ホラー散文詩
本当に怖いものは、学校の音楽室ではない、不可思議な因習の残る村ではない、インターネットでまことしやかにささやかれる個人の体験ではない、いわく付きの廃墟ではない、落武者の霊ではない、地下鉄の乗り換え通路にある用途不明の部屋ではない、廃ビルのトイレの便器の中にある顔ではない、おばあちゃんからしか聞いたことのない方言「うっしょやみ」ではない。
・夜の住宅街
絶対廃墟なのに一部屋だけ明るい家、エンジンの切ってある暗い車の中にいる男、カーテンがない異様な家、食卓からこちらを凝視する無表情な家族、全部気持ち悪すぎる。しかし家に帰っても外の足音、いつ人の顔が映るかもわからないインターホンのパネル、隣の家の子供の声、逃げれないか。
・たかなりゆみ
同じ名前の別アカウントから友だち申請が来続ける
・証明写真ボックス
夜21時ごろに、駅前裏通りの路地の証明写真ボックスで証明写真を取ると、昭和初期の地方の名家のものと思われる、茶ばんだモノクロの家族写真が印刷される。母親以外の5人全員が、引き攣った苦笑いをしている。
・位置
ポケモンGOのプレゼントが、毎日廃村の神社のステーションから贈られてくる。
・そのイメージ
恨めしそうな顔の女、ではなく、ニマァと笑う髪の薄い太った中年男性の幽霊。
・おまつりの動画
動画サイトに、違法アップロードされているお笑い芸人のラジオがある。ラジオの音声が流れるバックグラウンドには、夜の山道の運転のドラレコ動画が流れている。30分が過ぎたところで、十数人の半裸の老婆の曳く山車が前方に出現する。撮影者の車はその山車に低速でついていき、速度を落としたまま崖から転落するところで映像が途切れる。最後には潰れた車の中に這い入ってきて、ドライブレコーダーを取り外そうとする先ほどの老婆1人の無表情な顔が移る。
・少女の廃墟
北陸の中山間地域の西洋風の廃墟、入り口に、場違いに新しいビニールの雨避けがついており、そこには「ひなの趺」の文字が。廃墟の前を通りすぎる地元の車は、クラクションを流して去るという。短く二回、長めに一回、そして短く二回。後部座席右の窓だけは開けてはいけない。
・うっしょやみ
●●県▲▲地域の方言。鬱所病み、がなまったもの。1974年8月の事件以来、●●県文化財センターは、その記録を、郷土史上の「座敷牢」の記述とともに抹消。
・尸人
なぜか怖いと感じてしまう午前四時の夢。ゾンビの出てこないゾンビの夢である。
人口の8割を犠牲にゾンビの感染を押さえ込んだ日本では、各地に独裁的コミュニティが誕生していた。徴兵のタイミングで、憲兵から逃れ地下の鉄道駅に向かった少年たちは、そこに大量の袋詰めにされたゾンビの頭部を発見する。まだ活動状態にあり呻き続けるゾンビ袋を横目に、奥に進むと、地下鉄のプラットフォームの線路のあった最下部にはいまだに大量のゾンビが。
目覚めるとなぜか、この夢にゾンビなんて出てこなかったんだ、そう認識している自分がいます。
・大きなひと
あれは電柱の横にいる。話しかけてはこない。二十歳の誕生日を迎えて一ヶ月以内の人にだけ、近づいてくるらしい。
・衆人環視下
満員電車での通勤中、ふと、自分のとこからは移動しづらい位置に、不自然なスペースが空いているのを見つけた。誰かそっち側に詰めてくれないかなと思っていると、そのスペースの奥に見える人たちの間の低い位置から、顔が覗いている。
隣の人の背中から腰の辺りにそれの顔があり、子供だろうかと思って下を見ると、胴体や足がない。顔だけがこちらを覗いているのだ。
ああいう顔は能面の「翁」というんだったか、笑っているわけではないが、顔をしわくちゃにして目を細めてこちらを見ている。ただ妙にはだつやがよく、子供かとも錯覚してしまった。
耐えられなくなって目を背け、しばらくしてさっきの場所を見ると、それはもういなかった。
次の駅ではたくさん人の乗降があったので、座席の前に位置取ることができた。トンネルを通過するとき、座席を挟んで見える窓に反射して、自分と横一列になって座席の前に立っている人たちの姿が見えた。
また、いた。
左隣の人とその向こうの人の間から、また顔が覗いている。その視線の先には、赤ちゃんを抱えたお母さんの姿があった。
赤ちゃんはそれに向かって微笑を浮かべると手を伸ばした。
わたしは嫌な予感がしてその赤ちゃんのほうを向いて「あっ」と叫んでしまった。そのお母さんと、周りの数人が不審そうにこちらを見る。「翁の顔」は消えていた。
と、その時、赤ちゃんがこちらを向いた。あのニューっと口角を吊り上げた翁の顔で。
