【ショートショート】帰ってきた覆面レスラー!アボガド・ワンチョイ!!

 夜。
 ガラス壁のいかにもオシャレって感じのイタリアンレストラン。
 ここで今、私、吉野サリナは同じ会社のダサい同僚、松屋誠二≪まつや せいじ≫と同じ席に座り、向かい合って食事をしている。

「ど、どうかな、吉野さん……。このレストラン、気に入ってくれたかな……」
「あ?うん。まあまあかな……」

 あー、だりー。
 料理はそれなりに美味いけど、一緒に居るこのダサ男くんがつまらなさすぎて、イマイチだわー。眠くなってきた。

 ……。
 え?何故、私がこんなダサ男くんと一緒に居るのかって?
 今日の仕事の終わり、このダサ男くんから食事に誘われたからだ。
 暇だったし、夕食を奢ると言うんで暇潰しと食費を浮かせるため、誘いに乗ってやった。
 レストランに入ると、こいつが「なんでも好きなのを頼んでいいですよ」と言ってきたんで、一番高いコースメニューを注文した。
 そしたら、このダサ男くん、顔が青ざめてた。マジウケる。

「き、気に入ってくれたようで良かったよ、アハハ……」

 うわ、キモッ、ダサッ。
 無理して笑ってるのが、見え見えだっつーの。
 あー、もー、無理。マジ、だっりー。
 職場でもそうだけど、こいつ、ホントマジつまんねぇーわ。
 仕事は真面目にやっているけど、時々、ミスって上司にメチャクチャ叱られてるし。他の同僚たちからはバカにされているし。
 うちらの間でも、『恋人にしたくない人ランキング第1位』になっているほど、こいつはみんなから見下されてる。

 あー。マジ、もう無理だわ、こいつー。
 暇潰しで来たけど、暇潰しにもならないほど、つまんねぇわ、こいつ……。
 食事中も私の顔色を伺うような感じで、おどおどしてたし……。

 てかさー、この私を食事に誘うとか……身の程わかってないんじゃないの?
 私を誘うとか、その度胸は認めるけど、100年早いっつーの。
 まあ、100年経っても、相手にしてやんないけど。ガハハ。

 とりあえず、本気でしんどくなってきたから、適当なこと言って帰るか……。
 眠くなってきたし……。

 ガラン、ガラン。

 そう思っていると、レストランのドアが開いた。
 ふと、ドアの方に目を向ける。
 すると、そこには……。

 !?

 身長200センチ以上はあるであろう巨漢が居た……。
 その男は長袖長ズボンの白いスーツ姿で、プロレスラーが被るような覆面を被っている……。
 うわ、なにあの男……。覆面レスラー?
 レストランのウェイターが超ビビってんじゃん。

 覆面の男は、ウェイターに案内されたテーブル席に向かって歩き出した。
 マジで、なにあの男?
 着ているスーツがパツンパツンで破れそうなんだけど……。

 店内に居る他のお客たちも、覆面の男をビビりながら見ている。
 すると……。

「あ、アボガド・ワンチョイ……」

 え?
 この声は、私の向かい側に座るダサ男くんの声だ。
 アボガド……ワンチョイ?
 私は、ダサ男くんの方に顔を向けた。
 ダサ男くんは大きく目を開け、身体を震わせている。
 え?なに?なに?なんなの?

「アボガド・ワンチョイ……アボガド・ワンチョイッツ!!」

 ダサ男くんは叫ぶ。さっきまでの情けない顔から急変。鬼のような形相に変わり、物凄い勢いで椅子から立ち上がる。
 私は、ダサ男く……いや、松屋くんのあまりの変貌ぶりに目を疑った。

「え、ちょっ!ま、松屋くん!?どーしたの、急に!!?」

 松屋くんは私を無視した。

「アボガド・ワンチョイッツ!!!」

 覆面の男に向かって叫ぶ松屋くん。
 ……も、もしかして、アボガド・ワンチョイって、あの覆面男の名前?
 すると、覆面の男は足を止め、こっちに顔を向けた。
 松屋君はアボガド・ワンチョイとかいう男を睨む。彼の顔には血管が浮き上がり、強く脈を打っている。
 私はビビった。
 いつも、みんなからいじられているダサい同僚が、まるで別人のように変わってしまったからだ。
 というか、もう別人になっている……。

「アボガド・ワンチョイッッ!!!貴様ァ!生きていたのかッ!!?」

 松屋くんは鼓膜を破るような大きな声で叫ぶ。
 え?なに?なんなの?一体、なにを言っているの、この人は!?
 ていうか、一体どういう関係なの、この二人!?
 アボガド・ワンチョイとかいう覆面男は、ただ無言で松屋くんを見つめている。

「私と戦えッツ!!アボガド・ワンチョイッツ!!!今すぐにだッツ!!」

 本当になに言ってんだ、こいつ!?
 ヤバイ!なんか、いろんな意味でヤバイ!!

「ちょっ、落ち着いて、松屋くん!なにがあったか知らないけど、やめな」

 私が止めに入るも、松屋くんは着ていたジャケットを脱ぎ捨て走り出す。
 松屋くんは真っすぐ、アボガド・ワンチョイに突っ込んでいくと……。

「キャオラッッ!!!」

 松屋くんは、アボガド・ワンチョイの顔面に飛び蹴りを入れた。
 ひぃいい!なにをやっているんだ、あいつは!!?

「ツナラァ!!!キャオラッ!!!」

 松屋くんは奇声を発しながら、蹴りや拳を嵐のように次々とアボガド・ワンチョイの身体に撃ち込んでいく。
 まるで、サンドバッグを殴り続けるボクサーのように!

「お客様!おやめください!!おやめください!!ひぃいい!!」
「誰かァ!誰か!警察を!!あひぃいいいいいーーーー!!!!」

 ウェイターや店内に居るお客たち全員が、嵐のように暴れ狂う松屋くんに怯えている。

 私も豹変した松屋くんの姿に怯えていた……。
 手や足……全身が震えている……。

 だけど……。

 私は、どうかしてしまったんだろうか……?
 この異常事態で、私は頭がおかしくなってしまったんだろうか?
 あのアボガド・ワンチョイという男を殴り、蹴り続ける松屋くんの姿を見ていると、身体の芯が熱くなっていく……。
 まるで体内の血液が沸騰し、身体中の細胞ひとつひとつが暴れて出しているかのような感覚……!!
 なんなの、これ……!?
 ……ま、まさか、わ、わたし……こ、興奮している……ッッ!!?

 しばらくすると、松屋くんの嵐のような猛攻が止まった。

「ハァ、ハァ……」

 松屋くんは顔中から滝のように汗を流し、呼吸を乱している。
 一方、アボガド・ワンチョイの方は……。

「……」

 何ダースもの、蹴りや拳を浴び続けたというのに、まったくビクともしていなかった。
 アボガド・ワンチョイの表情は覆面でわからないが、たぶん、何事もなかったかのような表情をしているに違いないッ!
 あれだけの攻撃を受け続けたというのにッッツ!!!

「~~~~~ッッツ!!!!」

 松屋くんは両眼を大きく開け、声にならない悲痛な叫びを喉から絞り出す。
 コキッ!コキッ!と首を鳴らすアボガド・ワンチョイ。

「セイジ・マツヤ……」
「ッッ!!」

 アボガド・ワンチョイは初めて口を開いた。
 驚く松屋くん。私も驚く。

「リュウノスケ・マツヤノジュニアトキイテ、期待シテイタガ……」

 たどたどしい日本語でアボガド・ワンチョイは話し続ける。

「コレデハ、期待ハズレダ……」
「こ、このば、化け物が~~~~~ッッツ!!!!」

 松屋くんは拳を硬く握り、再び、アボガド・ワンチョイに向かって放つ。
 しかし……。

 べチン!!

 まるで、言うことの聞かない子どもを𠮟りつけるかのように、アボガド・ワンチョイは松屋くんにビンタをした。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッツ!!!」
「きゃあああああーーー!!!!」
 
 私は思わず、叫んだ。
 松屋くんはたった一発のビンタで、まるでバットに当たった野球ボールのように何十メートルも先に吹っ飛ばされた!
 グワン!グワン!と転がる松屋くんは、そのままレストランのガラス壁に激突!なんと、松屋くんの躰はガラス壁をぶち破り、外へと出て行ってしまった!!
 な、なんたる腕力ッツ!!?

「……」

 辺りにガラス片が散らばるも、アボガド・ワンチョイという男は黙ったまま。
 彼は何事もなかったかのように、テーブル席に座る。

 ……。

 一体、なにが起きたのか……。
 一体、私はなにを見たのか……。
 一体、二人はどういう関係なのか……。
 私には、まったく理解できなかった……。

 ……ただ、ひとつだけ、わかっていることがある……。

 私は今……ッツ!!
 血が……血が騒いでいるッツ!!!
 沸騰しているッツ!!!
 興奮している……ッツ!!!!
 飢えているッツ!!!!!

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