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【書評】大大阪という時間をひらく―近代建築が語る都市の物語

 大阪という都市は、しばしば「商都」として語られますが、その言葉の背後には、近代日本を牽引した圧倒的な活力と文化の厚みが潜んでいます。高岡伸一 著/三木学 編『大大阪モダン建築』(青幻社)は、その豊穣な時代の息吹を、現存する建築を手がかりに丁寧に掘り起こす一冊です。明治から昭和初期にかけて、大阪が東京を凌ぐ200万都市へと成長した「大大阪時代」。本書は、その時代を象徴する79件の建築を、美しいカラー写真と平易で的確な解説によって案内してくれます。
 本書の魅力は、単なる建築ガイドにとどまらず、都市の記憶を読み解くための“視点”を与えてくれる点にあります。中之島、大阪城、船場、心斎橋・難波、天王寺、大阪港といったエリアごとに構成され、読者はまるで街を歩くような感覚でページをめくることができます。大阪市中央公会堂や府立中之島図書館、日銀大阪支店といった重厚なランドマークはもちろん、芝川ビルや北浜レトロビルヂングのように、現在はカフェやショップとして再生されている建物も多く紹介されており、建築が“生き続けている”ことを実感させてくれます。
 特に印象的なのは、建物の背景にある企業や地域の歴史が、さりげなく、しかし確かな筆致で織り込まれている点です。三井住友銀行大阪中央支店、旧大林組本店、武田薬品道修町ビル、日本生命新本館など、近代大阪を支えた企業の建築が今も大切に使われている姿には、都市としての矜持が感じられます。単に古い建物が残っているのではなく、街の営みの中で役割を変えながら受け継がれている。その事実を知るだけで、普段見慣れた街並がまったく違う表情を見せ始めます。
 また、写真の力も大きいと感じます。アールデコの装飾、スクラッチタイルの外壁、重厚な石造建築の陰影。どれもが当時のモダン文化の息吹を伝え、読者の想像力を刺激します。実際に訪れれば、カフェの天井を見上げながら、往時の華やぎに思いを馳せることもできるでしょう。本書は、そうした“体験”へと読者を誘う入口としても優れています。
 ガイドブックとしての実用性も高く、巻末の地図は見やすく、建築の基本情報も過不足なく整理されています。手に取りやすいサイズと軽さも、街歩きの相棒として心強い存在です。発行から時間が経っているため、入居テナントが変わっている場合はありますが、建物そのものの魅力は揺らぎません。むしろ、変わりゆく都市の中で変わらず佇む建築の価値を、より強く感じさせてくれます。
 読み終えた後、街を歩く視線が確実に変わります。何気なく通り過ぎていたビルに、時代の空気や人々の営みが宿っていることに気づき、愛着が深まっていく。近代建築は単なる“古い建物”ではなく、大阪という都市の精神を形にした文化遺産なのだと実感させられます。
 『大大阪モダン建築』は、建築好きはもちろん、都市の歴史に関心をもつすべての人に手に取ってほしい一冊です。大阪という街の奥行きと魅力を、静かに、しかし確かな説得力で伝えてくれる本書は、今なお色褪せない“大大阪”の記憶を、私たちの現在へとつなぎ直してくれます。
 なお、掲載されているビルのほとんどが、現在もテナントとして活用されています。また、ビルの多くは私有地ですので、訪問する際はその点を十分ご配慮ください。

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