見出し画像

【来期Mリーグ展望シリーズ⑧】BEAST X ―― 地獄の2シーズンを経て、狼たちはなぜ頂点へ届いたのか

来期Mリーグに向けて、全10チームの注目点・期待したいポイントを、選手ごとの展望も交えながら1チームずつ掘り下げていくシリーズ第8回。今回は、2025-26シーズンにチーム史上初のファイナル進出を果たしたBEAST Xです。

ただし、今シーズンの躍進だけを追うのでは、BEAST Xというチームの本質は見えてきません。今回は「なぜこの大躍進は起きたのか」という問いを軸に、チームの3年間のストーリーを丸ごと読み解きます。



第一章:「攻撃的な雀風のプロ」を集めた、特異な船出

2023年。Mリーグに9チーム目として新規参入したBEAST X(当時:BEAST Japanext)は、最初から他チームにはない異質なコンセプトを掲げていました。

チーム創設にあたって選手に求めたのは、「攻撃的な雀風のプロ」「言葉で表現できるプロ」「麻雀の面白さ・素晴らしさを広めたいプロ」という3項目。さらに選手の1人は、全国公募によるオーディションで選ぶという、Mリーグ史上前例のない手法を採用しました。

このコンセプトから生まれたのが、将棋棋士とプロ雀士の「二刀流」鈴木大介、元乃木坂46メンバーで麻雀カフェも経営するタレント・中田花奈、麻雀最強戦などで実力を発揮してきた猿川真寿、そしてオーディションを勝ち抜いた菅原千瑛、という創設4人体制です。

「攻撃的」という言葉がすでに暗示していましたが、初年度は出入りの激しい麻雀が続いて成績が安定せず、最終的に7位でシーズンを終えます。


第二章:「大三元を達成しながら最下位」という残酷な記録

2024-25シーズン。チームは猿川・菅原・鈴木・中田の4人で再出発を図りますが、前シーズン同様に苦しみます。11月には最下位に転落し、その状況は最後まで改善されませんでした。

最終成績は-1143.6ptの最下位。2年連続のレギュラーシーズン敗退です。

しかしここに、このチームを象徴する皮肉な事実がひとつあります。鈴木大介がこのシーズン中に大三元を和了してチーム初役満を達成し、さらには91300点というスコアでレギュラーシーズン終了まで破られなかった最高スコア賞を獲得しているのです。
「個人として歴史的な記録を出しながら、チームは最下位」——この矛盾がBEAST Xの初期2シーズンをそのまま表しています。

麻雀は個人競技であると同時に、チームスポーツでもあります。個々の爆発力が「チームとしての力」に変換されなかった2年間を経て、チームはレギュレーションによる選手強制入れ替えの対象となりました。


第三章:「鬼神」との邂逅——異例のオーディションが生んだ奇跡

2年連続最下位により選手入れ替えが義務化されたBEAST Xは、2025年に独自の「メンバー入替オーディション」を開催します。残留が決まった鈴木大介・中田花奈に加え、新たに2人を迎える形です。

オーディション優勝者として頭角を現したのが、下石戟(しもいし・げき)でした。

滋賀県出身、1987年生まれ。大学1年時に友人から「暇つぶし」として勧められた麻雀が人生を変えました。2009年に日本プロ麻雀協会に入会し、「麻雀界で次のMリーガーは誰か」という問いに必ずと言っていいほど名前が挙がるほどの実力者でありながら、長年Mリーグの舞台とは縁がなかった選手です。通り名は「鬼神」。その異名が示す通り、攻撃的かつ支配的な打ち筋が特徴で、オーディション優勝後にBEAST XとEX風林火山のオーディションにダブルエントリーして双方の決勝に進出するという、驚異的な活躍を見せました。

指名発表の際に下石自身がXに残したコメントが印象的でした。「ワクワクしてもらえるような麻雀を打てるように、またいろいろな形でチームに貢献出来るように常に向上心を持って臨みます」。
BEAST Xが求めた「攻撃的な雀風」「言葉で表現できるプロ」という創設コンセプトに、これほど合致する選手はいなかったかもしれません。


第四章:「史上初の復帰Mリーガー」東城りおという、もう一つのサプライズ

もう一つの指名も、Mリーグ史に残る出来事でした。ドラフト2巡目でBEAST Xが指名したのは、東城りお——2023-24シーズンをもってセガサミーフェニックスを契約満了で退団し、1年間のブランクを経て戻ってきた選手です。「元Mリーガーが未所属のシーズンを経て復帰する」のはMリーグ史上初の例でした。

秋田県出身、1990年生まれ。高校2年時に肺気胸でスポーツを断念し中退、その後ゲームに明け暮れていた青春期を経て麻雀プロへの道を歩んだという、異色の経歴を持ちます。愛称は「りおぱら」。2021-22シーズンにセガサミーフェニックスに入団して以来、Mリーグ屈指の人気選手として知られてきました。

「またこのMリーグの舞台で戦えるとは夢にも思いませんでした。応援してくださった皆様のおかげ」——指名後の東城のコメントには、1年間のブランクを経て戻ってくることへの感謝と覚悟が滲んでいました。チームはこの指名にあたり「セミファイナル・ファイナルをまだ経験していないチームに、経験を持ち込んでほしい」という趣旨を説明しており、これが来期に向けて非常に重要な伏線になります。


第五章:614ptの怪物——「今年の中田は何かが違う」

2025-26シーズン開幕。新体制のBEAST Xは、最初からまるで別のチームでした。

下石戟が叩き出したレギュラーシーズン個人スコアは614pt、1着回数14回で個人1位。年間MVPも受賞しました。これは単なる「好調」では説明がつかない数字です。

セミファイナルでも下石は大三元による役満を成就。「怪物級の活躍でチームを牽引」という表現がぴったりの、圧倒的なシーズンでした。

同時に見逃せないのが、中田花奈の変化です。

ここから先は

1,831字

¥ 100

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?