CSMのエクスパンション(アップセル・クロスセル)を増やすための活動
最近、ありがたいことに勉強会やイベント登壇などで色々な企業様とお話をさせていただく機会がすごく増えてきました。お話を聞いていると、皆さんエクスパンションには概ね例外なく困っている様子です。
カスタマーサクセスの「既存顧客のLTVを最大化させる」という本質的な役割は誕生から変わってはいませんが、カバーすべき領域が単に利用促進から、顧客の成果だけでなく、明確に収益まで求められるようになってきています。
それに伴いカスタマーサクセスが担う目標指標もNRRにシフトしつつあります。今までは利用促進に焦点を当ててきた方々にとっては、「急に収益を上げろと言われても何やっていいかよくわからん」というのが正直なところなのかなと思います。
そんな方々に向けて少しでも参考になればと思い書いてみます。今回は組織としての取り組みというよりは、個人のCSM担当として持っておくべき考え方を共有します。
手前味噌ですが、私はHubSpotのCSMを辞めるタイミングではグローバル全体のTOP10に入るパフォーマンス(NRR指標)を出しておりました。この考え方は、そんな私が実際にHubSpotのCSM時代に使っていた考え方です。
全ての企業に当てはまるとは思いませんが、何かしらの参考になるのではと思います。
前提
まず組織体制を前提としてお話しさせてください。
今回は営業(もしくはAM・カスタマーセールス)の方もエクスパンションの指標を持っている体制で、必ずしもCSMが一人全部をやらなくていいケースを想定しています。要は、営業の方もエクスパンションを対応するメリットがある状態です。
エクスパンションの体制として、現在最もよくある体制の一つじゃないかなと思います。
CSMのKPIもNRRとしています。GRRでも成り立ちはしますが、エクスパンションのモチベーションが少なくなってしまうので今回はNRRと想定します。

NRRを上げるとは?
さて、ざっくりと「NRR上げてこい!」と言われても何をすればいいかわからないと思うので少し分解してみます。
ご存知の方も多いかと思いますが、NRRは現在の売上に対して、その期間どれだけエクスパンション・ダウングレード・解約したかによって決まります。

そのためダウングレードやチャーンだけを抑えてだけではNRRの向上は期待できず、エクスパンションを増やす必要があるんですね。
エクスパンションの分解
では、今度はエクスパンション自体も分解してみます。
分解すると以下のようになります。

構成要素自体はそこまで複雑なものではないです。それぞれ解説しますね。
CSQL数
Customer Success Qualified Leadの略。カスタマーサクセスが有効だと思うリード。日々のCS活動の中で、アップセル・クロスセルできそうな案件のことで、言い換えれば、エクスパンションするチャンスの数と言えます。
当たり前ですが、このチャンス数が多ければ多いほどエクスパンションの確率が上がります。
エンタープライズ顧客のように母数が限られいるケース以外では、「いかにCSQLを増やすことができるか?」が、エクスパンションを大きくする上で最も重要な問いとなります。
CSQLを増やすためには、まず自社顧客に対してどれだけのポテンシャルがあるのかを把握する必要があります。アップセル・クロスセルできる余白がないと当然エクスパンションはできませんので。
顧客のポテンシャルは「顧客が今提供しているサービス全部を全て最上位プランで導入したらどんな世界になるか?」の問いからある程度把握できます。
10プロダクト提供しているけど、顧客の業種・規模・体制などを考えてどれだけ頑張ってもMax5サービスしか導入できないのであれば、その顧客は5サービス分のポテンシャルしか持っていません。すでにその5サービス契約しているのであれば、現状はエクスパンションの余地はないと判断できます。
顧客に対して1つ1つ現契約とMax値の差を調べてリストにしておくと、どの顧客がどれくらいのポテンシャルがあるのか大まかに把握できます。
Max値はざっくりでも大丈夫です。大切なのは「この顧客はこの領域でまだまだお手伝いできるはずだ!」と認識できることです。
顧客とのMTG前に確認しておくと、何気ない会話の中から潜在ニーズを探し出すことが可能になります。

これはアウトカムでも同じことが言えます。対象の顧客に対して、各プロダクトのアウトカムを全て満たした場合の世界観を考えてみてください。その世界と現在のギャップが、その顧客の成長ポテンシャルとなります。
アウトカムについては、山田ひさのりさん(@hisyamada)の書いたこちらの記事が理解しやすいです。
【カスタマーサクセスの新たな責務】今こそ「アウトカム」を特定すべき理由、その特定プロセスを知る
クローズ率
上記で作成したQLがどれだけクローズしたのか。クローズできないCSQLをたくさん作っても意味ないですからね。
クローズ率は、CSQLをいつ営業にパスするか?によって大きく変動します。序盤でパスするか、終盤でパスするのかの違いです。
CSMにとってより簡単なのは、アップデート紹介などの導入だけ話をし、きっかけだけ作った早い段階で、営業にパスするパターン(ここではEarly CSQLと呼ぶことにします)。
一方で、CSMがアウトカムに沿ったデモやプレゼンを行い、決裁者の合意までをやってしまって、営業へは金額調整などのクローズ処理から任せるパターン(Late CSQL)。
Early CSQLは、エクスパンション活動のほとんどを営業に任せるので、ジュニアなCSMはこちらから対応することになります。ただし、担当営業のスキルやその時々の優先度に依存するので、自分のコントロール外の要素が増えるため、安定したパフォーマンスを出す難易度は上がります。
営業が新規顧客の開拓がメインのミッションである場合は、スキルがあったとしても既存顧客にそこまでリソースが割けない可能性があるので注意が必要です。
SMB担当でEarly CSQLを大量に作れるという状況であれば、ある程度のクローズ率をキープしながら数でコントロールするのも手でしょう。逆にエンプラや特定業界特化型など大量に作れない顧客セグメントを担当している場合は、担当営業によって大きく左右されます。営業に頼れない場合は、ある程度CSM自身で確度を上げにいく必要があります。

どちらが良い悪いの話ではないですし、必ずしも両極端でなくてもいいです。途中でパスしたり、案件ごとにそれぞれ使い分けたりご自身やチームの状況によって調整できるとより安定したパフォーマンスが出せるようになります。
そのため、組織としてはよほど大きなCSチームでない限り、パスするタイミングのルールを明確には決めず、柔軟に対応できるよう現場に任せた方がいいんじゃないかと思っています。
HubSpotではパスに関する明確なルールは決めておらず現場の裁量に任されていました。私の場合は、自分に余裕がある場合はLateステージまで自分で行うことを基本としていましたが、以下のような状況になると早めにパスするよう調整していました。
自分のリソースが逼迫していて動けない時
トラブル案件が重なった時、担当顧客が多すぎる時
営業が積極的に動いてくれる時
担当営業の数字が未達の時
営業にパスするリード(MQL)が少ない時
平均単価
エクスパンションの平均単価に関しては、多くの場合「何をアップセル・クロスセルするか?」で概ね決まるんじゃないかなと思います。
基本的なエクスパンションの方向性は以下の3つにまとめられます。

アップグレード
今顧客が享受しているアウトカムは基本的には同じですが、できることが増えるなど拡張される方向性です。現契約サービスの上位プランへのアップグレードが中心となり、拡張オプションサービスも基本的には現契約の延長であることが多いのでこちらに含みました。
現契約での成果がある程度出ている(もしくは見通しが立っている)状態が前提となるので、まずはしっかり現契約のサービスを活用していただくことが優先です。その上で、さらなる成長のお手伝いとしてアップグレードを提案します。
個人的に注意したいのは、上位プランの一部機能だけを使いたいからアップグレードしたいというケースです。多くの場合、こういった顧客は上位プランを使う準備や体制がまだできていないです。なので、その機能が必要なくなるとダウングレードしますし、それ以外の活用アプローチもかなり限定的になります。担当者ももったいないから頑張って使おうとしてくれる場合でも難しいケースがほとんどです。
それでもアップグレードをすべきかは顧客としっかり議論した方がいいでしょう。
クロスセル
現契約サービスとは別のサービスや製品を提供することを指します。この場合、顧客は今までとは違う新しいアウトカムを期待しています。
クロスセルは今までとは違うステークホルダーが絡んでくるケースが多いです。そのためより深く顧客内で活用が浸透し、チャーンの可能性が低くなるで是非取り組みたいところです。
ただし場合によっては、全く違う部署のステークホルダーとの会話が必要となり、日々のCS活動では関係構築が難しいことも多くあります。その場合は、営業と連携しながら関係構築の拡張をしていきましょう。
クロスセルは必ずしも現契約サービスのアウトカムと
できるだけ、現契約のアウトカムと親和性が高いサービスから提案していくのがセオリーです。
例えば、HubSpotの場合で現契約がMarketing Hub(リード管理などマーケティング活動に関する製品)だとすると、Sales Hub(案件管理など営業活動に関する製品)が定番アプローチとなります。マーケティング部が有効リードを獲得し、それを営業に引継ぎ、案件管理をしていくという顧客獲得プロセスがつながっており、それぞれのアウトカムも正の相関になっているため非常に提案がスムーズにいきます。
従量アップ / 超過
現在利用中のキャパシティ増量が主な内容になります。HubSpotだとマーケティングコンタクト数や有料ユーザーシート数など。サービスや契約によって、シンプルな従量課金や超過量など様々ありますが、基本的は契約で決められた量を超えての利用になります。
経験上、従量アップはコントロールしにくく、且つエクスパンションしたとしても金額的インパクトはそれほど多くない印象です。
逆に、大きな金額の従量アップ(特に超過の場合)になると、顧客社内で急に特別予算の稟議が発生するので、そもそものサービス利用価値の疑いが大きくなるため注意が必要です。
CSQL数でお話した「顧客が今提供しているサービス全部を全て最上位プランで導入したらどんな世界になるか?」は、上記3つの軸が最大になった状態とも言えます。
まとめ
エクスパンションは「やみくもにアップセルを狙う活動」ではなく、 いかにCSQLを増やすか・どうクローズに近づけるか・何を提案するかという3つの要素に分解して考えることで、組織だけでなく担当者としてもやるべきことを明確にすることができます。
CSQL数を増やす
顧客ごとのポテンシャルを可視化し、「まだこの領域で貢献できる」と確信を持てる状態を作ることが出発点です。クローズ率を高める
いつ営業にパスするのかを柔軟に調整し、自分の状況と営業の状況を踏まえて最適化していくことが安定した成果につながります。平均単価を意識する
アップグレード・クロスセル・従量アップの3方向性を理解し、顧客のアウトカムと親和性の高い提案から着実に取り組むことが重要です。
CSMが直接売上を生む役割を担うことに不安を感じる人は多いですが、「収益を上げる」という指標を前にしても、やるべきことは結局のところ顧客の成果を正しく捉え、その可能性を広げていくことに尽きます。
エクスパンションは単なる数字の積み上げではなく、顧客のアウトカム実現を軸に置くことで自然と成果につながる活動です。まずは顧客ポテンシャルのリスト化や、営業とのパスの仕方を見直すなど、小さな一歩から始めてみてください。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
別の機会に今度は組織としてのエクスパンションについて書いてみようと思います。
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