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映画 『ヘヴン』 キェシロフスキ神曲三部作 🌟 天国編 HEAVEN

ヘブン  Heaven

邦題:『ヘブン』、原題:Heaven

監督:トム・ティクヴァ

脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ 、クシシュトフ・ピエシェビッチ

音楽:アルヴォ・ペルト 、マリウス・ルーラント
公開:2002年、上映時間:97分


クシシュトフ・キェシロフスキが、ダンテの『神曲』(地獄篇 Inferno・煉獄篇 Purgatorio・天国篇 Paradiso)に着想を得て構想した「神曲三部作」(地獄 煉獄 天国 トリロジー)の、唯一完成していた天国篇の脚本を、ドイツ人監督トム・ティクヴァが映画化。独・米・英・仏のドラマ映画。

イタリア・トリノの英語教師フィリッパは、大企業会長ヴェンディチェのオフィスに時限爆弾を仕掛ける。実はヴェンディチェは麻薬売買の黒幕。麻薬のせいで、フィリッパの夫は中毒死、生徒たちも何人か破滅させられていた。しかし策略は失敗。たまたまビルを訪ねてきていた父と幼い二人の娘、掃除婦という罪のない四人が犠牲となる。国家憲兵隊に逮捕されたフィリッパはそれを知り、罪の重さに失神。取調べの通訳をする若い憲兵フィリッポは、そんなフィリッパに魅かれ、密かに逃亡の手助けを申し出る。

フィリッポとフィリッパ

ネタバレありで詳しくストーリー紹介

ヘリコプターシミュレーション。丘陵地を飛行。「地形に沿って … その調子 … 上昇し丘を越えて … 実際の飛行では風を考慮して … 高度を維持して … 昇りすぎると危険だ … 」モニタ終了

「実際のヘリの高度には限界がある」「どのくらい昇れますか?」

時限性プラスティック爆弾を組み立てるフィリッパ・パカード(ケイト・ブランシェット)。完成品をタオルにくるみ、黒のショルダーバッグへ入れる。革ジャケットを着て、サングラスをかけ、出かける。

二両式バスから降り、横断歩道でバイクの飛び出しに驚くフィリッパ。立ち止まるが、またすぐ歩き出し、古い街並みの向こうの高層ビルへ向かう。

ビルエントランスから階段。やがて、レストルームでタイマーを五分にセットする。

「何階?」「最上階だ」少女二人と父親がビルに入っていく。

「こんにちは。約束があって」とフィリッパは、アルコム社受付の女性秘書に言う。「会長は電話中です」「ご用件は?」「お話できません。性的な内容なので」「分かりました」と会長の部屋へ行く秘書。

会長ヴェンディチェ(ステファノ・サントスパーゴ)は「こんな状態で仕事が上手くいくと思うか?」と電話中。「承知してたはず。いや、絶対にダメだ。命令したはずなのになぜ従わない?」と会長の声。

フィリッパはゴミ箱に爆弾を入れ、部屋から立ち去る。

「なら、よそと話をする。そうだ。そういうことだ」

「23階 … 22階 … 21階 … 」と降りて来るエレベーター表示を数えて待つ少女と父親。その後ろを横切るフィリッパ。彼女はビルの前の公衆電話にカードを入れプッシュ。「アルコム社受付です」「あなたの車のアラームが作動し、うるさいんです。見に来てください」 受付の女性はしばらく考えて、切ってから、ハンドバッグを肩にかけ、部屋から廊下の奥へ歩く。掃除婦とすれ違い挨拶する。

フィリッパは憲兵隊(カラビニエーリ)へ電話する。「憲兵隊です」「何度も電話したのに無視された。だから行動するわ。彼のオフィスに爆弾を仕掛けたの。爆発は40秒後よ」「誰だ?」「フィリッパ・パカード」

「七時には行けない。仕事がある。待てるか? そう。じゃ家で」と電話中の会長。掃除婦がゴミ箱を部屋から持ち出し、廊下のカートの回収袋へ中身を入れる。

ビル前のエスカレーターを地下へ向かうフィリッパ。

ビルの外付きのエレベーターを登る少女たち。外の景色を見ている。「高すぎる!」 扉が開き、掃除婦が「失礼、次を待ちます」と言い、父は「一緒にどうぞと」言う。「グラッチェ」とカートごと乗ってくる掃除婦。

ドアが閉まり、しばらくして凄まじい爆発音。

多人数の特殊武装部隊が、フィリッパの部屋に突入。ベッドで寝ていたフィリッパは逮捕される。

トリノの俯瞰映像とタイトル「HEAVEN」

独房に収監されているフィリッパ。「尋問を行う」と三人の憲兵に連れ出される。

取調室。検察官(アルベルト・ディ・スタシオ)が聞く。「名前は?」「フィリッパ・パカードです」「なぜ英語で?」「英国人です。母国語で答える権利があるわ」「急に何事だ。一体何の真似だ」パスポートを見る。「英語で答えたいそうだ。通訳が必要だ」「通訳など無用。完璧に理解してる」「権利だ」「そんなの知るか。イタリア語で尋問する。イタリア語で答えろ」「失礼ですが私が通訳します」と書記のフィリッポ・ファブリッツィ(ジョヴァンニ・リビシ)が言う。「資格もあります」

フィリッポ・ファブリッツィ(ジョヴァンニ・リビシ)
フィリッパ・パカード(ケイト・ブランシェット)

テープレコーダーが回る。「名前は」「フィリッパ・パカード」「生年月日は」「1971年5月23日」「生地は」「ブリストル」「職業は」「教師」「結婚は」「わかりません」「どう言う事だ?」「離婚するため申請しましたが、手続きの途中、夫は死亡しました」「離婚の確定は?」「その前に死亡しました」「では未亡人だ」「お前に対する告発は、ビルを爆破し、四人の命を奪った容疑だ」「四人?」「爆破はエレベーター内で起きた。四人が乗っていた。父親と少女二人、50歳の掃除婦。三人は即死、幼い方の少女は昨夜病院で死亡した」 フィリッパはそれを聞くと言葉を失い「ノー」と涙を流し泣き崩れた。「お前はテロ組織の一員と思われる。国家の安定を揺さぶり、四人の市民の命を奪った」「死んだのは四人だけなんですか?」「不足か?」「そうじゃなくて、彼のオフィスに爆弾を仕掛けたのに」「どこのテロ組織だ? 爆弾はどこで入手した? 誰に命令された?」「誰にも」「お前の夫は?」「夫はいない。死にました」「死因は?」「麻薬の過剰摂取。全部知っているはずよ。電話をかけ、手紙を送って、何年も訴え続けてきたの」「電話はどこにかけた?」「ここ憲兵隊よ」「一体何のため?」「全て知って欲しかったから。麻薬を牛耳っている男について、何もかも。夫の旧友だった男のせいで、毎週子供たちが死んでるわ」「お前のせいで四人が死んだんだぞ。売人など関係ない」「生きてるのね」「話をはぐらかすな。質問に答えろ。凶行を仕組んだのは誰だ? アジトはどこだ? 」 フィリッパが突然失神し、椅子から転げ落ちた。「医者を呼べ、早く」と言われフィリッポが外へ走る。

医者がフィリッパの頬を叩く。フィリッポが袖をまくると、彼女は目を開け「ここはどこ?」と聞く。「憲兵隊です」「あなたは?」彼女はフィリッポの左手を強く握り、涙を流す。「憲兵です」「ごめんなさい」と現状を思い出すフィリッパ。「こっちの腕だ。君は出ろ」と注射する。扉が閉まる。

「今、憲兵隊本部に来ている女は逮捕された。掛け直す」とピニ警視が電話するのを見るフィリッポ。彼は建物を出て、フィリッパが担架で運ばれるのを、遠くに見る。

夜。帰宅する父親( レモ・ジローネ)。フィリッポと話している弟のアリエル ( アレッサンドロ・スペルドゥーティ)。「教室で英語の先生を待ってたら、今日は先生は来ないって」と言う。フィリッパが弟の担当教師であることが分かる。 父は「どうした暗い顔だな。今日はどうだった?」とフィリッポに聞く。「まぁまぁさ」とフィリッポは二階へかけ上がる。「聞いたよ」とアリエルが父に言う。「何を?」「英語の先生の事」ベッドでフィリッポは左手の感触を思い出していた。そのうち眠りに落ちる。

朝。シーツを洗濯するフィリッポ。「フィリッポ」と父が呼ぶ。「何してる?」「洗濯だ。漏らした」「寝小便なんて10年以上してないのに。どうした?」「恋に落ちたよ」

「アルコム社のヴェンディチェ会長が麻薬取引の元締め? ふざけるな」「彼は夫の学生時代の友人でした。やがて麻薬に手を染め、闇で売るようになり、麻薬市場を仕切る存在に。夫には安値で。私の学校の生徒にも格安で。きっと憲兵にも安く売ってる」「正気か?」「13歳で更生施設に入った生徒もいる。死んだ生徒も。何度も手紙を書いて知らせたのに」「手紙を受け取った記録も、電話を受けた記録も何一つない」「アパートに手紙のコピーがある。私が自分で窓口まで届け、憲兵の受領サインもある」「すぐ調べる」検察官は本部長に調べさせる。「休憩しよう」フィリッポは席を立ち、薬局へ行く。「チャオ、フィリッポ。もう働き始めたのね」「もう学生じゃない」「お父さんと同じ道を歩むのね」「ええ。利尿剤をください」

フィリッポはトイレに行き、洗面台横の乾燥機に細工し、六杯のコーヒーの内一つに利尿剤を入れる。

「手紙のコピーは緑の竹の箱に?」「はい」「94年から97年にかけて、ご主人宛の手紙が六通。英国の姉からの去年の消印の手紙が三通、結婚指輪二つ、生徒から三週間前の葉書、それだけだ」「うそよ!」「おかけください」「このサインは?」「ピニ本部長だ」「あなたのサイン?」「そうだ。パカード夫人。手紙や電話などの作り話は聞きたくない。ご主人や生徒の事も。本当の動機を話してもらおう。テロ組織のメンバーの名前や住所も。誰が爆弾を渡した? 手伝ったのは?」「誰もいません」「とぼけるのはいい加減にしろ! どこで爆弾を入手した?」 警備の男がトイレへ行く。「夫の死後、アパートで見つけました。子供二人が死んだの?」「父親と50歳の掃除婦も」 突然停電する。「なぜ停電した?」フィリッポはフィリッパに近づき「ポケットに」と言い、彼女のポケットに何か入れ席に戻る。照明がつく。警備が戻り、トイレの乾燥機を使ったらヒューズが飛んだと報告する。「今日は以上だ。独房に戻せ」と検察官。

ピニ本部長が電話で報告を聞く。「手紙は心配ない。処分したから大丈夫だ」「それで?」「女は監視してる。検察官は供述を信じてない」「何よりだ。では安心だな」「当分はな。だが、女の身に何か起きれば好都合だ」と切れる。

独房のフィリッパ。マイクロレコーダーを再生する。「弟と話した。11歳であなたの生徒だ。先生の中であなたが一番好きで、とてもいい人だと言う。僕は信じる。だから助けたい。もし同意するなら、そう録音し、尋問室にテープをテーブル天板の裏の棚に置いて」

音の解析をしている。「何の音?」「テープですね」「聞き取れない」「お待ちを。再生します」「僕はあなたの通訳だ。医者が来た時もそばにいた。あなたは僕の指を握りしめた… 」

ベッドで寝ているフィリッパ。マイクロレコーダーを胸に抱いている。

建物の外のベンチに座って考え事をするフィリッポ。

次の取調が終わり、フィリッポはテーブルの天板下を探る。マイクロテープが置いてあった。

車で帰るフィリッポ。「同意するわ」と彼女の声が再生される。

「木曜10時ごろ、あなたは胃が痛くなり、トイレに行き、数分後、尋問室に戻る。僕が置いたものを確認したら合図して」

「11時ごろ、また気分が悪くなり、再びトイレに。廊下の電話が鳴り、看守が受話器を取ると音が鳴り止む。トイレを出て、エレベーターで駐車場へ降り、駐車場の階段を上がって、裏庭に面したドアから外に出る。堀に沿って進むと表通りに行ける。上着をゴミ箱に捨て、まっすぐ駅に向かって。夜、僕が車で迎えに行き、裏口から乗せる。その先のことは後で考えよう。きっと何かあるはずだ。美しい何かが…」

全ての音声が憲兵隊に聴かれていた。「完璧だ。テープを消せ。消去しろ。一言も残すな」「二人を逃すのか?」「逃亡を試みるのは危険だ。命を落とすことになりかねん。女は生きて外には出られまい」

弟アリエル ( アレッサンドロ・スペルドゥーティ)とフィリッポ

フィリッポが家で鍵にヤスリがけをしていた。アリエルがコーヒーを運んできて「怖くない?」と言う。「もちろん怖い」と答える。

フィリッポは容疑者用トイレの便器の中に袋を押し込みフタをする。

「気分はどうだ?」と検察官。「バッグを見つけました。メモとカギも。トイレで」「何だって?」「トイレでバッグとメモとキーを見つけたと」「いつ?」「一週間前。バッグの中には注射器とHIVの検査結果が。メモにあった言葉は、私をゴミと一緒に捨てて。カギで温室の扉を開け、生徒の一人カルラが首を吊って死んでました。私をゴミと一緒に捨てて。ご両親も読みました。憲兵が来て、捜査の必要はないと。それが先週の火曜の朝、彼女のお葬式に行き、そして午後、ヴェンディチェのオフィスへ爆弾を持って。

憲兵隊の建物の外、電話の前でアリエルが待機する。11時が近い。

「トイレへ」とフィリッパが言う。看守の一人が連れて行く。アリエルが電話する。「内線354を」 廊下の電話が鳴る。

トイレ入口を見ていた看守が歩いていき、受話器を取る。「心臓センターですが、カッサンデ氏をお願いします」「私です」「先生におつなぎします。数分お待ちください」「もしもし」看守は電話を置き、トイレを見に行く。足二本が下から見え、また電話へ戻る。「もしもし」

フィリッポが窓の外を見る。紫のフード付パーカーの小柄な人物が正門へ向かっていた。「検察官殿。あれをご覧ください! あの女では?」「そのようだ。どうやって逃げた?」「至急正門へ急げ!」

看守がトイレを開けるとズボンと靴だけが置かれていた。「チクショー!」

路地のゴミ箱の影で、紫のパーカーを脱ぐ人物。一人憲兵が走って行く。拳銃を構え「お前! こっちへ来い!」と言う。白Tシャツのアリエルが「すみません」と出てくる。憲兵は元の道へ走って戻る。

鉄網の扉を開き、フィリッパが様子を見る。

階段を登って来たフィリッポは、時計台の屋根裏のような空間へ。リュックと毛布、衣類、荷物一式が置いてあった。

外は騒然として、多数の捜索隊が出動する。「通訳はどこだ! 通訳の憲兵を捜せ!」と言う声。

フィリッパが階段を登ってくる。「なぜ計画を変えたの?」「父がいつも言ってた。いざという時、誰も予期しない事をしろと」「なぜこの場所?」「子供の頃の隠れ家だ。父は憲兵本部長だった」「なぜ同意したと思う? なぜ逃げたいか分かる?」 首を振るフィリッポ。「罪を逃れるためじゃない。無実の四人を殺した罪は償う。でも、その前にあいつを殺したいの。逃げるのはそのためよ」

フィリッポはフィリッパと共にピニ本部長の部屋へ来る。アルコム社へ電話する。「ヴェンディチェ会長を。ピニ本部長から急ぎの伝言が」「会長はいませんが、用件をお伝えしますが?」「お願いします。ピニ本部長のデスクに電話下さい。重要な件だ。至急デスクに」と切る。フィリッポは拳銃をセットアップし、サイレンサーを取り付けると、フィリッパへ渡す。電話がかかって来る。「ヴィットリオ?」「本部長は席を外してます。ヴェンディチェ氏ですか?」「そうだ」「本部長が至急お会いしたいと」「今すぐ? どこで?」「本部長のデスクで」「すぐ行く。女は捕まえたか?」「はい。女は重傷です」

タクシーの中「どうしても行かないと。重要な件だ。寝ててくれ。帰ったら起こす。わかってる。じゃ後で」とヴェンディチェ。

本部長室へ入るヴェンディチェ。フィリッパが銃を構えていた。フィリッポが外へ出てドアを外から閉める。「私を覚えてる?」とフィリッパ。「ああ」走り寄ろうとするヴェンディチェ。銃声。フィリッポが中へ入ると、ヴェンディチェは撃たれて死んでいた。

時計台の屋根裏。フィリッパは横になって寝る。フィリッポは立っていた。

朝五時。そして八時。向かい合わせで寝る二人。フィリッポが目覚め、ボトルの水を飲み、フィリッパも水を飲む。「私の横で眠ったのね」

「そこだ」と指示され、階段を降りて、フィリッパはシャワー室へ入る。

「そんな女殺してやりたい」と話し、掃除婦が二人入って来る。「どうやって逃げたの?」「誰かの手引き」「でも、憲兵隊に来て、殺されるなんて」「ひどい話ね」

シャワー室へ入って来て、手や顔を洗う掃除婦たち。フィリッパは奥へ隠れる。「今朝の死体の顔、一生忘れない。顔とは思えなかった。肉屋で犬用に売ってるクズ肉みたい。ぐちゃぐちゃ」「そんな言い方やめて。肉を買いに行くのよ。気分が悪くなる」「服どう?」「素敵」と出ていく。

「さっきのは誰?」「掃除婦たちだ」「一人は死体を見たって。一生忘れないと言ってた。あなたはどう?」「遠くへ逃げよう」

牛乳配達のトラックへ乗り込む二人。配達車は街を走り、ある食料品店前でクラクションを鳴らす。店を閉店表示にし、女性店員が出て来る。彼女は少し先で停車した配達車の助手席に乗り込むと、運転手とキスし熱い抱擁を始める。ラジオはニュースを伝える。「昨夜、ヴェンディチェ氏を殺害した犯人はフィリッパ・パカードと思われます。爆弾事件の容疑で逮捕されましたが、昨日、憲兵隊の留置所から逃亡、取り調べに対し、爆弾は氏を狙ったと供述。彼女の亡夫は氏の友人で、憲兵隊は事件との関連を調べています。フィリッパは英国人で、英国に戻ると見られ、国外逃亡させないよう、国境を封鎖し、徹底的捜索を行なっています。次は天気予報」

牛乳配達車の後ろのドアが開いていて、道路へ空の大型ボトルが転がり落ちる。停車し、運転手は後ろを見に行く。

列車に乗って、逃亡する白いTシャツの二人。「どこへ行くの?」「あなたの故郷を見たいな」トンネルを抜ける。「名前は?」「フィリッポ」「いつ産まれた?」「1978年5月23日」「何時に生まれたか分かる?」「朝8時」「その時何してたか覚えてるわ。私の誕生日だもの。その日は初めての聖体拝領。花嫁のような姿だった。真っ白なドレス。私にベールを被せ、母は突然泣き出した。なぜかしら」

二人はシエナのトレクアンダ無人駅で下車。歩いての逃避行が始まる。美しいトスカーナの丘陵地帯を背景に、モンテプルチアーノの街を遠くに見て、思わず立ち止まる。「まるで何も起きなかったみたいね」

モンテプルチアーノの街。「多くの罪深い事や、愚かな事をしてきた。無分別な事も」教会に入る。「嘘もついた。母や姉に対して何度も。夫の愛にも一度背いたし、夫の身を救えなかった。私のせいで四人が死んだ。耐えられない。自分が許せない。無防備な人間を襲った。あなたが知らないこともある。私は信じる心を捨てた」「何を信じる心?」「良識や正義や生きる事」「愛してる」「わかってる。でも … 私は終わりを待ってるの」フィリッポはフィリッパの方に手を回し、額を合わせる。

理髪店。バリカンで坊主頭になるフィリッパ。ソファでは既に丸刈りにしたフィリッポが見ていた。二人は見つめ合う。

城壁都市モンテプルチアーノのグランデ広場。結婚式のライスシャワー。祝う人々を見ながら、二人並んでジェラートを食べる。「あれ私の友人だわ」 「信用できる?」頷くフィリッパ。女友達レジーナ(ステファニア・ロッカ) に声をかけるフィリッパ。「私が分からない?」柱の影へ行く二人。レジーナはフィリッパの頬を叩く。「なんてことしたの! なぜあんなマネを。憲兵隊のヘリがウチの上空に来たわ」と彼女を抱きしめる。「すごい髪型ね」「一晩泊めてもらえる?」「捕まってしまうわよ」「分かってる」

フィリッポは中学の弟を電話で呼び出す。「フィリッポだ。父さんと話すふりをして」「うん、パパ」「父さんに会いたいと伝えて欲しいモンテプルチアーノの聖ビアージョ教会で待ってる。わかったパパと言って切れ」「わかった、パパ」「チャオ、アリエル」

走って来て抱き合う二人。

美しいルネサンス様式の聖ビアージョ教会。車でやって来たフィリッポの父。「パパ」と呼びかける。「なんという姿だ」「中へ入ろう」奥まったスペースに座る三人。「金を持って来た」「憲兵隊は国中に捜査網を敷いた。出国する前に捕えると。幹線道路はどこも封鎖されている。枝道はまだ安全だろうが、時間の問題だ。私と一緒に来るか? チャンスはある」「わたしは行きません。でも、フィリッポを連れて行ってください」「息子はあなたを愛している」「ええ」「あなたは?」考えて「愛してます」「僕も行かない、パパ」「分かってる。お前らしいな。なぜ最も大事な瞬間、人間は無力なんだろうな」 父はフィリッパと握手しキスする。フィリッポも父と抱き合い「弟によろしく」と言う。

丘陵地を歩く二人。レジーナの家を覗く。「できれば、来ないでと思ってたけど… 中にシャワーがあるわ。ベッドの用意も。後で食事を運ぶわね」「ありがとう」

食事する二人。「きっと憲兵隊が来る」 二人はじっと見つめ合い、頷き合う。二人は手を繋いで家を出て、走って行く。丘の上の大きな木のそばで立ち止まり、向かい合う。夕焼け。服を脱ぎ、二人は近づいて抱き合う。

朝、何台もの憲兵隊の車が近づいて来る。レジーナの家にも多人数の憲兵がやって来て、家族を拘束する。

ヘリコプターの音で目を覚ます二人。レジーナの家の方へ向かい、多くの憲兵がいる中、なんとか忍び寄ると、ヘリコプターに走って乗り込む。ヘリコプターは空へと飛び立ち、まっすぐ天へ向かって上昇。やがて点となって消えて行った。

ヘブン  Heaven

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