ベトナムはIT人材が豊富というのは本当か?
こんにちは。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している10KN COMPANY LIMITEDの猪俣です。
日本企業のお客様と話していると、
「ベトナムってエンジニアがたくさんいるんですよね?」
と聞かれることがあります。
私自身、日本でCTOとして開発組織づくりや採用に関わっていた頃と比べても、ベトナムの方が採用しやすいと感じる場面は確かにあります。
ただ一方で、「ベトナムはエンジニアが豊富だから、人材確保には困らない」というイメージを持たれている方も少なくありません。
今日は、ベトナムのIT人材市場について、数字と現場の両方から考えてみたいと思います。
ベトナムのIT人材は本当に多い
ベトナムのIT人材は約53万人と言われています。 一方、日本のIT人材は約100万人規模です。
総数だけを見ると、日本の方が圧倒的に多いです。
しかし注目したいのは、毎年新たにIT業界へ進む人たちの数です。
毎年新たにIT分野へ進む卒業生は、
・日本:約5万人前後
・ベトナム:約5.5〜6万人
と言われています。
人口は、
・日本:約1億2,300万人
・ベトナム:約1億人
です。
人口規模が日本より小さいにもかかわらず、毎年輩出されるIT人材はほぼ同じです。
この数字を見ると、ベトナムがIT人材大国と言われる理由の一つが見えてきます。
実は大学の数は日本の方が圧倒的に多い
さらに興味深いのが大学の数です。
大学総数で比較すると、
・日本:約800校
・ベトナム:約240校
と言われています。
大学数だけを見ると、日本の方が3倍以上多いです。
ところが、IT人材の供給数はほぼ同じです。
なぜでしょうか。
理由の一つは、IT教育への集中度にあります。
日本では大学の学部構成が非常に幅広く、
・文学部
・法学部
・経済学部
・教育学部
・社会学部
など、多様な分野に学生が分散しています。
一方ベトナムでは、多くの大学がIT関連学科や工学系学科を設置しています。
実際、日本には約800校の大学がありますが、情報系学部・学科を持つ大学はその一部です。
ベトナムの大学数は240校ですが、多くの大学がIT・工学系教育を重視しています。
その結果として、大学数には大きな差があるにもかかわらず、毎年輩出されるIT系卒業生数は日本とほぼ同水準になっています。
つまり、大学の数が多いかどうかではなく、「どれだけIT人材育成に力を入れているか」が大きな違いなのです。
ベトナムは国策としてIT人材を育成している
背景には、国としての戦略があります。
ベトナム政府は長年にわたり、
・ソフトウェア産業
・デジタル経済
・AI
・半導体
を成長産業として位置付けてきました。
そのため、
・IT学部の拡充
・産学連携
・エンジニア育成
への投資が積極的に行われています。
また、人口構造も大きく異なります。
日本の平均年齢が約49歳であるのに対し、ベトナムの平均年齢は約33歳。
若い世代が多い国だからこそ、毎年多くのエンジニアが市場へ出てくるのです。
現場で感じる「豊富さ」の正体
ここまでの数字を見ると、「やはりベトナムは人材が豊富なんですね」と思うかもしれません。
私もそれは事実だと思います。
ただし、少し補足が必要です。
豊富なのは主に若手人材です。
ベトナムのIT人材の平均年齢は約29歳と言われています。実際に採用活動をしていても、20代のエンジニアとの出会いには困りません。

しかし、
・プロジェクトマネージャー
・テックリード
・アーキテクト
・日本企業との開発経験が豊富な人材
となると話は別です。
こうした経験者層は、ベトナムでも非常に希少です。
給与競争も激しく、多くの企業が採用に苦戦しています。
「経験者」の定義が
日本とベトナムでは少し違う
私は、日本とベトナムでは人材課題の構造そのものが違うと感じています。
日本は、「若手エンジニアそのものが足りない」という課題があります。
一方ベトナムは、「若手は多いが、経験豊富な人材は不足している」という課題があります。
ただ、ここで少し注意が必要です。
日本企業が考える「経験者」と、ベトナム市場で言う「経験者」は、必ずしも同じ意味ではありません。
日本の場合、大学でプログラミングを学んでいたとしても、一般的には入社後から経験年数を数えることが多いです。
例えば、
・大学で4年間情報系を学ぶ
・新卒で入社する
・社会人5年目になる
という人は、プログラミング歴としては9年近くあっても、
「エンジニア経験5年」と表現されます。
一方ベトナムでは、大学1年生から専門的にITを学び、在学中からインターンや実案件に参加する学生も少なくありません。
そのため、
・大学4年間でITを学ぶ
・在学中にインターン経験を積む
・卒業後3年間働く
という人でも、「ITに関わってきた期間」としては7年近い経験を持っていることがあります。
もちろん正式な職歴は3年です。
ただ本人の感覚としては、「ITに携わってきた期間は7年くらい」という認識になることもあります。
だからこそ、日本企業が考える「経験5年のエンジニア」と、ベトナム市場で語られる「経験5年のエンジニア」のイメージが必ずしも一致するとは限りません。
日本企業が期待する経験5年には、
・設計経験
・後輩育成
・顧客との調整
・品質管理
など、技術以外の役割も含まれていることが少なくありません。
一方ベトナムでは、
・どの技術を扱ってきたか
・どのような開発案件に携わったか
・どれだけ開発経験を積んできたか
が重視される傾向があります。
もちろん企業によって違いはありますが、私が採用や組織づくりに関わる中では、日本は「技術力に加えて周囲を巻き込みながら成果を出す力」まで期待することが多く、ベトナムはまず技術経験や開発実績が評価されることが多いと感じています。
同じ「経験5年」でも、期待される役割や評価基準が異なることがあります。
そのため私は、「ベトナムは経験者が不足している」というよりも、「日本企業が期待するレベルの経験者が不足している」と表現した方が実態に近いと感じています。
オフショア開発で本当に重要なこと
私は「ベトナムにはエンジニアがたくさんいるから安心」とは思っていません。
本当に重要なのは、エンジニアの数ではなく、成果を出せるチームを作れるかどうかです。
若手を採用する。
育成する。
定着させる。
そして日本のお客様と協働できる文化を作る。
そこまで含めて初めて、価値のある開発組織になると思っています。
10KNでも、採用そのものだけではなく、チームとして成果を出せる体制づくりや育成に多くの時間を使っています。
ベトナムには若く優秀なエンジニアが数多くいますが、その力を最大限に発揮するためには、組織づくりやマネジメントが欠かせないと考えているからです。
おわりに
ベトナムはIT人材が豊富なのか。
私の答えは、「若いIT人材は豊富。しかし経験者は決して余っていない」です。
毎年約6万人の若いIT人材が社会に出てくる。
大学数は日本の3分の1ほどなのに、IT系卒業生数はほぼ同じ。
こうした数字を見ると、ベトナムのポテンシャルは非常に大きいと感じます。
ただし、そのポテンシャルを成果につなげるためには、人材育成や組織づくりが欠かせません。
人材が豊富だから成功するのではない。
一人ひとりが力を発揮できるチームを作れるかどうかが重要だと思っています。
