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DEKALOG デカローグ ⑩ ある希望に関する物語

デカローグ第十話 『ある希望に関する物語』

父が遺した切手コレクションに、莫大な価値があるのを知った兄と弟。あと1枚の切手でコレクションが完璧になると判った2人は、その持ち主と取り引きをする。だが、持ち主からは切手と腎臓の交換を要求される。父の切手の所有欲を全く理解できなかった二人だったが、だんだんとのめり込んでいく様子がコミカルに描かれる。デカローグで唯一のブラックコメディ回。

ネタバレありで、詳しいストーリー説明。

破壊的な歌詞を歌う、ロックバンド「シティ・デス」ボーカルのアルトゥル(ズビグニエフ・ザマホフスキ)。そのライヴに現れるイェジ(イェジー・シュトゥル)はアルトゥルの兄、平凡な会社員だった。

多くの列席者が集まる父親の葬式に参列する、兄イェジと弟アルトゥル。

公営団地。厳重なセキュリティに守られた亡き父の部屋。扉を開けるや、けたたましくなり始めたアラームに合わせ、弟アルトゥルがすかさずシャウトする!「黙れ!」と兄が言う。金魚の死体が浮かぶ、濁った大型水槽。大切に保管されたコインや切手が大量に見つかった。

少し残っていたウォッカで乾杯する兄弟。「高いのかな」とアルトゥルが言う。イェジは「近頃、切手は価値がある。30〜40万はするだろ。これが貧乏生活の源か。お袋を惨めにさせ、メシとゼニで苦労させた … 」と言う。「やめろよ」「まともな服がなくて、俺のまで埋められたほどだぜ」「何でこんなに … 所有欲が強かったのかな。兄貴なら分かるだろ。物が好きだから」「俺は使うために所有する。最後まで親父を理解できずに終わったな。お前と会うのも久しぶり」「2年ぶりだよ」

イェジが本棚を整理する。アルトゥルの切り抜きなど、未整理の書類もたくさん置いてあった。ドアチャイム。「失礼します。ブロンスキと言います。息子さん? お話が。父上とは友人で。22万ほどお貸ししてます」「初耳です」「遺品でその金額に見合う物があれば」「5日後に電話します。金は調達します」「切手を手放す気はないようですね」

「22万も借金してたらしい。一人だけならいいが。お前の記事がとってあったぞ」「名前を憶えていたか」「確か切手を売買する集まりがあったはずだ。持ち込むか」「さっきの男は?」「騙されんよ」「息子の一人も集めてたろ」「飛行機の絵柄だけだよ」「ツェッペリン極地探検のシリーズか。ドイツ切手。1931年の」

タクシーで先に降りるイェジ。「今度チビにレコードやるよ」「大きくなったぞ。じゃあな」「会えて良かった」

「遅くなって悪かったな。明日は必ず連れていく」と妻に言うイェジ。「弟と久しぶりで」「別に。予約があるから」「電話しとくよ。すまなかった」「別に。スリッパを履いてね!」

「おじいちゃんのだ」とツェッペリン号の切手をピョートルに見せるイェジ。「綺麗だね」「おじいちゃんを埋めて来た。どうした。泣いてるのか」「さっき泣いた、ママから聞いた時。かわいそうだったね」「歯は痛むか」「そんなには」「帰れなかったんだ」「ママは一日中怒鳴ってたよ」

アルトゥルは切手売買の会場へ来る。売れる物なのかどうか知りたいとアルバムの一つを会場の男に渡す。「コジェンの息子さん?」「ああ」「他にもあるね?」「売れるなら全部売る」「ちょっと待ってて」

「会長がお話したいと」と男に言われるアルトゥル。「よろしいですかな」と別室へ通される。「確か息子さんはもう一人いますね。父上の家でお会いしたいのですが」

父の家。コレクションを見る男。「これ1枚でフィアット。この2枚で高級車2台分。この連作でアパートが買える。理解できてます?」「はぁ、すると全部で、どのくらいです」「何千万です。父上は2億5千万の盗難保険を掛けるところでした。この収集に父上は一生を費やした。30年かけた物を無駄にしては許し難い罪だ。周囲に理解できぬ父親だとしても。失礼」と去っていく。「何てこった」とアルトゥル。「こりゃたまげたな」とイェジ。

イェジの家。息子のピョートルが起きていた。「ママは寝てる。会社にいたの?」「午前中はな。その後伯父さんに会ってた」「ママが何度か電話したんだ」 イェジは、アルトゥルのレコードをピョートルへ渡す。「サインだね。バンド全員の?」「お前宛だ。ピョートルへ、すごいだろ」「昨日の切手は」「交換した」と沢山の切手を見せるピョートル。「誰とだ!」

車の中。イェジとピョートル。「あの眼鏡の人」「待ってろ」と眼鏡の男に近づき「取引だ」と建物の裏へ連れていく。「騙しただろ」「生きるためさ」「私の息子だ」鼻をつまみ「ツェッペリンを返せ」「売った。フスプルナ通りの店」

古物商。「ケチな若い野郎が、息子を騙して切手を巻き上げた。4万で買ったでしょ」「何のことです」「実はこの店にある切手を買いたい。ドイツの連作で1931年発行 ツェッペリンの極地探検、あるかな」「24万ズウォチ。相場です」「そういう事なら警官を連れてくる。悪いけど」「結構ですよ。この電話をお使いください。これが売買契約書です。外国の方で16万8千ズウォチで売りました。これは私の営業許可証」

ライヴ会場でアルトゥルと会うイェジ。「失敗した。悪党どもだった。その上、日曜には借金取りが来る。息子用に貯めてた9万を充てるつもりだ」「奥さんは?」「浮気かと疑ってる。日曜のドライブも断ったし、お前の方は?」「貯金なんか一銭もない。アンプを売る。50ドル払ってあるから7万ぐらい戻るはず」「ありがたい。悪いな。残りの金 … 切手は?」「今のところ売るのはやめとこう。やばくなるまでは」「俺もそう思う。手元に置いておこう」

シティ・デスのバンから降りるアルトゥル。父の部屋の明かりを見て驚くが、すぐに電気は消える。枯れた植木を折って武器に持ち、部屋に入る。兄イェジがいた。「泥棒かと思ったぜ。何してる?」「切手を見てる。昨日も来てた」「俺は今朝来た」とナップサックから衣服を取り出すアルトゥル。「部屋を追い出されたのか?」「いや。心配で。警報付きでも、兄貴みたいに簡単に入れるし。ここに住むよ」「そうか。俺もその方が安心だ。調べてみたんだが。このマーキュリーの連作は不完全だが、唯一のモノ。青と黄色。赤が欠けてる。親父のメモがある。1851年発行 マーキュリーの赤は、1965年に有名な窃盗事件により盗まれ、短期間クラクフの J 氏の手に。買ったのか交換か。1968年 J 氏が祖国を離れる前、KBRによれば、現在、切手は南ポーランド、MWの所か? 獲得のチャンス? 注意、金で買うな、こんなのばかりだ。数字と符号だらけ。読んでもさっぱり分からん。赤いマーキュリーか」「揃うと綺麗だな」とアルトゥルは言う。

団地の外。両手を夜空に伸ばすアルトゥル。「簡単にロープを使って忍び込まれる」「鉄格子だ」とイェジ。「窓とベランダに」「釘で打ちつけたってガラスを破られたら終わりだしな」「アルトゥル、自分の悩みをすっかり忘れてる。心配事はあるのに」「僕も同じことを感じた。ガキの頃は悩みなんて無かった。昔に戻ったみたいだ。気楽にやろう」「そうだな。全てを忘れよう。子供のように」「楽しいぞ」「きっと」「自ら望まないと、ただの夢で終わる。いい考えがある。切手を一枚選んでくれ。目録に載ってる値段で20万のだ」

アルトゥルは20万の切手を古物商へ持っていく。「どこでこれを?」「自分の家」「1万5千ですが、買いましょう。3千で」「5千」「4千、盗品でしょ」「分かった」古物商は金を出す。アルトゥルは受け取るが、切手を渡さない。「上手く録音できたかな」小型のレコーダーを再生する「1万5千ですが、買いましょう。3千で」

「分かった。具体的に言ってくれ。何が欲しい」「1931年ドイツ発行ツェッペリン号の連作切手。4千ズウォチとテープをやる。ソニーの90分テープ。まだ十分使える」「見事だよ。クサいと思ってた」「惜しかったね」「先日男が…」「兄貴だ」「すぐ騙せた」「正直な男だからね」「金と切手、どっちを?」「切手だ」「分かったぞ。君らはあの人の … やっぱり」

ドアを叩くイェジ。「俺だよ。何の声だよ」扉を開けるアルトゥル。「犬だ。浴室に入れた」「カギが合わなかったぞ」「時々変えなくちゃ。新しいカギだ」「前もって教えろよ」犬の鳴き声。「ロキス。イェジだ。兄貴だ。よくみろ」と、大型の黒いドーベルマンの前で、イェジにキスするアルトゥル。「さっき親父の借金相手に会った。仲間は多いそうだ。切手は?」「これだ。あの親父いい奴だったよ。話があると言ってた」

「さて、赤いマーキュリーに関する話。どれほど価値があるか知ってますよね。持ち主を知ってます。父上は長年捜していた。執着していた。あなた方も?」「現金はありません。兄は車も売って」「金の問題ではない」「何です?」「話はまた後日、お会いして話し合いましょう。診断結果をお待ちください」「診断?」「血液型、血沈、尿検査の結果を」

公園で会う三人。「結構です。金の問題ではないと言いましたが、持ち主はタルヌフにいます。赤いマーキュリー。2枚の連作切手で。その持ち主はシュチェチンに住む実業家」「彼の条件は?」「求めているのは、小さくて見栄えの悪い切手」「血液型は何のため?」「違います。持ち主は別」「偶然ですが、私です。全てはあなた次第」「なぜ兄貴が」「適合するため。赤いマーキュリーは200万以上の価値だが、買うことはできない。当事者たちは全員、交換を望んでいる」「血液と交換ですか?」「いえ。腎臓。16歳になる私の娘が重い病気なのです。ドナーを捜し続けてきた。父上は高齢すぎたので」

父の部屋。「何てこった。切手と腎臓と交換しろだと」「1851年の赤いマーキュリーが手に入るんだぞ。家族持ちだもんな」「それは関係ない。人間の内臓だ。俺の体の一部」「俺ならすぐ承知したな。二つあるんだぜ。友達にもいるけど、奴なんか20年間、酒とバラの日々さ」「くそったれ」「その上少女の命を救うことになるんだよ。人道的だ」「アルトゥル」「悪かった」「兄の腎臓だ。切手のためか」

シティ・デスのリハ。

誰なのか 俺は知らない でも俺は
お前たちから求めない
お前たちに何もやらん
誰なのか 俺は知らない でも俺は
お前たちから

「よくない」「何とかなるさ」「ツアーに参加してくれ」「無理だ」「どうしたんだ。女か?」「面倒でな」 バンドから離れるアルトゥル。「これでよし」と右手を挙げる。

病院。「すいません、人を」とドアを開けるアルトゥル。ナースが応対する。「あなたシティ・デスの人ね。素敵」「兄を捜してる。腎臓摘出の手術なんだ」「さっき会ったけど、心配ない。お願いが」「顔に触っても良い?」「いいよ」 恐る恐る触るナース。「簡単な手術なんだね?」

オペ室。手袋をする医師の映像。鉄格子を焼き切る映像。手術の映像。ドーベルマンのロキスが撫でられる映像。手術の映像。切手をルーペで見る映像。

病院から出てくる兄弟。「大丈夫?」「ああ、前と変わった気がしない」「ほんと?」「切手は?」「ああ、持ってる」「これだ。ついにやった」「いつもらった?」「一週間前」「なぜすぐ見せに来なかった。待ってたんだぞ。奴に騙されたとか、挙句は、お前まで疑って … 」「来られなかった。手術している間。俺は病院で待ってた。盗まれたんだ。全部、盗まれた、全部だ」

父の部屋。ベランダの鉄格子もドアの鉄格子も破られていた。「役立たずか」とドーベルマンのロキスを指差すイェジ。「閉じ込められてた」ベッドの上のロキスに「どけ!」と怒鳴るイェジ。「なぜ病院に来た。手術の手伝いか?」「痛むか?」「警察に届けたか?」ドアチャイム。警察が来る。「兄です。退院したてで」「ご気分は?」「いいわけないです」「でしょうな。今度お話を。ところで、弟さんには覚えがないそうですが、窓とベランダの警報装置が切られてました。内側から」「私が切った。毎日、出入りのたびうるさく鳴るもので。窓を開けられるように。鉄格子だけで十分だと思ったんです」「弟さんは知らなかったんですね。では失礼します」と帰っていく警察。「なぜ黙ってたの」「忘れてたんだ」「残ったのはこれだけ。やるよ」「なぜ?」「腎臓の代わりだ」「いらないよ。どこへいく?」「関係ないだろ。出ていく。仕事があった。ほっといてくれ。もううんざりだ」

警察。担当者と会うイェジ。「何か御用ですか?」「言いにくいことなんですが」「ご心配なさらずに」「調査すべき人物がいると思うのです。私の弟の事。あの犬を操れるのは弟だけ。手術の間、待っていたと言ってるが」「看護婦の当直室で寝ていましたよ」「直接手を下したのではなく。多分仲間の連中でしょ」「感謝します。助かりました」

カフェにアルトゥルが来る。「遅れてすみません」「お話があるとか」「何度も、お話した後でカフェに呼んだりして」「内密の話ですね」「実は。疑ってるんです。あの強盗事件に兄が関わったのでは、と」「お兄さんと事件の関わりを疑ってると?」「何となく。ただの直感です」「直感こそ大切ですよ。助かりました」「映画みたいだ」「現実です。どうも」

切手売場の窓口。「最近出た切手はあるかな?」「もちろん。警察40周年記念切手が60ズウォチ。アザラシの絵柄のが30、世界レスリング選手権のは25」「1枚ずつくれ」

イェジは、郵便局から出てきて、前の道に、ドーベルマンを連れた杖の男と眼鏡の男が話しているのを見る。アルトゥルも見ていた。そこへ別のドーベルマンを連れた古物商の男。

公営団地。父の部屋にイェジが来る。アルトゥルがすでにいた。イェジは「ここで会うとはな」と言う。「そうだね」「アルトゥル、酷いことをした。お前が犯人だろうと話した」「僕もだ。兄さん」「それは?」とイェジが聞く。警察・レスリング・アザラシの切手がテーブルに並んでいた。「郵便局で買った」とアルトゥル。横にイェジも、同じ切手を並べた。「連作だ」と笑う。

闇 闇 闇とあざけり あざけりと嘘
一週間ずっと この一週間ずっと
お前だけが唯一の希望 かすかな光
お前が全てだ すべてがお前の
お前の中にあるから …

邦題:デカローグ、原題:Dekalog、英題:The Decalogue

監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ

脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ

音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

製作:1989年〜1990年

第十話撮影監督:ヤツェク・ブラヴト

ポーランドのテレビドラマ・シリーズ。1時間 X 全10話構成。聖書の十戒をモチーフにしている。ポーランドに住む人々が直面する道徳的・倫理的問題が各話で扱われる。各話は独立しているが、大半がワルシャワの公営団地の住人という設定で、人物の何人かはお互いに知り合い。キャストの多くは有名・無名の俳優で、多くが他のキェシロフスキの作品に出演している。それぞれのタイトルは数字で表された。ロジャー・イーバートの解説によると、キェシロフスキは「十戒に正確に即しているわけではなく、十戒に言及したことはない」とされている。

十話:名前のない人物:今回は出番なし

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