windowおじさんとAI──勝負する相手を間違えている
AIの説明会のはずだった。
途中までは…
新しく導入予定のAIツールの説明会が開かれていた。
業務効率化、要約、分析、自動化。
いわゆる「何でもできるAI」らしい。
会議室のスクリーンには、未来っぽい配色のスライドが次々と映し出される。
ベンダーの担当者は慣れた手つきで画面を切り替えながら、
「このAIを使えば、日々の作業時間をかなり削減できます」
と胸を張って説明していた。
私は横で、「すごいなぁ」と素直に感心していた。
便利そうだし、うまく使えれば確実に助けになる。
そのときだった。
windowおじさんの目が、ゆっくりと細くなった。
この人がこの目になるときは、だいたい空気が変わる。
「で、そのAIは……どこの層まで見てるんだろうか?」
会議室の空気が、一瞬だけ止まった。
ベンダーの担当者はスライドを戻しながら言葉を探す。
「えっと……ユーザーインターフェース層から、
データ処理層まで、幅広く……」
windowおじさんは静かにうなずいた。
「じゃあ、遅延にはどこまで耐えられる?」
……AIに遅延耐性の話を振る人を、私は初めて見た。
ベンダーは一瞬フリーズし、それでも仕事用の笑顔を崩さずに言う。
「え? あ、遅延……と、言いますと……?」
windowおじさんは少し身を乗り出す。
「ネットワークが混んだとき。
パケットが詰まったとき。
そのとき、どうリカバリする?」
気づけばAIの説明会は、
いつの間にか“回線道場”になっていた。
私は心の中でつぶやく。
勝負する相手、そこじゃない。
ベンダーは必死に笑顔を保ちつつ、
「そのあたりは……インフラ側の設計になりますので……」
と慎重にかわした。
windowおじさんは、それを聞いて満足そうに一度だけうなずいた。
「インフラを知らないと、結局うまくは使えない」
AIの説明会で、
いちばん人間くさい言葉が飛び出した瞬間だった。
説明会が終わるころ、若手社員が小声で私に言った。
「……windowおじさん、AI相手でもブレないですね」
たしかにそうだ。
最新のAIは、静かに、正確に、淡々と仕事をこなす。
感情も、記憶も、ためらいもない。
でもwindowおじさんは今日も、
全身で“現場”を背負って生きている。
私はふと思った。
AIは「正解」を出すことはできる。
でも、「現場の温度」を引き受けることはできない。
windowおじさんが張り合っていたのは、
本当はAIではないのだ。
人の仕事が、
ただ効率だけになってしまう未来。
その気配に、
反射的に体が反応してしまっただけなのかもしれない。
だから今日も彼は、
誰も頼んでいない勝負を勝手に始め、
勝手に手応えを得て、
少しだけ満足そうに
AIの外側を歩いて帰っていく。
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