【掌篇小説】ある朝、ライオンペンギンツル
「ライオンペンギンツル、描いたよ」
娘のそんな声で起こされた。
今日は動物を描いているのか。
娘は絵を描くのが好きだ。
暇さえあれば描いているし、テレビを観ている時も、中でも好きなアニメを観ている時ですら、絵を描いている。
大抵は小学生らしく、可愛い女の子の絵だ。しかし、風景なども描ける。少し前に水彩で描いていた夕陽の絵などは秀逸だった。
描き終わると、決まって娘は絵を見せに来てくれる。絵心のない僕としてはいつも少ない語彙力で褒めることしかできないのが心苦しい限りである。
「んー?」
僕はごろりと体を動かして娘が差し出す紙に目をやった。
「ぶっ」
吹き出した。
そこにいたのはライオンとペンギンとツルではなかった。一匹の謎の生き物だった。
目は真ん丸で短い嘴がついていて、立派なたてがみを生やしている。体は黒く、一本足で立っている。
……ライオンペンギンツルである。
「これは……確かに、ライオンペンギンツルだね」
「そうでしょー?」
なぜか誇らしげな娘。
小さいメモ帳に描かれたライオンペンギンツルの丸くマットな瞳が、僕を見つめていた。
なんだかこちらをじっと観察しているような不気味さである。
お前、さては疲れてるだろう。
体が重いんじゃないのか?
毎日毎日残業ばっかりして、楽しいのか?
私の名は、ライオンペンギンツル。
いつもお前を、見ているぞ。
なぜかやたらダンディーな声が脳内再生されていた。
輝きのない目で、僕を見ている。
娘は追加の感想を待つように、キラキラした瞳で僕を見ている。
朝からシュールな気分である。
「……うん、めちゃくちゃいいよ。面白いね」
「ふふふ。そうでしょ!」
娘は満足げに頷いた後で、それでさー、と続けた。
「今日のお昼ご飯、なに?」
「え」
時計は十一時五十分を指していた。
『ある朝、ライオンペンギンツル』──終
