映画 『トリコロール/赤の愛』 Trois Couleurs : Rouge 🌟 博愛の心

邦題:『トリコロール/赤の愛』
原題:Trois Couleurs : Rouge
監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ、クシシュトフ・キェシロフスキ
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
撮影:ピョートル・ソボチンスキー
公開: 1994年、上映時間:96分
フランス=スイス=ポーランド合作映画。トリコロール三部作の第三作。全てを包む「博愛」がテーマ。ジュネーブを舞台に、若い女性と孤独な老判事との奇妙な交流を描く心理ドラマ。

ネタバレありでストーリーを紹介
電話をかける男の手、回線を伝わる言葉、信号、海を超えるネットワーク、話し中の音、受話器を置き、またかける。
フランスとの国境に近いスイスのジュネーブ。法学部学生オーギュスト・ブリュニエ(ジャン=ピエール・ロリ(Jean-Pierre Lorit))が分厚い本を束ね、黒い犬の首輪をつなぎ、散歩へ出かける。

向かいの建物、赤い看板のカフェ・ジョセフの2階、赤いロッキングチェアの部屋。電話が掛かり留守電に切り替わる。「ヴァランティーヌ、家にいないのかい? またかけるよ」とミシェルの声。ジュネーブ大学に通う学生ヴァランティーヌ・デュソー(イレーヌ・ジャコブ)が、急いで電話をとる。イギリス滞在中の恋人からだった。「ミシェル 朝食を食べてたの」「さっきは話中で 今度は留守電か。一人?」「そう 本当よ。写真撮影の連絡が入って話し中だった。いつ戻ったの」「昨日。電話したけど留守だったよ。ポーランドで車を盗まれて、パスポートも金もやられたんだ。参ったよ。親切な男に助けられて、大使館で証明書を発行してもらったけど」「ミシェル 昨日は寂しかった。一晩中あなたの上着を着て眠ったの。一緒にいたかった」「無理言うなよ」「そうね。そっちのお天気は?」「英国は雨」「昨日はこっちも雨だった。今は晴れてる。もう春ね」「昨日はどこに行ってた?」「映画館で “今を生きる” を観たわ」「傑作だね」「良かったわよ。午後7時には戻ってる。ミシェル好きよ」「僕もだ」「キスを」
オーギュストが散歩から部屋へ戻り、また電話する。「気象情報です」彼の恋人カリンの声を聞いて、微笑んで電話を切る。オーギュストは、また表へ出て、赤いジープに乗りこむ。
ヴァランティーヌは1階のカフェへ。店頭の新聞を買って店の中へ入る。スロットマシンを回してみるが、今回はハズレだった。

ヴァランティーヌはモデルのバイトをしている。今日はチューインガムの広告撮影。赤い背景に赤い服。「横顔 … 笑わないで … 悲しそうに」と指示され、哀しげな表情を浮かべる。

バレエレッスンの後、ファッションショーの仕事も。ヴァランティーヌは疲れた様子。帰りの車の運転中、ラジオの操作をしていると、車に衝撃が走る。止めて外を見ると、犬を轢いてしまっていた。
ヴァランティーヌは、首輪の表示から犬の名がリタだと知る。そして、飼い主の住所を訪ねる。ブザーを鳴らしても出てこない。鍵は開いていた。ジョゼフ・ケルヌ(ジャン=ルイ・トランティニャン)という人だ。「お宅の犬をひいてしまって。番犬のリタよ」「昨日いなくなった」「今、私の車にいます。どうすれば良いですか? 獣医に連れて行きます?」「好きにしろ」「え、もし娘さんでも同じような返事をするんですか?」「娘はいない。帰ってくれ。ドアは閉めるな」ジョゼフは犬のリタに無関心で、冷淡な態度だった。
ヴァランティーヌは犬を動物病院に連れて行く。獣医は「大丈夫よ。傷口は縫いました。安静にしてください。彼女、妊娠してますね」と言う。
「一人?」とまたミシェルからの電話。「いえ。犬を引き取ったの。車にひかれて」「男がいるかと思ったぞ」「私たちの出会いを覚えてる? あの日、私が外出したから出会ったのよ」「そうだな。でも、犬は返せよ」「ダメなの。飼い主が拒絶するの。車の警報が外で鳴ってるわ。行かなきゃ」

車の警報で、オーギュストも外を見ていた。恋人カリンが手を振る。部屋を片付け、下のドアの鍵を開ける。
先日の写真を見せるカメラマン。「どのショットも新鮮で表情が生きてる。君はどれが良い?」ガム広告に使う写真として、ヴァランティーヌは「哀しげな表情」のものを選ぶ。「僕もこれだな。広告に使うと、きっと注目される」と、言い寄ってくるカメラマン。だが、ヴァランティーヌは拒否する。
ヴァランティーヌは、新聞を買い、カフェに入る。スロットマシンで「🍒🍒🍒」チェリーが揃いコインが出る。「悪い前兆だな」とカフェのジョセフに言われ「当たるなんて不気味ね」と答える。部屋に戻ると、コインは貯金用ガラス瓶へキープする。
大家が、差出人不明の現金書留を持ってくる。新聞の麻薬の記事を見た大家。「君の弟じゃないのか」とヴァランティーヌに聞く。「似てるわね」「家族はこの記事を知ってるのかね?」と言う。「分からないわ」
弟マルクの彼女マリーへ電話をかけるヴァランティーヌ。「マリー、私よ。マルクに電話してと伝えてくれる?」
散歩中、ヴァランティーヌはリタの首輪を外す。「逃げないでね。約束よ」と言うが、すぐにリタは逃げ出し、走り去る。ヴァランティーヌは追っていくが、リタは教会へ入り、反対の扉から逃げ去って、見失ってしまう。

ヴァランティーヌは車でジョゼフの家にいってみる。やはりリタがいた。彼女は届いた現金のことをジョゼフに確かめると、治療費に送ったと彼は答える。「治療費は130フラン。600は多いから返すわ」100フラン札を彼女へ渡し、残りを取ってくるとジョゼフは家へ入る。「リタはとても利口だ。あげるよ」「要らないの?」「何も要らん」「じゃあ息も止めたら?」「そうしようか」
戻ってこないジョゼフが心配になり、「息を止めたの?」と家に入る。聞こえてくる声。

無理だ。来てくれ。今日はダメ。昨日は会ってくれたのに。今日は都合が悪い。これから昼食。お願い。冷たくしないで。昨日のようにピエールと呼んでくれ。僕の愛しいモナムールと。待て。電話を切り替える。ピエール、一人になれた。僕も一人。来てくれ。寂しくてたまらない。ピエール、明日会える。恋しい。君の姿を想像してる。君は他の男のために裸で鏡の前にいる。僕の唇で君の体中にキスをあびせたい。ヴァランティーヌは無線機の音を止める。
「これは?」「盗聴だよ。近くの家の電話を盗聴してる。面白いのになぜ切るんだ。楽しくないか?」「卑怯だわ」「しかも違法。自分が正しいと思うのか? じゃあなぜ何もしない?」「何を?」
無線機の音を出す。昨日のように愛撫して欲しいか。「この男に会って会話を聞かれていると伝えろ。私が盗聴していると」「いいわよ」「向かいのあの家だよ」
ヴァランティーヌはその家に行く。「ご主人に用が」「2階で電話中よ。鍋の火を切るわ。さあ入って」1階では娘も電話中。「かけて、主人はすぐに来るからちょっと待ってて。カロリーヌ、電話で遊ぶとパパに叱られるわ」「ごめんなさい。番地を間違えて。つい勘違いを」とヴァランティーヌは出ていく。
オーギュストの赤いジープが止まっており、カリンが降りてくる。「電話するよ」とオーギュストが見送る。

「それで伝えたかね」「いいえ」「何か飲む?」「いいえ。盗聴はやめて」「僕の生活の一部なんだ」「職業は? 刑事?」「いや判事だ。君も聞いてみるかね。雑音もいいのもだよ。良い事か悪い事か分からんが、少なくとも、真実を知る事ができる。法廷より物事が見える」「誰にでも秘密が?」「そう。なぜ男に盗聴を告げなかったんだ? 献身的で優しい妻に会ったからか? 愛娘がいたからか? それとも相手を苦しめるのが怖かったか?」「全部よ」「いいかね。君は彼に告げる事も告げない事もできた。だが、彼はいずれ、身投げするか、あるいは妻に知られる。そして娘にも知られる。地獄だ。どう助ける? どうだね」「ある男の子が … 」「知り合いか? 少年の母親が娼婦だとでも?」「知ったのよ。彼が15歳の時、父親の実の子供じゃない事を。あの男性の娘もきっと気づいてるわ」
気象情報です。明日、車でトリノへ行くの。シャモニーまでの道路は空いてますが、午後から雪になる見込みです。トンネルで … お待ちを。「欧州の天気が分かる」早朝に出発すれば、雪に遭わずに済みますよ。とても役に立ったわ。
気象情報です。僕だ。眠れた? 少し。電話の方があなたと話しやすいわね。昨日は良かったよ。あんなに燃えたのは初めて。美しいカラン、君は僕のものだ。君はまるで子供のように眠っていた。私は年上よ。1歳だけだろ。2歳よ。今朝起きてふと不安になったよ。心配性ね。試験が不安なの? いや、君が満足してるかどうか。ボウリングに行かない? 勉強があるよ。コインで決めよう。裏ならボウリング、表なら刑法の勉強。あら、ボウリングよ。じゃ電話する。待ってる。チャオ。

「聞かんのか? 残念だ。ロマンチックなのに」「最初だけ聞いたわ。恋人同士ね」「そうだ」「彼にふさわしい女じゃない」「分かるの?」「窓から二人を観察している。卑怯だと? ごらん、外の彼。彼は周波数の違う電話を日本で手に入れた。残念ながら私の無線機ではキャッチできん。彼はこのジュネーブでの麻薬売買を仕切っている。手が出せないんだ。尻尾を出さない男だ。興味があるか?」「とても」「じゃあ電話しよう」ジョゼフは彼へ電話をかける。ヴァランティーヌは電話で「殺されるわ」と男に言う。男は電話を切って慌てて家へ入って行く。「なんてことをしてしまったの」「彼の番号だ。いたぶりたい時はいつでもかけたらいい」
10時に電気を消したのに眠れなくて。「この会話はつまらんな」寝苦しくて寝返りを打った。胸が苦しくて。買い物にも行けないの。困ったわね。パンもない。ママ、この間私が届けたでしょ。ないわ。ママよして、もう愚痴はたくさん。「パンでも届けてやるか? 偽善的かな」「人助けのためよ」「なぜ犬を拾ったんだ?」「車でひいたからよ。怪我してたわ」「見捨てたら、犬に祟られると、思ったんだろう」「誰のために助けた? あの老婆のためにスーパーへ行く必要はないよ。娘はウンザリしているんだ。母親の仮病に騙されてもう5回も訪ねてる。娘はもう母親の言うことを信じてない。何一つ」「違うわ」「何が」「全てよ。その考え方が。人間はもっと寛大なもの」「いや」「時には無力だけど」「父親が別人だったというのは、君の恋人か弟か?」「弟よ」「年は」「16歳」「麻薬を?」「なぜそれを知ってるの?」「簡単に分かる」「哀れな人ね。知ってる? 犬が妊娠してるわ」
ヴァランティーヌは泣きながら車で帰る。オーギュストの電話が鳴っていたが、取ると切れていた。ヴァランティーヌは電話をかける。「私よママ」「元気?」「マルクは来た?」「昨日恋人と着いたわ。綺麗な子よ」「マリーね」「今2人でテレビを見てるわ」「楽しそうね」「珍しくマルクが来てくれて嬉しい」「マルクと変わって」「姉さん」「親孝行ね」「いつも姉さんの役だからな」「ママは新聞を?」「見てない。気づいてないよ」「良かった」「じゃ」
ヴァランティーヌは、ミシェルに電話をかけてきてと願う。すると電話が鳴る。しかしカメラマンの電話だった。「ジャック?」「写真みた? すごい出来だ。見た?」「忘れてたわ。ひどい1日で」「一緒に気晴らしでもどうだい?」「どこへ?」

ヴァランティーヌはジャックとボウリング場へ行く。割れたグラスとタバコが映る。
ジョゼフとリタ。ジョゼフは手紙を書こうとしていた。万年筆のインクが出ず、イライラする。代わりに鉛筆で差出人 ジョゼフ・ケルヌと書く。
大きなヴァランティーヌの赤い広告写真が交差点に張り出されている。
大家を訪ねるヴァランティーヌ。「夜分すいません。鍵が開かなくて」「これは、トルコ人のガキの悪戯だよ」「知らなかったわ。鍵穴にガムが詰まっていたのね」
ヴァランティーヌが部屋の電話に出る。「僕だ」「ミシェル」「さっき電話した」「ベルは聞こえたけど。鍵穴にガムが詰まってて」「ガム?」「ガムの広告に出たせいかしら」「言ったろ、モデルはするなよ」「ミシェル」「いや、取り消す。ごめん。留守電にしとけよ」「いえ。平和が欲しいの。静かな生活が」「僕と会って不運だな。男でも?」「いえ。あなただけよ」「なぜ電話に出なかった?」「部屋に入れなかったのよ」「分かった。ハンガリーに立つ。どうした?」「寝るわ」「寝ろよ」電話が切れる。「いるの? ひどい」
シャワーを浴びようとすると電話が鳴る。「寝た?」「まだよ」「ベッドか?」「服を脱いでシャワーに」「男は? いるのか?」「おやすみ」と電話を切るヴァランティーヌ。

オーギュストが本を投げ出し、カリンにキスする。「合格ね。おめでとう。試験は? 道に落とした本から出題されたの?」頷くオーギュスト。カリンは、本を拾うオーギュストに万年筆のプレゼントをする。「僕の初裁判で使うよ」
裁判所に来ているジョゼフ。「ケルヌ氏の盗聴に対する審理を開廷します。住民の皆さんは中へどうぞ」

レコードショップ。ヴァランティーヌはヘッドホンで音楽を聴く。その横では、オーギュストとカリンが同じくヘッドホンで音楽を聴いていた。「432番のヴァン・デン・ブーデンマイヤーのCDが欲しいの」とヴァランティーヌ。売り切れです。午後には入荷します。取っておきますか?
バレエ教室。ヴァランティーヌは退官判事が盗聴という新聞記事を見る。
ヴァランティーヌはジョゼフを訪ねる。「実は新聞を見たの。私は密告してない」「承知だ」「警察にも誰にも話してない」「知ってるよ」「密告者は私なんだ。自分を密告したんだよ。入らんか? 見せたいものがある」
山に沈む夕陽。リタには7匹の子供が生まれていた。人に勧める機会が無かったと、梨のブランデーで乾杯する二人。「私の健康に」「なぜ密告をしたの」「知りたいかね。君が新聞を読んで、どうするか見たかったんだ 」「ここに来ると思ったの?」「最後に会った時、そう思った」「なぜ? 私を待ってたの?」「哀れな男だと言われて。気が付いた。私は間違っていた」
「そこに座って何か話して。あの日泣いて帰ったね。私は無線を切り、机に向かった。愛用の万年筆のインクがなくなってた。だから鉛筆で隣人と警察に手紙を書いた。その夜、君が眠っている間に投函したよ」「寝なかったわ。ボウリングに行ったの」「あの恋人たちの会話を覚えているか。あの2人もボウリングへ行くと言ってたな。会ったかもな」「そうね。彼女が嫌いなのね」「2人は別れる」「何か仕組んだの?」「私の盗聴とタレ込みのせいで、あの娘は他の男と出会ったようだ」
法廷。オーギュストが電話するが、カリンは出ない。

「母は一人暮らし。だから弟に頼んで、訪ねてもらったの。私は来週、仕事で英国に行くわ。母は寂しがり。弟は麻薬に溺れるばかり。行くべき?」「それが君の運命だ。弟の身代わりにはなれん」「愛する弟よ。力になりたい」「君がいるだけでいい」「どういう意味?」「存在するだけで十分だ。飛行機は?」「嫌い」「じゃあフェリーで」「まだ一度も乗ったことない」「運賃も安いし健康にもいい」「乗ってみるわ」「今日は私の誕生日だ。私は35年前の午後5時ごろ、ある船乗りに無罪を宣告した。初めて担当する裁判で、とても荷が重かった。しばらくして誤審だったことが分かった。実は有罪だった」机の電球をつけるが球が切れる。「電球の替えがない」と天井の電球を取って差し替える。眩しいライトに傘を被せる。「船乗りは?」「追跡調査した。結婚して子供が3人いたが、さらに息子が誕生した。今も幸せだ」「いいことをしたのね。良かったのよ。分からない? 救ったのよ」「しかし他にどれだけの罪人を無罪にしたか分からん。法の番人である判事に必要なのは、鉄の心だ」「冷徹な心?」「そう」「もう一杯。乾杯。私が訴えられたら、あなたのような判事がいいわ」「裁判など経験するな。罪の無い者には無用だ」突然、窓ガラスが割られる。「見たか。これで6度目。もう周波数は変えて盗聴してないのに」ヴァランティーヌは割れたガラスを片付ける。「石はピアノの上に置いてくれ」6個の石が並んでいた。「怖くない?」「もし私が隣人だったら同じことをしただろうね」「石を投げると?」「彼らの立場なら投げるだろう。私は判決を下し、被告の人生を左右してきた。彼らの人生を奪い、抹殺してきた。自分の職務しか考えなかった」「愛する人は?」「いない」「愛したことは?」「昨日、夢を見た。君の夢を。君は50代で幸せそうだったよ」「夢は実現する?」「久しぶりに楽しい夢を見た」

オーギュストが電話するが話し中。「ここにいろ」と呟くが、彼はジープで出かける。スロットマシンは「🍒🍒🍒」チェリーが揃っていた。急ぐジープを、なぜか窓からじっと見ているジョゼフ。
カリンの部屋のドアに耳を当てるオーギュスト。大きなゴミ箱を運んで来て、2階の窓へ登り、中を覗く。ベッドルームで浮気するカリンを見て驚きの表情のオーギュスト。
オーギュストは、ジープでアパートの前へ戻る。
「水曜にフェリーで英国へ渡る」とミシェルへ電話するヴァランティーヌ。「朝7時半の便。カレーに住む母に会うの」「じゃあ8時半に桟橋で待ってる。やっと会えるね」「ミシェル 愛してる?」「もちろん」「それは愛?」「そうさ」「違うわ」

窓から赤いジープを見るヴァランティーヌ。ジープからオーギュストが出て部屋へ戻り、ベッドへ倒れ込む。
窓からライトが点いてる赤いジープを見るヴァランティーヌ。
カフェの外から、中にいるカリンと男を見るオーギュスト。窓をノックする。2人は笑いながらヨットの写真を見て気づかない。ペンで窓を突くと2人が気づく。去っていくオーギュスト。カリンが追いかけ「オーギュスト!」と叫ぶ。
ジョゼフが気象予報へ電話する。「気象予報です」「数日前からかけていたが」「病気でした」「来週のドーヴァー海峡は?」「快晴で風も穏やかです」「なぜ笑う?」「私も行くんです。偶然ね。遊びでヨットに … 」「クルージングか」「楽しみだわ」「休業か?」「ええ」「それは残念だ」
オーギュストは怒りを自分の犬にぶつけ、街灯に繋いで放置してしまう。

ヴァランティーヌはジョゼフにファッションショーの招待状を送っていた。彼は車でショーへ向かい、移動途中、巨大な看板のヴァランティーヌの写真を見る。
赤い劇場、赤いライト、黒と赤の衣装。ファッションショーが終わり、再会したジョゼフとヴァランティーヌ。「ステージから探したわ。あなたが見た夢の事、詳しく聞きたい」「君は50代で幸せそうだった」「夢の中には、他に誰かいた?」「いた。君は目覚め、隣の人に微笑む。誰かは分からん」「どんな人? 20代?」「そうだ」「あなたは何者なの?」「ただの退官判事だ」「私の身に何か起こる気がするの。不安だわ」ジョゼフはヴァランティーヌの手を取り、強く握る。「これで安心かね。昔はよく劇場通いをしてた」「いつもどの席に?」「舞台からは死角の今日と同じ席。昔、幕間に、本のバンドが切れたことがあった。この辺りに分厚い本が落ちた。試験間近だったんだ。すぐ降りていくと、本のページが開いてた。そこを読んだら試験にその箇所が出てた」「外出すれば良いこともある」「車のバッテリーも補充した」「なんだか嵐ね」劇場の窓を閉めるヴァランティーヌ。
「味は悪くないな」と2人でワインを飲む。「なぜ私に船乗りの話をしたの?」「なぜ?」「きっと、もっと大事な話をするための導入っぽかった。愛する女性の話とか」頷くジョゼフ。「裏切られた。でもあなたは理由が分からなかった。そして愛し続けた」「なぜ分かるんだ?」「見抜くのは簡単よ。どんな女性?」「2歳年上の大学生。ブロンドで繊細。知的な女性で首が長かったな。着る服も部屋の家具も明るい色だった。家の玄関には白い枠の鏡があった。ある晩、その鏡に彼女の、開いた白い脚が見えた。脚の間には男がいた」「なぜ? どうしてそんなことに」「その男の名はユーゴ・ヘルブリング。彼女に贅沢をさせていた。2人は逃げ、私はドーヴァー海峡まで追った。私は屈辱に耐えた。彼女が事故で死ぬまで。それ以来、女とは関係を断ち、女を信じるのもやめ、それ以来、出会いもなかった。だが、君に出会った」「話は終わり?」「いや。その後、ある裁判を担当する事になるが、被告がユーゴ・ヘルブリングだった」「あの男?」「戻ってきたんだ」。劇場の男性が「もう閉めるよ」と言う。「清掃係の女性を見なかった?」「見ないわ」「通りかかったら上にいると伝えてくれ」
「裁判は偶然だった。殺すほど憎かった。何かが変わるなら殺してた。だが彼は私に裁かれる身だ。崩壊したビルの建設責任者で死者が多く出た裁判。私は有罪判決を下した。妥当な判決だった。その後、退官を願い出たんだ」劇場の男性が「見たかね?」「いや」「探してみる。ミラナ〜!」
「梨のブランデーのボトルだ」「ありがとう。お願いがあるの。2〜3週したら会いにいくから、その時、子犬をわけてね」「今日のショーはテレビ放送するのかい?」「たぶん」「テレビを買うよ」「ウチに2台あるから、明日、弟に持って行かせるわ」「じゃあ、弟さんに会うのが楽しみだ。じゃあまた」「また」「フェリーのチケットはあるかい?」チケットを確認するジョゼフ。車の窓越しに手を合わせる2人。
歩道の資源ごみのボックスに、背中の曲がった老婆が、ボトルを入れようとしていたが、なかなか入らなかった。それを見ていた。ヴァランティーヌは、迷わず手を貸してあげる。
フェリー乗り場に来るヴァランティーヌ。犬と共にオーギュストも乗り込み、フェリーが出航する。
雨が降り出す。強い風の中、ヴァランティーヌの広告が撤去される。
朝。ジョゼフは、新聞を取りに行き、ドーバー海峡のフェリー沈没事故を知る。テレビニュースで、嵐のため救出活動が難航していると報道される。付近海上では2名乗った小形ヨットも消息を絶っていた。転覆原因は不明。フェリー乗客は1435名。数百体の遺体が引き揚げられたが、大半の乗客の行方は分からなかった。遭難信号を受け最初に到着した巡視船が、奇跡的に7名を救出。他界した作曲家の夫人ジュリー・ヴィニョンとオリヴィエ・ブノワ(青の愛の登場人物)。バーテンS・キリアン。ポーランドの実業家カロルとドミニク・ヴィダル(白の愛の登場人物)。生存者の中に、スイス人が2名。オーギュスト・ブリュニエルヌール、ジュネーブ大生のモデル、ヴァランティーヌ・デュソーだった。
偶然と必然、他者とのつながり、そして「博愛」の象徴として、観る者に深い余韻を残す。
終

キェシロフスキは自伝の中で語る。アイデアはピェシェヴィチのものだった。『デカローグ』を撮ったなら、今度は「自由・平等・博愛」に取り組もうと。十戒を現代の文脈で捉え直すように、これらの言葉が現代の人間にとって何を意味するのかを探りたかった。哲学的でも政治的でもなく、個人的で親密な意味で。それらの理念は、西洋社会ではすでに政治的・社会的には実現されているかもしれないが、個人のレベルではどうか? その問いに応えるため、この三部作を作ることにしたと言う。
音楽はポーランドの作曲家ズビグニエフ・プレイスネル。本作のメインテーマである「ボレロ」。元は1991年の映画『At Play in the Fields of the Lord』のため作曲されたが採用されなかったもの。プレイスネルは劇中で過去作の自己引用も行っており、ヴァランティーヌが音楽店で『デカローグ 第9話』の音楽を聴く場面がある。また、同シーンで『トリコロール/白の愛』のタンゴも流れる。さらに、架空の作曲家ヴァン・デン・ブーデンマイヤー(実際はプレイスネルが作曲)に関連する要素も登場し、判事の机には彼のレコードがあり、ヴァランティーヌが聴くCDジャケットにその肖像が一瞬映し出される。
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