鬼を飼う 【ショートストーリー】
私は鬼を飼っている。
人里離れた山の中で私は小さな畑で野菜を作り、町に月に一度降りて必要な物だけ買って暮らしいている。
若い頃に都会でたくさん働いたので、山の中で暮らす分のお金には困っていない。
鬼が最初に私を訪ねてきたのは10年前。
満月の夜に編み物をしていると、縁側のある雨戸をドンドンと叩く音がし、開けてみるとそこには子供が立っていた。
よく見るとその子供は普通の子と違い、頭に小さな角が生えていた。
「あんたは鬼なの?」
聞いてみても鬼の子供は何も答えず、私の顔を見ていた。
すると鬼のお腹の音が大きく鳴った。
「お腹がすいているのね」
私は台所へ行って骨のついた鶏肉を生のまま持ってきた。
「これ食べられる?」
鬼の子の前に出すと、鬼の子は鶏肉を鷲掴みにして牙のような歯がたくさんある大きな口を開け、骨ごとボリボリと食べた。
鬼の子の身体の皮膚は硬そうで、太い指の鋭い爪にギラギラと月の光が反射していた。
「ここには誰も来ないし、誰も取らないからゆっくりお食べ」
私はそう言って鬼を眺めていた。
鬼の子は満足したようで、そのまま何も言わず去って行った。
「この山には鬼も住んでいるのか」
私はそう思っただけで特に怖いとも感じず、その夜は静かに寝た。
それから鬼は満月の夜に、数カ月に一度ぐらい私のところへ訪ねて来るようになった。
いつもドンドンと雨戸を叩き、私が出てくるのを待っている。
私は鶏だの豚だの牛の肉の塊を用意して、それを与えていた。
鬼は徐々に成長して行った。
その夜も、いつものように鬼が来た。
私はその日は疲れていて早く寝ようとしていたが、今夜は満月だから、もしかして鬼が来るかもと起きて待っていたのだ。
鬼は私に何かを差し出してきた。
それは人間の腕だった。
私は驚いて
「お……お礼のつもりかい?いらないよ」と言ったが
鬼には通じてないようで、人間の腕を縁側にゴトリと置いた。
私はいつものように鬼に豚肉を与え、食べる様子を見ていた。
鬼は食べると満足して帰ってしまった。
人間の腕はよく見てみると若い男の右腕だった。
どうするべきか悩んだ私は家の裏にある使っていない大きな納屋にそれを置いた。
その次に鬼が来た時は、人間の左足を持ってきた。
鬼に返そうとしても鬼は受け取らず、牛肉を食べるだけ食べるとそのまま帰って行った。
仕方ないので、その左足も納屋に置いた。
それから、鬼は腕、足、胴体と次々持ってきた。
男の物、女の物、若い物、年老いた物、右や左、どれも別人の物のようだった。
重い物は私の身体では運ぶのが大変なので、手押し車にのせて運んだ。
年月をかけてだんだん腐って骨だけになってきたそれは、遥か昔に見た小学校の理科室にあった骨格標本のようになり、私は興味深くそれをうまく並べて行った。
そのうち、鬼は次に何を持ってきてくれだろうと楽しみになってきた。
しかし鬼はいつまで経っても、なぜか頭だけは持ってきてくれない。
私は後は人間の頭だけなのに、それが揃えば完璧なのにと思っていた。
肉をバリバリ食べる鬼に
「次は頭だよ、頭」と私の頭を指差して教えても、鬼が次に持ってくるのは腕だったり足だったり…。
沢山の数の人間の骨格標本が数年で次々と出来てきた。
鬼も今では子供の鬼では無く、立派な大人の鬼の姿になった。
身体も大きくなり、手足は太く獣のような毛がびっしりと生えている。角もしっかり生え、ギラギラとした目で私を見ている。
「こんな肉の量であんたは足りるの?もう自分でちゃんと狩りが出来るだろうに、なぜうちにくるの?」
聞いても鬼はいつものように何も答えず、食べ終わると人間の足をゴトリと置いていく。
「また足かい、もう持ってこなくていいよ。頭はまだかい?」
それでも鬼は頭以外を続けて持ってきた。
「もしかしたら頭は自分で食べてるのかしら?だから持ってこられないのか?」
私はそう思った。
ある夜だった。
日中はとても暑いが夜になると少し涼しくなってきて、虫の声がどこからかしてきて秋の気配を感じた。
空には丸い月が出ていた。
今日あたり鬼が来そうだ、そう思って待っていると雨戸がドンドンと音をたてた。
「待ってたよ」
そう言って豚肉を渡すと、鬼はいつものように骨ごとバリバリと食べた。
「あれ?今日はお土産はないのかい?」
と鬼の顔を見ると、豚肉を食べ終わった鬼はじっと私を見ていた。
次の瞬間、鬼は私に手を伸ばしてきて、突然私の頭を掴み引きちぎった。
気が付くと私は納屋にいた。
私は頭だけになっていた。
「あぁ、これで頭もそろう…完璧だ…」
消えゆく意識の中で私は思った。
半年後、山からいつも月に一度買い物にくる老女がここのとこ姿を見せないので、心配になった町の人が山に住む老女の家を訪ねた。
家につくと雨戸は開けられたまま、吹きさらしの家の中は汚れてボロボロになっていた。
老女を探していると家の中には誰もいなく、裏の納屋に沢山の人間の骨が見つかった。
『山の中の現代の鬼女の家!!』新聞やテレビで大きく騒がれた。
警察が沢山の骨を調べてみると頭の骨は一つしか見つからず、その頭はそこに住んでいた老女の物だった。
老女の身体の骨は今もまだ見つかってはいない。
