映画 『トリコロール/白の愛』 Trois couleurs : Blanc 🌟 対等な関係の奪還
邦題:『トリコロール/白の愛』、原題:Trois couleurs : Blanc
監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ、クシシュトフ・キェシロフスキ
音楽:ズビグニェフ・プレイスネル、公開:1994年、上映時間:91分
「トリコロール」3部作の2作目
ネタバレありのストーリー解説


パリの裁判所。カロル(ズビグニェフ・ザマホフスキ)は入り口の階段で鳩の糞をあびる。

離婚法廷。離婚を希望する具体的理由を聞かれた、カロルの妻フランス人ドミニク(ジュリー・デルピー)は性的不満だと答える。「奥さんの証言は事実ですか?」と聞かれ、ポーランド人のカロルは辿々しいフランス語で答える。「一応は。しかしポーランドで知り合い、パリに来た当時は、妻も性的に満足を。結婚前でしたが。結婚後は私が不能に。肉体関係は無くなりました。一時的ですが。公平はどこに? 仏語ができない者の言い分は認めないと?」「何が言いたい?」「時間をください。もう一度結婚生活を。夫婦の愛情はまだ消えてません。性行為が可能に思えた夜もありました。それでその夜の性行為は?」「いえ…」

結婚式の回想から現実の法廷に戻る。「夫への愛は?」と聞かれ、ドミニクは「現在は愛してません」とはっきり言う。
「おしまいだ」トイレで吐くカロル。

車から夫のスーツケースを下ろすドミニク。「あなたのよ」と手を振り、車で立ち去る。判決はドミニクに有利に下され、カロルは、家も仕事も愛する妻までも失ってしまう。
カードも無効、口座も取引停止、カロルは一文無しとなる。
ポケットにあった鍵で、仕事場だった美容院に入って、寝ていたカロル。ドミニクが来て、彼女は警察へ通報しようとする。鍵を渡すふりをすると妻は電話を置くが、カロルは鍵を飲み込む。だが、それも飲み込んだふりだった。妻に触れ、カロルは愛し合おうとするが、やはりできなかった。ドミニクは冷たく「役立たず」と言う。「ごめんよ。一緒にポーランドに…」「行く気なんかない。裁判は私が勝つ。離婚なのよ。分からない?」「分かるさ」「いえ。私が愛してると言っても、嫌いだと言っても通じない。抱いてと言っても、あなたが必要だと言っても。私が怖い?」「分からない」「そう。よく見て」ドミニクはカーテンに火をつける。「あなたは腹いせに美容院に放火。指名手配されるわよ」カロルは店を出る。

カロルは、ある店で人形を見つめ、そこに妻の面影を見る。

地下鉄のホームで紙笛を吹くカロル。ミコワイ(ヤヌシュ・ガヨス)が金を入れ、「チャックが開いてるぞ」と言う。「どうも」「ポーランド人か? 俺もだ。今の歌は知ってる」トランクの中の丸めた紙を見る「これは?」「表彰状」「美容師か。いい商売だ」「コンテストで優勝した。ブダペスト、ワルシャワ、パリでも」「俺はミコワイ。付き合うよ」とホームのベンチへ座る。カロルにトランプを引かせ、引き当てたカードをすべて言い当てる。「ブリッジは記憶力の勝負。俺の商売さ。パリで勝負して国に帰るところだ。お前さんはどうするんだ?」「俺もパリを出たい」「明日の朝、出してやるよ」「そいつは無理だ。パスポートも金もない。それに警察に追われる身だ。出国なんて…」
ミコワイの髪を切りながら、カロルは「闇で偽造パスポートを手に入れるさ」と言う。「いい仕事がある。ある男に頼んだが、前金を持ち逃げされた。興味あるか? 金になるが、やばい仕事」「美容師にできるのか?」「殺人だ。あるポーランド人が人生に絶望して死にたがってる。報酬ははずむ」「それだけは勘弁だ。自殺すればいいのでは?」「妻と子供がいる。その束縛から解放されたがっている。妻子が心配か? そこまで考えるな」「家族や金があるのになぜ死にたがる? 贅沢だ。僕は妻にトランクごと放り出された。まだ愛してる。今まで以上に。たとえ捨てられても」「美人か?」「天使だ。美容師コンテストで出会った。彼女は僕を見つめてた。僕は優勝。見せてやる」「どこへ?」「来いよ」

地上、ポスターの方を指差す。「ブリジット・バルドー? もう婆さんだ」「窓だよ。寝る時間だ」「どうかな」カロルはドミニクに電話するが、ドミニクは「聞いて」と、他の男との行為の激しい喘ぎ声を聞かせる。腹が立ったカロルは、電話を切り、窓口へ行き、「電話が2フラン食った」と激しく凄み、2フラン硬貨を返してもらう。
ミコワイに「ポーランドに連れて行ってくれ」と言うカロル。「方法は?」「トランクだ」と中に入り、空気穴を開ける。「4時間も持つか?」「なんとか。盗難が心配だが」

ポーランドの空港。「トランクが出てこない」とミコワイが係員に言う。搭乗券を見せる。中身はと聞かれ「衣類とか身の回りの品だ」「75キロも?」「実は友人が中に…」
青いトラック、盗難者たち4人の男がスーツケースを下ろす。「5個のうち2個は俺のもんだぞ」一番大きなスーツケースを開けるとカロルが出てくる。「なんだ、男だぞ。有金を巻き上げろ」「2セントしか持ってない」と殴られ、放り出される。
カロルは壊された人形を見る。「主よ、故郷に戻れました」
なんとか兄イェジの美容院にたどり着くカロル。「おかえり。よく戻ったな。何があった?」と驚く兄「店にネオンが付いたのか?」「自由化の波さ」「クリスマスに一足遅れたな」
「弟さんのカロルが戻ったの?」と客に聞かれる兄。「お客が会いたがってる」とカロルに言うが、「今度にする」とスープも飲まない。「ぐっすり寝ろ」と兄は心配する。

カロルは人形を修復する。
河原へ行き、持って来た2セントコインを投げ捨てようとする。が、ためらい、手の平に貼りついて、逆さにしても落ちないコインを見つめ、握りしめて、何事か決意したような表情を見せる。
そこからカロルは再起を始める。兄の理髪店を手伝い、彼は冷酷な現実を受け入れる。店の途中「時間だ」とカロルは出かける用意。「両替屋へ行ってくる」「予約客がある。お前をご指名だ」と兄。
カロルは両替屋のボスに会う。「ヤドヴィガ夫人に紹介されて来た」「両替屋で働かせてくれ。美容師は見通しが暗いんだ」「その通りだな。上手い手口でパリから戻ったとか聞いたぞ。冴えないツラだな。まずは用心棒として働け」とピストルを渡される。「タマは入ってない。見回ってこい」と言われる。
フランス語の勉強をするカロル。「複合過去。私は食べた。彼は食べた。我々は食べた。あなたは食べた。彼らは食べた」カロルは人形にゆっくりと近づき、キスをする。
「ガスマスクはいらんか」と屋台の男。両替屋の周りを見回るカロル。「変な男が居る」と報告に行く。ボスは「盾になれ。前に立て」カロルに命じる。
「この家は気に入ったか?」と聞く兄。「ああ。なぜ?」「好きなだけいろ。だが一つだけ条件がある」「金か?」「いや。得意客の髪を毎週10人でどうだ?」「5人だ」「じゃあ7人。そういえば、お前に会いに来た男がいたぞ。40がらみの悲しげな顔の男」「ミコワイか。俺を運んだ男だ」「お前が無事で喜んでたぞ」「電話番号は?」「聞いてない。よろしくと言って帰った」
ベンツで移動する両替屋たち3人。カロルは後ろの席で寝ているが、ボスたちの話を聞いていた。「グダニスクで両替したゼニを頭金に、ローンを組む」「そこを左。その道だ」「金利は7%、3倍の儲けだ」
ベンツが止まる。寝ているカロルを見て、車から二人降りる。「この土地だ」「連中は倉庫にしたがってる」「まだ我々の計画に気づいてない。あんたの取り分は30%でどうだ?」「いいだろう」「決まりだ」と握手する。カロルは寝たふりをして話を聞いていた。車を叩き「起きろボケナス!」とボス。
カロルは、現時点の全財産をドルに両替する。
酒屋で上等のウォッカを買い、郊外の一軒家へ向かうカロル。ウォッカを出し、男と土地の話をする。「この土地を手放せと?」「息子がいるだろ。一緒に暮らせ。車もテレビも買える」「興味ないね。クソくだらんが。待て。ゼニも悪かないか。ツボに隠すとか」「そうさ。それがいい。1000ドルある。前金だ。残りは交渉人を通して渡す」男はサインする。「じゃ帰る。終電に乗るから」「こんな夜更けに? 物取りに襲われるぞ。泊まってけ。上にベッドがある。遠慮するな」
朝。男は外で木の杭を打ち込んでいた。2階で身支度するカロル。
電話ボックス。電話帳を調べるカロル。その1ページを破き、持ち帰る。
カロルはミコワイを探し出して、再会する。「しばらくだな。無事か?」「君のおかげで命拾いしたよ」「君の兄さんに聞いた。会いたかった」「僕もだ。前に死にたがってる男の話をしたろ? 彼と連絡を取りたい」「いいとも」「僕でよければ手助けしたいんだ」「男はワルシャワだ」「心変わりは?」「いや、前よりも死を望んでる」
コインを回転させて、手のひらで押さえて止めるカロル。

地下鉄のホーム。カロルは線路を歩く。ミコワイが突然現れ、驚くカロル。「何だ。変更か?」「いや。俺が本人なんだ。怖いか?」「いや」「武器は?」カロルはピストルを見せる。「報酬はポケットに入ってる。殺せよ」ミコワイはカロルの右手を引っ張り自分の胸へ当てさせる。カロルが「いくぞ」と言うと、ミコワイはうなずき目を閉じる。銃声。カロルの腕に倒れ込むミコワイ。
「今のは空砲だ。次は実弾だぞ。いいか? いいのか?」ミコワイはゆっくりと首を振る。「もう十分だ」「なぜ死にたがる? ミコワイ、人生は苦難だ」「死ねば苦しみは消える。約束の金だ」封筒でカロルの頭を叩き「受け取れ。君の勝ちだ」「勝ちか。借りておく。一杯やるか?」とカロルは笑う。
凍った池を滑り、走るミコワイとカロル。倒れて笑う。「晴れやかな気分だ」「僕もだ」「生まれ変わった。あー!」と叫ぶミコワイ。
地図を見て、貼り合わせるカロル。
激しいノックで起こされるカロル。「よくも出し抜いてくれたな。お前、盗み聞きしたな」とボスたちが来る。「命だけは助けてやる。話し合いだ。土地を売れ」「10倍の5万ドルなら売ってやる。地図を見ろ。まだ飛地が残ってる。白樺の森で素晴らしい眺めだ。売値は10倍と言ったろ。契約書や必要書類は全て揃ってる。損はない」「買おう。商売人だな」「金が必要なんだ」
ミコワイと会う。「事務所を開く。資金の30%は君から借りた金だ。君が共同経営者になってくれ」「本気か?車はボルボか」「会社の経費で落とす」「考えさせてくれ」ボルボに乗りかけ、葬儀に気づき、運ばれる棺桶をじっと見るカロル。

かつては屈辱を味わったが、資本主義へ急変するポーランドのバブルの波に乗り、事務所から大きな会社へ、バナナ、家電、不動産、手広く商売を拡大していくカロル。わずか数年で彼は大富豪へ成り上がる。だが彼の心は、過去に囚われたままだった。ドミニクの夢でうなされ、起きる。
ある日カロルはドミニクに電話をかける。「カロルだ。ワルシャワにいる。君の声を聞きたくて、何か言ってくれ」しかし、電話は切れる。
カロルは入念な計画を立てる。彼の目的は「自分を捨てたドミニクへの「復讐」と、彼女の愛を再び手に入れ「対等(平等)な関係」になること。「前に書いた遺言状を改める。私が死亡した場合、全財産と所有地、そしてすべての預金を銀行を通して、前妻ドミニク・ヴィダルに譲渡する」

ミコワイと会うカロル。「なぜ呼び出した」「事務所だと聞かれる恐れがある」「誰に?」「悪魔に。頼みがある。新聞に僕の死亡記事を載せたい。哀悼文を書いてくれ」「いいとも」「遺言状を書いた。執行人になってくれ。受取人だ」「彼女をパリから呼ぶのか」「ドミニクは来る。財産を譲るんだ」「パスポートがいるな」
運転手が役所で身分証の処理をし、死亡証明書の手続きを済ます。車のカロルへそれを渡す運転手。「手続き完了です」「さて、次は埋葬用の遺体だ」「死体を?まさか殺すんじゃ」「違う」「地獄の沙汰も金次第。手に入れますよ」「できるか?」「東側の外国人で良ければ」
棺桶を覗き込むカロル。「うってつけの死体です。見分けがつかない。路面電車に轢かれ頭が砕けてます」「もういい。ご苦労」カロルは、2セントコインを棺桶の中へ放り込む。
資料を処分するカロル。ミコワイが現れる。「脅かすな」「何をビクついている。計画は続行か? パスポート、香港行きのチケットと隠れ家の住所。家を借りてある。決心は?」「ああ」「飛行機に乗り遅れるな。10時に警察へ通報する。警察は30分後にホテルへ到着。その頃お前は機上の人だ。簡単だ」「そうだな」「じゃあ元気でな」
自分の葬儀を隠れて見るカロル。笑顔でドミニクを見ていた。ドミニクは涙を流している。

ホテルへ戻るドミニク。ベッドルームの明かりをつけると、ベッドに裸でいるカロル。驚くドミニク。「来てくれたな。来ると信じてたよ。墓で泣いてたね。なぜだ?」「あなたが死んだからよ」カロルは手を伸ばし「君の手を」とドミニクを呼ぶ。座るドミニクに膝枕するカロル。「こうするのをずっと夢見てた」キスして、愛し合う二人。

「電話の声より激しかったな」「そうね。わたしを見つめて」
受話器を外し、寝ているドミニクを見るカロル。時間を確かめ、部屋を出る。
ドミニクが起き、カロルがいない事に気付く。ドミニクはミコワイの名刺を探し会社へ電話する。「ミコワイを。ドミニクよ。カロルは?」「死んだ」「生きてるわ」「葬儀に出たろ」「何かの間違いよ。生きてるわ」「死んだ」「彼を捜すわ。愛してるの」「彼は墓に眠ってる。墓地番号は23-10675。ポヴォンスコフスキ墓地だ」「戻ったわ」「違う」「じゃ切るわ」
部屋に警察が来る。「ドミニクさん? 警察だ。パスポートを見せて」「何なの?」「フロントに電話して」「234室よ。パスポートを持ってきて」「捜査令状がある。服を着て。領事館員が来るまでは尋問を拒否できる」「秘密はないわ。何が望み?」「遺言状を受け取りましたね。大金が手に入った。ご主人の死因は不自然。他殺だ。その日あなたはこの国にいた。入国のスタンプがある」「カロルは生きてるわ」「では昨日行われた葬儀は?」「夫のよ」「生きてると?」「…いえ」
結婚式の回想。櫛を持つカロルに兄が言う。「窓に近寄るな。人に見られるぞ。笑いを堪えて、お前の遺体を確認したよ。ミコワイは吐いちまったな。弁護士が言ってたぞ。トンネルの先に光が、って」兄の家を出るカロル。

刑務所。双眼鏡で窓を見る。鉄格子の向こうで、ドミニクはカロルを見つめ、手話でメッセージを伝える。カロルは涙を流し、微笑む。
終

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