男子校放送部、プログレッシブ・ロックな戦いの果て 【SIDE-B】
ここはとある男子校放送部。
そんな中で女子高生が、理解しがたいロックバンドのレコードを聴かされていた。
これは前回の【SIDE-B】に引き続き、私の女子高生時代の話しである。
「プログレは70年代で終わったなんて言うけどな、絶対に復活する」。プログレバンド・イエスのレコードジャケットを見ながら話すのは、ここ男子校放送部員・M田である。
M田は私に大好きなユーミンやボブ・ディランのテープを作ってくれる貴重な友人。放送部に来ればユーミンが思い切り聴けると誘われ、私はここにいる。
放送部併設の洋楽研究サークルは、他校生との交わりがある。許可が取れれば学内訪問は許された。今思えば実におおらか。
ところが、だ。ユーミンはどうなってるのさ。聴かせてくれるのはプログレバンドばかりじゃないの。1曲10分以上? 長いわ! 脳天ギュルギュルするわ! 心臓張り裂けそうなんだけど!
だがこの放送部(&洋楽研究サークル)、まるでレコード店並みの所蔵枚数。文句言いたいけれどお宝を前にぐっと飲み込む。今はただ、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶのだ。
私は自校の古典文学同好会(腐女子の巣窟)を足抜けしてから、放課後の自由タイムを持て余していた。M田に誘われるまま、レコード目当てに何度も男子校放送部を訪れているという次第。
その間、M田は意気揚々とイエスを始めキング・クリムゾンやピンク・フロイドを披露ざんまいし、顧問の先生まで乗り出して来てプログレロックの熱い解説を展開しまくる。
おかげで私にも少し理解が芽生えて来た頃、床置きされた紙袋の中に1枚のレコードがあるのを見つけてしまった。
黄色いジャケットに切り抜きのような英文字。
「Sex Pistols」 ???
ウブな女子高生、ジャケットの「Sex」の文字から焦点をずらす。
「これ変なバンドちゃうで! イヤラシイこと想像せんといてな。めっちゃかっこええパンクバンド。知ってる?」
慌ててやってきたのは、アルバムの所有者N村君だ。彼も勿論、放送部員。
「禁断のバンド?」と私。
「違う! ピストルズは世の中への反逆バンドや。体制への反骨魂や!」
反逆……。ぬるま湯の乙女心を、鋭いハートの矢が貫いた。心がざわつく。M田が部室にいない間、アルバムの1曲目「さらばベルリンの陽」を聴く。
なにこのカッコ良さ! ドライブ感満載のギター、独特の歌い回しで「ヒストリー」を「ヒストリ〜ヤっっ」って! もう止まらない。2曲目、3曲目とどんどん続く。
「アナーキー・イン・ザ・U.K.」は毒々しく激しいくせしてポップなメロディ、聴き取りやすい下品そうな英語にもやられまくる。
私の中ではもう、超絶・交響曲ロックみたいなプログレは完全に消去されていた。
M田や先生のプログレ解説は面倒だったが、N村君の話しはどれもこれも刺激的だ。ピストルズは早くも解散しているし、ベースのシド・ヴィシャスも21歳で死んだという。この伝説感、魅力魅力、鬼ほど魅力……!
今ならwikiで情報がすぐわかる。YouTubeで曲もライブ映像も確認できる。でも80年代、そんなものは何もなかった。
「うちに兄貴の古いミュージック・ライフ(洋楽系音楽雑誌)あるよ」とN村君。ありがたい兄、ピストルズの記事掲載号を全部ストックしているという。
私はN村君と一緒にバスに乗り、ちゃっかり彼の帰宅に同行した。情報は、努力とリスク無くして勝ち取れない。
いきなりの女子訪問に驚くN村お母さん。ちょっと睨まれたので挨拶だけは丁重にして、私はミュージック・ライフに飛びついた。
現役の頃のジョニー・ロットンとシド・ヴィシャス、想像以上にカッコイイ! アルバムを聴き直し、今さらながらピストルズファンを堂々公言だ。
記事を読み、ピストルズはプログレの対極にあることを理解した。ユーミンとは相容れないけど、ピストルズは私のオシャレカテゴリー分類で同一ラインだ。
放送部通いは今日で最後にしよう。プログレロックはもう聴かない。
さよならだけが人生だ。
私にパンク精神はないけれど、ユーミンのオシャレ感も好きだけど、もう何だっていい。でも確かに、私の洋楽ルーツはピストルズだったと言えるのだ。
ちなみに放送部をポイした私だが、M田との腐れ縁だけはこの後も続いていくのである。
◉【SIDE-B】とは、筆者の体験談や思いだけを綴るエッセイ記事です◉
◉前回の【SIDE-B】「腐女子同好会とオサラバした、ユーミンが神の高校時代」はこちらから
*サムネイラスト photoAC ミライ12さん
