映画 『トリコロール/青の愛』 Trois Couleurs : BLEU 🌟 喪失からの解放
邦題:『トリコロール/青の愛』
原題:Trois Couleurs: Bleu
監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ、クシシュトフ・キェシロフスキ、アニエスカ・ホランド
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
撮影:スワヴォミール・イジャック
公開:1993年、上映時間:94分

クシシュトフ・キェシロフスキ監督による『トリコロール』三部作(青 = 自由・白 = 平等・赤 = 博愛)の第1作。『青の愛』は「過去の愛からの自由」がテーマ。ジュリーは、自動車事故によって夫と娘を失い、自らも重傷を負う。生きる気力を失った彼女は、著名な作曲家だった夫の遺品や未完の楽譜を処分、人間関係もすべて断ち切り、パリのアパートで孤独な新生活を始める。しかし、夫が遺したメロディーが脳裏から離れず、さらに生前の夫に愛人がいたという秘密を知る。逃れられない過去と向き合う中、ジュリーは本当の意味での「心の自由」と向き合い、再び歩み始めていく。

映像のいたる所に「青いガラスのシャンデリア」「青いプールの波」「青い光の反射」など、テーマカラーのブルーが印象的に配置され、孤独や悲しみ、そして解放へ向かう主人公の心理が視覚的に表現される。喪失によって、絶望の淵に立ちながらも、感情を押し殺して生きようとするジュリーをジュリエット・ビノシュが繊細に演じた。

ネタバレありでストーリーを紹介
高速道路を走る青い車。5歳の少女が後部座席から外を見ている。一度停車し、少女がトイレに立ち寄る。その間、車の下からオイルがぽたぽたと漏れる。やがて白い霧の一般道。道路脇で、青年がケン玉をしていた。車が通過した瞬間、球が棒に乗る。直後に大きな事故音。大木にぶつかって大破している車に向かって、青年はスケボーを抱え走って行く。途中スケボーを投げ捨て、さらに走る。
ジュリー(ジュリエット・ビノシュ)は病院で目を覚ます。医師から夫と娘の死、自分も大手術だったと知らされる。絶望した彼女は、薬を飲んで自殺を図るが「やっぱり死ねない」と思いとどまる。
夫の友人オリヴィエ(ブノワ・レジャン)が見舞い、携帯のポータブルテレビを置いていく。テレビ放送に、夫と娘の棺桶が映る。厳かな葬儀の中継。夫パトリスは著名な作曲家で、多くの著名人も参列し追悼の意を表していた。何百万人ものファンが、彼の「欧州統合のための協奏曲」を心待ちにしていたと語られる。ジュリーはテレビを切る。
退院後、女性キャスターがジュリーを訪れた。パトリスの未完の遺作「欧州統合のための協奏曲」について質問に、ジュリーは沈黙を貫く。「厭世的になったわね」とキャスターに言われる。「当然よ。夫と娘を失った」「ご主人の曲はあなたが書いていたって本当?」と聞かれるが、答えずに、奥へ引き込こもるジュリー。
屋敷、庭師ベルナールに、青の部屋の家具は運び出したかを確認してから、その部屋へ入るジュリー。青い壁の部屋の、青いガラスの束のシャンデリア。彼女はその一部を思わず引きちぎる。下のフロア、ピアノの上にあった楽譜を手に取り、畳んで、再びピアノの上に戻す。
台所で泣く使用人マリー。彼女の元へ行くジュリー。「なぜ泣くの?」「奥様の代わりです」
2階の楽譜棚の前に座り込み、じっと考えるジュリー。夫の友人(助手だった)オリヴィエが上がってくるが、彼女の様子を見て、そっと引き返す。
ジュリーは弁護士へ指示を出す。「誰にも知らせないで。老人ホームの母に生活費を送って。マリーとベルナールの老後の保証も。財産は全て処分して口座へ移して」弁護士が「理由を聞いても?」と言うと、彼女は「ノー」「奥様の取り分は?」「預金があるわ」
ジュリーが折り畳んだ楽譜を開くと、音楽が流れる。
パトリスのオフィスへ行き、未完成の写譜を確認し、それを捨てる。
夜、カバンの中に、娘の棒付キャンディーを見つけて衝動的に噛み砕く。オリヴィエを電話で呼び出す。マットレスしか無い屋敷で最後の夜を過ごした。

翌朝。ジュリーはオリヴィエにコーヒーを運ぶ。「とても良かった。私だって普通の女。汗もかけば、咳もする、虫歯もあるわ。でも、あなたを追ったりしない。ドアは閉めて帰ってね」と出て行く。屋敷の壁を拳で撫でながら彼女は去っていった。

パリのムフタール通りのアパートに移ったジュリー。唯一娘の部屋にあった青いガラスのシャンデリアを一室へ飾る。静かで孤独な生活を始めた。

カフェ。いつものアイスクリーム&エスプレッソ。ストリートから聴こえるリコーダーの演奏。
青いプールで泳ぐ。
夜。表の通りで喧嘩。逃げて上がってくる若者。ドアを叩き、去っていく音。ドアを開けるが、もう誰もいない。外へ出るが、風でオートロックのドアが閉まり、締め出されたジュリー。仕方なく階段で座る。下のフロアの女性リュシールが帰ってきて、隣のドアを叩いてから、自分のドアへ入る。すぐに隣の男が、リュシールの部屋へ入っていく。一瞬、男とジュリーは目が合い、その後リュシールも顔を出してジュリーを見る。
昼。来客は同じアパートの別の女性。「先週締め出されたそうね」「ご主人から毛布を借りて階段で寝たわ」「立ち退き要求にサインして欲しいの。下の階の女性が男を連れ込んで困ってるのよ」「私には関係ないわ」「娼婦よ」「関係ない」とジュリーははっきり言う。
街角。目をつむって、男の演奏するリコーダーを聴く。
病院。「健康になったね。身体は心配ない。心の方はどう?」と担当医。電話がかかってきてジュリーに回す。「アントワーヌと言います。赤の他人だけど」と、ジュリーを探している青年で、忘れ物のロザリオを届けたいと言う。
青年アントワーヌとカフェで会う。事故の目撃者で、車のそばでロザリオを拾ったと言う。ドアを開けるとパトリスはまだ息があって「ほら、咳が止まった」と聞いたと言う。ジュリーはそれを聞き笑う。「事故直前、夫はジョークを話してた。咳の止まらない女性が医者に診てもらう話。医者の薬を女が飲んで「何の薬?」と聞く。「よくある下剤だ」と医者が答える。「効くと信じれば、どんな薬でも良い。ほら、咳が止まってる」。大笑い。その直後に事故が起きた。夫はオチを二度くり返す人だったのよ。このロザリオはあなたにあげるわ」と、立ち去るジュリー。

青いプールで泳ぐジュリー。曲が頭で流れる。

ジュリーは道端で倒れている男に声をかける。彼は「モノは大切にしろ」と言う。
ある日、下の階に住むリュシール(シャルロット・ヴェリ)が、白い花束を持ってくる。「助かったわ。私を追い出すには全員の署名が必要だったの。いい部屋ね」青いシャンデリアを見て「子供の時に、こんなランプがあった。触りたくてよくジャンプしたわ。ずっと忘れてたけど」
「一人暮らし? 何があったのね。捨てられるタイプじゃないわ」

カフェ。オリヴィエが突然現れる。「探したよ。家政婦の娘が偶然君を見かけたと聞いた。会いたくて三日待ったよ。僕から逃げたのか?」小さく首を振り、ジュリーは外のリコーダー吹きを見る。「あの曲? そう」「あの夜は束の間の夢だった。もう一度」とオリヴィエ。
ジュリーはリコーダー吹きに「なぜこの曲を?」と聞く。彼は「どんな曲でもひねり出すのさ」と答える。
ジュリーは物置部屋の箱を除ける。ネズミがいて驚きひどく怯える。よく見ると、生まれたての小ネズミがたくさんいて、彼女はそっと扉を閉める。すぐに、別の部屋を借りたいと不動産屋へ行くジュリー。2〜3ヶ月はかかると、頬に引っ掻き傷のできた店の男が答える。「猫にやられたんだよ」
老人ホームへ行くジュリー。「マリー=フランス?」と母。テレビではバンジージャンプの映像。「私よ。ジュリー」「あージュリー、入って。てっきり死んだかと思ってた。元気そうね。若々しく見える。まるで30歳。昔は…」「妹じゃないわよ。娘よ。33歳」「分かってる。冗談よ。私は元気。テレビもあるし。世間の事もわかる。お前も見る? 夫と家の事を話に来たのよね。子供の話?お前の事?」「ママ。夫も娘も死んで、家を処分したのよ」「そうね。愛する家族がいて幸せだったのに」「聞いてる?」「ええ、マリー=フランス」「もう生きがいもない。何一つ。思い出もいらない。友情も愛も私を縛るワナだわ」「生活するお金はあるの?大事なことよ。捨て鉢にならないで」「ママ、私はネズミ恐怖症?」「いえ全然。ジュリーは怖がってたけど」「怖いのよ」
オリヴィエの家へ楽譜が届く。
ジュリーは、同じアパートの夫婦の部屋へ行き、猫を数日貸してもらう。ネズミの部屋へその猫を放し、そしてドアをしめる。
青いプール。ジュリーが泳ぎ、プールサイド着くと、リュシールが現れる。ジュリーが走る姿を見かけ、追いかけて来たと言う。「涙?」
暗転と音楽。
「ただの水よ」「下着は?」「履かないの」リュシールはそっとジュリーを抱きしめる。「ネズミ退治にネコを借りたの。小ネズミを産んでいて…」「分かるわ。戻るのが怖いのね。私が始末してあげる」リュシールが鍵を受けとり立ち去ると、娘くらいの少女の一団が来て、プールへ飛び込んでいく。ジュリーはうつむいて下を見る。

真夜中、電話の着信音。「リュシールよ。お願いがあるの。タクシーで来て。25分で来られるわ。困ってるの。一生のお願い。今すぐこっちに来て。ピガールのシテ通り3番地」
そこはストリップ劇場で、楽屋でリュシールと会う。「許して。お酒を飲まずにいられなくて。客の中にいたの。目の前に父親がいたのよ。疲れた顔をして。淀んだ目をして。でも踊り子の股間はしっかり見てた。店の主人は仕方ないさと言ったわ。お金を払えば見る権利があるって。この辛さがわからないのよ。もう絶望的。話す相手もいなくて、電話をかけたの」「お父さんは?」「その10分後に席を立った。モンペリエ行きの終電に乗るため帰った」「なぜこんな仕事を?」「好きなの。誰でもセックスは好きでしょ。あなたは命の恩人だわ」「私は何も」「来てくれて、救われた。あれ、ジュリーが出てる」「私?」テレビにジュリーが映っていた。
「音楽界では公然の秘密。パトリス・ド・クルシーの未完の曲をあなたが仕上げる?」「そう。パトリスの意志を受け継いで引き受けた。亡きパトリスは欧州委員会から作曲を依頼されていた。欧州統合を記念し、各地の12の交響楽団が演奏するはずだった。パトリスは極めて内向的人物で、奥さんのジュリーだけが唯一の理解者だった」「奥さんへの番組出演依頼は断られました。これらの資料はあなたが保管を?」「いえ。この写真や楽譜は彼の机で見つけた。でも奥さんは公開には絶対反対だった。しかしパトリスは傑出した現代作曲家で、残された作品は万人が分かち合うべきだと思う」
待ってて、と、タクシーを降りるジュリー。パトリスのオフィス。「どこだっけ黄緑色の名刺だった」「今夜テレビを見た?」「見てないわ。あった、彼女の仕事先の番号。なぜ必要なの」「番組でその女性が夫の楽譜を持ってたの」「事故の後1部コピーしておいたのよ。あなたが破棄するような気がして。そのコピーを欧州委員会に送ったの」「どうして?」「あんな美しい曲を葬り去るべきじゃないわ」
オリヴィエを見つけ、呼び止めるジュリー。「夫の曲を仕上げるの?あなたにそんな権利はない。別の曲に変える気なの?」「曲はともかく。なぜやるか教えてやる。君を困らせ、泣かせるための手段だ。僕が必要かどうか、君から引き出す手段なんだ」「そんな、卑怯よ」「他にどうしろと?」「身勝手だわ」「加筆した曲を見てくれる?自信はないが、聴かせるよ」
ピアノを弾くオリヴィエ。ジュリーが聴く。「そこは合唱が入るはずよ … 夫は何も言ってなかった? … 韻を踏んだギリシャ語の合唱が … 」
「テレビの、あの写真の女性。夫と一緒に写ってた … 夫の恋人?」「ああ、そうだ … 数年前から … モンパルナス。二人はよく裁判所で会ってた。弁護士の見習いだ。どうする?」
暗転と音楽。
「会うわ」

ジュリーは裁判所へ行く。夫の不倫相手サンドリーヌ(フロランス・ペルネル)を見つける。妊娠しているようだった。彼女を尾行し、カフェのトイレで声をかける。「夫の恋人?」「ええ」「知らなかったわ」「残念だわ。あなたに嫌われるなんて」「そう?」「そうよ」「夫の子?」「ええ。事故の後、分かって。作る気はなかった。でも育てるつもり」他の人が入ってくる。サンドリーヌは「煙草ある?」と聞き、ジュリーは煙草を渡し「身体に毒よ」と言い火を点ける。「彼といつ何処で寝たか知りたい?」「いいえ」「彼の愛については?」「聞く必要ない。夫はあなたを愛していたのよ」サンドリーヌが身に着けていたロザリオをじっと見る。「ええ、そうね。ジュリー、私が憎い?」ジュリーは何も言わずに立ち去る。
青いプールで泳ぐジュリー。
老人ホーム、綱渡りの映像をテレビで見る母。それを窓ガラス越しに見て、ジュリーは帰っていく。
オリヴィエを訪ねるジュリー。「夫の書類を引き取れって言ったわね」「君は拒絶した」「引き取っていたら、その中に写真もあったの?」「そう」「引き取ればよかった。あれを燃やせば、知らずに済んだのに」「そうだね」「もういいの。手直しした曲を見せて」

バイオリン? … ビオラだ … ここから … もっと軽く … 打楽器はダメ … 金管も外して … ピアノを被せて … フルートで繋げて … 終わりは … 夫のメモが … フィナーレは対位法で … これを挿入して。ピアノの上に置いてあった楽譜を見せるジュリー。「ヴァン・デン・ブデンマイヤー風だね」「彼のイメージで最終楽章を飾る。弁護士と連絡はしてる?」「たまに」「屋敷はまだ売らないでと伝えて」「分かった」
屋敷。「マットレスはオリヴィエ氏が買い取りました。奥様は不要かと」と庭師が言う。サンドリーヌがやって来る。「来たのは初めてよ」「2階に寝室と書斎があるの。台所は前のまま。子供はどっちなの?」「男の子」「名前は決めた?」「ええ」「その子が父親の名前と屋敷を受け継ぐべきだわ」「知ってたわ」「何を?」「彼があなたの話をしてた」「どんな?」「いい人で、寛大、理想の女性、頼れる存在」

オリヴィエへ電話するジュリー「完成したわ。良ければ、今すぐ取りに来て」「悪いが楽譜は取りに行かない。1週間考えた。その曲は僕の分身同然だが、本当は君の作品だと公表するべきだ」「そうね」と電話を切るジュリー。しかし、すぐまた電話する「あのマットレスで寝てるって本当? 知らなかった」「黙ってた」「愛してる?」「愛してる」「今一人?」「もちろん」「行くわ」ジュリーは楽譜を指で押さえる。「欧州統合のための協奏曲」が流れる。ソリストの女性が『コリント人への第一の手紙』第13章「愛の賛歌」を歌う。
たとえ私が 天使たちの言葉を話しても
愛がなければ それは空しいかぎり
ただ鳴り響く 鐘にすぎない
たとえ私に 予言する力があっても
たとえ私が 奥義に通じていても
あらゆる知識に 通じていても
山を動かすほどの 信仰があっても
愛がなければ 無に等しい 無に等しい
愛は寛容なり 愛は善意に満ちる
愛は決して ねたむことなく 決して高ぶらない
愛は耐え忍び 全てを信じる
全てを望み ひたすら耐える
愛は決して 滅びることがない
予言はいつしか 終わりを告げる
言葉はいつしか 沈黙する
知識もいつしか 消滅するだろう
ジュリーを取り巻く人々の姿が映し出される。愛を育むジュリーとオリヴィエ、ジュリーがロザリオを託した青年、死を迎えるジュリーの母、リュシール、サンドリーヌと胎内の子、そして背を向けた裸のジュリーの姿がオリヴィエの瞳に映り、最後にジュリー自身が静かに涙を流す。そして、少し微笑んだようにも見える。
最後に残るのは 信仰と希望と愛
この3つの中で 最も尊いものは愛 最も尊いものは愛
最も尊きもの それは愛

ジュリー・ド・クルシー(ジュリエット・ビノシュ)
著名な作曲家パトリスの妻、一人娘アンナの母。交通事故で家族を失い、自身だけ生き残る。心の痛みからすべての過去を断ち切ろうとし、名前を旧姓ヴィニョンに戻し、孤独な生活を選ぶ。だが、記憶や他人との関係を完全に断つことはできず、再び他者との絆や音楽に向き合い始める。
オリヴィエ・ブノワ(ブノワ・レジャン)
パトリスの助手。ジュリーに長年想いを寄せていた。ジュリーの消息を追い続け、再会する。パトリスの未完の楽譜を密かに保存しており、ジュリーと共にその完成を目指す。
パトリス・ド・クルシー(ユーグ・ケステル)
ジュリーの夫で世界的に知られる作曲家。事故で死亡。死後も未完の作品を通じて、彼の影響が物語に深く及ぶ。生前に愛人サンドリーヌとの関係を持ち、彼女との間に子を残していた。
リュシール(シャルロット・ヴェリ)
ジュリーと同じアパートの住人、ストリップ劇場で働く女性。隣人たちからは軽蔑されるが、ジュリーとは奇妙な友情を築く。自身の父との葛藤を抱えつつ、ジュリーとの関わりの中で自己肯定感を取り戻していく。
サンドリーヌ(フロランス・ペルネル)
パトリスの愛人で、彼の子どもを身ごもる女性。弁護士。ジュリーは彼女の存在を知って激しく動揺するが、最終的には彼女に家を譲る。
アンナ
ジュリーとパトリスの幼い娘。事故で死亡。ジュリーにとって最も深い喪失の象徴で、彼女の行動すべての根底に存在している。作中では娘の遺品(飴や青いシャンデリア)を通じて記憶の中に生き続けている。
アントワーヌ(ヤン・トレグエ)
冒頭の事故の目撃者、後にジュリーを訪ねてくる青年。現場で見つけたパトリスのロザリオをジュリーに渡そうとする。
ジュリーの母(エマニュエル・リヴァ)
老人ホームで暮らす高齢女性。認知症で、ジュリーのことも認識できず、主にテレビの映像に没頭する生活。
映像の至る所に「青色のシャンデリア」「青いプール」「青い光の反射」など、テーマカラー「青」が印象的に配置され、孤独や悲しみ、そして解放へ向かう主人公の心理を、視覚的に表現している。
絶望の淵に立ちながらも、感情を押し殺して生きようとするジュリー。失った家族へ語りかけるような、心の内を想像させるジュリエット・ビノシュの演技が素晴らしかった。
ヴァン・デン・ブーデンマイヤー
映画監督クシシュトフ・キェシロフスキと音楽家ズビグニェフ・プレイスネルが創作した、架空のオランダ人作曲家。『ふたりのベロニカ』、『トリコロール』3部作、『デカローグ』など、複数の作品に名前や曲が登場し、虚構と実像を結ぶ重要な役割を持つ。『青の愛』では物語前半の葬儀シーンなどで、ブーデンマイヤー名義の重厚な葬送行進曲が流れる。
欧州統合のための協奏曲
劇中でパトリスが遺したこの曲は、映画のテーマである「自由」と「再生」を象徴する最も重要なピース。作中ではパトリスの遺作とされるが、実際はズビグニェフ・プレイスネルが映画のために書き下ろした名曲『Song for the Unification of Europe』。
歌詞は、新約聖書「コリント人への第一の手紙・第13章」から引用されており、「たとえ予言や知識があっても、愛がなければ無に等しい」という愛の絶対的必要性をソプラノ歌手がギリシャ語で厳かに歌い上げた。パトリスの死後、助手オリヴィエが勝手に曲を完成させようとしたことを知ったジュリーは反発する。しかし、最終的に2人でパトリスのスタイルではなく「自分たちの音楽」として譜面を書き換え、完成へと導く。これがジュリーの心の解放を意味する。
助手オリヴィエの役割
オリヴィエは、絶望の底にいたジュリーを現実世界へと引き戻す、もう一人の主人公とも言える存在。彼はパトリスの生前から、密かにジュリーに対して深い愛を抱いていた。ジュリーがすべてを捨てて引きこもろうとした際、オリヴィエは未完成の協奏曲を自分が勝手に完成させ、世に発表するとTVで宣言する。これは、ジュリーの音楽家としてのプライドと情熱を呼び覚ますための、彼のあえて仕掛けた「賭け」だった。孤独に生きようとするジュリーに対し、「あなたを忘れることはできない」と真っ直ぐに愛を向け続ける。彼の存在があったからこそ、ジュリーは最後にパトリスの呪縛から逃れ、新しい「愛」に生きる一歩を踏み出せたといえる。オリヴィエを演じたブノワ・レジャンは、繊細で複雑な内面を持つ役柄を得意としたフランスの名優。前作『ふたりのベロニカ』でも、主人公ベロニカの恋人である星の王子さまの操り人形師(兼 絵本作家)役として、物語の鍵を握る重要な役を好演した。なお、本作『青の愛』が公開された翌年の1994年、心臓発作により40歳という若さで惜しまれつつこの世を去った。
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