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【追悼】 「つげ義春」を通過してきたという、踏み絵

誰かと話しているとき、あるいはnoteである特定の記事を見つけたとき、強烈に、沸き立つような親近感を覚えることがあります。
趣味や考え、好きな作家が同じだとか、そんな共有感とは一線を画すちょっと説明しがたい感覚です。

とある友人と話していて、この感覚が共通していることがわかりました。
彼はこう言ったのです。

「つげ義春を読んできた人には、なんか安心するんだよね」

そうそうそう! 私もそうだよと、この話題でえらく盛り上がりました。


つげ義春は、夢や無意識の世界、旅情とエロティシズムが混じり合う作品で知られるマンガ家です。『ねじ式』『紅い花』『ゲンセンカン主人』など、ご存知の方も多いはず。
(*作品ストーリーは記事下・欄外参照)

どの作品もなんだかスッキリしません。
湿った空気に押しつぶされそうな作品舞台。厭世的で怠惰、無常と寂寥感、埃臭いエロティシズム。そんな中に独特の哲学と美学が潜んでいます。



友人は言いました。
「特につげファンってわけじゃないけどさ、あれを受け入れてきた人に対する安心感

まさにそれです。
ひっかかる世界観。体に傷がつくように刻まれる強烈な印象。

つげ義春を読んできた人は「割り切れないもの」を許容している気がします。だから安心するんですね。


わたしは代表作でもある『ねじ式』『紅い花』、そして『チーコ』が好きです。
(*作品ストーリーは記事下・欄外参照)

『紅い花』の良さは、説明しようと思えばできます。

でも『チーコ』になると、途端に心が乱される。
あの切なさの発露は、死んだ文鳥なのか、支え合いながら暮らすふたりなのか、倦怠の日常そのものなのか──。定まらないまま消えゆく儚さが残ります。

『ねじ式』に至っては、シュールすぎて良さや味が説明できません。ただ強烈すぎて圧倒される。何度読み返してもクラクラします。これはもう娯楽ではなく、感覚が揺さぶられる芸術ではないでしょうか。



友人は『無能の人』『ゲンセンカン主人』の話をしました。
(*作品ストーリーは記事下・欄外参照)

「あんなふうになっても生きていけるのかって思うよね。似たような部分がどこか心の隅にあってさ、それを覗き見する感じでえぐられる」

この友人はまっとうな勤め人です。
そんな彼が、生産性もなくただ力なく生きている主人公の日常に、言葉にならないシンパシーを感じている……。

人の心というのは割り切れません。
およそルールが当てはまりません。



つげ義春作品は、読者の感情や欲望の根源的な何かをあぶり出してしまうようです。


私も友人も、大々的なつげ義春ファンではありません。
ファンという表現は違う気がする。

そう、体験者なのです。
つげ義春作品を腹に染み込ませ、おりを捨てられずにいるという、体験者です。

もっと言えば、この友人とは特別親しいわけではありません。
でもしょっちゅう会っている人たちよりも、彼には奇妙な親しみを覚えてしまう。
同じように、noteでつげ義春作品の記事投稿をされているクリエイターさんにも、やはり説明しがたい安心感を抱いてしまうのです。

もちろん、つげ義春以上に好きなマンガ家も作家もアーティストもたくさんいます。
共通の作家や作品で沸ける人たちとの対話は本当に楽しい。

ただ、突出して「奇妙な親近感」を覚えてしまう踏み絵が「つげ義春」であるというだけなのです。

割り切れない何かを、答えを求めず浮遊させることができるのですから。




【追悼】つげ義春氏のご逝去を悼んで

この記事は、つげ義春氏のご逝去を知る前日に書き上げたものです。 翌日の訃報には声を上げて驚きました。今、ひとつの時代が終わったような乾いた寂しさを感じています。

意図せず追悼の形となりましたが、わたしがつげ作品から受け取った「救い」や「感覚」をそのまま残そうと思い、加筆修正せずに投稿することにしました。
作品とともに、心よりご冥福をお祈りいたします。


【追悼に代えて:作品紹介とあらすじ】

氏が遺した唯一無二の世界を読み返す際の一助となれば幸いです。

★「ねじ式」
メメクラゲに左腕を噛まれて静脈を切断された少年が、医者を探して奇怪な漁村を彷徨う。シュールな夢日記的作風と、不条理、性、死が混在する独特の画面構成が特徴。日本漫画史に残る前衛的傑作。

★「紅い花」
初潮を迎える少女と、少女をからかう少年の淡い交流を描く。性の目覚めと憧憬、哀愁が、山村の風景と共に美しく溶け合う。つげ作品の中でも叙情性が際立つ純文学的な一作。

★「チーコ」
貧しいマンガ家の男を水商売で支える女。ふたりの日常に文鳥のチーコが束の間の華やぎと悲しみを添える。小さな命への愛着、倦怠と感傷の無常な日々を、つげ特有の淡々とした筆致で叙情的に描いた私小説的作品。

★「無能の人」
売れない漫画家が河原で石を売るという無為な生業に固執する姿を描く。社会的能力の欠損・自嘲・貧困をユーモラスに描いている。脱力感と哀愁が同居する私小説的傑作。

★「ゲンセンカン主人」
ある男がゲンセンカン旅館の客人として入浴中、女将といい仲になり旅館の主人となる。その主人と瓜二つの旅人が、ゲンセンカンを訪れる。幻想怪奇とエロスが交差するつげ幻想譚の代表作。






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