宮沢賢治の「カレーにも負けず」 〜noteに投稿するこじらせ文士たち
このシリーズは、文豪たちの実話や裏ネタをもとに、
もし彼らがnoteに投稿していたら……
そんな世界をフィクションとして描いています。
銀河の向こうに、不思議な渦巻きがあると言われています。
その渦を抜けた先には、
まだ世に出ぬ太宰や芥川その他大勢の文士らが、
noteで“スキ”の数に一喜一憂しているもうひとつの世界がありました。
そう、ここはわたしたちが知らないパラレルワールドのnote界。
こじらせ文士たちの投稿が、今宵も静かに熱い火花を散らしています。
さあ、一緒に覗いてみませんか。

🪐パラレルワールドnoterファイル-1 宮沢賢治

宮沢賢治はMacBookの画面から目を離すことなく、大きく溜息をついた。
投稿直後、特別な緊張感が賢治を襲う。
この詩は誰に届くのか。
誰かのスキはいつ自分のもとに届くのか。
3年投稿し続けて、フォロワーひとりスキひとつ。
それでも賢治は書き続ける。本音はnoteでしか吐き出せないから。
★本日の投稿note★

カレーにも負けず
♡ 1
🧑🏼🦲 修羅note道
2025年6月4日 22:00
カレーにも負けず
福神漬けにも負けず
香ばしきトッピングにも負けぬ
丈夫な体を持ち
欲はなく
決していからず
いつも腹をすかしている
毎日玄米4合と
味噌と少しの野菜を食べ
あらゆるスパイスの誘惑に耐え
パクチーの風味に泣かされず
三度の食事に決してターメリックを混ぜず
カレー断ちで己を律する
野原の古本屋の横にある
錆びた自動販売機の影にいて
東にカレー店オープンと聞けば
行って客さばきの手伝いをし
西に疲れたシェフあらば
行って汚れた鍋を洗い
南インド食堂が行列と聞けば
己は食さぬとも感謝を忘れず
北インド軒の評判下がれば
つまらぬサイトは気にするなと言い
閑古鳥のときは涙を流し
猛暑の夏は店から出ず
みんなにでくのぼうと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういう者に
私はなりたい
#南無無辺行菩薩 #禁欲 #孤高 #カレー大好き

投稿後、スキのお知らせが押し寄せたことは一度もない。
noteの銀河にひっそり、塵のようにこの詩はただようのだ。
だがその塵を見逃さないひとりの男があった。

★「カレーにも負けず」 コメント欄★
🧑🏻🎤【詩人未満@sake】
修羅さん、ほんと神…尊い…(泣)。カレーへのパッションと修羅さんの魂炸裂で、汚れちまった心がまたまた浄化されました。この詩の尋常ならざる叫び、なんかあったんすね。
🧑🏼🦲【修羅note道】
詩人未満さん、今日もお読みくださりありがとうございます。
詩人未満さんには隠せませんね。
わたくしはライスカレーが大好物でありますが、己に強く課せた禁欲の日々。ベジタリアンも目指しております。
今日、ある女教師がカレーをふるまってきたのですが、ひとくちも食べませんでした。彼女は狂ったようにオルガンを弾いてわたくしを罵倒しましたが、好物のカレーを口にしない数多の理由を、誰がわかってくれましょう。
わたくしはただただ心で悔しさと戦っているのです。
🧑🏻🎤【詩人未満@sake】
俺だったら秒で殴り倒してますけどね。イラっときたら太宰の野郎に当たり散らすのも乙なもんです。
そういえば、卍CATさんの「春琴」なんちゃら……もカレーのこと書いてましたね。創作大賞狙いガンガン。あの人いつも削除通告ギリギリだけど審査員ウケすごそうっす。
🧑🏼🦲【修羅note道】
卍CATさんは奔放な快楽主義者ですから、わたくしとは相容れないのです。でもちょっとのぞきに行ってみようかしら。こどもたちに悪影響があっては難儀ですから。
詩人未満さん、いつもありがとうございます。

🪐解説編: 宮沢賢治ひとくちメモ
●宮沢賢治が禁欲(特に性欲)に勤しんでいたことは有名です。酒と女と薬に溺れまくる文士たちが跋扈する中、賢治は禁欲に命を燃やした希有な存在。法華経を熱心に追求するあまり、殺生を嫌ってベジタリアン宣言もしました。
性欲は封じ込めても食欲には簡単に抗えなかったようで、ご馳走を食べてしまったと何度か告白しています。
●コメントに出てくる女教師は、賢治に好意を抱いていた高瀬露です。賢治は押しかけ女房的な彼女の行動にほとほと手を焼いておりました。断じて食べなかったライスカレー「宮沢賢治カレー事件」(1927年)もそのひとつ。この後の愛憎合戦で、高瀬露は「悪女」のレッテルを貼られてしまいます。でも真相は闇の中。成就しなかった若い男女の恋愛模様ではありがちなこと。あくまでわたし個人の感想ですが。
●修羅note道(宮沢賢治)に心酔し、スキとコメントを入れている「詩人未満@sake」は、中原中也です。
中也は賢治の才能をリスペクトし、酔い潰れては太宰治を虐めていました。酒癖と口の悪さにかけてはピカイチです。
もちろん、もうひとつのnote界でも大暴れ。
今後、「パラレルワールド★noterファイル」にも取り上げられる問題noterです。
●「卍CAT」についてはもうお気づきですよね。そう、谷崎潤一郎です。
パラレルワールドのこの世界でも自らの欲望にとことん忠実、生と性を謳歌したことでは宮沢賢治と対極です。

銀河の裏アカのような、もうひとつのnoteの世界。
わたしたちが知っている歴史的事実とはちょっと違う、文士たちのこじれた投稿宇宙が展開しているようです。
次回は卍CAT(谷崎潤一郎)の、カレーと耽美が入り混じったnoteを見てみましょう。
それではまた。銀河の向こうで。
●「カレーにも負けず」は、もうひとつのnote界の修羅note道さんの投稿です。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は青空文庫で読めます。
スマホやタブレットのアプリ「ソラリ」(無料)をダウンロードすると縦書きで読めます。
●参考文献
・「文豪どうかしてる 逸話集」紳士素丸著 KADOAKAWA
・「こじらせ文学史 文豪たちのコンプレックス」堀江宏樹著 ABCアーク
