映画 『美しき運命の傷痕』 キェシロフスキ神曲三部作 🌟 地獄編 L’Enfer

邦題:『美しき運命の傷痕』、原題:L’Enfer
監督:ダニス・タノヴィッチ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
音楽:ダスコ・セグヴィッチ、公開:2005年、上映時間:102分
クシシュトフ・キェシロフスキが、ダンテの『神曲』(地獄篇 Inferno・煉獄篇 Purgatorio・天国篇 Paradiso)に着想を得て構想した「神曲三部作」(地獄 煉獄 天国 トリロジー)の地獄編。仏・伊・ベルギー・日本合作のドラマ映画。キェシロフスキ監督の遺稿をダニス・タノヴィッチ監督が映画化。原題 L'Enfer(ランフェール)は、フランス語で「地獄」という意味。邦題はなんでこうなったのだろうか?『インフェルノ』は使われすぎだからか。全体的にトーンが暗く、話が見えづらい。キェシロフスキ監督映画とはカラーが違って、シンプルでなく、意味の無い過剰な要素が多い印象。監督が違うとやっぱり、別の世界になってしまうのかなぁ。
少女時代、父親がある罪で逮捕され、出所後に目の前で飛び降り自殺した、という過去のトラウマのせいで、三姉妹はそれぞれ歪んだ愛を求める。
愛への強い執着と嫉妬:長女ソフィ(エマニュエル・ベアール):二人の子供(娘クレールと息子フィリップ)を持つ主婦。夫の写真家ピエール(ジャック・ガンブラン)の浮気に、激しい被害妄想と嫉妬心を抱く。持ち物を執拗にチェックし、尾行を繰り返す。完璧な家庭を築こうとするあまり、自分自身を精神的地獄へ追い詰めていく。
孤独と過去への囚われ:次女セリーヌ(カリン・ヴィアール):独身。心を閉ざし周囲との関わりを避けて生きる。言葉を失い車椅子生活となった母(キャロル・ブーケ)を一人献身的に介護する。見知らぬ青年セバスチャン(ギヨーム・カネ)からアプローチを受け、彼女の心が揺れ動き始める。
不倫と父親の影を追う愛:三女アンヌ(マリー・ジラン):ソルボンヌ大学の学生。大学教授フレデリック・バッシュ(ジャック・ペラン)との泥沼の不倫関係に溺れる。「父親のような眼差し」と「男としての愛」の境界で激しく葛藤し、妊娠する。泥沼の愛欲から抜け出せず苦しむ。

ネタバレありで、詳しいストーリー紹介
五歳のセリーヌと母。父の大学へ来ていた。走っていったセリーヌが、先に父の研究室へ入ると、全裸の少年を前に、こちらを見る父親がいた。少年もセリーヌを見るが、母のマリーはセリーヌの目を手で覆った。
万華鏡のようなオープニング。オオヨシキリの巣。カッコウが托卵する映像。早く孵るカッコウの雛は、他の卵を巣から押し出して落とす。最後の卵を押し出す際、雛自身が落ちてしまい、元の卵が一つ残された。
刑務所から出所した父アントワーヌ(ミキ・マノイロヴィッチ)。彼は落ちていた雛に気付き、手ですくって巣へ戻してやる。ほどなく、卵が落ち、割れる音がする。

列車で寝ているセリーヌ。車掌が彼女を見る。五歳で父に自殺され、母に育てられた三姉妹の次女。不眠症で、老人ホームへの往復の長距離列車でだけは熟睡でき、それが訪問の理由でもあった。郊外の老人ホームで車椅子の生活を送る母マリーは、耳は聞こえるが一切話さなくなり、気難しい老人になっていた。セリーヌは、母の車椅子を押し公園を散歩する。ベンチで万華鏡を見る男性利用者ルイ(ジャン・ロシュフォール)に声をかける。「一人なの?」「僕は運がいいな。お母さんは順調かい?」セリーヌは「ええ」と答える。母はルイをにらみつける。「君も?」「ええ。とても」「そう。何よりだね」
チョコを割って、ギネスブック2005を音読するセリーヌ。「人喰いの風習。19世紀で最も有名な人喰い、ラトゥ・ウドレ・ウドレは872人〜999人食べたと言われる。このフィジーの族長は食べた人数の石をビチ・レブ島(フィジーの主島。かつて儀式的食人・カニバリズムの風習が存在し、19世紀までヨーロッパ人から人食い諸島と恐れられていた)の墓の周りに敷き詰めさせた」母は数字パズルをしていた。
雨。ホテルの前に、長女ソフィの車。イヤリングを外し、そしてホテルへ入り、フロントへ聞く。「一昨日の夜に来たんだけど、名前はジャケ」「確かに来られてます」「イヤリングを置き忘れたみたい。想い出の品なの」「何号室?」「下の方。四階か三階?」「214号室ですね。忘れ物はなかったようですが」「そう。どうも」「お待ちを。レストランにこれが」とライターを見せる。「主人のだわ。結婚記念日31-05-96が彫ってあるはず」とライターを受け取る。「これも想い出の品ですね」「ええ、素敵な想い出」
部屋でライターを点けたり消したりするソフィ。電話をとる。「セリーヌはいます?」「妹はとっくに引越したわ」「どこにいるかご存知?」「見当もつかない。よく母に会いに行ってたけど」「誰か知ってそうな人は?」「さぁ。妹のアンヌなら住所を知ってるかも … 」

三女アンヌが電話をとる。「フレデリックなの?」「いいえ。僕はセバスチャン。お姉さんのセリーヌを捜してる。住所を知りたくて」 アンヌは洗濯物を取り入れる。「正確には知らないけど、確かロシャンボー街14 … 16番地かしら、一度しか行ってないから」「ご親切にどうも」電話は切れる。今度はアンヌが電話をかける。「フレデリック?…」とすぐ切る。
ソフィが起きる。夫ピエールは電話中。そっと近づくソフィに気付くと「よく眠れた? 見ろよ。植物を捨てる奴がいるとは。まだ生きてるのに」拾ってきて窓辺に置いた、大きな観葉植物に水をスプレーし、ソフィにキスする。だが、ソフィは無表情で無言。「今夜は遅くなる」と言って出ていくピエール。ソフィはリダイヤルし、女性の声を聞くと受話器を置く。窓から、地上で大型バイクに乗るピエールを見る。ソフィは無表情のまま、観葉植物の葉をそっと触る。
パンを2本持ったセリーヌは、いつものマーケットのキオスクで新聞2誌を受け取る。セリーヌが新聞記事を見ながら歩いていると、横から男が「奇妙ですね。同じ市民が死ぬのに、空爆とテロの違いは?」と呼びかける。セリーヌは「やめてください」と走り去る。男はアパートの表から、螺旋階段を登る彼女をじっと見て、部屋を確かめ去っていく。
「おはよう」と近所のおばさんに、パンと新聞をひとつづつ渡すセリーヌ。「すまないねセリーヌ」セリーヌは部屋へ帰ると、向かいのカフェにさっきの男がいるのを見る。

ベッドで電話するアンヌ。「私よ。今話せる?」「もう電話しないでくれ」とフレデリック教授が言う。「何ですって?」「かけないでくれ」と切られる。
ソフィは、夫ピエールのスタジオへこっそりと忍び込む。現像室へ入りぶら下がった写真を見る。物音をさせ、ピエールが入ってくる。「何してる?」「別に。迎えに来たの」「子供たちは?」「寝てるわ」「そうか … 帰ろう」
セリーヌはスクーターで帰ってくると、向かいのカフェで、じっと自分を見ている朝の男に気付く。店に入り男に話しかける。「わたしに用?」「聞いて」と男は詩を読む。「生きながら我慢しながら、僕の心は青ざめ色褪せる。昔の自分を影が追う。我慢しながら生きながら、捜したが見つからない。昔の自分が今の自分が。昔と違う、今と違う自分が。捜したが見つからない。さまよいながら夢見ながら。夜に滅ぼされ、昼に助けられる。日々は失せ、人生は短くなる。夢見ながらさまよいながら。希望を胸に、期待を胸に。人生を夢見る。夢見心地に。心を隠す自分を非難する。生きる気力もなく、夢見ているから。希望を胸に、期待を胸に」「素敵な詩だわ」と言って席に座る。男も座る。セリーヌは「今朝はすいません。驚いたので … 」と言う。「謝らないで、セリーヌ」「なぜ私の名前を知ってるの?」「悪いけど列車の時間があるので」と男は急に立ち去る。
ピエールは飾られている女性(愛人のジュリー)の写真に気付き、それを持ってソフィに聞く。「これは?」「スタジオからとってきたの」「なぜ?」「分からない?」「クライアントだぞ」「美人ね。とても綺麗。手を切って」「誰と?」「切って」「何の話か分からん」「ウソはやめて」
セリーヌは列車でまた寝ている。それを車掌が見る。
アンヌが講堂へ入る。フレデリック教授の講義。「200年前、合理主義者は運命に代わるものを見つけた。神と理性が等価値の世界で、運命は存在し得ない。そこで彼らは、不可解だが現実に起こる出来事に説明をつけた。それが、偶然という概念だ。私は古めかしくとも、不可解な出来事は、運命と捉える方が好きだ。その方が品がある。別の言い方をすれば、運命とは約束されたモノ。偶然とは純粋に確率の問題でしかない。私は死でも受け入れよう。意味ある総体の一部をなすか、世界の全てを記した書物に書かれてあるならば、それこそ運命に導かれた死となる。だが、ベランダから落ちた鉢に当たって死ぬような偶然は、愚かな死と言える。知性や意味を何も感じぬ死だろう。運命こそ好ましい。美的に考えても、偶然より何倍も美しい死だ。運命は言葉で書けるが、偶然ならそれは無理だろう。偶然から文学は生まれない。意味や理性のない世界を嘆くのなら別だが。あるとしても、くすんだものでしかないだろう … 」

カフェで待つアンヌ。フレデリック教授が来る。「どうした?」「私の存在は運命? それとも偶然?」「もう無理なんだよ」「どうして?」「どうしても」「出会いを覚えてる? アクロポリス。私になんて言った? 君の事は決して … 」外の子供達を見るアンヌ。「でも、私と寝て何を思ってたの? どう別れようかでしょ」 少し首を振り、席を立つフレデリック。外に出て、車を追うアンヌ「フレデリック!」
マリーの車椅子を押すセリーヌ。前のベンチで万華鏡を持つルイ。「セリーヌ、元気かい?」「わからないわ」「おいで」とベンチを指差す。「上手く出来たから見てごらん」 車椅子にブレーキして、ベンチに座るセリーヌに万華鏡を渡すルイ。
チョコレートを割るセリーヌ。母はメモボードに「お前は変わった子だね」と書く。「違うわママ、それは思い込みよ」「私が間違えただけ。ごめんね。ミルクチョコが好きなの」と母がボードに書く。「知ってるわ。今度、必ず持ってくる。頭をカットした鶏の生存記録は1945年9月10日に出た18ヶ月生き続けたマイクという鶏の記録。飼い主ロイド・ホルセンは、食事をスポイトで … 」「他の娘たちは来るの?」と書く母。「どうかしら、私には分からないわ」
プールバー。ビリヤードするピエールと、ビールを飲む愛人。外からそれをじっと見ているソフィ。

ピエールと愛人ジュリー(マリアム・ダボ)はタクシーから降り建物へ入る。それを見て、煙草を取り出すソフィは、後方の別のタクシーに乗っていた。運転手に煙草の火をつけてもらう。「何か問題?」「少しね」「13ユーロだ」「もう少し付き合って」「探偵ごっこに?」 ソフィはその建物へ入る。階段を登り、ドアに耳を当て、部屋の音を聞くソフィ。夫が出てきた部屋へ入るソフィ。ベッドに寝ている愛人のジュリーへそっと近づくソフィ。

妊娠検査キットを確認するアンヌ。

教授の家の前に来るアンヌ。老婆がビンを資源ゴミポストへ入れようとするのに注意を引かれるアンヌ。教授は彼女に気付き車を出す。アンヌは追いかけるが、車は行ってしまう。
アンヌは、大学へ来て教授へ声をかけるが、彼は行ってしまう。
列車で眠るセリーヌ。
フレデリックが本を開くと「待ってるわ」というメッセージと妊娠検査キットが挟んであった。

カフェでずっと待っていたアンヌ。携帯の電源が切れているのに気付き、慌てて店を出て、公衆電話から電話するアンヌ。
フレデリックの家へ行くアンヌ。フレデリックの娘で友人のジョセフィーヌ(ガエル・ボナ)が迎える。「アンヌ元気? 両親は買物よ」「話を聞いて。誰かに話さないと辛くて」「恋愛中? わたしの知ってる人?」「いいえ。食欲もないし、眠れない。何も考えられない。死にたいほど。彼だけが私の生きがい。彼の愛だけが。彼と会えない私はただのボロきれ。いつまでも彼だけと愛し合いたい。いつも彼を感じていたい。すごく苦しい。でも、別れたいって言われた」「理由は?」「私が望みすぎたの」「望みすぎ? 愛を求めて何がいけないの?」「ほんと?」「もちろん」 フレデリック夫妻が帰ってくる。「ママ、別れを望む恋人への対処方法は?」「闘うだけね。愛してるの?」「それが既婚者で」「愛の告白は? 私も夫を捕まえるため闘ったけど、後悔はしてない。これは秘密よ」「パパ、既婚者との恋愛への忠告をしてあげて」フレデリックは「男の気持ちは?」と言う。「愛を感じます。彼の仕草や視線に。もう、あんな人には二度と会えない。私にはこれが最後の愛。一緒にいたいの。でも、彼は違うみたいで」「パパ、忠告は?」「そうだな。考えてる。難しいな」「真実の愛かも」とジョセフィーヌ。「そうなると厄介だな」とフレデリック。妻は「夫は本の虫だから、愛なんて忘れたのよ」と言う。「真面目に考えろ。家庭を大事にする男かも」とフレデリック。「そんな男が浮気する?」と妻。「きっと後悔してるさ」と怒る夫に「あなたどうしたのよ」と妻が言う。アンヌは「ごめんね、変な話をして」と言う。「気にしないで、アンヌ」
走って帰るアンヌ。「パパ、既婚者との恋愛への忠告を」「男の気持ちは?」と回想するアンヌは、部屋へ戻ると、彼との思い出の品をゴミ箱へ入れ、テラスへ持ち出すと火をつけた。
セリーヌが、家の前のカフェをのぞくと、バーテンが来てないとジェスチャーする。
ピエールのスタジオにジュリーが来て「私の部屋に奥さんが来たのよ!もう別れましょ。さよなら」と言う。「おい、待ってくれ」
帰りの列車。セリーヌが寝て、それを見る車掌。
ピエールがソフィに「会ったのか」と聞く。「彼女に聞いたの?」「なぜ?」「なぜって」と、いきなりテーブルをひっくり返すソフィ。「分からない? わたしは何なのよ。言った理由を知りたい? 私自身を辱めるためよ」「やめろ」「最後に寝たの覚えてる? もう忘れた? わたしだって女よ。胸に触って。触りたくない? ここは?」「やめろ!」「愛してないなら言って」「愛してるよ」「ウソは嫌。もういい出てって」「それでいいのか?」「今更心配する? どうせ出ていくのに」「出て行かせたいのか?」腕を回すソフィ。「いてほしいわ」しかし、突き飛ばすソフィ。「でも出てって、もういいの。行って」と夫を追い出す。
窓から下を見るソフィ。バイクに乗り、窓のソフィを見上げるピエール。彼女は窓辺の観葉植物の葉を全てちぎる。それを見ている娘のクレール。
収録スタジオ。ジュリーに会うピエール。「妻と別れた」「なぜ? 別れても子供とはどうなるの?」「何のことだ?」「とぼけないでよ。子供の事、隠してたのね」「関係ないだろ」「それがあるの。父は私が五歳のとき出て行った」「ジュリー愛してる」「あなたは自分しか愛せないのよ。私が間違ってた。こんなの最低の終わり方だわ」と去っていくジュリー。

カフェに来るセリーヌ。Evianを頼む。やがて、例の男が隣に来る。「遅れたかな」「別に。待ち合わせしてないし。もう一本Evianを」男は「読んで」と、空き瓶を炎にかざし、Evianのラベルを反対側から読ませる。「Naiveナイーブ。お人よしね」「水に金を払う君の事だよ。コニャックでも」「なぜここに来るの?」「ここが好きなんだ」「思ったの。本当は … 列車の時間ね」「何を思ったの?」「駅に近いから来てるだけ? 乗り遅れるわよ」「次のに乗るよ。他に話は?」「ないわ」「本当に? セリーヌ」「ごめんなさい。帰るわ」自分の名前を呼ばれた途端、走って帰るセリーヌ。ノック。男がいた。セリーヌは「どうぞ、遅かったのね」と、近所を気にしてそう言うと、ドアを閉める。
「すわって。お茶でも飲む? いらない? 私の分だけ入れるわ。座ってて」「話がある」「何も言わないで」
彼が奥の部屋へ行くと、セリーヌは裸でベッドに座る。「ぼくを覚えてない? セバスチャン・フロレ。お父さんの生徒だった。あの時、君が見た。その話をしに来た。告白したくて君を捜した。全て僕のせいなんだ」
回想。父アントワーヌが家に戻る。表札は「マリー・ コティ」になっていた。それをはがすとアントワーヌと出てくる。カギが合わず開かないドア。彼は激しくノックする。「何の用?」と聞く妻マリー「もうこの家に来ないで」「娘たちは?」「寝てる」「セリーヌの声がする」「会わせない」「会いたいんだ。君にも会いたかった」「男らしくないわね。足をどけて。どけてよ。警察を呼ぶわ」ドアを開けて入ってくるアントワーヌ。「セリーヌ、部屋のカギをして!」「話を」「出てって!」「説明したい」「ムダよ」「セリーヌ、ソフィ、アンヌ、パパだよ」「開けちゃダメ! 出てってよ! 永遠に会わせるもんですか!」「娘達に会わせろ。会わせてくれ! 聞こえるか? 頼むから開けてくれ」「ダメよ!ノー!」「開けてくれ。頼む」 ガラスが破れる音。「出てって。帰って」「怖がるぞ」「誰のせいなのよ!」マリーは鏡に当たり、破片が散って、彼女は倒れる。アントワーヌは泣き出すと、窓辺へ向かい、窓を開ける。
ママ?と出てくる娘達。ソフィが窓から下を覗くと、既にアントワーヌは窓から飛び降り絶命していた。セリーヌが見るのを手で止めるソフィ。セリーヌは「アンヌ!」と部屋へ戻るが、「あ!」という声。アンヌは部屋を出ていた。

思い出して呆然とするセリーヌ。「すまなかった」と声をかけて帰っていくセバスチャン。
ワインの入ったグラスの中で、もがいている蜜蜂。ソフィはベッドで横になっていた。蜜蜂がグラスのストローをよじ登る。ピエールが帰ってきて、鍵穴へ鍵を入れるが、中からも鍵がさしてあり、ドアは開かなかった。「ソフィ! 開けてくれ。クレール! フィリップ!」ノックするがソフィは開けなかった。「ぶち破るぞ」 ソフィはタンスを押しドアに当てて抵抗し、ピエールが突進しても開かせなかった。

大学。アンヌが面接室へ来る。先生は4人しか居ず、フレデリック・バッシュ教授の席は空席。アンヌは「王女メディア」と書かれた紙を渡す。「座って。審査員のうちバッシュ教授は、ゼミの生徒とアクロポリスへ行って欠席です」
アンヌが発表する。「当時の文化は、妻が夫に従属する美徳を求めていた。王女メディアは、夫が裏切るまでは、良き母、良き妻として完璧な主婦だった。メディアは嫉妬し、夫に復讐するため犠牲を強いる。我が子を殺す。夫の愛していた子供を殺す復讐。エウリピデスが描いた。彼女は感情を爆発させ子供達を切り刻む。悲劇とは、人間の本質や、社会における立場、他者との力関係を問うもの。夫が被る不幸は偶然ではなく、意味ある不幸だ。自分の行いと、不幸の関係性に気付く。悲劇の根源は人間のもろさ。主人公が苦悩するのは神と対話するため。現代ではありえない。信仰心がないからだ。現代は神を忘れた時代。せいぜい深刻な劇を演じるしかない。
ソフィは教会の前の公園に座って、煙草を吸っていた。神父が教会の扉の鍵を開け入って行くのを見る。今度は自分の子供達を見る。ブランコに乗るフィリップを押してあげるクレール。ブランコへ近づくと、ソフィは二人をブランコへ乗せ、押してあげる。急に雨が降ってきて、教会の入り口へ逃げこむが、ドアは開かなかった。神の彫像を見上げ、目を閉じるソフィ。雨の中、子供達を抱える。
セリーヌはオジギソウの葉を触り、閉じさせる。ドアのノック音。「今朝は無いの? いつもくれるパンと新聞は?」と近所のおばさん。「まだ外出していないの」「昨日の男性はどなた?」「誰でもないわ。ごめんなさい」とドアを閉めるセリーヌ。彼女は「要塞」という本を手に取り、本に挟んであった「古書ビュサール」という名刺を見る。
古書ビュサールの店。「いらっしゃい」と店員の中年男性「セバスチャン・フロレを捜してるのですが」「どんなご用?」「彼に話があって」「話とは?」「お父様ですか?」店の男は笑って「違います。今日は来ません」と言う。「明日は?」「どうかな。不定期で」「住所はご存知?」「悪いけど個人情報は言えません」 セバスチャンが店の奥から現れる。「セリーヌだ。話しただろ?」

「君がお母さんと研究室に入ってきた日。僕は昔からお父様を好きで、二人きりになりたかった。僕は先生に告白し、裸になった。舞い上がっていたんだ。先生は拒んだ。私を慰め。気持ちは分かるが無理だと拒んだ」とセバスチャンは言う。「なぜ黙ってたの?」とセリーヌ。「怖かったから。担当の先生とか両親。弁護士や警察も。あの出来事から時間はかかったけど、結婚して娘も生まれた。結局、離婚したけど…。今、僕は男友達と一緒。これで良いんだ」
町を歩くセリーヌ。走って追いかけてくるセバスチャン。「セリーヌ! この間のこと許してくれ」「なんでもないわ。私を好きなのかなと誤解しただけ。空想好きだから…」「なぜ、お母さんがお父さんを訴えたの?」「なぜかしら。絶望して、どうしていいか分からなかったのかも。謎だわ」と言って歩き去る。
雨を、頭にかざした新聞で避けて走るアンヌ。彼女は産婦人科に入る。「予約した者です」「あちらに座ってお待ちください」座って新聞を読むが、突然、フレデリックの写真と「大学教授事故死」という記事を見て動揺し、涙を流す。彼女は病院を飛び出す。
墓地に来て、場所を捜すセリーヌ。空いている区画に花を供える。が、急に雨が降ってくる。
フレデリック教授の家を訪ねるアンヌ。奥に娘ジョセフィーヌがいた。無言で抱き合う二人。「なぜ? なぜ死んだの?」「この前話してた人はパパね。でしょ?」頷くアンヌ。「ひどい」「私には心の支えだった」「私のパパだったのよ!」「彼にとっても…」「帰って。顔も見たくない!出てって!もう来ないで!」 力なく帰っていくアンヌ。
娘に本を読むソフィ。「ある日、小さなワシは足で地面に穴を開けました。それも簡単に開いたので、自分が無敵だと思い込み… 」 娘が寝て、灯を消して部屋を出る。
「久しぶり」と、セリーヌがやって来る。「変わったわね」とソフィは言う。「昔のままね」「入りなさい」「明るいわ」「塗り直したの。前より良い?」「覚えてない。一度しか来てないもの」「そう言えばそうね」「一人なの?」「離婚したから」フレームに入った、左半分が破られたソフィの写真と、下には子供の写真が並ぶ。「話があるの」とセリーヌ。「深刻な顔ね」「アンヌも呼んで、二人に話したいの。頼みたいこともあるし」
急行列車。「列車と機関車の音」というカセットテープカバーに「おやすみ。オリヴィエ 06-85-60-xx」とメモする車掌。車両へ行くが、今日はセリーヌは寝ていなかった。三姉妹は揃って老人ホームへ向かっていた。「きっとママも喜ぶわ」とセリーヌ。「来ないと思った」とアンヌに言うソフィ。「自分でも不思議。無駄に子供を殺したメディアの顔を見たくて」とアンヌ。「何の事?」とセリーヌ。「いいの。三人で会えて嬉しい」とアンヌ。

タクシーを降りる三人。ルイが担架で運ばれて来るのとすれ違う。「心臓が私を見放したようだ」とルイが言う。「行きましょう」とセリーヌ。
厳しい表情で庭のテラス席で待っていた母マリー。「ママ」とキスするセリーヌ。ソフィもキスする。マリーは三人の顔を見て、少し微笑み、メモボードに書く。「来てくれてありがとう。愛されてる証拠だね」 セリーヌは「彼を誤解してたの」と言う。「パパの事」とアンヌ。「あの時の少年が真相を話してくれたわ。告発は間違いだったのよ」とセリーヌ。しかし、険しい目付きの母親は、筆談で「それでも、私は何も後悔していない」と答える。四人のテーブルの俯瞰が、万華鏡のように写り、映画は終わる。
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