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パナソニックの浴室乾燥機はレンジフードファンに負けない

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


私が口うるさい母親のように、繰り返し注意喚起しているテーマの一つが<室内負圧>。
「高気密なら負圧対策をしましょう。」
C値1.0cm/m2を切るような高気密住宅で同時給排や連動給気シャッターを併用せずレンジフードファンを<強>運転すると、室内が屋外に対して負圧状態が大きくなり、アレコレ弊害が発生する。C値0.5を切る性能だと、同時給排等を設置していても負圧は解消しきれずアレコレが発生する可能性がある。

※負圧についての過去の記事の代表がこれ。「乾太くん」が換気設備であるという意識されにくい事実について。

さて、本日の本題。
アレコレの一つ。
ルポルタージュ風でお届けします。

東海地方のどこか。
2026年最初の現場仕事は竣工現場での気密測定。
吐く息は白く、エアコンの入っていない現場は足がかじかむ。
気密測定結果はこの工務店の予定通りC値0.5だった。
工務店の皆さんも立ち会っている。
同時給排ですか?
私は問いかけた。
「いえ。採用していません。」

なるほど。では負圧測定をしてみましょうか。
「負圧測定?」
聞きなれない単語にキョトンとしている工務店さんを前にして差圧測定器を据え付けた。

差圧計設置状況
窓に目張りをし、シリコンチューブを外部に垂らし、内外差圧を測定する

この住宅は一種熱交なので自然給気口はないですよね?
パイプファンはありますか?
「いえ、ありません。」

なるほど。
ユニットバスを覗き込んだ。
おっと。
天井にTOTOの浴室乾燥機(以後、浴乾)をみつけた。

私は振り返り、「デルフォイの神託」のように工務店の面々に近未来を予言してみせた。
「これこれ皆の者、これからレンジフードファンを<強>運転すると、この換気扇は逆転するぞ。」(神託風の表現のつもり)

にわかに未来とやらを聞かされてポカンとする面々。私は浴乾の換気機能をonにし、浴乾の吸込み口にティッシュをかざした。そうすると、ティッシュはカエルのように天井に張り付いた。
ちゃんと排気している。
続いて、レンジフードファンを<強>運転にした。大きな音が1階フロアに響きだした。
据え付けた差圧計のデジタル表示は徐々に上がり始めた。そうすると、皆が見守る前でティッシュは静かに、ひらひらと重力に逆らえず落ちてきた。
換気扇(浴乾)が逆転。
差圧計は70Paの室内負圧を示していた。
こうして私の予言は成就。アーメン。

「なぜ、逆転したのですか?」
神が介在したのか?
おお、海を割くように、換気扇を逆転したもうたのか!

いえ、違います。
レンジフードファンが作った負圧状態に浴乾のファンが負けたのだ
しかし、浴乾はシロッコファンだ。一般的に静圧が高い(ファンの押し出す力が強い)。なぜ逆転したのか?仕様書をダウンロードし、『ファン特性』を確認した。

TOTOの浴乾TYB3111GASの『ファン特性』
初期設定は<換気2>だと思われるが、40Paぐらいで空気を送れない=逆転することがわかる

<換気2>の曲線をみる。横軸の風量が0m3/hになるのが40Pa弱だとわかる。つまりこのファンが担う系統(システムとか言ったりする)の静圧が40Paぐらいになると、逆転する可能性を示唆している。ではこのファンが想定している系統(システム)は何か?それは以下の2つだ。

①ダクト・・通常、ユニットバスのファンはすぐ横にある外壁から排気する。その場合、長さは1m程度。1回90℃曲がったとして(それを直線で2m程度に換算したとして)合計3mぐらいのダクトの中を通る時に圧力損失が発生する。
②屋外フード・・ダクト内を通った空気は屋外フードで捻じ曲げられたり、虫取り網等をくぐり抜けて排気される。よって、そこで圧力損失が発生する。

そして、この系統の圧力を表すのが上記グラフに右肩上がりで示された<パイプ抵抗曲線>。風量が増えると(横軸で右に行くと)指数関数的に圧力が増える。
①と②の合計をダクト(パイプ)換算すると、5m~10mの間だろうと思われる。そして
<5mパイプ抵抗曲線>と<換気2曲線>の交点⇒約105m3/h
<10mパイプ抵抗曲線>と<換気2曲線>の交点⇒約95m3/h
このあたりのどこかで風量が決まる、というのが当初想定・メーカー想定なのだ、きっと。

しかし、今の住宅では想定外が起きている。
それは住宅の高気密化だ。
例えばこの住宅の気密測定結果は以下の通りだった。

相当隙間面積C値:0.5cm/m2
総相当隙間面積αA:59cm2
50Pa時の確定流量:244m3/h

「総相当隙間面積」とは「実際は細かい穴が無数にあるだろうし、穴の形状とか粗さ(ツルツルした穴、起毛のあるような穴など)は分からん。でもこれだけの風量を中から外に排気した際に、これだけの圧力差が生まれるという事は単純な開口に換算したら59cm2ぐらいです。」という意味。
59cm2。これは小さい。丸いダクトに換算するとφ86mmの穴しかないのと同等なのだ。浴乾のファンと直接つながるダクトはφ100mm。つまり排気する側はφ100だけど、給気する側はφ86しかない、という事。
おじょじょじょ!おぎょぎょ!
これは苦しい。声にならない声が出る。

浴乾を動かすと当初想定していない圧力がかかる。給気側にφ86の開口しか用意されていないのだ。これではうまく排気できない!!

つまり、メーカーが当初想定していない圧力が給気側でかかっているのだ。
そして、ここでレンジフードファンをonする。
そうするとカタログ値500m3/hの大風量で排気を行おうとする。

うなりを上げるレンジフードファン。
この高気密住宅にやってきた恐怖の大魔王(ノストラダムス的比喩。嗚呼、昭和)なのだ。
しかし、給気側はφ86。
この穴を浴乾と共有する。

・レンジフードファン500m3/h(カタログ値)
・浴乾およそ100m3/h
合計600m3/hに対して給気はφ86mm。

無理筋。
この住宅は気密測定により244m3/hの排気で内外圧力差50Paになることがわかっている。そこに合計600m3/hの排気を行おうとしていたが、室内負圧が大きくなり、浴乾は逆転し給気側になった。きっと、レンジフードファンも500m3/hの排気を行えていない。

浴乾の逆転。
これを住まい手が「現象」として認識するのは以下のような状況だ。
「お風呂にお湯を張ったら虫が浮かんでいた。窓がないから換気扇から入ってきた。」
一番風呂を虫に譲る状況。
この状況を打開する方法はあるが、そもそも高気密住宅の<副作用>を知っていなかったのですか?と工務店・ビルダーに問いかけたくなる。

逆転するような浴乾を作っているメーカーが悪いのだろうか?その考え方は難しいと思う。何故なら、ファン特性のグラフが明記された仕様書が公開されているからだ。
よって、工務店・ビルダーは、プロとして自社の気密性能を理解し、ファンの逆転が起きないようなファンの選定や、開口計画(同時給排や自然給気口の数の設定)をする必要があるのだ。

ただ、同時に「それはその通りなのだけど、実態として気密性能と負圧について理解している工務店・ビルダーは10%もいない」こともわかっている。なので、細々と室内負圧についての状況を発信して理解が深まればと思っている。

さて、最後にレンジフードファンに負けない浴乾について紹介する。
ええ、タイトルです。パナソニックさんです。

公開されているファン特性がこれ。

FY-13UG7E パナソニック換気カタログから

換気(換気・弱)として使った場合、私が業務を行っている東海エリア(60Hz)なら90Paの負圧状態にならない限り逆転は起きない。C値0.5cm2/m2より低い値で且つ同時給排・連動シャッターを設置していれば、ここまで負圧になることはほぼないので問題ない。ただし、乾燥・涼風モードだと、怪しくなるの(50Paで逆転)、引き渡し時の取説でレンジフードファンと乾燥・涼風モードの同時利用は控えるようにお伝えする必要がある。

そんなこんなでルポルタージュの中にパナさんの浴乾は登場しないのだけれど、『レンジフードファンに負ける浴室乾燥機』なるタイトルは、ネガティブな感じがして嫌だなぁ、と思ったのでポジティブタイトルにした次第です。だって、世の中ポジティブ信仰があるから(揶揄)。

以上、負圧の現場からでした。

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