AI時代に『オフショア開発はいらない』と言われる理由(それでも残る価値)
こんにちは。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している10KN COMPANY LIMITEDの猪俣です。
「AIがあるなら、もうオフショア開発いらなくない?」
最近、この言葉を本当によく聞くようになりました。
ベトナムでオフショア開発会社を経営している立場としては、少しドキッとする問いです。
そして、誤解を恐れずに言うと、私自身も、そう思う瞬間があります。AIの進化は、それくらいインパクトがあります。
では、なぜそう言われるのか。
そして、それでもなお、オフショア開発に残る価値とは何なのか。
現場で感じているリアルを、整理してみます。
「つくる」という価値が、一気に下がった
AIの進化によって、まず何が起きたのか。
シンプルに言うと、「つくる」という行為の価値が、一気に下がりました。
これまでシステム開発は、専門職の領域でした。要件を整理し、設計をし、コードを書く。一定のスキルと経験がなければできない仕事です。
だからこそ、そこにコストが発生していました。
しかし今は違います。
AIを使えば、ある程度のものであればエンジニアでなくても作れてしまう時代になりました。
実際に、現場で感じている変化があります。優秀なエンジニア1人で、これまでの10人月分の工数をカバーしてしまう。そんなケースが、珍しくなくなってきました。
つまり、これまで価値があった「手を動かしてつくること」そのものが、急速にコモディティ化しています。
その結果として、当然ながら、我々エンジニアの開発工数を発注していただいているオフショア開発という業態にとっては、非常に大きなインパクトです。
これまでは「人月単価の安さ」がひとつの競争優位になっていました。
ですが、そもそも必要な人数が減るのであれば、その前提自体が崩れます。
「安く人を使う」という発想では、勝てなくなってきている。
これが、AI時代における最初のインパクトです。

それでも「人が必要な領域」は消えない
ここまで読むと、
「じゃあもう、人はいらないのでは?」
そう感じるかもしれません。
ですが、現実はそこまで単純ではありません。
現在のAIのレベルで得意なのは、「正しいコードを書くこと」です。一見すると、これで十分に思えます。
しかし実際の現場では、それだけでは成立しません。
システムは、単体で存在するものではなく、必ず業務の中で使われます。現場のオペレーション、既存のフロー、ユーザーの使い方。
こういった“あるべき文脈”に合っていなければ、どれだけ正しいコードでも、使われることはありません。
とくに、検証・運用・保守といった工程です。
AIがコードを書くことはできても、それが本当に現場で機能するのかを確かめ、問題があれば修正し、継続的に改善していく。
この部分は、いまだに人の仕事です。むしろ、AIによって開発スピードが上がった分、その後の検証や運用の重要性は、これまで以上に高まっています。
つまり、
「つくる仕事」は減っているが、
「使える状態にする仕事」はむしろ増えている。
これが、AI時代のもう一つの現実です。
「ズレ」が許されない時代になった
オフショア開発が難しくなっている理由は、AIだけではありません。もう一つ、大きな変化があります。
それは、「ズレ」が許されなくなっていることです。
オフショア開発では、依頼する側と、開発する側が分かれます。この構造上、どうしても認識のズレが発生します。
これまでは、多少のズレがあっても、時間をかけて修正すれば成立していました。
ですが今は違います。
AIによって開発スピードが上がったことで、「一発でそれっぽいものが出てくる」ことが当たり前になりました。
その結果、わざわざ時間をかけてやり取りを繰り返すこと自体が、ストレスになっています。
もしズレが起きるのであれば、
もし修正に時間がかかるのであれば、
「自分たちでやった方が早い」
そう判断されるのは、自然な流れです。
つまり、オフショア開発の弱点である「ズレ」が、以前よりもはるかに
致命的になっている。
これが、見落とされがちな変化です。
それでも選ばれるオフショア開発とは
ここまで、AIによって「つくる価値」が下がり、「ズレ」が許されなくなっている。そんな話をしてきました。
では、その中でオフショア開発はどう生き残るべきなのか。
結論はシンプルです。
「つくる会社」から、「理解する会社」へ変わること。
これまでのオフショア開発は、決められた仕様をもとに、いかに効率よく開発するか。ここに価値がありました。しかしこれからは違います。
そもそも、「何をつくるべきなのか」。
ここから関われるかどうかが、すべてを分けます。
なぜこの機能が必要なのか。
どの業務を改善したいのか。
その仕様は、本当に最適なのか。
ここまで踏み込んで理解し、場合によっては、「その仕様はやめた方がいい」と言える。そのレベルまでいって、はじめて価値になります。
AIはコードを書いてくれます。
ですが、「何をつくるべきか」は、決めてくれません。
そしてもう一つ、重要なポイントがあります。
それは、チームとしてAIを使いこなせているかどうか。
個人がAIを使う時代から、チームでAIを使う時代に入っています。
ナレッジが蓄積され、アウトプットの精度が上がっていくチームと、そうでないチーム。この差は、時間とともにどんどん広がっていきます。
つまりこれからは、「人月」ではなく、「チームの知性」で戦う時代です。オフショア開発が不要になるわけではありません。
ただし、求められるレベルは、確実に一段上がっています。
「安くつくれるチーム」ではなく、
「正しく考えられるチーム」が選ばれる。
これが、これからのオフショア開発の姿だと考えています。

オフショア開発は「なくなる」のではなく、「進化する」
この話の流れだけを見ると、オフショア開発はもう厳しい。そう感じるかもしれません。
ですが、私はそうは思っていません。
オフショア開発は、なくなるのではなく、進化していく。ただし、その進化はかなりシビアなものになるはずです。
これまでのように、
「人が安いから任せる」
「言われたものをつくる」
そういった関係性では、確実に選ばれなくなっていきます。
求められるのは、業務を理解し、本質を捉え、最適な形を一緒に考えられるパートナーです。
その上で、AIを使いこなしながら、スピードと精度の両方を実現していく。簡単なことではありません。
ですが、だからこそ、そこに到達できたチームには、これまで以上の価値が生まれるとも思っています。
オフショア開発という形にこだわる必要はありません。ただ、「距離を越えて価値を出す」という本質は、これからも変わらない。
その前提の上で、どう進化していくのか。
それが、これからのテーマだと感じています。
オフショア開発が、“安さ”で選ばれる時代は、もう終わっています。
これから問われるのは、
どれだけ安く作れるかではなく、
どれだけ正しく理解し、本質的な価値を出せるか。
そしてそれを、スピード感を持って実現できるか。
オフショア開発は、コスト削減の手段から、価値創出のパートナーへ。
