見出し画像

なぜ、空き家を買ったのか

2025年の年末、香川県高松市の庵治町に空き家を買いました。内見したのは、その一軒だけ。いま振り返っても、家の買い方としてはずいぶん乱暴だったと思います。でも、不思議と不安はありませんでした。

「問題だ」と言っているだけでは

四国には、空き家がたくさんあります。これからも増えていきます。四国で「働く」に関わる仕事をしてきた私にとって、空き家の問題は、どこかで向き合わないといけないテーマだとずっと思っていました。

ただ、「空き家の増加、問題ですよね」と言っているだけでは、何も変わらないんですよね。当事者として発言するには、実際に空き家を買って、自分で管理して、運営してみる。その経験を持たないといけない。そう思ったのが、動機のひとつ目です。

もうひとつ、単純に、古い家が好きだという気持ちがありました。梁のある家。極端な話、囲炉裏があって、かまどがあって、みたいな家です。今回買った家はそういう建物ではありませんが、ゆくゆくは、文化財のような「残したい建物」をちゃんと残していく。そんなこともやってみたいと、心のどこかで考えていました。

そして、自分が住むためではありませんでした。住まいではなく、ある種の「場」として。空き家にどんな活用の可能性があるのか、自分の手で探ってみたかったのです。

庵治の空気

なぜ庵治だったのか。

最初の出会いは、何気なく出かけたイベントでした。庵治の半島の浜辺で、海のごみ拾いをする集まりです。

庵治は、高松の街から車で20〜30分。それなのに、空気が違うんです。浜辺を歩くと、瀬戸内海がゆったりと見えて、建物もお店も少なくて、時間がゆっくり流れている。ああ、癒やされるなあと、素直に思いました。

私の地元は、さぬき市の志度です。庵治のことは、近くだからよく知っている。でも、半島の先っぽまでは、なかなか来ないんですよね。香川に住んでいる人でも、用事がなければ来ない。だからこそ、ちょっとした秘境のような感覚がありました。

もし空き家を買うなら——自然が豊かで、でも街から遠すぎない場所。海があって、山があって、星空がきれいな場所。ふと条件を思い浮かべたとき、「ここなんじゃないか」と、その日のうちに感じてしまいました。

一軒だけ見て、決めた

その日のまま、不動産サイトで「この辺りに空き家はないか」と探し始めました。

すると、最初に見たサイトで、いきなり条件に合う一軒が出てきたのです。あとで分かったことですが、空き家が多いといっても、いいロケーションの物件はなかなか市場に出てきません。選択肢は、ほとんどありませんでした。

すぐに問い合わせて、見に行きました。そして、購入までに内見したのは、結局その一軒だけです。

家は、海から歩いて5分ほど山側にあって、瀬戸内海が覗けます。周りは古い別荘地で、両隣に住んでいる人はいません。静かです。聞こえるのは、鳥の声くらい。夜は街灯が少なくて真っ暗になり、そのぶん星がきれいでした。街から30分の場所にこれがあるのは、贅沢だと思いました。

慎重な買い方ではなかったと思います。でも、この家には不安を感じなかった。見た瞬間に、ここで過ごす時間の想像ができてしまった。運命という言葉は使いすぎると安っぽくなりますが、あのときの感覚は、それに近いものでした。

壁をぶち抜き、漆喰を塗る

リフォーム会社の方にイメージを伝えると、「空き家をそんなにいじる人は、あまりいないですよ」と驚かれました。

大きな広間をつくりたくて、壁をひとつ抜きました。土間も広げました。住むつもりはないので、生活のための設備は最小限に。できるだけシンプルに、ここでの時間がゆっくりほどけていくような場所にしたかったのです。

予想と違ったのは、建築費です。やっぱり、高い。思った以上に費用がかかると分かったとき、できることは自分でやってみようと決めました。壁と天井の、漆喰塗りです。

DIYは、まったくの未経験でした。それでも今は、YouTubeを開けばやり方はいくらでも学べます。毎日のように動画を見て、道具を調べて、恐る恐る塗り始めました。正直、本業をやりながらの作業は大変でした。でも、それだけで大きな節約になりましたし、何より、家に愛着が湧きました。

漆喰大会

やり方をつかんだころ、まわりに「いま、こんなことをやっている」と話すと、興味を持ってくれる人が思いのほか多いことに気づきました。

それで、会社のメンバーに声をかけてみたんです。「漆喰大会、やりませんか」と。

すると手が挙がって、社員だけでなく、お子さんやご家族まで来てくれて、みんなで漆喰を塗る一日になりました。仕事の中でのコミュニケーションとは、まるで違う時間でした。子どもの声がする現場は、いいものです。塗ってくれた人たちは、いまも完成した家のことを気にかけてくれています。

このとき、ひとつの発見がありました。空き家を「問題」として見ているだけだと、重たい。でも、みんなで手を動かして、みんなのものにしていく——その過程そのものが、いちばん大事なんじゃないか。もしいつか2軒目、3軒目に関わることがあったら、最初から「みんなでつくる」を真ん中に置きたいと思っています。

そして、家が完成した

思い立ったのが、2025年の年末。2026年7月、家は完成しました。

名前は「余白の家 庵(いおり)」といいます。

買ってよかったか、と聞かれたら、いまは素直に、よかったと答えます。静かな別荘地の一角で、今日も瀬戸内の上を、ゆっくりと時間が流れています。

#空き家 #リノベーション #DIY #香川 #瀬戸内


いいなと思ったら応援しよう!