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DEKALOG デカローグ ④ ある父と娘に関する物語

デカローグ第四話 『ある父と娘に関する物語』

Krzysztof Kieślowski's DEKALOG

血の繋がり、男女の愛、そして家族の定義を揺るがす、心理サスペンス。ミハウ(ヤヌシュ・ガヨス)は、妻を娘アンカの出産時に亡くし、男手一つで娘を育ててきた。アンカ(アドリアーナ・ビエジンスカ)は演劇学校に通う美しい女子大生。父と娘は、まるで友達や恋人のように仲が良く、深い信頼関係で結ばれていた。

ネタバレありで詳しいストーリーを紹介

ブラインドカーテンの隙間から覗く娘のアンカ。父のミハウはタバコを吸っている。

朝。アンカは窓を閉め、水差しに水を入れ、ミハウの部屋へ入る。パスポートの下にあった「死後、開封のこと」と書かれた茶色い封筒を手に取り、また戻す。

寝ているミハウへ近づくアンカ。ミハウが目を覚まし微笑む。アンカはミハウの頭へ水差しの水を注ぐ。驚くミハウ。「あ! アンカ、頼むからやめてくれ! やめろっ」と怒るが、アンカは笑っている。「復活祭の月曜よ」と言って、アンカは残りの水も全てミハウにかけ、部屋から逃げ去る。

ヤヌシュ・ガヨス(Janusz Gajos)当時約50歳

バスローブを着たミハウが、アンカのいるバスルームをノック。「開けろよ。急いでるんだ」「嫌だって」「いいから開けろ!」「復活祭の翌日だ」と言って、ミハウは仕返しで、アンカへ水をかける。

電話の音。「私よ、待ってて」と返事するアンカ。「パパ、自分の部屋で取るから、ここの電話切ってね」「分かった」

アンカが部屋へ行き、ミハウは電話を置こうとするが、「切ったかしら」「と思うよ」と聞こえてきて、思わず受話器を自分の耳元へ。「パパ 置いてくれた?」とアンカ。「大丈夫みたい」「どうだい?」「生理になったわ。遅れてただけだった」「助かった。今日は空港へ迎えに…」 電話を切るミハウ。

アドリアーナ・ビエジンスカ(Adrianna Biedrzyńska)

空港のカウンター。チケットを口に咥えたまま、チケットを探すミハウ。それを手に取ってミハウに見せるアンカ。「飛行機怖い?」「怖くないよ。信じるか?」 首を振るアンカ。「見送りって嫌いだわ」「まだ濡れてるな」とアンカの髪を触る。「元気で」「ああ、お前もな」 一度行きかけて、引き返すミハウ。「アンカ、家賃と電話代を払っといてくれ」「請求書は?」「引き出しに入ってる。分かるよ」と手をふって行くミハウ。

帰宅したアンカは、ミハウの部屋の引き出しを開け、請求書を見る。だが、そこに「死後、開封のこと」の封筒も置いてあった。

病院。「アンナ 二十歳 PWST3年生。国立演劇大学です」「息子がそこ狙ってるのよ。どんな試験?」「文学 散文 詩 それと歌」「誰の詩を暗唱したの?」「エリオット、ヘルベルト」「エリオット? それじゃ無理だわね。視力の低下?」「ええ、昨日飛行機を見てたら、ぼやけて。それからバスが近づいて来ても、番号が見えない時があったわ」 度入りの眼鏡をかけ、視力検査するアンカ。「 F、A、T、H、E、R 、父親ね」「最後の二つは推測ね。英語を話せるの?」「ええ。なぜその単語を選んだの?」「知能テストも兼ねて…」「その飛行機に父が乗ったんです」

「死後、開封のこと」の封筒を手に取るアンカ。電気に透かしても読めない。迷うが開封はしない。

ボーイフレンドと会うアンカ。「僕が何かした? 僕のせい?」「違う。他に考え事があるのよ」「不機嫌だね」「パパが居ないと嫌なの」「君が寂しいか、怖いんなら、ずっと一緒にいてあげるよ」 遠くを見るアンカ。

森の中を歩くアンカ。丸太に座り、悩んだ末、手紙を開封する。中身は「私の娘、アンナへ」と書かれた白い封筒だった。遠くの川に浮かぶ白いカヌーの名前のない男(アルテュル・バルシス:超自然的存在。デカローグで、鍵となる瞬間、主人公を観察し、手出しせず、自由に行動させる人物)。

白い封筒を開けようか迷うアンカ。名前のない男が、白いカヌーを降り、それを担いで、歩いて近づいて来る。アンカと男は目が合うが、男はそのまますれ違い、行ってしまう。白い封筒はやはり開けず、元の封筒へ入れる。

教授とアンカ

大学の演技の授業。アンカと男子学生の演技の実技指導。「おやすみ。今夜はもう終わり。さよなら」「それが恋人への話し方か? 好きな相手に怒っている王女の役だよ。集中しなさい」「でも、なぜ彼が好きなのかしら」「言葉の裏を考えろ。人を好きになる理由などいくらでもある」「でもなぜ彼を」「自分で考えろ」「何かしら。彼が見つめたから。いいわ。それにします」「君は椅子に寝て。その方がいいだろう」「自分を失くせ。始めて」

「おやすみ。今夜はもう終わり。天使が青い羽根で、あなたを抱きますように」「心を込めて」「おやすみ。泣きはらした眼が乾きますように。おやすみ」「微笑まず顔を近づけて」「おやすみ。私を見て。もう一度。キスさせて。おやすみ」「まだ集中してないぞ」「キスさせて。おやすみ。召使を呼ぶ?」「その胸にキスを」「おやすみなさい」 教授はアンカの顔を自分へ向けさせ「愛の言葉を繰り返し、君を眠らせはしまい。それだ。その集中した眼で彼を見つめるんだ。休憩しよう」

「私の娘、アンナへ」の封筒を見るアンカ。

倉庫からトランクを出してくるアンカ。母のポーチの中を見る。父の若い頃の写真。別の父と母の写った4人の写真。何も書かれていない古い封筒を取り出す。古い封筒に「私の娘、アンナへ」と書く。ドアチャイム。父の同僚アダムが来る。「突然来て悪いけど、デッサンを取りに来たんだ。聞いてる? 下で人が待ってるから… ありがとう」「アダム、パパの事、昔から知ってるでしょ」「学生の頃から」「ママの事も?」「ああ、でも詳しくは知らん」「どんな人?」「君に似てるよ」「外見が?」「それもそうだけど、勘の鋭さも似てる」「秘密がありそうな人? 私に話せない事とか」「どうかな。話しただろうな。君に似てるからね」「出産の5日後に死んだわ」「そうだね。何か書き残したかも。悪いけど行かなくちゃ。またミハウが戻ったら来るよ」アダムが去る。「ありがとう」と呟くアンカ。

空港。ミハウが戻ってくる。「ただいま。何故来たんだ? 何かあったのか?」「別に」「学校のこと?」アンカが手紙の内容を暗誦する。「私の愛しい娘よ。これを読む、お前の顔は知らない。パパも死んでるから、大人だろうね。今のお前は小さい。一度しか会ってない。私が死ぬから会わせないのでしょう。お前に言うことがあるの。本当のパパは別に居る。父親探しなんてやめてね。昔の愚かな気の迷いだから。ミハウなら実の娘のように愛してくれるでしょう。お前の姿を想像するわ。どこでこれを読んでいるのかと… 髪は黒いんだろうね。細い手と優雅な首すじ。できることなら… ママ」 ミハウはアンカの頬を叩くと、荷物を持って立ち去る。

家で、じっと考えるミハウ。ドアを、蹴りドアのガラスが割れて落ちる。

タクシーから降りるアンカ。恋人ヤレクの家、母親が出る。「こんにちは、ヤレクいますか?」「いないわ。でもすぐ戻るから」「私が結婚相手と聞いてます?」「直接じゃないけど、そう感じてたわ」「今すぐ結婚したいの」「お父様は?」「いいんです。実の父じゃないし… 」

ドアを開けられず、エレベーターへ戻るアンカ。P1階で開きミハウが入ってくる。3のボタンを押すミハウ。「捜したぞ」「カギを忘れて出たの」3階。「この階よ」「すまなかった」と、抱き合う二人。4階。ドアが開くと、慌てて離れる二人。「こんばんは」と近所のおじさんが乗ってくる。「下ですか?」。「知ってたの?」と聞くアンカ。P1で「お先に」と降りるおじさん。「答えて」「なんとなくわかってきた」Piwnica(ピヴニツァ /地下室)。荷物を持った配達員が入ってくる。「おや、下へ呼んじゃったな」「降ります」「地下室よ」「いいから」

地下室。座る二人。蝋燭の炎が2本。四人の写真を見せるミハウ。「これがママ。その両側、どっちかがお前の父親」「これは?」「ママのポーチだ。病院で使ってた」「いつ知ったの?」「確信はなかったが、ずっと疑ってた」「私を騙してたの?」「私の娘であることには変わりない」「話すべきだったのよ」「10歳になったら見せようと思ってた。だが、まだお前は幼かった。それで15歳まで待つことにした。だが大きくなり過ぎていた。それであの茶色い封筒に入れた」「単純すぎない?」「何も変わらないと思ってたよ」「嘘だわ。嘘をついている」 蝋燭を見るアンカ。「見て、蝋燭が2本。こっちが私の。そっちがパパ。先に消えた方が質問できるの。いい?」「ああ」

ドアの割れたガラスを触るアンカ。「風のせいだ」と言うミハウ。笑って頷くアンカはソファへ座る「タバコある?」。タバコに火をつけ渡すミハウ。「パパの勝ち。質問して。正直に答えるわ。“なぜ手紙を読んだか?” 読ませようとしたからよ。最初は引越しの時、偶然見つけたの。書類と一緒に落ちた。16歳の時」「15歳と半年だった」「そう15歳半ね。その時からあるのは知ってた。パパの死後、分かる秘密にワクワクした。出張の時はいつも持っていったでしょ。この前の時は、わざと置いていった?」頷くミハウ。「だから取ったの。3日間持ち歩いたわ」 手紙を持ってくるアンカ。「一週間経ってやっと読んだ」「お前は十分に答えてくれた」「前に読んだの?」「いや」「まだ十分な答えじゃない」ミハウの手を握るアンカ。「学校で言われた “なぜ話すかを考えろ” “言葉の裏を考えろ”って。知りたくないの? 数年前から、どんな手紙なのか感づいてたの。恋人ができた時、誰かを裏切る気がしてた。わからなかったけど、パパなの。いつも求めてた。他の誰かを… 誰かが触れるとパパの手を想ってた。ベッドでも横にいるのは彼じゃなくて… これからどう呼ぶの」「分からない」 アンカはショットグラス2つを持ってきて、ミハウと乾杯し、腕を交差しそれを飲み干す。「アンカ… 」と呟くアンカ。ドアチャイム。

ミハウの同僚のアダムだった。「デッサンをコピーして相手先に送っといたよ。やあアンカ」 ドアのガラスを触るアダム。「風が強くて」とアンカ。「これだろ」と土産の養毛剤をアダムへ渡すミハウ。「効くのか?」「もちろん」と、頭を見せるアダム。「二人で飲んでたのか?」 アダムにもショットグラスに注ぐミハウ。「学校はどうだい? 卒業試験は」「5月よ」「将来の夢は?」「失礼」と部屋へ行くアンカ。

アンカは部屋のベッドで服を脱ぎ、横になる。部屋に来るミハウ。「呼び戻して」「帰ったよ」「知ってる」「彼を追いかければ? 行ってよ」「私と話したくないんでしょ」「アンカ」「聞きたくない!」 アンカの服を直すミハウ。「一人にして!」

ソファへ戻り、手紙を取って見るミハウ。アンカが来て言う「私が怖いの? それとも自分? その必要ないわ。結婚するから」 電話の音。「出てくれ」「クリスチーナかマルタよ」「ヤレクだろ」「もしもし、分からないわ。眠ってたの。明日電話して」「結婚相手に冷たいんだな」「ええ、彼の母親に話しただけよ」「怖くないのか?」「また話し合う? いいの?」「逃げ出したり、旅に出たり。結婚したって何も変わりはしない」「さっき話した事は本心よ。男と寝て、罪を感じてた。やっと分かった。パパを裏切ってたからよ」「俺は感じない」「一つ約束して」「私が嘘を見抜いたら白状するって」「分かった」「罪を感じないと嘘を言った」「ああ」「感じてたでしょ」「そうだ。好きに生きるんだ。したい事をしろ。俺は気にしない振りをする。本当にヤレクと結婚したいなら反対はしない。お前が反対して欲しくても… 俺には、お前のする事を止める権利はない。もしムリに止めたりしたら、自分を嫉妬深い男と考えてしまう。父が娘に思うものでなく、男と女の間にある普通の嫉妬になってしまう。意味は分かるな? そうなりたくないし、望んだ事もない」「でも、そうなの」「なぜだか分からないんだ」「3年前、マルチンと寝てたのを見て、出て行ったのは?」「そのせいだ。俺はムリに理由を見つけた。“娘が男と寝る事を喜ぶ父親はいない” と」「でも、娘じゃないのよ」「どうかな。ママの勘違いなのではと、よく考えた。だが、女には分かるらしいな。もしかして間違いじゃ…」「ありえない。女には分かるものなの」「なぜ断言できる」「できるの」「妊娠したことがあるのか?」「あるわ」「いつだ」「去年」

グラスと瓶を片付けるミハウ。「いいか。俺はよく出かけて外泊ばかりしてたろ。お前を一人にすれば、何か決定的な事が起こると思ったからだ。男と寝れば、そうなると思ったが、ならなかった。次は子供ができればいいと考えた。それも…」「穏やかな顔を見たくなかったから、堕ろしたの。だから、堕ろすことも黙ってた。“仕方ないから堕ろしなさい” とか言われるのが嫌だった。私が望んでないとは考えなかった? 産ませたかった? 自分は関わりたくないのよね。手紙と同じ。死後、開封のこと」

「封筒に戻しとく」「お前あてだろ」「いらないわ」アンカは引き出しに封筒をしまう。「いらない」

ミハウの腕を取るアンカ。「いらないの。よく背中をさすってくれたわね。さすってもらうため、わざと泣いた事もあった。ワクワクしたわ。少女でいて欲しかったのね? 子供のままの私で… ビキニで泳ぐなって言ってたわね。私に初潮が訪れた時、すごく慌てた。マルタや他の女性とも再婚しなかった。そう望んでた。理由も分からず。再婚しないで私を待ってたのよね。そうでしょ。そうね。そうに決まってる」 服を脱ぐアンカ。

「娘じゃない。一人前の女よ。触れたくない?」 服を持ってくるミハウ。「分かったわ。訊くから答えて」「一つだけだぞ」「なぜ手紙を読ませたかったの?」「ありえないと分かりたかった」「もしかしたらと… 」「思ってた。だから、今朝、初めてお前をぶったんだ。お前は手紙を読んだ。読んでもらいたかった。ママのために。私にも隠してた事を書いたんだ。愛してるよ。本当の娘じゃないが… 今とは違うようになったかもしれん。だが、過去に戻る事はできん」「背中をさすってくれたあの頃のように…」
お砂糖の王様と 蜜蜂パンの小姓に クッキーの王女様 (子供の頃の歌)と歌う二人。

朝、目覚めるアンカ。「パパ…パパ!」部屋を出て、家中を探すアンカ。窓から「パパ!」と呼ぶアンカ。

外へ走って、ミハウに言うアンカ。「嘘をついたの。手紙は開けてもいない。パパが読んだ手紙は私が書いたもの。ママの字だと気づいて、マネして書いた手紙なの」 白いカヌーを背負った男が二人の横を通り過ぎる。「ママは何を書いたの?」とアンカが聞くと「知らない」とミハウ。「どこへ行くの?」「牛乳を買いに」「いい解決法があるわ」

アンカは本物の手紙を引き出しから取り出す。アンカの持つ手紙に、ミハウがライターで火をつける。手紙は燃え、わずかに残った、燃え残りを読むアンカ「私の愛しい娘、お前に話す事がある、とても大切なことなの。実はミハウは… 後は焼けてるわ」

手紙を読まないまま灰にすることを選んだ「父と娘」、以前とは決定的に異なる深い絆で結ばれた日常へと戻っていく姿で物語は幕を閉じる。



邦題:デカローグ、原題:Dekalog、英題:The Decalogue

監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ

脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ

音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

製作:1989年〜1990年

第四話撮影監督:クシシュトフ・パクルスキ

ポーランドのテレビドラマ・シリーズ。1時間 X 全10話構成。聖書の十戒をモチーフにしている。ポーランドに住む人々が直面する道徳的・倫理的問題が各話で扱われる。各話は独立しているが、大半がワルシャワの公営団地の住人という設定で、人物の何人かはお互いに知り合い。キャストの多くは有名・無名の俳優で、多くが他のキェシロフスキの作品に出演している。それぞれのタイトルは数字で表された。ロジャー・イーバートの解説によると、キェシロフスキは「十戒に正確に即しているわけではなく、十戒に言及したことはない」とされている。

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