世界で一番おいしいケーキ
町のちいさな教会で盛大な子どもパーティーが開かれて参加したのは未就学児だったころ。
目の前に紙コップと紙皿。
牧師先生の奥様が集ったひとりひとりにジュースとケーキを振舞ってくださった。赤い苺が乗っていて、ふわふわホイップクリーム。当時の我が家では決して買えないようなものであった。ちょっと身震い。
私はこのパーティーに緊張して、食する前に、配られたケーキを紙皿ごと床に落としてしまった。どうしよう、せっかくのケーキを台無しにしてしまった。申し訳なさと恥ずかしさとで泣きそうになった瞬間、牧師先生の奥様がサッと片づけをして何事もなかったかのように新しい皿にケーキをもう一度、準備してくださった。
さあ、いよいよ、みんなでそろって「いただきます」の時間。ところがだ。アンラッキーは続くもので、食べている途中でケーキの半分以上をまたしても、ひっくり返してしまった。ああ、私ときたらなんて要領の悪い子なのだろう!
さすがに泣いてしまった。
それでも牧師先生の奥様は「食べづらかったのね、お洋服はだいじょうぶ?汚れないで済んだかしら」と幼児の私を気遣ってくださった。
洋服は汚れなかったが、おさなごころにも情けなさで一杯になり、もう、帰りたいと思ったのも束の間、再び新しいケーキを用意し直してくださった。
新しいのを出してくださっても、だからといって粗相を繰り返してしまった私の心は晴れないし、会場からひそひそと声が聞こえ始めた。「あの子、二回もケーキを落とした」とか「みっともないよね」とかいう声も聞こえ始めた。
ざわついてしまった場を察した牧師先生が「みんな、ちょっと聞いてください」と大きな声で話し始めた。「なにか失敗をすることは決して恥ずかしいことではありません。なぜならば、神様がやり直しのチャンスをくれるからです。たいせつなのは、やり直しのチャンスをすなおにありがとうと言える心です」
あの日……私は泣きじゃくりながらも、純白のショートケーキをいただいた。
そして、あれから何十年も経ったが、私はあのケーキよりもおいしいものに未だ巡り合ってはいない。
