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DEKALOG デカローグ ⑥ ある愛に関する物語

第六話 『ある愛に関する物語』

Krzysztof Kieślowski's DEKALOG
トメク(オラフ・ルバシェンコ)ワルシャワの公営団地で代母と暮らす19歳の青年
孤児院で育ったトメクは友達が少なく、郵便局員として働いている

ネタバレありの詳しいストーリー紹介

郵便局の窓口。「為替よ」とマグダが来る。処理する局員トメクは「ありません」と言う。「通知が来たのよ」「無いんです」「出直すの?」「また通知が届きますよ」

マグダ(グラジナ・シャポフォスカ)向かいの団地に住む30代の自由奔放な女流画家

夜。広く暗い室内でガラスが割れる。飛び降りるトメク。倉庫らしき場所。懐中電灯で調べ、彼は望遠鏡を手に入れる。

帰宅したマグダ。郵便物をテーブルへ置き、ベッドルームの絵を見る。コートを掛け、再びベッドルームへ来て、服を脱ぐ。トーストの上で振子ダウジングし、それをかじり、ボトルの牛乳を一口飲む。彼女は壁にかけた作品を手直しする。

望遠鏡のダイヤルを回すトメク。向かいの団地のマグダをじっと見ていた。電話の着信音。彼女は電話を取る。「ハロー」

トメクは受話器を耳に当て、彼女の声を聞く。「もうやめて、誰なの。息が聞こえるわ、この変態」と切れる音。トメクはまたダイヤルする。呼び出し音。マグダが電話を取る。「すみません」と声がして切れる。受話器を見るマグダ。ドアチャイム。あわてて玄関へ行くマグダ。男が来て、抱き合い体を触り出す。トメクは見るのをやめ、部屋から出る。「ゴミを出してくる」「下に持っていくのよ」と代母。「分かってる」 彼女はテレビで歌番組を見ていた。

スーパー。マグダを見かけるトメク。彼女はレジの女性に「牛乳の配達は? 一日おきにしか届かない」と言う。「暇がないの。配達人もいないし」

トメクは、スーパーの女性に「近所の者ですが、牛乳配達の人手が足りないと聞いて」と言う。「配達したいの? 年齢は?」「19。郵便局員で、家は近いです」「朝は五時起きでハードよ」「早起きなんで大丈夫ですよ」

夜。8時40分の時計のベル。マグダの部屋を望遠鏡で覗く。マグダは絵のファイルを男と見る。作品前で髪を触られ、男とキスし、男の腰へ手を回す。目を離し、電話するトメク。「はい、ガス漏れ110番」「ガスが漏れてる。ガスレンジから。ピラトゥフ通り4番地376号室」タバコに火をつけるトメク。やがて、青い点滅灯をつけた車が来て、男二人がマグダの部屋へ向かう。床に寝ていた二人だったが、仕方なく応対する。レンジを調べるガス会社の男達。異常なく帰っていくが、二人はやる気をなくしたようだ。それを見て笑うトメク。だが、その後トメクは壁を殴る。

朝。牛乳配達するトメク。空瓶を退け、新しい牛乳瓶を持ち、マグダの部屋のドアチャイムを押す。「牛乳屋です。空き瓶が無いので… 」「待って」と言い、空瓶をドア横に置くと、ドアを閉め、鍵をするマグダ。

代母(ステファニア・イヴィンスカ)がトメクに話す。「トメク、恋人はいる? これは老婆心だと思って聞いて。女の子って、くだけてる振りをするけど、本当のところ、繊細な男を好むのよ。うちに彼女を連れて来たかったら、気兼ねせず呼んでね」「恋人はいませんから」

夜。急ブレーキの音で、トメクは目覚め、窓の外を見る。白い車からマグダが降り、男に怒っている。彼女はボンネットを叩き、車から去っていく。車は引き返し、帰っていく。

マグダは牛乳瓶をテーブルへ置くが、倒して牛乳がこぼれる。こぼれた牛乳をマグダは指で撫でる。頭を抱え肩を震わせ泣くマグダ。泣き続ける彼女をじっと見続けるトメク。ベッドの代母が別室から「トメク」と呼びかける。

朝。リアカーに積んだ大量の牛乳。トメクは入口のドアで「おはよう」と自転車を押す医師ロメク(第九話)とすれ違う。中へ入ると376のポストに何か入れる。

郵便局窓口。マグダがトメクに言う。「前の人ね」「ええ」「新しい通知よ」「無いです」「これで二度目なのに」「と言われても」「また通知が間違ってたの?」「はい」「最悪ね。上司を呼んで。局長か誰か」

女性の上司が来る。「最初の通知、これが二度目。為替送付の通知なのに、為替がない?」「見せて。振込み人は誰?」「知りません。額は2万4千」「送られたのは確か?」「通知が来てるでしょ」「為替は来てません。おかしい… ヴァツェックさん! これ見て。これ書きました?」「私じゃない。私は鉛筆を使う」「聞こえた? うちは出してません」「でもポストに入ってたし、ここの消印もある」「郵便局は国営よ。偽造じゃないの? 訴えるなら警察へ」「そうするわ。通知書を返してくださる?」「偽造した物は返せないわ」とその場で破り捨てる上司。帰っていくマグダ。「詐欺師の顔だわ」と上司。振り返り、一度にらみつけ、出ていくマグダ。

マグダの後を走って追いかけるトメク。「何の用?」「最初から、お金なんか送って来てません」「あの通知は?」「僕が入れた」「何のため?」「あなたに … 会いたかった」「私に会いたいって何よ」と行ってしまうマグダ。「昨日泣いてたろ!」と呼びかけるトメク。それを聞いて、戻ってくるマグダ。「何で知ってるのよ?」「覗いてた。窓から覗いてた」「行って。とっとと行って!」と、トメクを突き飛ばすマグダ。トメクはトボトボと帰っていく。

夜。マグダの部屋の灯りがつく。トメクが望遠鏡で見る。マグダは窓からこちらを見る。ベッドを向こうへ押しやり、こちらに向かって電話の受話器を何度もあげる。

トメクは電話のダイヤルを回す。「ハロー」「見てる?」「ああ」「ベッドが見やすいでしょ。楽しんでね」と電話を切る。向こうの部屋へ行き、男を連れてくる。ベッド前でキスし、服を脱がせ、ベッドへ倒れ込む。マグダは、窓の方を指差す。男はベッドから急に離れる。

やがて、男が外へ出て、こちらへ近づいてくる。「おい! お前だ。郵便局の野郎! 表に出てこい。出て来やがれ。腰抜けめ!」

トメクは表へ出ていく。「お前か? 腕を上げろ。構えるんだ」トメクは腕を上げるが、男に一発で殴り倒される。「二度とやるな。若いくせに何だ!」

朝。目にアザを作り、マグダの部屋の前に牛乳を届けるトメク。急にドアが開き、トメクは後ろに倒れる。「やっぱりあなたね。入る? 誰もいないわよ。いい顔。ケンカ弱いのね?」 トメクは廊下の奥に離れる。赤ブロックに囲まれた窓。

追いかけるマグダがトメクに聞く。「教えて。なぜ私を覗いてたの?」「愛してるから。本気だ」「それで? 何が望み?」「わからない」「キス?」「違う」「セックスしたいの?」「いや」「何がしたいの」「何も」「何も?」「そう」とトメクは帰りかけ、思い直すと引き返す。「カフェで僕とアイスクリームを食べてくれる?」と言う。

嬉しそうに走ってリアカーを引き回すトメク。大きなカーキのスーツケースと白い大きな買物袋を持つ白コートの名前のない男(アルテュル・バルシス/超自然的存在。鍵となる瞬間主人公を観察し、手出しせず、自由に行動させる)とすれ違う。「すいません」とトメクに言われ、男は少し笑う。

カフェ。「いつから覗きをしてたの?」と聞くマグダ。「一年前」「今朝言ったこと、ここで言って」「愛してます」「愛なんてないわ」「ある」首を振るマグダは「幻想よ。友人はいるの?」と言う。「一人だけ。今は国連軍としてシリアに行った。僕は彼の母と住んでる」「私の真向かいね」「友人ものぞいてたの?」「彼に聞いた。双眼鏡であなたの部屋を見せてくれた」「何て言ってた」「言いにくい」「教えて」「美人で…」「何?」「美人で男好き」「当たりね」「私が好きな郵便局員は他に何をしてる?」「外国語を」「どこの言葉?」「ブルガリア語」「何のため?」「孤児院にブルガリア人が二人いた。あと英語も。今はポルトガル語を勉強してる」「変わってるね」「そうかな。記憶力がいいんだ。何でも憶えてる」「自分が生まれた時のことも?」「なんとなく」「両親は?」「憶えてない」「じゃあ、去年の秋、うちに来た、痩せた男の事は?」「憶えてる。よく牛乳とパンの包みを持って来てた」「そう。彼は外国へ行ったきりなの」「いい感じの男だった」「好きだったわ。オーストリアからオーストラリアへ行った」「オーストラリア?」トメクはジャケットからいくつか封筒を出す。「手紙を盗んでた。郵便局で抜き取った」マグダが手紙を見る。私、操られてたのね。牛乳を配達し、郵便局に来させ、ガス屋を送りつけ、私への手紙を盗む。まぁどうでもいいわ。手を貸して」トメクの手のひらでダウジングしてみる。「手を撫でて」とトメクの右手を両手で包み、彼の左手を上に置かせる。彼は少し震える汗ばんだ左手を上に重ねる。「見て」と、店の奥のカップルを示す。手を撫でながら会話するカップル。「ああするものなのよ」

外を歩く二人。「あのバス。もし乗れたらうちに来ていいわ。走るわよ」バスへ走る二人。バスは走り出すが、二人が近づくと止まる。

夜。トメクの代母が、彼の部屋から望遠鏡を覗いている。

「私の何を知ってる? 男といる時の私のことを話して」「一言で言えば、セックスしてる。以前は見てたけど、今はもう見ない」「あれは愛じゃないわ。私は何をしてた?」「服を脱いで、男を脱がせ、そしてベッドや床に横たわる」「他には?」「キッチンで。あなたは目を閉じ、それから、手を上げる」「真似してみて」 ソファーに座り、頭を抱えるよう手を上げるトメク。彼にに近づくマグダ。

それを望遠鏡でずっと見ている代母。

「セックスの体験は?」首を振るトメク。「私を見ながら、自分でした事はある?」「前は… 今はしてない」マグダはトメクの顔を包むように撫で「それは罪よ」と言う。マグダはトメクの髪を撫でる。「分かってる。もうやめた。考えるだけだ」「ブラウスの下は裸よ。女は男が欲しくなると濡れてくる。今の私がそう」 トメクの手を両手で包む。「繊細な手。怖がらないで」と自分の太ももから下腹部を触らせる。トメクはうめいて、下を向く。「いったの? 良かった? これが愛よ。タオルで拭いてくれば?」と言われ、彼は突然、彼女を突き飛ばし、そのまま走って外へ出て行ってしまう。マグダは立ち上がり、窓の外を見る。

外を歩いて行くトメク。スーツケースと買物カバンを持った白コートの男とすれ違う。すれ違い互いを見る二人。トメクは自分の部屋へ戻って行く。マグダは黒い箱を棚から下ろして、双眼鏡を取り出す。トメクの部屋を双眼鏡で見る。部屋の灯りが消える。彼女は電話の受話器を上げるジェスチャーを繰り返す。

トメクはバスルームでタライに水を入れ、T字カミソリを分解して、刃を取り出す。

マグダは大きな紙に「ごめんなさい。戻って来て」とメッセージを書く。窓にその紙を当て、外を見る。

トメクは水を張ったタライへ両手を入れる。血が広がっていく。ゆっくり頭を横にし、洗面台へ顔を置き、目を閉じる。

マグダはトメクのコートのポケットから為替の券2枚を出すと、それを見てじっと考える。ドアチャイムが鳴り、玄関の方へ行き外を覗く。いつもの相手の男が見える。「帰って」と言う。窓へ行って向かいを見ると、代母が救急車を送り出し、帰っていくところだ。マグダはコートを着て、外へ出る。トメクの部屋を訪ねる。

部屋の位置を確かめ、ドアチャイムを押す。「すみません。寝てました?」「いいえ」「彼がコートを忘れて」「どうぞ」トメクの部屋へ通し「そこへ置いて」と言う代母。「彼は外出ですか?」「いいえ。病院よ」「なぜ」「軽かったわ。数日で退院できる」「お見舞いに行きます。さっきまでウチにいた」「知ってる」「もしかして私が傷つけたのかも…」「病院へは行かないで。いずれ戻って来ます」「何があったんです」「笑うでしょうね。あなたを好きなのよ。この望遠鏡であなたを覗いてました。きっと盗品ね。前は双眼鏡だった。彼の目覚まし時計は8時40分にセットされてる。あなたの帰る時間?」「その頃だわ」「相手が悪かったのね」「そうね」「私が面倒見ます」「息子さんがいるんでしょ」「遠くにね。戻っても、どうせ出ていく。すぐ逃げ出すの。私といたがらない。もう歳だから、欲しいものなんてないの。一人で寝たくないだけ」「失礼します。容態を聞くため電話してもいいですか」「電話はないのよ」とドアを閉める。マグダはドアをノックする。「すみません。彼の名前は?」「トメク」ドアがまた閉まる。

マグダが起きる。テーブルにはトランプ占いの痕跡。外を見ると、トメクの代母が、牛乳配達のリアカーを引いていた。

郵便局のトメクの窓口を見に来るマグダ。「休止中」と表示されている。

団地の郵便受けの近くで待つマグダ。郵便配達の男に聞く。「すみません」「何号室?」「376」「何もないよ」「あの少年に何があったんです。窓口にいた子」「手首を切った。失恋らしい」「彼の名前は?」「知らない。局長に聞いてくれ」 ドアの前に行き、しゃがみ込むマグダ。

夜。電話の呼び出し音。マグダが起きる。「ハロー。トメク? 何か言って」 トメクの部屋を見るが、灯りはついてない。「捜してたの。病院をいくつも当たった。あなたに会って言いたかった。あなたが言ってた通りよ。聞いてる? あなたが正しかった。何を話せばいい? 分からないわ」 と電話を切る。電話が鳴る。「ハロー」「マグダ?」「そう」「ヴォイテクだ」「さっきかけた?」「でもつながらなくて」「私の声聞こえた?」「いや」電話を切るマグダ。

それから、昼や夜、幾度も双眼鏡でトメクの部屋を見るマグダ。ある夜、部屋の灯りに二人のシルエットを見て、喜ぶ。

朝、トメクの代母が牛乳を配達しに来る。ドアを開け「すみません。彼は?」と聞くマグダ。「まだ病院よ」と言われる。

郵便局の窓口を見に来たマグダ。右手に包帯をしたトメクが働いていた。目が合い、マグダは微笑む。中へ入り、トメクの窓口に近づくマグダ。じっと見つめ合う二人。トメクは口を開く。「もう覗かないよ」 マグダは何も言えなかった。



邦題:デカローグ、原題:Dekalog、英題:The Decalogue

監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ

脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ

音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
製作:1989年〜1990年

第六話撮影監督:ヴィトルド・アダメク

ポーランドのテレビドラマ・シリーズ。1時間 X 全10話構成。聖書の十戒をモチーフにしている。ポーランドに住む人々が直面する道徳的・倫理的問題が各話で扱われる。各話は独立しているが、大半がワルシャワの公営団地の住人という設定で、人物の何人かはお互いに顔見知り。キャストの多くは有名・無名の俳優で、多くが他のキェシロフスキの作品に出演している。ロジャー・イーバートの解説によると、キェシロフスキは「十戒に正確に即しているわけではなく、十戒に言及したことはない」とされている。

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