)が機械パス(約99%)に比べて劣るので、電気パスを通過するパワーの比率が小さいほどEMTとしての効率は高くなります。

この速度関係図の上で電気パスのパワー比率はどのように分布しているのでしょうか。

共線図の上で、キャリアに繋がれたエンジンのパワー(赤)は、サンギア(緑)とリングギア(青)に分割されます。サンギアはMG1を介して電気パスのパワーに、リングギアは機械パスの直達パワーになります。エンジン回転数が一定のまま、MG1パワーが0%から100%に増加すると、直達パワーが100%から0%に減少します。
これが速度関係図の上で何に対応するかを考えてみます。MG1回転数がゼロの太い緑線(機械点ライン)が、便宜的に車速100キロの縦線と交わるところに赤丸を打ち、ここに横線を引きます。エンジン回転数が約2000rpmで一定のまま、車速が100キロから0まで減少すると、MG1回転数が0rpmから7500rpmまで増加します。車速100キロの赤丸が直達パワー100%、車速0の赤丸がMG1パワー100%です。車速50キロでMG1と直達パワーが50:50になります。(これはあくまで便宜的にエンジン2000rpmでの話です。)

エンジン回転数をどのように取っても、車速0と機械点との間を10等分するのは同じなので、同じ比率を示す線は原点を通る直線になります。この部分が回生クラッチとしての動作領域です。

これを外側へ拡張すると、高速側の動力循環領域ではMG1パワーが負の値となり、後退走行の動力循環領域ではMG1パワーが100%を超えます。

ここに例で示した走行シナリオを重ねます。

EV走行からエンジン始動まではエンジンが動力を出していないのでEMT動作ではなく、パワー比率という考えは当てはまりません。巡航のポイントでMG1パワー比率が-100%近くになります。このポイントの根拠は、プリウスクラスの時速105km平地走行の必要パワーが約15kWであることから来ています。MG1パワー比率が-100%ということは、シリーズハイブリッドと同じだけのパワーが電気パスを流れ、シリーズ式と同じ伝達効率になってしまいます。ですから実際には、EGR(排気ガス再循環)の量を増やすか、スロットルを絞ってエンジン効率を落としてでもトルクを下げ、そのぶんエンジン回転数を上げる方がトータルの効率が良くなるかどうか、予め計算したマップに基づく制御が行われているのではないかと想像します。
車速が同じままエンジン回転数を機械点の半分に落とすと、ギア比(減速比)を小さく、ハイギアードにしたのと同じことになります。このとき、MG1パワーは-100%になります。エンジン回転数を機械点の2倍にしてもMG1パワーは50%にしかならないのと比べると、ずいぶん大きな変化です。このため、動力循環は急速に効率が悪化すると言われるのです。

この縦線AB上のMG1パワー比率をグラフにしてみると次の図のようになります。機械点から上はどこまで行っても100%未満ですが、機械点から下でマイナス無限大に向かって落ち込んでいきます。逆流するMG1パワーが無限大になるのではなくて、分母であるエンジンからの入力パワーがゼロに近付くので、比率が無限大になるのです。

次に、MG1パワーはプラスでもマイナスでも電気機械変換の損失を生じる点では同じなので、折り返して絶対値を取ります。MG1パワー比率が100%のときに、電気パスの効率によって伝達効率が約80%となるので、これをグラフ化したのが「理論伝達効率」です。機械点での理論伝達効率は100%です。(実際には機械点でMG1がトルクを出して支えていることによる電気損失があるので100%にはなりえませんが、目安としてよく使われる考え方です。)この図から分かるように、機械点の半分以下のエンジン回転数でEMTは「使い物にならない」のです。
エンジン回転数を落として小さな入力パワーで運転しようとしても、電気パスにはトルクを支えるために大きなパワーを循環させる必要があるので、バッテリーからの持ち出しがなければ、どこかにEMTとして動作できる下限があります。たとえば(蒸気エンジンか何かを使って)0rpmでトルクを掛けたとしても、回っているMG1でトルクを受け止めるためには電力が必要で、それをMG2から取ってくるためには、リングギアの直達パワー(MG1のパワーが循環して戻ったもの)よりも25%増し(電気パス効率80%の逆)のパワーをMG2が奪い取る必要があるので、出力軸にはブレーキが掛かることになってしまいます。エンジンが回転していないので入力パワーはゼロであり、出力はマイナスなので、このポイントでの伝達効率はマイナス無限大です。

出力軸にブレーキが掛からないという条件を課すなら、MG1のトルクが不足するので回転数が低下、エンジンは押し留めることができずに回りはじめ、やがてトルクを受け止められる回転数に達するでしょう。

ここにEMT動作の下限があり、電気パスの損失をちょうどエンジンが補う回転数です。電気パスの効率が80%なら、その損失は20%であり、EMT動作下限のエンジン回転数は機械点の20%となります。このとき出力トルクはゼロで、伝達効率は0%です。

このグラフ、もともと絶対値を取るために折り返していたので、元に戻せば直角双曲線(反比例のグラフ)の形をしていますね。

こんな重箱の隅はともかくとして、
マルチステージハイブリッドではEMTの下流に4速ATを追加することで最高効率の機械点を4つに増やし、高速走行を含め高効率領域を拡大しています。(下図では横軸が反転しています。)


これはトルクコンバータ(トルコン)がたどった進化と似ています。トルコンを用いた初期の自動変速機の例として、米GMの一部門となったビュイックが1948年に発表したダイナフロー変速機があります。

流体力学を駆使したトルコンを無段階自動変速機の本体ととらえ、付属する歯車変速機は手動で、D・Lの2速とRという補助的なものでした。大きなトルク増幅比を持つトルコンの効率が悪いのは承知の上で、発進からトップスピードまで全域をギア切り替え無しで走行可能でした。しかし現代の多段ATでは、変速は効率の良い歯車機構に依存し、トルコンは発進時に使うだけなので、非常に小さなトルコンで済むようになりました。
THSをトルコンととらえるなら(現在はダイナフロー以上に巨大なトルコンですけれど)、変速は多段ATに任せて電気系の役割を縮小していくのが、技術の必然なのかもしれません。
