なぜベトナム人は突然辞めるのか?
こんにちは。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している
10KN COMPANY LIMITEDの猪俣です。
「昨日まで普通に働いていたのに、
ある日突然『辞めます』と言われた」
ベトナムでオフショア開発に関わる日本人の方なら、
一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。
理由を聞いても歯切れが悪く、
引き止める時間もなく、
正直「裏切られた」と感じてしまう。
今日はこの感覚を、
感情論ではなく、構造の話として整理してみたいと思います。
まず押さえておきたい前提があります。
ベトナムでは、辞めること自体が特別ではありません。
この前提を知らないままマネジメントすると、
ほぼ確実に「突然辞められた」と感じることになります。
そもそも、ベトナムの離職率は高いのか?
ベトナムの離職率は、
年間20%を超えると言われています。
一方、日本の離職率は近年11%前後でほぼ横ばい。
この数字が意味しているのは、
「ベトナム人はすぐ辞める」という性格論ではありません。
ベトナムの労働市場は、
“人が動くこと”を前提に成立している
ということです。
この前提を置かないと、
日本とベトナムのマネジメントは噛み合いません。
決して「突然」ではありません
結論から言います。
ベトナム人が突然辞めるのではなく、
日本人側が“突然に見えている”だけです。

そこには、
能力・誠実さ・責任感の問題ではなく、
意思決定プロセスの違いがあります。
日本人とベトナム人では「辞め方の前提」が違う
日本人の多くは、こんな前提を持っています。
不満があっても、まずは我慢する
上司に相談する
改善されなければ転職を考える
できれば円満に辞めたい
一方、ベトナムでは少し感覚が違います。
仕事は人生の一部であり、すべてではない
合わない環境を変えるのは自然なこと
辞める=悪いこと、ではない
上司に不満を「相談」する文化があまりない
つまり、日本人が期待している
「相談 → 改善 → 残留」というプロセス自体が、
ベトナム人の中には存在しないケースが多いのです。
ベトナムでは「辞める=交渉」ではない
ここが最も大きな違いです。
日本では、
「辞めたい」と伝えることは
条件交渉のスタートになることがあります。
今の環境なら辞めたいと思っているが、
勤務地が変わるなら・・・
給与が上がるなら・・・
部署が変わるなら・・
そう思っている日本人は多いと思います。
一方、ベトナムでは違います。
「給与」「成長環境」「評価」「人間関係」などに対して違和感を覚えたとき、
ベトナム人は「会社に相談して変えてもらう」より先に、
「ここを出るかどうか」を個人の中で静かに考えます。
そして、
辞めると決めてから初めて口に出す。
だから日本人から見ると
「相談もなく、突然辞めた」
ように見えるのです。
我慢は美徳ではない
もう一つ、決定的な違いがあります。
日本では、
「多少の不満があっても続けること」が
評価される場面があります。
一方、ベトナムでは、
合わない環境に居続ける
成長できない場所に留まる
ことは、
忍耐ではなく、判断の遅さと捉えられることもあります。
特に若手エンジニアほど、
「何年続けたか」より「どんな環境を選び続けてきたか」
を重視します。
だからこそ、辞める判断が早い。
これは、
軽さでも、無責任さでもありません。
彼らなりの合理的な意思決定の結果です。
「何も言わなかった」のではない
「じゃあ、予兆は本当にないのか?」
そんなことはありません。
ただ、日本人が期待する形では出ていません。
ベトナム人は、
自分の中で整理できていない不満
確信の持てない違和感
を、無理に言語化しない傾向があります。
その結果、
発言が減る
改善提案をしなくなる
将来の話を避ける
スキルアップ施策に興味を示さなくなる
といった形で現れます。
これは
「問題がないサイン」ではなく、
「もう期待していないサイン」です。
これらは「迷っている状態」ではありません。
すでに辞める判断を終えた後に出る行動です。
退職を伝えられた時点で、勝負は終わっている
退職を切り出された時点では、
本人の中で意思決定はほぼ終わっています。
引き止めに対して反応が薄い。
条件提示をしても表情が動かない。
それは迷っていないからです。
「すでに次の選択肢が見えている状態」
だから、日本式の引き止めは効きません。

経営側が受け入れるべき、もう一つの現実
退職は、
「裏切り」でも「想定外」でもありません。
突き詰めると、
その時点での会社の魅力が、その人にとって最適ではなくなった
ただそれだけです。
特に弊社のような立ち上げて間もない会社であれば、
ルールや制度が未完成なのは当たり前です。
だからこそ重要なのは、
「完璧な制度を作ること」ではなく、
更新され続けている状態を保つことだと思っています。
また、一人の不満を解消するために
全体の制度を歪めることが
必ずしもフェアとは限りません。
大切なのは、
全体としての納得感・平均満足度を高め続けているか
という視点です。
そしてもう一つ。
人が辞めることを前提に、
マニュアル・ドキュメント・引き継ぎ・オンボーディングを
最初から設計しておく。
これは人が流動的に動くベトナム市場であれば、
組織を持続させるために必ず整えておくべきことだと思います。
「辞めさせない」より、「辞める前に本音が出る関係」を
ベトナムで組織を作る上で大切なのは、
辞めさせないことではありません。
「不満を言わせること」ではなく、
「不満を言ってもいい空気を作ること」
「辞めたい?」と聞くより、
「今、一番しんどいのは何?」と聞く。
1on1を評価の場にするのではなく、
感情や違和感を整理する場にする。
そして、
辞める=悪、という空気を作らないこと。
決して、ベトナム人が特別に突然辞めるのではありません。
ベトナム人は、
辞める判断が、静かに個人の中で完結する傾向が強い。
それだけの違いです。
文化を知ることは、
相手をコントロールするためではありません。
誤解を減らし、
一緒に働ける可能性を広げるためのものだと思っています。
文化の違いは、誰かを責めるための材料ではなく、
一緒に働く可能性を広げるためのヒントです。
