ベトナム人は、もう“給料”だけで働いていない
こんにちは。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している10KN COMPANY LIMITEDの猪俣です。
日本では、その人がいくら給与をもらっているかという話題は、かなり踏み込んだものです。親しい間柄でもどこか遠慮がある。それが一般的な感覚だと思います。
一方で、ベトナムでは少し事情が違います。テト(旧正月)で実家に帰ると、親戚や近所の人からこう聞かれます。「今、月いくらもらっているの?」と。
少し前まで、これは自然な会話でした。収入は努力の証であり、家族にとっても誇らしい報告だったからです。
しかし最近、この質問を嫌がる若者が増えています。私はそこに、ベトナムの働き方が静かに変わっている気配を感じています。
徐々に煙たがられる“給料の話”
かつてベトナムでは、収入は最もわかりやすい成功の指標でした。どれだけ稼いでいるか、どの会社に勤めているか、都市で働いているか。それらは家族にとっても成長の尺度でした。
だからこそ給料を尋ねることは失礼ではなく、期待や関心の表れでもあったのです。
けれど今、若い世代の中には収入の話題そのものを避ける人が増えています。その背景には、「給料が高い=成功」という図式への疑問があります。
ベトナムは急速に成長し、働き方の選択肢も広がりました。外資系企業、スタートアップ、リモートワークなど、キャリアの道は一つではありません。
だからこそ若者たちは、“いくらもらっているか”よりも“どんな人生を歩めているか”を考え始めています。給料は重要ですが、それだけで満足度は決まらないと感じているのです。

成功の基準が変わりはじめている
変わっているのは金額の大小ではなく、“成功の基準”そのものです。
以前は、高い給料や外資系企業、都会での勤務といった分かりやすい指標がありました。それらは疑いなく目標とされていました。
しかし今、若い人材と面談をすると質問の中身が違います。
成長できる環境か。
評価制度は明確か。
将来どんなキャリアパスがあるか。
収入は前提条件です。ただし決定打ではありません。
実際の調査では、ベトナムの労働者の77%が「健全な職場環境のためなら給与の一部を下げる受け入れる」と回答しています。
これは不満による離職ではなく、より良い環境を求めて“選択的に動く”姿勢を示しています。労働市場は受け身から主体的なものへと変わりつつあります。

世代が企業に突きつけているもの
この変化の中心にいるのがZ世代です。彼らは常に外の世界とつながり、企業の評判や他社の待遇を簡単に比較できる環境で育ちました。
転職は特別な決断ではなく、合理的な選択肢の一つです。そのため会社に対しても、自然と問いを持ちます。
なぜこの評価なのか。なぜこの昇給幅なのか。その意思決定は妥当なのか。彼らが求めているのは特別扱いではなく、透明性と納得感です。
不透明さや理不尽さを感じた瞬間、彼らは別の選択肢を探します。それは反抗ではなく、自分の市場価値を守る行動です。
彼らが企業に突きつけている問いはシンプルです。
「あなたの会社で働く意味は何ですか?」
経営者としてどう向き合うべきか
この変化は、経営者にとって小さなテーマではありません。給料を上げれば解決する問題ではないからです。
もちろん適切な報酬は前提です。しかし今問われているのは、“いくら払うか”ではなく、“どんな環境をつくるか”です。
評価は説明可能か。
成長の道筋は見えるか。
挑戦の機会は用意されているか。
対話は機能しているか。
評価は説明可能か。成長の機会は設計されているか。対話は機能しているか。企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと立場が変わっています。
人材不足は人数の問題ではなく、魅力の設計の問題になりつつあります。
ベトナムは今も成長中の国です。
しかし労働市場の価値観は、確実に次のフェーズに入っています。
この変化を一過性のものと見るのか、それとも構造的な転換と捉えるのか。そこに、これからの企業の差が生まれていくのだと思います。
