記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

DEKALOG デカローグ ⑤ ある殺人に関する物語

第五話『ある殺人に関する物語』

Krzysztof Kieślowski's DEKALOG

ある青年の理由なき殺人と、国家による合法的殺人(死刑執行)を対比させて描いた衝撃作。のちに劇場用長編『殺人に関する短いフィルム』として再編集され、国際的に高い評価を得た。
注:残酷な描写があるのでご注意ください

ヤツェック・ワザル(ミロスラフ・バカ):田舎から出てきた、ワルシャワの街を目的なくぶらつく孤独な青年

ワルデマル・リコフスキ(ヤン・テサシュ):意地の悪い、自己中心的な、中年タクシードライバー

ピョートル・バリツキ(クシシュトフ・グロビシュ):司法試験に合格したばかりの、正義感と死刑廃止論を胸に抱く新米弁護士

ピョートル・バリツキ(クシシュトフ・グロビシュ)

ネタバレありで詳しいストーリー紹介

法は自然の法則を真似ずに、改良すべきだ。

法は人間どうしの関係を、規制するため作られている。

我々の生き方そのものが法で、その効力を守ったり、犯したりする。

人間は自由だ。だが、その自由は、他者の自由に制限されている。

刑罰は復讐である。特に犯罪の防止ではなく、犯罪人を傷つける時は…

法が復讐するとは何事か。無垢なる者の代わりに?
法を作った者は無垢なのか?

公営団地、ワルデマルがバケツを両手に持って歩いていると、すぐ目の前に、雑巾が落ちてくる。ゴミ置き場へ持っていくと、作業員は「その雑巾を捨てるの? まだ使えるでしょ」と言う。「誰かが上から落としたんだよ」「当たった?」「いや。見たことない?」

広場から案内板を見て、映画館へ入る若者ヤツェック。髪を整えている受付の女性に「面白い映画?」と聞く。「退屈よ。恋愛ものだけど、どっちにしろ上映は午後から」髪を触り続ける。「何してるの?」「白髪抜きよ」「この辺のタクシー乗場はどこ?」「王宮広場よ」

ワルデマル・リコフスキ(ヤン・テサシュ)

ワルデマルは、タクシーの前にバケツを置き、フロントウィンドウに水をかける。内側に赤いサタンの面がぶら下がる。

ピョートルか面接に呼ばれ、テーブルへつく。「飲みたまえ」とピョートルにカップが出される。「答え方は分かるのに、悩みます。今まで二回出題された質問。大学入試の面接では簡単に答えましたが、ここで4年間働くうちに、自信がなくなりました」

路地を歩くヤツェック。二人の男が一人の男を追いかけ、行き止まりで捕まえ、暴力を振るっていた。しばらくそれを見ていたが、無関心そうに、また歩き出す。

タクシーを洗うワルデマル。横のトラックが少し前方へ移動し停まる。「奥さん荷物だよ」「べアタ、早く下ろして」荷物を下ろす若い女性べアタ。彼女のミニスカートと足をじっと見るワルデマル。タバコに火をつける。

ストリートから広場へ。少女の似顔絵を描く男。ヤツェックは絵をじっと見る。1枚どうだと聞かれ首をふり、王宮広場はどこか聞くと、「まっすぐ行った所だ」と言われる。

ピョートル。「弁護士という職業なら、この巨大な司法機構が犯す過ちを正す事ができる。少なくとも努力できる。そして、最も魅力的な点は、他の職業に就いていたら、会えないような人達と会い、理解できるという事です」

タバコを吸いながら、人が並ぶタクシー乗場をじっと見るヤツェック。「あっち行きな! 私の鳩が怯えるだろ」と老婆に言われ、彼女の方へ歩いて行き、急に走り出し、鳩を追い払う。老婆が「このゴロツキ!」と叫ぶ。高架の上から、下の道路のトラムや自動車を見下ろすヤツェック。腕の隙間から、反対方向のタクシー乗場をまた見ている。手すりに置いてあった拳大の石を見て、手に取り、下の走行中の車へ転がり落とす。ガラスが割れる音、ブレーキ音、クラクションが聞こえる。

タクシーを拭くワルデマル。カップルが乗れるか声をかける。「洗車中だ」「寒くても待つわ」と、二人は風を避け、前方のショップの影に移動する。

ピョートル。「どんな人にでも、自分がする事に意味があるのか考えます。でも、それがだんだん難しくなる。自分の行動の意味や考えさえも疑うようになってくる。基準や、もっと言えば、価値まで失ってくる」

タクシーの中を掃除するワルデマル。その横へ走ってくるべアタ。「すみません。店長が計算を間違えました」と客の女性に言って、靴を直す。ワルデマルが「ドライブでもしないか」とべアタを誘う。彼女は笑って黙ったまま立ち去る。「待ってくれ」と先ほどのカップルの男が走ってきて叫ぶが、ワルデマルのタクシーは走り出して、行ってしまう。

ヤツェックは写真館の少女の写真をじっと見て、店に入る。受付の女性が「何でしょう」と言う。彼はカバンからロープや金属の棒を出す。「内装工事の方?」「違う。この写真を引き延ばせるかな」と妹の写真を手渡す。「折り目は残るけど」「構わないよ」「待ってて」「ところで、写真を見れば、写ってる人の生死が分かるって本当?」「くだらない噂話だわ」

ピョートル。「一般的に犯罪の予防策となるのは、受刑者を通じて行う、人々への感化です。つまり、恐怖を抑止力とする。刑法第50条にも明記されています」「皮肉な言い方は好まん。防止策は ?」「厳罰を正当化するには疑わしい。不当です」

道端の犬にサンドウィッチを投げてやるワルデマル。

公衆トイレ。ヤツェックが用を足していると、近くへ労務者風の男が来て、用を足す。ヤツェックが顔を向けると、男は笑顔を向ける。ヤツェックは離れる際、男を片手で下の溝へ突き飛ばし、トイレから出ていく。

トラムの停留所から、タクシー乗場をじっと見るヤツェック。見回りの警官が歩いてくる。彼は売店へ行く。「紅茶は」「ありません」「何があるの」「コーヒーとケーキ類よ」「じゃあ両方。シュークリームで。それじゃない。そっちの!」

ピョートル。「カインの昔から刑罰では人は変わらないし、犯罪を抑止する力とはなりません」

シュークリームを食べ、警官を見るヤツェック。警察のバンが来て、警官を乗せて行く。彼はカバンからロープを取り出し、左手にゆっくり巻きつける。

タクシーから外の小型犬二匹を連れた男をじっと見ていたワルデマル。近くに来ると激しくクラクションを鳴らす。驚いた犬の一匹が走って逃げ去る。「マッジオ、マッジオ!」と犬を呼ぶ男性。それを見て笑うワルデマル。

店の外の少女二人を目にし、ロープを手に巻くのをやめるヤツェック。ロープはカバンへしまい、スプーンでクリームをガラスへ飛ばし、少女たちの気を引く。少女たちと笑い合うヤツェック。だが、すぐに少女たちは行ってしまう。

ヤツェック・ワザル(ミロスラフ・バカ)

「合格したことを喜びを持って伝えよう。四年の修習生活を終え、今日から君は我々の同僚だ」と言われるピョートル。

またロープを左手に巻いているヤツェック。洗い場にあった瓶の水を飲み、ケーキのついたナイフのケーキを拭き取る。

タクシー乗場の前に停まるワルデマル。向こうから泥酔者とツレが近づくと、乗車拒否し、車を走らせ行ってしまう。

ナイフでロープを切るヤツェック。残りのロープはカバンへ入れ、店を立ち去り、タクシー乗場へ来る。後から二人男が来る。「失礼。モコトゥフ区へは?」 首を振るヤツェック。「ヴォラだ」「急用なんですが」と言われるが、無視してタクシーへ乗込むヤツェック。「モコトゥフへ」「あの男の行き先は?」とワルデマルが聞く。「ヴォラだ」

道路の計測をしている名前のない作業員(アルテュル・バルシス/超自然的存在。鍵となる瞬間、主人公を観察し、手出しせず、自由に行動させる)と目が合うヤツェック。作業員は軽く首を降っていた。

「窓を閉めてくれ。寒い」 少し窓を閉めるワルデマル。左手に巻いたロープを見るヤツェック。ブレーキ。横断歩道で、子供の一団を引率する女性に笑顔で、通るようジェスチャーするワルデマル。「この先を左で」「まっすぐでも行けるよ」「曲がってくれ」「了解」 右手へもロープを巻き出すヤツェック。「そこで停めてくれ」「先へは行けない。行こうとも思わない」 おもむろに、ロープでワルデマルの首を狙うヤツェック。

タクシーがゆっくり停まる。土手の上、自転車がゆっくりと通り過ぎる。

苦しむワルデマルはクラクションを鳴らす。ヘッドレストにヒモを括り、ドアから出るヤツェック。近くにいた馬がこちらを見る。クラクションが鳴っている。カバンをルーフに置き、助手席に入り、棒でワルデマルの手を殴り、クラクションを止めさせる。汽笛を鳴らし汽車が通り過ぎる。ヘッドレストを抜こうとするワルデマル。棒で殴るヤツェック。血まみれのワルデマルの顔を見て「ひどい」と言う。ヤツェックは車の後から布を取ってきて、ワルデマルの顔に巻きつけ、助手席に移動させる。助手席のドアが開いたまま、車をしばらく走らせ停める。ワルデマルを引きずり下ろし、そのまま土手を降り、河岸へ降りる。まだ息のあるワルデマルは「ダッシュボード … 金 … 女房 … 金 … 渡して」 と言う。大きな石を持って来たヤツェック。振り上げるが、「頼む」と聞き、一瞬手を止めるが、やはり手を下ろす。

タクシー表示のついたフレームを川へ投げ込み、ダッシュボードから何がポケットへ入れ、そこにあったサンドウィッチを食べる。サタンの面を揺らし笑うヤツェック。ラジオをつけると歌が流れる。「勇敢な金色の ライオンの話 日を追うごとに 強くなる 大きなライオンは いつも彼に話す ライオンの心を持つんだぞと」 ヤツェックはラジオを引き抜き、外へ投げ捨てる。

ヤツェックの裁判で国選弁護人を任されたのは、これが初めての大きな仕事となるピョートル。「これにて閉廷」「これで終わりですか、先生?」とヤツェックが聞く。「そうだよ」と答えるピョートル。

妻に電話をかけるピョートル。「僕だよ。負けた。完敗だ。少し歩くよ。いや。来なくていい。君はどう? 眠れた? 良かった。じゃ後で」

窓から地上のヤツェックへ呼びかけるピョートル。「ちょっと! ヤツェック!」と手を振る。が、すぐに移動用トラックへ刑務官と乗り込む。

「裁判長殿。無作法は承知してます」「確かに。そうだな」「全て終わったので、お聞きしたいのですが。もし弁護士が私でなく、もっとベテランで大物だったら、どうなったでしょう」「変わらんよ」「つまり言いたいのは、口頭弁論が … 」「いや、死刑に対する君の弁論は、最近耳にした中では、出色の出来栄えだ。誰がやってもあの判決だった。法律家としても、人間としても、間違ってない。こんな形での出会いだが、君と知り合えて嬉しいよ」「どうも」「もっと優秀な判事が裁くべきだったろう。全ては私の責任だと考えれば、気も楽になるだろ」「まさか。でも、彼が話していたあのカフェ。彼が手にロープを巻き付けていた場所。あのカフェに私もいたんです。まさにあの時間。1年前弁護士になった日。何かできたはずだ」「君は繊細すぎて、この職には向かんかもしれんな」「いまさら引き返せません」「今日の事で、君も少しは年をとったかな」

ヤツェックの家族が居て、少しためらうが、思い切って喫煙所に立ち寄る。無言で煙草を勧められ、受け取るピョートル。

刑務所。「所長がお会いします」と言われ、少し待つピョートル。奥で、作業員が、ハシゴを担ぎ、左の監房から右の監房へ横切る。

死刑執行室に来て、準備する執行官。別の執行官が来て挨拶する。カーテンが動かないと指示する執行官。「掃除しとけ」と機械的に言う。

準備できたと、検事の部屋へ、報告に来る執行官。

刑務官がピョートルを案内する。途中、「先生」と検事に呼び止められる。「これから彼に会います。話があるそうです」「辛い仕事ですな」「全くその通りです。初めてで」「最後だと良いですな」と去りかけ、また振り向き「お会いする機会も少ないので。息子さんがお生まれだそうで」と言う。「ええ、先日です。ありがとうございます」と階下へと進む。ハシゴを担いだ作業員がピョートルを見ながら別の方向へ進むが、やがて立ち止まる。

10号監房を覗き、ドアを開ける刑務官。ピョートルが入っていき、二人は握手する。「母に会いました?」「ああ」「泣いていた?」「泣いていたよ。座ろうか」「できれば、もう一度、母に会ってもらえませんか。終わった後でいいから…」「分かった」「考えてたんです。裁判所で車に乗る前、先生が呼んでくれた。ヤツェックと」「確かにそうだ」「もうすぐ21歳。呼ばれた時、涙がこぼれそうだった」「名前を呼ばれる時は、いつも皆は敵意を持ってる」「君のした事に対してだよ」「同じ事です」「君のお母さんに会えばいいんだね?」「ええ。僕を父の墓に埋めるよう伝えてください。三人用の。本当は母のために空けておいた場所です。譲ってくれるか聞いてください」

刑務官が「所長が終わったかときてます」とピョートルへ伝える。「まだだ。続きを」「何の話でした?」「墓には三つ場所があると … 」「そうです。三つ。マリシャと父がいて、一つ空いている。五年前マリシャを埋めました。妹は五年前、うちの村でトラクターにひかれました。六年になったばかりで、死んだ時は12歳。運転してたのは僕の友達で、二人で飲んでた。ワインやウォッカ。彼が妹をはねました。森のはずれ。近くに牧草地がある。… ずっと考えてました。きっと、まだ妹が生きていたら、こうはならなかった。僕も村に残ってました。男兄弟は四人、妹はたった一人。僕を慕ってくれ … 可愛がりました。こうはならなかった。たぶん … 」「そうだな。起こらなかったろう」「ええ。僕もここにはいなかったはずです」

刑務官が「所長と検事殿が、まだかと聞いておりますが」「私からはやめない、と伝えてくれ」「この面会をですか?」「そうだ」

検事の部屋。検事が椅子から立ち上がる。「判決文は?」と検事。「行こうか」

10号監房へ検事たちが来る。「囚人を出せ」と刑務官へ言う。「はい」と、他の刑務官を呼び、7〜8人が待機する。ドアを開ける。「検事殿の命令で終了です」 ピョートルは立ち上がる。ヤツェックは言う。「私物に写真屋の預かり証が入ってます。引き伸ばしを頼んだけど、取りに行けなかった。受け取って母に渡してください」「何の写真だね?」「妹の聖体拝領の時の写真。母から盗んで身につけてました」「出なさい」 ヤツェックは「死にたくない」と言い、連れて行かれる。

外に出ると、「抑えるんだ!」大勢の刑務官達がヤツェックを取り押さえ、連行する。檻のドアが次々と開き、執行室へピョートルを引っ張って行く一団。

執行室。死亡診断書にサインするドクター。一団が入ってくる。聖職者がヤツェックの額を触ると、ヤツェックは聖職者の手を取りキスする。検事が確認する。「姓名は」「ワザル・ヤツェック」「生年月日は」「1967年3月17日」「両親の名前は」「ヤンとウーツィヤ」「判決文。1987年11月27日ポーランド人民共和国は、ここに判決を言い渡す。1987年3月16日、ワルデマル・リコフスキに対する強盗殺人容疑で、ヤツェック・ワザルを審理した結果、ワルシャワ地方裁判所は当該容疑で、被告を有罪と認め、刑法第148条第1項、および44条第2項に基づき、被告人を死刑に処し、公民権を剥奪する旨、宣告した。最高裁は被告の上告を却下、国家評議会は恩赦の請願を却下した。よって刑を執行するものとする」

執行官がタバコをヤツェックに勧める。「吸うか?」「フィルター無しのを」 別の執行官が、自分のタバコに火をつけヤツェックに咥えさせる。皆が見つめる中、震えながらタバコを吸うヤツェック。灰皿が持ってこられ、タバコを消すヤツェック。急に暴れ出すが、すぐ取り押さえられ、大人数の執行官に担がれる。「手を縛れ!」「執行!」目隠しをされ、奥に連れて行かれ、首に縄をかけられるヤツェック。「押さえろ!」

「いいぞ巻き上げろ!」急いで紐を巻き上げる執行官。「もっと、もっと巻け!」 次の瞬間、床が開き、ヤツェックは空中にぶらさがる。少し痙攣し、静かになるヤツェック。ドクターが死亡確認する。下を向くピョートル。

林の中に一つの光が見える。車に乗ったピョートル。「憎い! 憎むぞ! 憎んでやる!」 青年が犯した「個人の殺人」と、法の名のもとに行われる「死刑という国家の殺人」。2つの生々しい処刑プロセスを目の当たりにしたピョートルは、深い無力感に打ちのめされ、車のなかで激しく泣き崩れた。

邦題:デカローグ、原題:Dekalog、英題:The Decalogue
監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
製作:1989年〜1990年
第五話撮影監督:スワヴォミール・イジャック

ポーランドのテレビドラマ・シリーズ。1時間 X 全10話構成。聖書の十戒をモチーフにしている。ポーランドに住む人々が直面する道徳的・倫理的問題が各話で扱われる。各話は独立しているが、大半がワルシャワの公営団地の住人という設定で、人物の何人かはお互いに知り合いである。キャストの多くは有名・無名の俳優で、多くが他のキェシロフスキの作品に出演している。ロジャー・イーバートの解説によると、キェシロフスキは「十戒に正確に即しているわけではなく、十戒に言及したことはない」とされている。

いいなと思ったら応援しよう!

takacova よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!

この記事が参加している募集