KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ
これまでNetflixはオリジナル映画の映画館での上映に消極的とされてきた。特に日本法人はその傾向が強い。
米国ではアカデミー賞のノミネート資格を得るために限定上映された作品ですら日本では劇場上映されないケースが多い。
日本映画として製作された「シティーハンター」や「新幹線大爆破」だって話題になって劇場上映されたが、東京23区内での上映はなかった。
最近、映画部門のトップが「劇場上映にこだわる監督とは組まない」と発言したことが話題となったが、この発言からはネトフリが依然として映画を作っておきながら、映画館での上映を好まない会社であることがよく分かる。
ワーナー買収問題はパラマウントが買収することになった。パラマウントがトランプ政権寄りであることからリベラルの多いハリウッドでは依然としてパラマウントによる買収に反対している人も多いが、それと同じくらい、リベラル思想であるのにもかかわらず、ネトフリによる買収に反対し、消極的選択ではあるのだろうがパラマウントによる買収を認めている人がいるのも納得だ。
本作は2025年6月の配信開始1周年という名目で日本では初めて劇場で上映されることになった。
これは26年1月に配信開始したネトフリオリジナルの“国産”アニメ映画「超かぐや姫!」がネットで話題になっていたので試しに2月に1週間限定で劇場上映を発表したところ、あっという間にソールドアウトとなってしまったので上映期間が延長され、気が付いたらロングラン上映となり、興収が26億円を超える大ヒットとなってしまったことを受けたものであることは間違いない。
そもそも、ネトフリは劇場上映には消極的だったのだから、ネトフリ作品が日本国内で興収10億円を突破したのはこれが初めてのことだった。
TOHOシネマズでは相変わらず上映されなかったが、東映系の新宿バルト9が事実上のメイン館扱いとなっていたことを考えると、2月公開予定だった「魔法少女まどか⭐︎マギカ」の劇場版の久しぶりの続編の公開が延期されたことによって生じた穴を埋めるための苦肉の策だったような気もするが…。
今回、「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」がやっと、日本国内でも劇場上映されることになった背景に「超かぐや姫!」の大ヒットがあったことは言うまでもないだろう。
でも、上映劇場に足を運んでみたらガラガラだった。映画館のスタッフなんて、男が1人で見に来る映画ではないと思ったのか、自分のことを隣のスクリーンでやっていた劇場版「名探偵コナン」を見に来た客だと思い込んでいたくらいだ。
まぁ、ガラガラなのは当然だと思う。
本来なら、世界的に熱が高まっていた2025年8月にシンガロング仕様で歌詞が表示される応援上映版が米国や英国で上映された時に日本でも一緒に上映すべきだったと思う。
ちょっと、話がズレるが今回の日本での上映ではこのシンガロング・バージョンでも上映され、自分はそのバージョンで見たが、歌詞の韓国語部分がハングルでなく韓国語を英語表記したもので表示されていたのが面白いなと思った。日本でK-POPアーティストが音楽番組に出た時に表示される韓国語の歌詞は日本語訳詞かハングルと日本語訳詞の併記というケースがほとんどだが、韓国語の発音をカタカナで表記した歌詞の表示の仕方でも良いのではないかと思えてきた。
それから、原題表記は確かに“KPOP”表記だけれど、一般的には“K-POP”と表記されることが多いのだから、邦題も“K-POP”表記で良かったのではないかと思う。というか、原題は「KPop Demon Hunters」だ。邦題には余計な“ガールズ!”が付け加えられている。だったら、“KPOP”表記もなじみのある“K-POP”表記に変更しても良かったのではないかという気もする。
閑話休題。
百歩譲って、去年8月の時点で本作(長いので以下、「ケデハン」表記とする)の日本での知名度は低かったとしよう。まぁ、この時点で主題歌“Golden”は海外のチャートと比べると地味なアクションだったかも知れないが、Billboard JAPANのソングチャートの100位以内に入っているので、K-POPや洋楽のファンには十分に認知はされていたが、ライト層には届いていなかったのでこの時点での劇場上映をいくら配信版に手を加えたバージョンとはいえ、公開を見送ったのは仕方ないとしよう。
でも、「ケデハン」がゴールデン・グローブ賞の長編アニメーション賞を「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」(「」表記がおかしいのは正式タイトルに「」が含まれているため)を破って受賞した1月の時点で上映すれば話題性はあったはずだ。しかも、この月にはアカデミー賞のノミネート発表もあったからタイミングとしてはドンピシャだ。
あるいは、同じネトフリ作品の「超かぐや姫!」の劇場上映が2月に行われて話題になったのだから、これに便乗しても良かった。実際に日本では「超かぐや姫!」、海外では「ケデハン」が劇場上映で成功を収めたとセットで報じる記事もこの頃にはよく見かけた。
どんなに遅くとも、アカデミー賞の授賞式が行われた3月15日(現地時間)の直後までには上映すべきだったと思う。
日本で初めてネトフリ作品で劇場上映されたのは「ROMA/ローマ」だったが、既に日本でも配信済みだった同作が上映されたのは3部門を受賞したアカデミー賞の授賞式の直後だった。「ケデハン」も長編アニメーション賞と歌曲賞を受賞したのだから、そのタイミングで上映すれば良かったのにと思う。
6月では賞味期限切れだ。勿論、自分のように配信で映画を見るのが好きではない者は劇場上映まで待つか、上映されなければ放置しておくが、アカデミー賞受賞で興味を持った人の多くは授賞式直後に配信で見てしまったのではないかと思う。特にWBC独占中継を機にネトフリと契約した人の中にはこのタイミングで「ケデハン」をついでに見たという人も多かったのでは?
作品自体についても触れておこう。
ウヨった思想を持っている日本のアニオタは本作を韓国作品と思いこんで見てもいないくせに猛批判しているが、「ケデハン」は純然たる米国映画だ。韓国が舞台でスタッフにも多くの韓国人が参加しているが台詞もほとんどが英語だ。なので、途中まで本作はてっきり、米国が舞台の作品だと思いながら見ていた。それなのに、韓国人っぽい顔のキャラしか出てこないのは何故と思いながら見ていた。
また、配給はネトフリだが、製作・制作はソニー・ピクチャーズだ。要は日系企業の作品だ。
ゴールデン・グローブ賞を争った「鬼滅の刃」の方がアニメーション賞にふさわしいとアニオタは言うが、どちらも広義の日本作品だし、「鬼滅」もソニー系のアニプレックス作品だから、どちらもソニー作品ということになる。つまり、ソニーとしてはどちらが米国で賞を取りやすいかと判断して、「ケデハン」をプッシュしたということだ。
確かに、若者がデーモン退治をする(要は鬼退治だし)のは「鬼滅」とかぶるし、アイドルがスーパーヒーローとして敵と戦うという話は「キミとアイドルプリキュア♪」などの日本作品でおなじみの設定だから、日本のアニメファンにとって目新しさはない。
それに、日本の老害思想全開のアニオタが嫌いなCGアニメーションだし、そのCGもディズニー・ピクサーやイルミネーション、ドリームワークスといった大手スタジオの作品と比べると何かカクカクしていてぎこちないように見えるし、日系資本が入っているせいか、モブキャラまで動きまくるという感じでもない。
だから、今回の対象年度のポリコレ過大評価枠として選ばれたのが本作なのではないかと思う人がいてもおかしくはない。
でも、実際に見てみると、2025年度のアニメーション部門を総ナメに近い形で席巻したのも納得といった感じだった。
アイドルをやりながらデーモンハンター(要は鬼殺隊)としても活躍する主人公には、同じアイドルグループに所属するメンバーにもマネージャーにも言えない秘密がある。それは、デーモンハンターでありながらデーモンの血も引くハンターとデーモンのハーフであり、デーモンの印であるアザが目立つようになってきたということだ。
そう言えば、「鬼滅」にも鬼でありながら、鬼殺隊に加わる娘とか、鬼を食べて自分の中に取り込むことができる少年が出てくるが、そういったのになんとなく似ている。それから、「鬼滅」の鬼が元・人間であるように本作のデーモンも元・人間のようだ。
本作の主人公はいわば、移民とかハーフであることを友人たちに隠して、この友人たちと一緒に移民を追い払う仕事をしているようなものだ。
日本でも外国人とか帰化者、ハーフ、障害者、LGBTQの中にこうした属性の者を排除しようとする右派政党に媚びて名誉日本人みたいになっている人たちがいるが、そういう連中と同じだ。
ざっくりまとめれば、名誉日本人みたいな主人公が最終的には友人たちに自分は本当はあなたたちが嫌っている勢力の一員だと告白し、和解する話ということだ。
現在、米国だろうと日本だろうとインフレでストレスをためた者たちが右傾化して排外主義を全開にしているが、そういう空気感が蔓延する世界情勢を反映した作品と考えれば本作が賞レースを席巻したのも納得だと思う。
まぁ、“Golden”がエンドクレジットでもう一回流れなかったのは残念だったかな。


